コンテンツにスキップ

Page:Bushido.pdf/129

提供:Wikisource
このページは検証済みです

唯一の端緖なり。想ふに始祖が彼の『禁樹の果實』を味ひたる爲に、人類に下りたる最始最醜の罸とは、子を產むの苦みにもあらず、刺にもあらず、荆にもあらずして、即ち羞惡の念の覺醒したることを云ふものなりと。史上哀事多し、されど未だ人類の母エバが、騷立つ胸、戰く指に、粗き針取りて、憂に沈める良人の摘み與ふる無花果の葉を綴るの光景の如く哀しきはあらず。神明に背く覿面の罪果は人間に固着して離るべからず。裁縫の技の何如に精妙を極むとも、未だ羞恥を包むに足るべき蔽膝を縫ふ能はず。新井白石の年少うして苦學するや、富人某といふものあり、其志の超凡なるを見、之に孫女を妻はし、且つ給するに勤學の資を以てせんと乞ひしに、白石之を辭し、昔、靈潭に小蛇棲めり、人あ