したがつてかりに名付ける我物なれば。汝が存生の時は汝が物。今は菊が物なり。しかるにこれを沽却して汝が用所につかはん事。是に過たる横道なし。かたはらいたき望み事やと。あざわらつてぞ教化しける。其時怨灵気色かわつて。あゝ六ヶ敷のりくつあらそひや。なにともいへ我願のかなわぬ内は。こらへはせぬぞと云聲の下よりも。あわふき出し目を見はり。手あしをもがき。五たいをせめ。聞絶顛倒の有さまは。すさまじかりける次第なり。時に名主見るに忍びず。しばらく〳〵苦痛をやめよ。汝が望にまかせ。石佛をたてゝ与たふべし。此間三海道に。石佛の如意輪像。二尺あまりと見えたるが其領をたづぬるに。金子弐分とかや答へたり。かほどなるにても堪忍するやととひければ。かさねこたへていふやう。大小に望みなし。只はやく立て得させたまへと云時。常使を呼寄せ。直に累が見る所にて。件の石塔をあつらへ畢て。さては汝が望み足ぬ。すみやかにされといへば。灵魂がいわく石佛は外の望み。我か本意は念佛の功徳をうけて成仏せんと思ふなり。急ぎ念佛を興行し。我を極楽へ送りたまへ。さなくはいづくへも行所なしといゝおわつて本のごとくせめければ。名主年寄惣談して此上は村中へふれ廻し。一夜念佛興行して。大勢の男女异口同音に。真実にゑかうして。かさねが菩提をとむらはんと