Page:死霊解脱物語聞書.pdf/62

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を始め。其にあつまる老若男女なんによ。百人とこそきこ へけれ。其時和尚おしやう戒名かいみやうに向て。心中にきせいしたまはく 理屋性貞りおくしやうてい単刀真入たんとうしんにふも。此菊がとくにより。成仏しやうぶつし たまふ事なれば。かならず。此ものゝいのちまもり諸人のうた がひをさんじ給へと。ふかくたのみ。十ねん廻向ゑかうおわつて。いそぎりやう に帰り給へば。同寮どうりやうの人〻。心もとなく待居まちゐられしが。いそ ぎたち向ひ。何事なにごと候やおぼつかなく候ふと申せば 和尚いと心よげにてかゝることの有しそや。戒名かいみやうかき 直しぞ。心あらば諷經ふぎんせよと仰らるれば。皆人〻かんじ あひて。おいたるわか所化衆しよけしふ。思ひ諷經ふぎんにこそは 行れにけり。さてまた祐天和尚は。いそぎ近所きんじよ しやをよびよせ。菊が療治りやうちをたのみ給へば。いしやかしこ まつていそぎ羽生村はにふむらき。菊がみやくをうかゞひ。す なはちかへつて和尚に申やう。かれが脉の正体しやうたいなく候へば。 中療治りやうぢはかなひ申さず。そのゆへくすりをもあたへず罷 帰り候といへば。祐天和尚聞給ひ。何をかいふらん。菊が いのちをばわれ諸佛しよぶつへたのみおき。そのうへ単刀真入たんとうしんにふなどへ 能ゝよくやくそくし置し物おと。思召おほしめししからば是非ぜびなし。其 薬箱くすりばこひらき。益氣湯ゑききとうを七ふく調合てうがうし。我にあたへ 給へとあれば。かしこまつて候とて。すなはち調合てうがうして参らせ 御いとま申てかへられたり。和尚其あとにていそぎかの薬を せんじ給ひ。一はんばかりを持参ぢさんにて。其夜中やちう羽生はにう