ODA大綱(2015年)

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開発協力大綱について

平成27年2月10日

閣議決定

 平成4年に閣議にて決定され、平成15年に改定された政府開発援助(ODA)大綱は、これまで我が国のODA政策の根幹をなしてきた。

 ODA60周年を迎えた今、日本及び国際社会は大きな転換期にある。この新たな時代に、我が国は、平和国家としての歩みを引き続き堅持しつつ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に一層積極的に貢献する国家として国際社会を力強く主導していかなくてはならない。また、国際社会が直面する課題の解決のために開発途上国と協働する対等なパートナーとしての役割を更に強化すべく、日本のODAは更なる進化を遂げるべき時を迎えている。

 また、現在の国際社会では、多額の民間資金が開発途上国に流れ、企業や地方自治体、非政府組織(NGO)を始めとする様々な主体がグローバルな活動に携わり、開発途上国の開発課題の解決と持続的成長に重要な役割を果たしている。このような状況下にあって、我が国は、ODAのみならず、様々な力を結集して、開発課題に対処していかなくてはならない。 以上の認識に基づき、平成25年12月17日に閣議決定された国家安全保障戦略も踏まえつつ、次のとおり、ODA大綱を改定し、開発協力大綱を定めることとする。

 なお、ここで言う「開発協力」とは、「開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動」を指すものとする。また、狭義の「開発」のみならず、平和構築やガバナンス、基本的人権の推進、人道支援等も含め、「開発」を広くとらえることとする。

 こうした開発協力は、我が国政府及び政府関係機関によるそれ以外の資金・活動(ODA以外の公的資金(OOF[2])、国際連合平和維持活動(PKO)等)や開発を目的とする又は開発に資する民間の資金・活動(企業や地方自治体、NGOを始めとする多様な主体による資金・活動)との連携を強化し、開発のための相乗効果を高めることが求められる。

開発協力大綱

-平和、繁栄、そして、一人ひとりのより良き未来のために-

 現在の国際社会は、かつてないほどの世界のパワーバランスの変化及びグローバル化と技術革新の急速な進展による国際的な経済活動の拡大と、相互依存の深化並びに様々な非国家主体の影響力の増大といった大きな変化のただ中にある。こうした中、環境・気候変動問題、水問題、災害、食料危機・飢餓、エネルギー、感染症等の国境を越える問題や、国際テロ、国際組織犯罪、海賊等の国際社会の平和と安定に対する脅威はもちろん、脆弱国家における人道的課題や地域紛争、政治的不安定に至るまで、世界各地のあらゆるリスクが、我が国を含む世界全体の平和と安定及び繁栄に直接的な悪影響を及ぼし得る状況になっている。また、新興国・開発途上国の経済的重要性が高まり、これら諸国の経済成長が今後の世界経済の成長の行方を左右する中、新興国・開発途上国において、包摂的で持続可能で強靱な成長を実現することは、世界経済全体の安定的成長にとって不可欠なものとなっている。さらに、我が国自身の経済社会状況を踏まえれば、新興国・開発途上国を始めとする国際社会との協力関係を深化させ、その活力を取り込んでいくことが、我が国自身の持続的な繁栄にとって鍵となっている。こうした変化の中で、平和で安定し、繁栄した国際社会の構築は、我が国の国益とますます分かちがたく結びつくようになってきており、我が国が、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、開発途上国を含む国際社会と協力して、世界が抱える課題の解決に取り組んでいくことは我が国の国益の確保にとって不可欠となっている。

 また、世界が抱える開発課題も大きく変化している。新興国を筆頭に、多くの国で開発の進展が見られる一方、そうした国々においても、脆弱なガバナンス等に起因する政治経済的不安定や国内格差、持続可能性の問題、「中所得国の罠」等の課題が生じている。また、小島嶼国等においては、特別な脆弱性の問題を抱えている等、単純な所得水準のみでは計ることのできない開発課題が表面化している。また、国内紛争、政治的不安定や地理的、気候的諸条件等に起因する様々な脆弱性ゆえに成長から取り残されている国々では、人道支援に加え、脆弱性からの脱却のため、平和・安定や法の支配・ガバナンス、民主化といった安定的な開発の基盤を確保し、さらに開発の歯車を始動させることが喫緊の課題となっている。加えて、誰ひとり取り残されない、包摂的な開発を実現する観点から、開発のあらゆる段階において、女性を始めとする社会の多様な関係者の参画を確保することが重要な課題となっている。このように、世界が直面する課題は多様化・複雑化し、さらにグローバル化の進展とも相まって、国境を越えて広範化している。これらの困難な挑戦に直面している世界は、これまで以上に各国の知恵と行動を必要としている。

