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Page:Bushido.pdf/132

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刀に切り捨て、復た顧みざりしといふは、作話にも程こそあれ、豈に笑ふべきの甚だしきにあらずや。但し此類の俗話の傳へらるゝ所以に、三つの原因あり。一は即ち此等が平民を畏怖せしめんが爲に作意せられたるものなる事、二は即ち武士が其の名譽の分限を濫用したる事、三は即ち羞惡の念の侍の間に在りて、强大なる發育を成したる事是れなり。若し夫れ其弊習を見て、直ちに武士道を難ぜんとするあらば、此れ理を失するの甚しきものにして、恰も宗敎狂、妄信、即ち宗敎裁判インクイシジヨン、僞善の類を捉へて、基督の眞敎を批判するが如し。されど宗敎狂と雖、猶ほ之を醉漢の痴態に比すれば、其中自から高尙人を動かすべきもの在りて存するが如く、武士が名譽を感ずるの念の過敏なるに於て、亦た其根底