電車唱歌/地理教育市街電車唱歌
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< 電車唱歌
春 の晨 や月 の宵 夏 は涼 みの心字池 冬 さへ人 の來 て遊 ぶ此處 は日比谷 の公園地 音樂堂 に喨朗 と奏 で初 めし樂 の音 に千草 に喞 く虫 さへも聲 を合 せて歌 ふらし神󠄀田 深川 京橋 や芝方面 は後 になし先 づ見 に行 かん山 の手 と新宿行 に打 ち乘 りぬ枝 も鳴 さぬ老松 は お堀 の水 に影 ひたし君 が千年 を壽 ぎつ大内山 は雲深 し思 へば万延元年 の上巳 の節︀會 降雪 の消󠄁 るも待 で直弼 が終焉 を吿 し櫻田門 彼方 に高 く聳 ゆるは國 を守 りの武夫 を手足 の如 く使 ふなる參謀本部 と知 られける傍 に近 く司法省 陸海󠄀軍 や外務省 議事堂 さへも打並 び大廈高樓 空凌 ぐ右 か左 か三宅坂 左 に行 ば靑山 の東宮御所 は程近 く星 ケ丘邊 に月涼 し近衛第 三聯隊󠄁 や歩兵第 一第 三の聯隊󠄁所在 も遠 からず ラッパの聲 は練󠄀兵塲 坂 をば折 れて半󠄁藏門 吹上御苑 を右 に見 て進 み/\て麴町 八丁 九丁目夢 のうち堀 を越 れば傳馬町 浮世 の辛 き鹽町 や昔誇 りし玉川 の上水 過 れば新宿 ぞ瀧 の音 絕 ぬ十二社󠄁 つゝぢに名 を得 し大久保 も近 き邊 の名所 にて淸 き遊 に興深 し- いざたち
歸 る岐 れ道 日比谷 の原 を北 に向 け進 む馬塲崎御門 まへ和田倉御門 神󠄀田橋 外堀線 を蹈越 えて軈 て停 る小川町 君 に心 を一ツ橋 登 りつめたる九段坂 盡 す誠 の武士 の鑑 と仰 ぐ靖國 の神󠄀 の宮居 を拜 みて歸 りて停 る交又󠄂点 西 に東 に北南 往來 ふ街鉄東電 の 二社󠄁 の車 の行 ちがふ此處 須田町 の賑 しさ世 は昇平󠄁 の橋 を過 ぎ名所 の中 の名所 なる お茶 の水 をば左 に見 登 る坂道 ごろ/\と遠近人 に知 られたる神󠄀田明神󠄀 伏拜 み出 るは本郷󠄁 三丁目 砲兵工廠 目 のあたり最高學府 の大學 や第 一高等學校 も此處 より凡 五六町 呼 ばゞ答 へん計 なり- 四
丁目角 を右 に折 れ降 る坂道 右手 には太田道灌 勸請󠄁 の湯島天神󠄀 座鎭 あり 指呼 の間 に打 ち並 ぶ木立 は上野 の公園地 下 に蓮 の香 の薫 る不忍󠄁池 の廣々 と上野 の山 に來 て見 れば内外 の鳥 や獸 の悠々遊 ぶ動物園 都󠄀 の中 と思 はれず今 も昔 も一舘 に集 めつどへし博物舘 江戸 の開祖︀ の家康 を祀 る東照宮 もあり淸水堂 も見了 りて巨人西郷󠄁南洲 の立 てる傍 に立見 れば東京市街 は唯 一目 西町 過 ぎて小島町 近 きわたりの淸島 の町 に住 ひし長兵衛 が古 にし墓 は今 もあり榮久橋 を打渡 り舟 にはあらぬ黑舟 の町 の彼方 の山門 は音 に聞 えし觀世音 淺草寺 に參詣 し巡 る境内公園地 此處 も彼處 もすきまなく あな恐 しの人出 かな動物園 のそれのごと鳥 や獸 の數 かずを集 めし外 に操 りの人形 見 する花屋敷 數多珍奇 の物共 を選 り集 めし珍世界 玉乘 、芝居 、大神󠄀樂 客 呼 ぶ聲 の喧 しゝ凌雲閣 や水族舘 木馬 に我 も打乘 て廻 る五分 の物足 ず盡 ぬ興 こそ樂 しけれ- とゞろと