Ⅰ 理念

 上記認識を踏まえ、我が国は、以下の理念にのっとり、「開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動」である開発協力を推進する。

(1)開発協力の目的

 全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する我が国は、コロンボ・プランに加盟した1954年以降一貫して、国際社会の平和と繁栄を希求し、政府開発援助(ODA)を中心とする開発協力を通じ、開発途上国の開発努力を後押しするとともに、地球規模課題の解決に取り組んできた。これは、国際社会の責任ある主要な国家として、国際社会の抱える課題の解決に真摯に取り組む、我が国の国としての在り方を体現するものである。我が国の長年にわたる地道で着実な歩みは、国際社会において高い評価と信頼を得るとともに、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で国際社会の平和と安定及び繁栄のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

 加えて、我が国は、各種の課題を克服しつつ、世界でも類い希な高い経済成長と格差の小さい平和で安定した社会を実現し、アジアで最初の先進国となった。同時に、アジア諸国等に対し、日本の開発協力の理念及び経験・技術を活かした特色ある協力を行い、その成長を支えてきた。我が国はこうした歩みの中で、様々な成功や失敗を経験し、数多くの経験と知見、そして教訓を得てきた。また、我が国は高度経済成長期の体験だけでなく、人口減少や高齢化への対応、震災復興等、現在直面する課題からも、数多くの教訓を得ている。このような我が国が有する経験と知見、教訓は、世界が現在直面する開発課題の解決に役立つものであり、その活用に対する国際社会の期待も高い。

 このような国際社会の期待を踏まえ、世界の責任ある主要国として、国際社会の抱える課題、とりわけ開発課題や人道問題への対処に、これまで以上に積極的に寄与し、国際社会を力強く主導していくことは、我が国に対する国際社会の信頼を確固たるものとする観点から大きな意義を有する。

 現在の国際社会では、もはやどの国も一国のみでは自らの平和と繁栄を確保できなくなっている。そのような時代においては、開発途上国を含む国際社会と協力して世界の様々な課題の解決に積極的に取り組み、平和で安定し繁栄する国際社会の構築を実現するとともに、そうした取組を通じて、国際社会の様々な主体と強固かつ建設的な関係を構築していくという真摯な取組の中にこそ、我が国が豊かで平和な社会を引き続き発展させていく道がある。我が国がそうした外交を機動的に展開していく上で、開発協力は最も重要な手段の一つであり、「未来への投資」としての意義がある。

 以上の認識に基づき、我が国は、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保により一層積極的に貢献することを目的として開発協力を推進する。こうした協力を通じて、我が国の平和と安全の維持、更なる繁栄の実現、安定性及び透明性が高く見通しがつきやすい国際環境の実現、普遍的価値に基づく国際秩序の維持・擁護といった国益の確保に貢献する。

 その際、現在の国際社会では、民間企業、地方自治体、非政府組織(NGO)を始めとする多様な主体が、開発課題の解決、そして開発途上国の持続的成長にますます重要な役割を果たしていることを踏まえれば、ODAのみならず、多様な力を結集することが重要である。その意味で、ODAは、開発に資する様々な活動の中核として、多様な資金・主体と連携しつつ、様々な力を動員するための触媒、ひいては国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に資する様々な取組を推進するための原動力の一つとしての役割を果たしていく。

(2)基本方針

 上記の目的のために行われる我が国の開発協力は、その長い歴史の中で我が国が培ってきた哲学を踏まえて、更にそれを発展させていくものであるべきである。この観点から、目指すべき方向性を以下の基本方針として定める。

ア 非軍事的協力による平和と繁栄への貢献

 非軍事的協力によって、世界の平和と繁栄に貢献してきた我が国の開発協力は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた我が国に最もふさわしい国際貢献の一つであり、国際社会の平和と繁栄を誠実に希求する我が国の在り方を体現するものとして国際社会の高い評価を得てきた。我が国は今後もこの方針を堅持し、開発協力の軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避するとの原則を遵守しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に貢献する。

