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Page:Bushido.pdf/124

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養兒なり。此母無くんば、誠實は貴族的の孤兒にして、唯だ敎育高く、禮文秀でたる心念のみの、之を養ふて子とするを得べきものたり。斯る心念は武士の普く有したる所なりき。されど平民的實利的なる乳母の無かりしより、此の可憐の嬰兒は發育を遂ぐること能はざりき。商工業にして進步せば、誠實は之を守るに容易に、而も亦た有利なる道德たるべし。試みに思へ、ビスマークが、獨逸帝國の領事に訓示して、『就中、獨逸船積の物資が、其品質、數量兩ながら、著しく信用を缺くは悲しむべし』と戒飭したるは、近く千八百八十年十一月にあらずや。然るに現時に至りては、商業上、獨逸人の不注意、不信用なる事實を耳にすること稀少となれり。されば獨逸商人は、僅かに二十年の間に於て、早く旣に