隨求陀羅尼七反みてゝ。度ごとに右のことく問たまふに。いつ
も同邊にぞ答へける。其時和尚六人の衆僧に向て
のたまわく。是見たまへよかた〳〵。今誦する所の經陀
羅尼は。一代顕密の中におゐて。何れも甚深微妙な
れ共。時機不相應なる故か。少分も顕益なし。此上は
我宗の深秘。超世別願の称名ぞ。我に随て唱へよ
と。六字づめの念佛。七人一同の中音にて。半時ばかり
唱へ畢て。さて累はと問たまへば。また右のごとくに答へ
けり。其時和尚興をさまし前後をかへり見たまへば
。いつのほどより集りけん。てん手に行燈ともしつれ。村
中の者ども。稲麻竹葦と並居たるが。一人〳〵和尚
に向ひ。何たれそれがしはこれと。一〻名字をなのり。様〻
時宜を述る事。いとかまびすしく聞へければ。和尚いら
つてのたまはく。あなかしがまし人〻今此所にして汝等が
名字を聞てせんなし。只其許を分けよ。我れ用事
を弁するにとてたちたまへば。ひぢをたをめ座をそ
ばだて。おめ〳〵しくぞ通しける。和尚すなはち外に
出て。意地の領解を述られしは。物すさましくぞ聞
ける。其詞にいわく。十劫正覚の阿弥陀佛。天眼天耳
の通を以て。我がいふ事をよく聞れよ。五劫思惟の
善巧にて。超世別願の名を顕し。極重悪人。無他
方便。唯称名字。必生我界の本願は。たれがために