イ 人間の安全保障の推進

 個人の保護と能力強化により、恐怖と欠乏からの自由、そして、一人ひとりが幸福と尊厳を持って生存する権利を追求する人間の安全保障の考え方は、我が国の開発協力の根本にある指導理念である。この観点から、我が国の開発協力においては、人間一人ひとり、特に脆弱な立場に置かれやすい子ども、女性、障害者、高齢者、難民・国内避難民、少数民族・先住民族等に焦点を当て、その保護と能力強化を通じて、人間の安全保障の実現に向けた協力を行うとともに、相手国においてもこうした我が国の理念が理解され、浸透するように努め、国際社会における主流化を一層促進する。また、同じく人間中心のアプローチの観点から、女性の権利を含む基本的人権の促進に積極的に貢献する。

ウ 自助努力支援と日本の経験と知見を踏まえた対話・協働による自立的発展に向けた協力

 相手国の自主性、意思及び固有性を尊重しつつ、現場主義にのっとり、対話と協働により相手国に合ったものを共に創り上げていく精神、さらには共に学び合い、開発途上国と日本が相互に成長し発展する双方向の関係を築いていく姿勢は、開発途上国の自助努力を後押しし、将来における自立的発展を目指してきた日本の開発協力の良き伝統である。この観点から、引き続き、開発途上国自身の自発性と自助努力を重視するとともに、日本の経験と知見を活用しつつ、対話と協働を一層深化させ、当該国の自立的発展に向けた協力を行う。その際、人づくりや経済社会インフラ整備、法・制度構築等、自助努力や自立的発展の基礎の構築を重視する。さらに、相手国からの要請を待つだけでなく、相手国の開発政策や開発計画、制度を十分踏まえた上で我が国から積極的に提案を行うことも含め、当該国の政府や地域機関を含む様々な主体との対話・協働を重視する。

II 重点政策

(1)重点課題

 我が国は、上記の理念にのっとり、多様化・複雑化・広範化する開発課題に対処し、国際社会の平和と安定及び繁栄を実現するため、課題間の相互関連性にも留意しつつ、以下を重点課題として、開発協力を推進していく。

ア 「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅

世界には、いまだに多数の貧困層が存在しており、世界における貧困削減、とりわけ絶対的貧困の撲滅は、もっとも基本的な開発課題である。特に様々な理由で発展の端緒をつかめない脆弱国、脆弱な状況に置かれた人々に対しては、人道的観点からの支援、そして、発展に向けた歯車を始動させ、脆弱性からの脱却を実現するための支援を行うことが重要である。

 同時に、貧困問題を持続可能な形で解決するためには開発途上国の自立的発展に向けた、人づくり、インフラ整備、法・制度構築、そしてこれらによる民間部門の成長等を通じた経済成長の実現が不可欠である。ただし、一定の経済成長を遂げた国々の中にも、格差の拡大や持続可能性の問題、社会開発の遅れ、政治経済的不安定等の課題に直面する国々があることに鑑みれば、その成長は単なる量的な経済成長ではなく、成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残されないという意味で「包摂的」であり、環境との調和への配慮や経済社会の持続的成長・地球温暖化対策の観点を含め世代を超えて「持続可能」であり、経済危機や自然災害を含む様々なショックへの耐性及び回復力に富んだ「強靭性」を兼ね備えた「質の高い成長」である必要がある。これらは、我が国が戦後の歩みの中で実現に努めてきた課題でもあり、我が国は自らの経験や知見、教訓及び技術を活かし、「質の高い成長」とそれを通じた貧困撲滅を実現すべく支援を行う。

 これらの観点から、インフラ、金融、貿易・投資環境整備等の産業基盤整備及び産業育成、持続可能な都市、情報通信技術(ICT)や先端技術の導入、科学技術・イノベーション促進、研究開発、経済政策、職業訓練・産業人材育成、雇用創出、フードバリューチェーンの構築を含む農林水産業の育成等、経済成長の基礎及び原動力を確保するために必要な支援を行う。同時に、人間開発、社会開発の重要性に十分に留意し、保健医療、安全な水・衛生、食料・栄養、万人のための質の高い教育、格差是正、女性の能力強化、精神的な豊かさをもたらす文化・スポーツ等、人々の基礎的生活を支える人間中心の開発を推進するために必要な支援を行う。

イ 普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現

 「質の高い成長」による安定的発展を実現するためには、一人ひとりの権利が保障され、人々が安心して経済社会活動に従事し、社会が公正かつ安定的に運営されることが不可欠である。我が国はそうした発展の前提となる基盤を強化する観点から、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や平和で安定し、安全な社会の実現のための支援を行う。