渡 る鉄橋 の上流 に見 ゆる白雲 は天下 に響 く隅田堤 花 の盛 りと問 はで知 る 嬉 の森 や枕橋 三圍神󠄀社󠄁 も程近 く待乳󠄁 の山 の古事 を いざ言問 の舟渡 し停 る土地 は外出町 傍 に陸軍被服廠 石原町 も早過 ぎて車庫 の前 にと着 にける大地 も轟 く音立 つ煙 を後 に頭上 をば馳 せ去 り行 きし魔物 こそ高架鉄道列車 なり龜澤町 や小泉町 松坂町 は元禄 の 十有 四年 十二月 雪降積 る眞夜中 に打 つや太皷 の山鹿流 スワや急 げと乘込 て主君 の仇 なる吉良 が首 舉 げたる四十七勇士 雪 は消󠄁 ても忠臣 の譽 は後 の今 もなほ傳 へ稱 へて香 しき名 は高輪 に殘 すなり新 になりし両國 の橋 の東 の回向院 年 に両度 の大角力 櫓太皷 の勇 ましき往來 の人 のいと多 く川瀨 を遡 る小蒸滊 の聲 に驚 く都󠄀鳥 昔 の歌 の偲 ばるゝ橋 より西 の廣小路 直 なる道 は柳原 古着 の店 は軒 つらね須田町 までも打續 く若又 此處 より左 せば隅田川邊 の濱町 や人形町 の水天宮 拜 み終 りて茅塲町 深川行 は乘換 て靈岸橋 に鹽町 を通 りて停 る川 の端 水 に橫 ふ虹 はそも東京 六 ッの大橋 の中 にも殊 に優 れたる長 さの橋 と言 からに虹 と見 ゆるも無理 ならず其永代 の橋 よりは越中島 も月島 も皆目 の前 に橫 はり立 る檣 かず知 れず福︀島橋 や黑江町 軈 て留 る龜住町 此處 ぞ終 の停留塲 いざ廻 り來 ん八幡宮 深川不動 も參拜 し横綱力士 の石碑 や結搆盡 しゝ高殿 も いと細密 に見了 りぬ- さればと
友 を促 して登 る小高 き丘 の上 休 ふ彼方 目 もはるか東京灣 の波淸 し 霞 こめたる安房 上総 往來 ふ白帆 引 く煙 漁 る船 は波 の間 に見 えつ隱 つ漂 へり近 く見 ゆるは砲臺 か裳 を圍 る海󠄀苔枝朶 は自 からなる裾模樣 實 に面白 の景色 かな- もと
來 し道 の茅塲町 坂本公園右 に見 て築地 通 れば尾張町 銀座通 の人 ざかり 數寄屋橋 なる本社󠄁前 華族 會舘 左 にと廻 れば又 も日比谷 にて轉 る車 は南 にと指 してぞ進 む愛宕町 木立 の中 を過 ゆきて薫 る若葉 の香 に醉 つ山門前 に停 りぬ此處 は名 に負 ふ增上寺 德川 二百餘年間 歸依 厚 かりし靈所 とて昔 の態 の今殘 る黄金白金 鏤 めし靈廟 は千歳 變 りなき松 の翠 の下 に古 り偉人 を忍󠄁 ぶ種 となる苔 むす道 を赴 りつゝ登 る丸山 目 の下 に芝園橋 や四國町 品川沖 に眞帆片帆 豆 より小 き漁舟 の波 に搖 らる彼方 には城 とも見 ゆる大船 の四邊 を拂 ふて浮 ぶあり入日 を負 ひし富士 の根 や夢 より淡 き房州 の山 の景色 の面白 く歸 期 忘 る眺 め哉