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Page:Bushido.pdf/123

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之を敬重せずんばあらず。されど予は其根柢を問ふとき、『正直は最良の政畧なり』、即ち正直なれば利すと云ふにありと聞いては、寧ろ呆然たらざるを得ず。果して然らば、德とは、報其中に在りと云へる原則に由るにあらずして、他の報酬あるが爲に行ふべきものなる乎。正直なるは、虛僞よりも、多額の現金を獲る所以なりとせば、予は恐る、武士道は寧ろ虛僞に與みするものならんことを。

 武士道は與へて、報酬を取るの主義を排斥すと雖、巧利なる商賈は却て之を慶びとすべし。レツキーが、誠實は要するに商工業によりて發展するものなりとは、眞に然りと謂ふべく、又たニーチエは曰へらく、『正直は諸德の中最も幼者なり』と。誠實は實業即ち近世經濟事情を母とせるの