静物は欠伸をする

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本文[編集]

静物は欠伸をする
萩原恭次郎

腐つたアツプル・パイのやうな細君と
旧式の山高帽の愛情深い宣教師S氏と
けいれんする羞恥の赤さをもつた午後の庭に
柔い目をした犬の愛撫を見つつ
天国の話を初めてゐる
泣きはらした目のやうな山茶花が
無益な顔をしてゐる私に照つている
紅い花と————蒼白い顔
空に剥製の白鳥が飛んでゐる
饐んでゆく一日を
挽歌も知らず過してゐる男
明るく————そして暗い太陽の面に
愛と歓びは燃え切れてゆく
胸の中で青い虫が
果実をむしばんでゆく

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。