電車唱歌/地理教育電車唱歌
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滊笛 の聲 にはる/″\と乘 り來 し滊車 を此處 に捨󠄁 て輕 き涼風袖 にうけ降 る品川 ステーション安房 や上総 の山々 は霞 の中 に縹 〔ママ〕ひて歸 りを急 ぐ漁舟 の聲 は聞 くだに氣 も勇 む左手 の方 を見渡 せば昔 の樣 ぞ忍 ばるゝ家居 の續 く品川 や鈴 ヶ森 へも遠 からず町 をめぐりて名物 の海󠄀苔 を土產 に軈 て又 波 打寄 する海󠄀岸 に出 づれば電車 の待受 る發車 のしらせ鈴 の音 に八 ッ山下 を立 ち出 て いざやこれより東京 の市中 を巡 り廻 らなん右 は名 におー品川 の臺場 も見 えて波淸 く出船 入船 眞帆 片帆 往 こーさまぞ賑 はしゝ遙 あなたを眺 むれば橫 にたなびく黑雲 の空 を掩 ひて見 ゆる地 は深川 本所 の工業地 左 に近 く打 ち續 く山 は櫻 に名 を得 たる春 は盛 りの御殿山 庚申塚 も程近 し軈 て車掌 の呼 ぶ聲 に降 るれば此處 は其昔 四十七士 が主 の仇 を はらしていつく泉岳寺 門 をば入 りて左 なる絶 えぬ香華 の義士 の墓 寶物藏 も見了 りて又 も北 をば指 して行 く伊皿子 、田町 打 ち過 ぎて行 けば程 なく四國町 薩摩 の原 は街鉄 の線路 と續 く交又󠄂点 芝 の離宮 や濱御殿 拜 みて此處 は增上寺 大門前 に降 りたてば先目 にとまる朱塗門 碧 の甍 苔 むして 二百餘年 の太平󠄁 の基 を開 きし家康 が御靈 を祝󠄀 る靈廟 あり世 にも名 たるゝ工等 が 一期 の精 を盡 したる其 の結搆 の麗 はしさ何 に譬 へん樣 もなし深 き木立 の苔道 を縫 ひつゝ登 る愛宕山 ベンチに凭 りて眺 むれば東京灣 はたゞひとめ煙 を後 になびかせて馳 せ行 く船 や追風 に白帆 あげつゝ走 り來 る海󠄀 の景色 の面白 さ上 りの滊車 に後 れじと急 ぐ電車 に飛 び乘 れば宇田川 、露月 、源助町 新橋前 にと着 きにける此處 は東海󠄀道線 の始 めの驛 にて乘 りかはる都󠄀 の人 に田舎 びと言葉 の訛 のをかしけれ滿員札 は掲 げられ橋 を渡 れば人々 の往來 俄 に數 ふえて靑柳 なびく大街道 馬車 を駈 り來 る貴公子 や俥 を飛 ばす人 もあり電信 電話 電燈 の線 は蜘手 と入 り交 る柳 を隔 て兩側 の石引 き誥 めし人道 を往 き來 ふ人 は堵 の如 く老幼 貴賎 群 れ集 ふ土藏造 りや石造 り煉瓦造 りの家々 は軒 を並 べつ劣 らじと眩 きばかり飾 りたつ店 の作 の麗 はしく瓦斯 や電氣 の燈火 と照 りて輝 き流石 にも銀座通 りの賑 しき東 の方 に聳 ゆるは西本願寺 の別院 ぞ海󠄀軍大學 遞信省 農商務省 も皆近 し西 は程 なく數寄屋橋 渡 れば四季 の花薰 る日比谷公園 淸 らかに笑 ふて我 を迎 ふなり新 に立 ちし音樂堂 土曜日每 に海󠄀陸 の樂隊招 き皆人 の聞 くに任 せる有難 さ程 なく停 まる京橋 や かたへの柳 影 うせて遙 左手 の木立 こそ畏 き宮居 と知 られけれ轟 き渡 る橋 の上 へ雲井 の空 を伏 し拜 み御稜威 いやます大君 の千代 萬代 を壽 かん過 ぎゆく街 の其狀 は さして前 とは變 らねど煉瓦作 りの數減 りて土藏造 りの立 ち並 ぶ中橋 、通 三丁目 車掌 の聲 の消 ぬまに早 くも此處 は日本橋 下 ゆく舟 のいと多 し江戸 と呼 ばれし昔 より 八百八丁 の中央 と其名 の高 き名所 とて繁華 のさまも一入 ぞ東男 とほこりたる俠氣 の風 の今殘 る魚河岸 こそは橋向 ふ朝夕 二度 の市開 き- せり
