路加傳福音書(明治元訳) 第十一章

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第十一章[編集]

1 イエスあるところにて祈禱いのりしけるにをはりしとき一人ひとり弟子でしいひけるはしゆよヨハネその弟子でしをしへごと我儕われらにもいのることををしへたまへ
2 イエスいひけるはいのときかくいふべしてんましま我儕われらちちねがはくは聖名みな尊崇あがめさせたま爾國みくにきたらせたま爾旨みこころてんなるごとくにもなさたま
3 我儕われら日用にちようかて毎日ひごとあたへたまへ
4 我儕われらつみをかものすべゆるせば我儕われらつみをもゆるたま我儕われら試探こころみあはせずあくよりすくひいだたま
5-6 また彼等かれらいひけるは爾曹なんぢらうちもしあるひと夜半よなかそのともゆきとも朋輩ともだちたびよりきたりしにそなふべきものなきゆゑみつのパンをかせよといはんに
7 うちをるものこたへわれわづらはすなかもはかどとぢわれととも兒曹こどもとこあれおきあたふることあたはずといふものあらん
8 われなんぢらにつげそのともなるによりおきあたへざれどもひたすらこふゆゑそのもとめしたがおきあたふべし
9 われなんぢらにつげもとめさらあたへられたづねさらばあひもんたたけさらひらかるることを
10 そはすべてもとむものたづぬるものはあひもんたたくものひらかるればなり
11 爾曹なんぢらのうちちちたるものたれそののパンをもとめんにいしあたへんやうをもとめんにそれかへへびあたへんや
12 たまごもとめんにさそりあたへんや
13 され爾曹なんぢらあしきものながらよきたまものをその兒曹こどもあたふることをしるましててんいま爾曹なんぢらちちもとむもの聖靈せいれいあたへざらん

14 イエス瘖唖おふしなる惡鬼あくきおひいだしけるに惡鬼あくきいでて瘖唖おふしものいひしかば人々ひとびとおどろけり
15 そのうちなるものいひけるはかれ惡鬼あくきかしらベルゼブルにより惡鬼あくきおひいだせるなり
16 またある人々ひとびとイエスをこころみんとててんよりの休徴しるしもとめたり
17 イエスそのこころしりいひけるはたがひわかれあらそくにほろたがひわかれあらそいへたふるるなり
18 もしサタンもみづかわかれあらそはばそのくにいかでたたんやそれ(※1)なんぢらわれいひてベルゼブルにより惡鬼あくきおひいだすとせり
19 もしわれベルゼブルにより惡鬼あくきおひいださば爾曹なんぢら子弟こどもたれより惡鬼あくきおひいだすやそれかれらは爾曹なんぢら裁判人さいばんにんなるべし
20 もしわれかみゆびをもて惡鬼あくきおひいだしたるならばかみくにもは爾曹なんぢらきたれり
21 つよきものよろひやしきまもるときはその所有もちもの安全あんぜんなり
22 もしこれよりつよきものきたりてそれかつときはそのたのみとせるよろひうばかつ贓物ぶんどりものわかつべし
23 われともならざるものわれそむわれともあつめざるものちらすなり

24 惡鬼あくきひとよりいでかわきたるところをめぐりやすきもとむれどもずしていひけるはわがいでいへかへらん
25 すできたりしにはききよまかざれるを
26 つひゆきおのれよりもあしななつ惡鬼あくきたづさいりここすまへそのひとのち患状ありさままへよりさらあしかるべし
27 このこといへるとき群集ぐんじふなかよりあるをんなこゑあげいひけるはなんぢはらみはらなんぢすひさいはひなり
28 イエスこたへけるはしかりされどかみことばききそれまもものさいはひにはしか

29 人々ひとびとおしあつまれるときイエスいひけるはいまあし奇跡しるしもとむるとも預言者よげんしや(※2)ヨナの奇跡しるしほか奇跡しるしあたへられじ
30 そはヨナがニネベのひと奇跡しるしなりごとひといま奇跡しるしなるべし
31 南方みなみ女王によわう審判さばきともたちいまひとつみさだめんかれはてよりソロモンの智慧ちゑきかんとてきたれりそれソロモンよりおほいなるものここにあり
32 ニネベのひと審判さばきともたちいまひとつみさだめん彼等かれらはヨナの勸言をしへよりくいあらためたりそれヨナよりおほいなるものここにあり
33 ともしびともしかくれたるところあるひはますしたにおくものなしいりきたものそのひかりため燭臺しよくだいうへおくなり
34 あかりなりなんぢあきらかならば全身ぜんしんあかるくそのあしければなんぢくら
35 ゆゑなんぢにあるひかりくらからぬやうつつしめよ
36 もしなんぢ全身ぜんしん光明あきらかにしてくらきところなくばともしびかがやきてなんぢてらごとまつた光明あきらかなるべし

37 イエスかたれるときあるパリサイのひとともしよくせんことねがひければいりしよくつけ
38 そのしよくするさきあらふことをざりしをてパリサイのひとあやしめり
39 しゆこれにいひけるは爾曹なんぢらパリサイのひとわんさらそときよくされ爾曹なんぢらうち貪欲どんよくあくにてみて
40 無知おろかなるものそとつくりものはまたうちをもつくらざりし
41 なんぢら所有もてるものほどこさら爾曹なんぢらためすべてものきよまれるなり
42 わざはひなるかななんぢらパリサイのひと薄荷はくか茴香ういきやうおよびすべて野菜やさいじふぶんいちとりをさめただしきかみあいすることをすつこれおこなふべきことなりかれまたすつべからざるものなり
43 わざはひなるかななんぢらパリサイのひと會堂くわいだう高座かうざ市上まち間安あいさつこのめり
44 わざはひなるかなそれ爾曹なんぢら隱沒かくれたるはかごとそのうへある人々ひとびとこれをしらざるなり
45 ある教法師けうはふしこたへていひけるはこのことば我儕われらをもはづかしむ
46 イエスいひけるは爾曹なんぢらわざはひなるかな教法師けうはふしたへがたきひとおはみづかゆびひとつをもそのつけ
47 わざはひなるかななんぢらは預言者よげんしや(※2)のはかたつなんぢらの先祖せんぞこれころせり
48 爾曹なんぢら先祖せんぞなせわざをこのむ證明あかしなせそれかれらはこれころ爾曹なんぢらそのはかたつ
49 このゆゑかみ智慧ちゑいへることありわれ預言者よげんしや(※2)および使徒しと彼等かれらつかはさんにそのうちあるものころあるものをばくるしむべしと
50 創世よのはじめより以來このかたながししすべて預言者よげんしや(※2)のこのおいたださんとするなり
51 すなはちアベルのより殿みや祭壇まつりだんあひだころされたるザカリヤのにまでいたるわれまこと爾曹なんぢらつげこれこのただすべし
52 なんぢらわざはひなるかな教法師けうはふし智識さとりかぎとりみづかいらかついらんとするものをもこばめ
53 このこといへるとき學者がくしやとパリサイの人々ひとびとふか憤恨いきどほりふくみ多端さまざまこととひかけ
54 そのくちよりいづことば何事なにごととらうつたへんとしてうかがひたり

※1 明治14(1881)年版では「それ」→「それ」。
※2 明治14(1881)年版では「預言者」のルビが「よげんじや」。