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長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ (1999年)

提供:Wikisource


 本日ここに、被爆五十四周年原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が執り行われるに当たり、原子爆弾により尊い命を奪われた数多くの方々の御霊に対し、謹んで哀悼の意を捧げます。そして、今なお原爆の後遺症に苦しんでおられる方々に対し、心からお見舞い申し上げます。また、原子爆弾で破壊された廃墟の中から立ち上がり、今日の「国際文化都市長崎」を見事に築かれました市民の皆様の御尽力に対し、心から敬意を表します。

 人類史上唯一の被爆国である我が国は、長崎、広島の悲劇を再び繰り返してはならないとの堅い決意の下、日本国憲法を守り、「非核三原則」を堅持するとともに、あらゆる機会を捉え、核兵器のない世界と恒久平和の実現を訴え続けてまいりました。

 一方で、冷戦終結後の国際社会においては、ユーゴスラビアのコソボ紛争にみられるように、民族問題や宗教問題などを背景とする地域紛争が後をたたず、また大量破壊兵器を新たに獲得しようとの動きが見られるなど、世界の安全保障環境は厳しく、核兵器廃絶への道のりは依然として険しい状況にあります。

 こうした中、昨年の十一月に、この長崎で開催された国連軍縮会議の場において「長崎を最後の被爆地に」との決議が全会一致で採択されたことは、誠に意義深いことであります。また、本年六月の主要国首脳会議(ケルン・サミット)では、「核不拡散・軍備管理及び軍縮の促進」が共同宣言に盛り込まれております。

 また、我が国政府の提唱により発足した「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」が先般報告書を取りまとめました。この中では、特に米ロに対し、新たな包括的核軍縮交渉の中で戦略核弾頭をまず千発まで削減すること、さらにその後、核兵器を保有する五ヶ国による核軍縮交渉を通じて「核廃絶の一歩手前」まで核を削減することなど、核廃絶への具体的道筋についての提言を、全世界に向けて行っております。東京フォーラムを共催された日本国際問題研究所、広島平和研究所の御尽力に対し、深く敬意を表します。日本国政府としましては、この提言を踏まえつつ、引き続き核不拡散体制を堅持・強化し、核兵器国の核軍縮の一層の進展により核のない世界を実現するため、今後とも積極的な役割を果たしてまいります。それが唯一の被爆国である我が国に課せられた使命であると考えます。

 また、被爆者の方々に対しましては、平成六年十二月に制定されました「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」に基づき、保健、医療、福祉にわたる総合的な被爆者援護施策の充実を図ってまいりました。今後とも高齢化の進行など被爆者の方々の実情を十分汲み取りながら、被爆者の方々に対する援護施策の推進に向けて誠心誠意努めてまいります。

 終わりに、原爆犠牲者の方々の御冥福と御遺族並びに被爆者の皆様の今後の御多幸を心からお祈りし、併せて、参列者並びに長崎市民の皆様の御健勝を祈念いたしまして、私のあいさつといたします。


平成十一年八月九日

内閣総理大臣 小渕恵三