賣 る聲 の勇 ましく右 に左 に持 ちはこぶ魚 の數々 岸 のべに もやう上総 や安房 の船 警鈴 ならしゆるやかに橋 を渡 れば室町 の名 たるゝ三越 呉服店 飾󠄁 れる店 の目 もあやに- かたへに
高 く雲凌 ぐ西洋建 の二 かまへ これぞ其名 もいやたかき日本 、三井 の二銀行 白 と赤 との信号 に行 けと止 れを見別 つゝ過 ぐれば此處 は鄙都󠄀 飾󠄁 る雛 の店 つゞき- 五
人囃 や内裡雛 白 や黑 やの鳥毛 さへ そよ吹風 に打 ち靡 き鐘鬼 の髯 のほの搖 ぐ 込 み合 ふ人 をベルの音 に別 つゝ後 を見返 れば紫色 の札 つけし電車 は右 に影 もなし今川橋 や鍛冶町 を過 ぎて止 まる須田町 は神󠄀田 、本郷󠄁 、両國 へ行 く人々 の乘換塲 左 に近 く明神󠄀 の森 を眺 めて君 が代 は實 に萬代 の橋 を越 え停 る彼方 は街廣 し來 よとぞ招 く靑柳 の木下影 をたどりつゝ何時 しか過 ぐる五軒町 黑門町 も夢 の間 に着 くや上野 の山 の下 家居 を競 ふ三橋際 揚出 し茶漬雁鍋 や朝鮮料理 ビヤホール一時有餘 の乘 り誥 めに疲 れし身 をば休 めんと下 りて登 る石段 の上 になつかし老西郷󠄁 狗 を引 つれ薩摩夫 の凛 たる姿 尊󠄁 くて殘 す勳功 は今 もなを仰 ぎ慕 はぬ者󠄁 ぞなき傍 の栅 に倚 り掛 り見 おろす下 は廣小路 輕 らに走 る電車 こそ我等 の乘 りしそれなれや眼 を放 ち眺 むれば南 の際 より北 のはて東 のはても一眸 の中 にあつまる大壯觀 淸水堂 や動物園 博物舘 も拜觀 し東叡山 に撞 き出 す鐘 を相圖 に立 ち歸 る途 におろがむ辨才天 不忍󠄁池 の涼風 に迎 へられつゝ汗 ぬぐひ又 も電車 に打 ち乘 りぬ- めぐる
車 のいと早 く右 に折 るゝと思 ふ間 に着 くや淺草公園地 まづ觀音 に賽 しなむ 芝居 見世物 凌雲閣 水族舘 も人 の山 おしつおされつする中 を切 りぬけ出 る仁王門 人波 うてる仲見世 を通 り終 れば雷門 待 てる電車 に乘 り込 みて南 を指 して急 ぎゆく駒形 、藏前 、須賀町 や茅町 過 ぎて今此處 は煙火 に名 たるゝ両國 の橋 の袂 と知 られける東電 、街鉄 二會社󠄁 の線路 の八重 に結 び合 ふ中 を通 りて右左 分岐 の点 に止 まりぬ右 は往 さの車 にて大傳馬町 や小傳馬町 馬喰町 をば通過 なし左 は横山 、油町 問屋 、舊家 の立 ち並 ふ本町 通 りをひと筋 に 二丁目 角 に廻 りきて もと來 し線 に立 もどる夫 より又 も日本橋 京橋 、新橋 打 ち巡 り大門前 にて乘 り換 へつ八 ッ山下 にと歸 り來 ぬ斯 くて廻 りし喜 びを迎 へ祝󠄀 ふか富士 の根 は紫色 のかげ淸 く汐風輕 く袂 吹 く