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はるかなる女体をつて雨の日の地平をわたる海鳥のむれ


爛れ眼のカンナの凝視にたへかねて黄金蟲は真黒く日輪に躍りこむ


手にのこるけだものの香のけうとさは真紅にかはる海を想へり


夕まけて黄金きんの入江にしづみゆく海月の肌にのこる俗情


秋ふかきもののはるけさ雲に死ぬ海月の笠の碧きをも見つ


誰からも愛されたくない悲心の夜無花果に照る月をさげすむ


木犀の銀の音いろにさりげなき羞らひのに触れじとはする


そんなことちつともないと言ふかほに半透明な心臓がのぞく



 木霊


いつせいに木霊こだまがあげるときのこゑだけのこしておれは消え去る