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す。『誠者、物之終始、不誠無物。是故君子誠之爲貴』と曰ひ、且つ流麗快達の辯を以て、至誠息むこと無く、悠遠博厚、又た高明、動せずして變じ、無爲にして成すと說く。其旨の深玄にして神祕の妙域に聘するより、人の或は『誠』の一字を解けば、『言』と、完全の義ある『成』との二字より成れるを以て、之を新プラトー學說の『ロゴス』ことばに比儔せんとすることあり。

 虛言、遁辭は共に之を賤めて怯懦なりとせり。武士は社會に高位を占むるよりして、從つて誠實を標榜すること、商賈農民の輩に優りて高大なるを要すとしたり。武士の一言とは――獨逸語にてアイン、リツテルヴオルト(Ein Ritterwort)と云ふと、其義を一にす――即ち其言語の信實を確證