 法の支配の確立、グッドガバナンスの実現、民主化の促進・定着、女性の権利を含む基本的人権の尊重等は、効果的・効率的かつ安定した経済社会活動の基礎をなし、経済社会開発を支えるものであると同時に、格差の是正を始め、公正で包摂的な社会を実現するための鍵である。この観点から、実定法の整備や法曹、矯正・更生保護を含む司法関係者の育成等の法制度整備支援、経済社会制度整備支援、公務員の人材育成、不正腐敗対策を含む行政能力向上支援等のガバナンス支援、選挙制度等の民主的政治体制構築支援、メディア支援や民主化教育等の民主化支援等、必要な支援を行う。

 また、平和と安定、安全の確保は、国づくり及び開発の前提条件である。この観点から、貧困を含め紛争や不安定の様々な要因に包括的に対処するとともに、紛争予防や紛争下の緊急人道支援、紛争終結促進、紛争後の緊急人道支援から復旧復興・開発支援までの切れ目のない平和構築支援を行う。その際、難民・避難民支援等の人道支援、女性や社会的弱者の保護と参画、社会・人的資本の復興、政府と市民の信頼関係に基づく統治機能の回復、地雷・不発弾除去や小型武器回収、治安の回復等、必要な支援を行う。また、自然災害等の緊急事態に際しては、中長期的な復旧・復興を視野に入れた迅速な支援を行う。さらに、安定・安全への脅威は、経済社会発展の阻害要因となることに鑑み、海上保安能力を含む法執行機関の能力強化、テロ対策や麻薬取引、人身取引対策等の国際組織犯罪対策を含む治安維持能力強化、海洋・宇宙空間・サイバー空間といった国際公共財に関わる開発途上国の能力強化等、必要な支援を行う。

ウ 地球規模課題への取組を通じた持続可能で強靱な国際社会の構築

 国境を越えて人類が共通して直面する環境・気候変動、水問題、大規模自然災害、感染症、食料問題、エネルギー等の地球規模課題は開発途上国のみならず国際社会全体に大きな影響を与え、多くの人々に被害をもたらすものであり、特に貧困層等、脆弱な立場に置かれた者により深刻な影響をもたらす傾向にある。

 こうした地球規模課題は一国のみでは解決し得ない問題であり、地域、さらには国際社会が一致して取り組む必要がある。我が国は、ミレニアム開発目標(MDGs)・ポスト2015年開発アジェンダといった国際開発目標とそれをめぐる議論を十分に踏まえ、国際的な目標や指針作りへの関与及び策定された国際開発目標の達成に向けた積極的な取組を含め、地球規模課題に率先して取り組む。こうした取組を通じ、国際社会全体として持続可能かつ強靱な社会を構築することを目指す。

 この観点から、低炭素社会の構築及び気候変動の悪影響に対する適応を含む気候変動対策、感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進、防災の主流化、防災対策・災害復旧対応、生物多様性の保全並びに森林、農地及び海洋における資源の持続可能な利用、健全な水循環の推進、環境管理等の環境分野での取組、高齢化を含む人口問題への対応、食料安全保障及び栄養、持続可能な形での資源・エネルギーへのアクセスの確保、情報格差の解消等に取り組む。

(2)地域別重点方針

 現在の国際社会における開発課題の多様化・複雑化・広範化、グローバル化の進展等に鑑みれば、世界全体を見渡しつつ、世界各地域に対し、その必要性と特性に応じた協力を行っていく必要がある。ついては、以下の各地域に対する重点方針を踏まえ、刻一刻と変化する情勢に柔軟に対応しながら、重点化を図りつつ、戦略的、効果的かつ機動的に協力を行っていく。その際、近年、地域共同体構築を始めとする地域統合の動き、国境を越える問題等への地域レベルでの取組、広域開発の取組、地域横断的な連結性強化の取組、地域間の連結性等が重要な意義を有するようになっていることを踏まえた協力を行っていく。また、開発の進展が見られても、いわゆる「中所得国の罠」といった持続的経済成長を妨げる課題や防災、感染症、環境・気候変動等の地球規模課題を始めとする様々な開発課題を抱える国々や、一人当たり所得が一定の水準にあっても小島嶼国等の特別な脆弱性を抱える国々等に対しては、各国の開発ニーズの実態や負担能力に応じて必要な協力を行っていく。

