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照々として名譽の要質を槪說したるもの無かりしは、頗る悲しむべしとなす。故に智德高邁なる寡少の人心のみ、僅に『名譽は一定の境遇と狀態とによりて生ずるにあらず』、たゞ其分を守りて忠信なるに存することを知るを得たるのみ。

 宜なるかな、靑年武士の徒が、心靜かなるの時、孟子の書を繙いて、『欲貴者、人之同心也、人人有己者、弗思耳。人之所貴者非良貴也、趙孟之所貴、趙孟能賤之』の語を學べども、其の一旦事に當りて、之に熱中するの際、忽焉として、此の明敎を忘るゝの多かりしこと。

 武夫多くは屈辱に忍ぶ能はず、直ちに憤を發し、徃々死を以て之に報ずることありたり。而して名譽――而も往々