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するものにして、武士は一諾を重んじて二言無く、武士の一言は千鈞よりも重し。されば、人と約するに必ずしも文書を要せず、又た敢て或は違ふことあらず。若し夫れ證文を以て約するが如きは頗る武士の威嚴を毀損するものとせり。世には武士たるものが、二言の罪を償ふに、死を以てしたる、多くの悲慘なる物語すら、之を傳ふるにあらずや。

 誠を標置すること斯の如く高く、而して基督敎徒の槪ね、『爾曹盟ふ勿れ』との敎主の簡明なる戒を破り、毫も『スウエア』(誓言)するを憚らざるとは大に異り、眞個の武士は誓詞起證を以て名譽を毀損するものなりとして之を賤めたり。固より神明に誓ひ、刀に盟ふの事ありたりと雖、未だ彼の歐米に於けるが如く其起證の流れて妄語となり、又た神を侮