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Page:Bushido.pdf/133

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に、醇乎たる德性の伏在せるを認むべきに非らずや。

 名譽の規凖の愼密なるに過ぎて、徃々不健全となるの傾なきにあらずと雖、亦た寛裕忍耐の敎ありて、能く此弊を未然に拯ひしこと少からず。俚諺にも、『ならぬ堪忍するが堪忍』と云ひ、又た偉大なる德川家康が遺訓にも、

人の一生は重き荷を負ひて、遠き道を行くが如し、急ぐべからず………堪忍は無事長久の基………己を責めて、人を責むるな。

と示し、而して家康は誠に能く、眷々此訓言を服膺せるの人なり。さる連歌師の作とて世に傳へたる、信長、秀吉、家康の三傑を評するの句あり。

(信長)鳴かざれば殺してしまふ郭公。