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此れ氣ををさむる者なり。治を以て亂を待ち、靜を以て譁を待つは、此れ心を治むる者なり、きんを以て遠を待ち、佚を以て勞を待ち、飽を以てを待つは、此れ力ををさむる者なり。正々の旗をむかふるなかれ、堂々の陣を擊つなかれ、此れ變を治むる者なり。故に兵を用ふるの法、高陵にはむかふことなかれ、丘をうしろにせば逆ふなかれ、いつはぐるには從ふなかれ、銳卒えいそつむるなかれ、餌兵はむなかれ、かへいくさとゞむるなかれ、かこむ師は必ず闕け、窮寇にはまるなかれ、此れ兵を用ふるの法なり。


九變第八

 孫子曰く、凡そ兵を用ふるの法、將、命を君に受け軍を合せ衆を聚め、𡉏地いちには舍するなく、衢地くちには交りをあはせ、絕地ぜつちにはとどまる無く、圍地には謀り、死地には戰ふ、みちに由らざる所あり、軍に擊たざる所あり、城に攻めざる所あり、地に爭はざる所あり、君命受けざる所あり。故に將九變の利に通ずる者は兵を用ふることを知る。しやうへんの利に通ぜざる者は地形を知ると雖も地の利を得る能はず。兵を治むるに九變の術を知らずば、五利を知ると雖も人の用を得る能はず。是故に智者のおもんぱかりは必ず利害をまじふ、利に雜へてつとめぶべし、害に雜へてうれへくべし。是故に諸侯