長い髪によごれたリボンを結んであそぶ彼の女

提供: Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動

Wikisource:文学 < 『死刑宣告

本文[編集]

長い髪によごれたリボンを結んであそぶ彼の女
萩原恭次郎

長い髪によごれたリボンを結んであそんだ彼の女は
夜になると部屋にくらく座つたまゝ動かない
疲れた心臓の尖端をヂヨキヂヨキ鋏で切りはぢめる
————ウドンを買つて来て食べやう
————また心をはさみ切つてはいけない

昨日はアルコールにふくれた蛙が死んだよ
今日は偽瞞にみちた小さな脳髄の蛙が死んだよ
どつちもざまの悪い骸骨となつた
何もない胃をがりがり食ひ破る鼠も死んだ
————絶淵には
   白いペンギン鳥が糞だらけになつて死んでゐる

飢餓は歯をくろくよごしてゐる
私は葱を嚙んで晩飯にしても寝られる
煙突のやうに無愛想につゝ立つたまゝでも平気だ
私はすでに私のためには苦しまないが
ヂヨキ ヂヨキ ヂヨキ…………………………
そんな顔をしないで
疲労の頂点できりまはつてゐる心臓をねむらせろ
————ウドンを買つて来て食べやう
————夏ミカンを買つて来て食べやう

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。