 アジア地域については、日本と緊密な関係を有し、日本の安全と繁栄にとり重要な地域であることを踏まえた協力を行う。

 特に、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域については、連結性の強化を含むハード・ソフト両面のインフラ整備支援、域内及び各国内の格差是正を柱として、共同体構築及びASEAN全体としての包括的かつ持続的な発展を支援する。とりわけ、メコン地域への支援を強化するとともに、一定の経済成長を遂げた国々についても、「中所得国の罠」に陥ることのないよう、生産性向上や技術革新を促す人材育成等の支援を継続する。同時に、防災対策や災害対処能力の向上、安定した経済社会活動の基盤となる法の支配促進等のための支援を重視する。また、ASEANが一体となって取り組む課題の解決のため、地域機関としてのASEANとの連携を推進する。

 さらに、南アジアについては、同地域の安定と同地域が有する様々な潜在力の発現に向け、インフラの整備やアジア域内を含めた連結性の強化を始めとする貿易・投資環境の整備等、成長を通じた経済発展の基盤を構築するための協力を行うとともに、保健、衛生、教育等の基礎生活分野の支援、貧富の格差を和らげるための経済社会インフラ整備支援等を行う。

 中央アジア・コーカサス地域については、域内の格差にも留意しつつ、隣接地域を含めた長期的な安定と持続可能な発展のための国づくりと地域協力を支援する。

 アフリカについては、貿易・投資及び消費の拡大を軸に近年目覚ましい発展を遂げるアフリカの成長を我が国とアフリカ双方の更なる発展に結びつけられるよう、アフリカ開発会議(TICAD)プロセス等を通じて、官民一体となった支援を行っていく。また、特にアフリカで進む準地域レベルでの地域開発及び地域統合の取組に留意する。一方、依然として紛争が頻発する国々や深刻な開発課題が山積する国々が存在することを踏まえ、引き続き人間の安全保障の視点に立って、平和構築と脆弱な国家への支援に積極的に取り組み、平和と安定の確立・定着及び深刻な開発課題の解決に向けて、必要な支援を行う。

 中東については、日本のみならず国際社会全体にとって、平和と安定及びエネルギーの安定供給の観点から重要な地域であり、平和構築、格差是正、人材育成等の課題に対する協力を行い、同地域の平和と安定化に積極的に貢献し、我が国と中東地域諸国の共生・共栄に向け支援を行っていく。

 中・東欧については、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を共有する欧州への統合に向けた歩みを支持し、このために必要な支援を行っていく。

 中南米については、貿易・投資等を通じた経済発展を一層促進していくための環境整備を支援するとともに、大きな発展を遂げている国においても国内格差が存在すること等を踏まえ、必要な協力を行う。また、日系社会の存在が我が国との強い絆となっていることに留意する。

 大洋州、カリブ諸国を始めとする小島嶼国については、多くの国・地域が小島嶼国ならではの脆弱性を抱えており、また、気候変動による海面上昇や自然災害による被害、水不足等、地球規模の環境問題の影響への対応が課題となっていることを踏まえ、小島嶼国の特殊性を勘案し、開発ニーズに即した支援を行う。

Ⅲ 実施

(1)実施上の原則

 開発協力の実施に際しては、前述の理念の実現と重点政策推進にとって最大限の効果が得られるよう、開発効果向上等の国際的な議論も踏まえつつ、効果的・効率的な開発協力推進に努めるとともに、当該国・社会に与える影響や協力の適正性確保等に十分な配慮を行うことが必要である。この観点から、以下の諸点を実施上の原則として開発協力を行う。

ア 効果的・効率的な開発協力推進のための原則
(ア)戦略性の強化

 我が国の開発協力の効果を最大化するためには、政府・実施機関が一体となり、様々な関係主体とも連携しつつ、我が国の有する様々な資源を結集して、開発協力の政策立案、実施、評価のサイクルに一貫して取り組むという戦略性を確保することが重要である。

 政策立案に際しては、開発協力が刻々と変化する国際情勢を踏まえた戦略的かつ機動的対応が要求される外交政策の最も重要な手段の一つであることを十分認識する必要がある。この観点から、開発途上国を始めとする国際社会の状況、開発途上国自身の開発政策や開発計画及び支援対象となる国や課題の我が国にとっての戦略的重要性を十分踏まえ、必要な重点化を図りつつ、我が国の外交政策に基づいた戦略的かつ効果的な開発協力方針の策定・目標設定を行う。また、開発協力方針の明確化のため、本大綱の下に、課題別政策、地域別政策、国別政策等を位置付ける。

 開発協力の実施に際しては、政府及び政府関係機関が有する資源を最大限に活用すべく、ODAとODA以外の資金・協力との連携を図ることで相乗効果を高める。また、外交政策上の観点及び開発協力の効果・効率性の向上のため、技術協力、有償資金協力、無償資金協力を有機的に組み合わせるとともに、迅速性の向上や協力のための諸制度の改善、柔軟な運用に努める。

