因果はなしを。よく〳〵聞覚へたり。此度御吊なされたる
かさねが実父さきの与右衛門。やもめにて在し時。他村より
妻をめとる。その女房男子一人つれきたれり。その子の形
はめつかいててつかいで。びつこにて候ひしを。与右衛門がいふ
やう。かくのごとくのかたわもの。養育して何かせん。急で
誰にもくれよといへば。母親のいふやうは親だにあきし
此子をば。たれの人かめくまんやといへば。与右衛門か云様
扨はその方共に出て行と。折〻せめて云けるゆへ。
母親が思ふやう。子を捨るふちはあれ共。身を捨る
藪なしとて。只今かれが申通りかてつみにつれ行松原
の土手より。川中へなげこみ。夫とにかくと語れは。与右衛門
もうちうなづき。それこそ女のはたらきよとて。中よく
月日を送りしが。終に其年懐姙し。翌年娘を
平産す。取あげそだて見てあれば。めつかいてつかい
ちんばにて。おとこ女は替れども。姿は同しかたわ
もの。むかしの因果は手洗の縁をめぐると聞しが
今の因果は針の先をめぐるぞやと。親どもの一つ
はなしにいたせしを。たしかによく聞覚へたり。さてその
かたわ娘は先与右衛門が実子なるゆへに。すてもやらて
養育し。先度の灵魂かさねとは。此かたわ娘の事
なるぞや。さて此かさね成長し。兩親とも死果て。孤と
なりしを。代〻百性の家をつぶさしとて。親名主のあ