 評価については、協力の効果・効率性の向上に加え、国民への説明責任を果たす観点からも重要であることを踏まえ、政策や事業レベルでの評価を行い、評価結果を政策決定過程や事業実施に適切にフィードバックする。その際、成果を重視しつつも、対象の特殊性やそれぞれの事情を考慮した上で評価を行う。また、外交的視点からの評価の実施にも努める。

(イ)日本の持つ強みを活かした協力

 高度成長や急速な人口動態の変化を経験し、様々な課題を乗り越えつつ、今日まで歩みを進めてきた我が国は、その過程の中で、人材、知見、先端技術を含む優れた技術及び制度を培ってきた。これらを活用することは、開発途上国が今日及び将来直面する同様の課題への対処にとって有用であり、我が国に対する期待も大きい。我が国の開発協力の実施に当たっては、民間部門を始め様々な主体からの提案を積極的に取り入れるとともに、大学・研究機関等と連携することにより教育・学術研究の知見を活用し、それぞれの潜在能力の発掘にも努める。また、インフラ建設等のハード面の支援のみならず、その運営管理等のシステム、人づくりや制度づくり等のソフト面の支援を総合的に行うことにより、日本の経験と知見をより積極的に活用していく。加えて、日本の価値観や職業文化等日本らしさに対する国際社会の高い評価も踏まえ、日本語を含む日本のソフトパワーの活用にも留意する。

(ウ)国際的な議論への積極的貢献

 これまでの我が国の開発協力において得られた経験と知見を中心に整理した上で、我が国の開発協力政策の対外発信に努めるとともに、これが国際的な開発協力の理念・潮流の形成過程において充分に反映されるよう、国際連合、国際金融機関、経済協力開発機構(OECD)(その中の開発援助委員会(DAC))、その他の国際的枠組みにおける議論に積極的に参加・貢献していく。

イ 開発協力の適正性確保のための原則

 開発協力政策や個別の事業の適正性確保、また当該国・社会に与える様々な影響への配慮の観点から、以下の原則を常に踏まえた上で、当該国の開発需要及び経済社会状況、二国間関係等を総合的に判断の上、開発協力を実施する。

(ア)民主化の定着、法の支配及び基本的人権の保障に係る状況

 開発途上国の民主化の定着、法の支配及び基本的人権の尊重を促進する観点から、当該国における民主化、法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う。

(イ)軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避

 開発協力の実施に当たっては、軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。民生目的、災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する。

(ウ)軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発製造、武器の輸出入等の状況

 テロや大量破壊兵器の拡散を防止する等、国際社会の平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、当該国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払う。

(エ)開発に伴う環境・気候変動への影響

環境と開発を両立させ、持続可能な開発を実現するため、開発に伴う様々な環境への影響や気候変動対策に十分注意を払い、環境に十分配慮した開発協力を行う。

(オ)公正性の確保・社会的弱者への配慮

 格差是正、子ども、障害者、高齢者、少数民族・先住民族等の社会的弱者への配慮等の観点から、社会面への影響に十分注意を払い、あらゆる場面における多様な関係者の参画に努めつつ、公正性の確保に十分配慮した開発協力を行う。

(カ)女性の参画の促進

 男女平等、開発の担い手としての女性の活躍推進等の観点から、女性がさらされやすい脆弱性と女性特有のニーズに配慮しつつ、開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進し、また、女性が公正に開発の恩恵を受けられるよう、一層積極的に取り組む。

(キ)不正腐敗の防止

 開発協力の実施においては、不正腐敗不正腐敗を防止することが必要である。受注企業の法令遵守体制構築に資する措置を講じつつ、相手国と連携し、相手国のガバナンス強化を含め、不正腐敗を防止するための環境を共に醸成していく。この観点からも、案件実施に当たっては、適正手続を確保し、実施プロセスにおける透明性の確保に努める。

(ク)開発協力関係者の安全配慮

 開発協力に携わる人員の安全を確保する観点から、安全管理能力強化、治安情報の収集及び安全対策の実施、工事施工時の関係者の安全確保に十分注意を払う。特に、平和構築に係る支援等、政情・治安が不安定な地域での支援に際しては、十分な安全対策や体制整備を行う。

(2)実施体制

 国際社会において開発課題が多様化・複雑化・広範化し、開発に携わる主体や開発に関係する資金が多様化していることを踏まえ、政府・実施機関の実施体制整備、各種の連携強化及び開発協力の持続的実施のための基盤の強化に努めていく。

ア 政府・実施機関の実施体制整備

 我が国の開発協力を進めるに当たっては、開発協力政策の企画・立案の調整を担う外務省を中核とした関係府省庁間の連携を強化する。また、政策の企画・立案を行う政府とその実施を担う独立行政法人国際協力機構(JICA)との間の緊密な連携を図るとともに、それぞれの役割、責任分担を明確にしつつ、各々の能力・体制整備・制度改善に一層努める。特に、我が国開発協力の競争力を高めるため、機動性、専門性、知の蓄積、調査・研究能力、在外機能等の強化、人材育成、緊急人道支援体制の整備等に取り組む。また、企業、NGO、自治体、大学・研究機関、国民等との結節点としてJICAの国内拠点が果たす役割にも留意する。

イ 連携の強化

 現在の国際社会では、開発途上国の開発にとって、政府以外の多様な主体がますます重要な役割を果たすようになっていることを踏まえ、政府・政府関係機関による開発協力の実施に当たっては、JICAとその他の公的資金を扱う機関(株式会社国際協力銀行(JBIC)、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)等)との間の連携を強化するとともに、民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒としての役割を果たせるよう、様々な主体との互恵的な連携を強化する。

(ア)官民連携、自治体連携

 開発途上国の開発推進にとって、ODAを始めとする公的資金は引き続き重要な役割を担うが、開発途上国への民間資金の流入が公的資金を大きく凌いでいる現状を踏まえれば、民間部門の活動が開発途上国の経済成長を促す大きな原動力となっていることを十分考慮する必要がある。また、アジアにおいては、開発協力によってハード・ソフトの基礎インフラを整備したことで投資環境が改善し、また、開発協力が触媒的役割を果たすことにより、民間企業の投資を促し、それが当該国の成長と貧困削減につながっている。この過程を通じて、アジアが我が国民間企業の重要な市場、投資先として成長し、日本経済にとって極めて重要な存在となったという事実を再認識することも重要である。さらに、我が国の地方自治体が有する独自の経験や知見が、開発途上国の抱える課題の解決にとって重要な役割を果たすようになっている。

 以上を踏まえ、民間部門や地方自治体の資源を取り込むとともに、民間部門主導の成長を促進することで開発途上国の経済発展を一層力強くかつ効果的に推進し、またそのことが日本経済の力強い成長にもつながるよう、官民連携、自治体連携による開発協力を推進する。具体的には、我が国の中小企業を含む企業や地方自治体、大学・研究機関等との連携を強化し、人づくり、法・制度構築、インフラシステム整備等、貿易・投資促進のための環境整備を始めとした取組を計画策定から事業実施まで一貫して進める。

 なお、官民連携の推進に当たっては、我が国の開発協力が、民間部門が自らの優れた技術・ノウハウや豊富な資金を開発途上国の課題解決に役立てつつ、経済活動を拡大するための触媒としての機能を果たすよう努める。また、開発協力と共に実施される民間投資が相手国の「質の高い成長」につながるよう、上述の我が国開発協力の重点政策を十分に踏まえ、包摂性、持続可能性、強靱性、能力構築の促進等を確保するよう留意する。

(イ)緊急人道支援、国際平和協力における連携

 災害が激甚化・頻発化する中において、防災・減災大国である我が国の貢献の余地は大きい。災害救援等の緊急人道支援の効果的実施のため、国際機関やNGOを含め、この分野の知見を有する様々な主体との連携を強化する。  また、国際平和協力においてもその効果を最大化するため、国際連合平和維持活動(PKO)等の国際平和協力活動との連携推進に引き続き取り組む。

(ウ)国際機関、地域機関等との連携

 独自の専門性、中立性、幅広いネットワークを有する国際機関は、二国間協力ではアクセス困難な分野・地域への協力やその独自性を活かした効果的・効率的な協力を行うことができる。また、二国間協力と組み合わせることで相乗効果が期待できる。これらを踏まえ、人道支援、平和構築やガバナンス、地球規模課題への取組を始めとして引き続き国際機関と積極的に連携する。また、国際機関は、国際的な開発協力の理念と潮流を形成する役割も担うことから、責任ある国際社会の一員として、国際的な規範の形成を主導する上でも、国際機関及び国際社会における我が国の発言力・プレゼンスの強化を図る。さらに、各国際機関との政策協議を定期的に実施し、政策調整を行っていくことで、二国間協力との相乗効果を実現するよう努める。また、国際機関を通じた開発協力の効果や評価については、国民への説明責任の確保に特に留意する。

 また、地域統合の動きや地域レベルでの広域的取組の重要性を踏まえ、地域機関・準地域機関との連携を強化する。

(エ)他ドナー・新興国等との連携

 我が国と同様、他ドナーには長年の開発協力で培われた経験と知見が蓄積されており、開発効果をより向上させるためには、ドナー間の連携を強化し、協調・協働することが必要である。この観点から、我が国は、外交的観点も踏まえながら、引き続き他ドナーとの開発協力における協調を推進し、開発協力の効果の一層の向上を目指していく。  また、開発協力の実施に当たっては、我が国の長年の協力により相手国に蓄積されたノウハウや人的資源、人材ネットワーク等を有効に活用することが重要である。新興国を始めとする諸国と連携した三角協力は、これらを有効に活用した協力として、国際社会からも高い評価を得ているところ、引き続きこの取組を継続していく。

(オ)市民社会との連携

 開発現場の多様な考え方、ニーズをきめ細かに把握し、状況に応じて迅速に対応できる国内外のNGO/市民社会組織(CSO)、民間財団等との連携は、協力効果の向上及び当該国の公正で安定的な発展にとって重要である。このことを踏まえ、開発協力における参加・協働の強化を含め、NGO/CSOとの連携を戦略的に強化する。そのためにも、我が国のNGO/CSOの優れた開発協力事業や能力向上を支援するとともに、外務省・JICAにおいては、社会開発分野の人材育成、体制整備に取り組む。

 また、JICAボランティアの積極的活用も含め、担い手の裾野を拡大する観点からも開発協力への国民各層の広範な参加及び開発協力参加者の知見の社会還元を促進する。その観点から、国民に対する十分な情報提供を行うとともに、開発協力に関する提案を始めとする国民各層からの意見に耳を傾ける。

ウ 実施基盤の強化

 開発協力が上記の理念の実現と重点政策推進のために必要な役割を果たすためには、資金的・人的資源等、持続的に開発協力を実施するための基盤を強化する必要がある。対国民総所得(GNI)比でODAの量を0.7%とする国際的目標を念頭に置くとともに、我が国の極めて厳しい財政状況も十分踏まえつつ、開発協力の実施基盤の強化のため必要な努力を行う。

(ア)情報公開、国民及び国際社会の理解促進

 開発協力は、国民の税金を原資としている。したがって、開発協力に必要な資金を確保し、持続的に開発協力を実施していくためには、国民の理解と支持を得ることが不可欠である。この観点から、開発協力に係る効果的な国内広報の積極的な実施に努め、国民に対して、開発協力の実施状況や評価等に関する情報を幅広く、迅速に十分な透明性をもって公開するとともに、政策、意義、成果、国際社会からの評価等を国民に分かりやすい形で丁寧に説明する。また、開発途上国を含めた国際社会において、日本の開発協力とその成果の認知度・理解度を高めることも重要であり、そのための海外広報にも積極的に取り組む。

(イ)開発教育の推進

 学校教育を始めとする様々な場を通じて、世界が直面する様々な開発課題の様相及び我が国との関係を知り、それを自らの問題として捉え、主体的に考える力、また、その根本的解決に向けた取組に参加する力を養うため、開発教育を推進する。

(ウ)開発協力人材・知的基盤の強化

 開発課題が多様化する中、開発協力に関わる人材育成は引き続き重要な課題である。特に、法の支配、ガバナンス、金融、ICT等の分野での開発協力を推進していく上では、それを担う人材の育成・確保等による協力体制の整備が必要である。これを踏まえ、産官学が一体となり、外務省・JICA以外にも、コンサルタント、研究者、大学や学生、民間企業、NGO/CSO等における専門性を持った国際人材の育成を促進するとともに、このような人材が国内外において活躍できる機会の拡大、制度・体制整備に努める。

 また、日本が持つ強みを活かして、国際的な開発協力の理念・潮流の形成を積極的に主導していくためにも、日本と開発途上国側の関係者間での政策研究や知的ネットワーク形成を図る等、大学・研究機関等と連携しつつ、開発協力を立案・発信するための研究能力等知的基盤の強化に努める。

(3)開発協力大綱の実施状況に関する報告

 開発協力大綱の実施状況については、毎年閣議報告される「開発協力白書」において明らかにする。

平成27年2月10日

閣議決定

注釈

  1. 日本における発効。
  2. ODA以外の公的資金(Other Official Flows)。関連文献参照。

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