貴族院議員資格及選挙争訟判決規則 (明治23年勅令第221号)

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本文

朕、貴族院開会の始において資格及選挙に関る争訟を判決するの緊急に屬し、しかして時に及て自らその規則を定むるの困難なるを顧念し、ここに勅令により貴族院議員資格及び選挙争訟判決規則を公布せしむ。この勅令は貴族院において規則を制定して更に裁可を経るまでの間、効力を有すべし。

  御名御璽  

    明治二十三年十月十日

内閣総理大臣 伯爵山縣有朋  
内務大臣   伯爵西郷従道  
司法大臣   伯爵山田顕義  
大蔵大臣   伯爵松方正義  
陸軍大臣   伯爵大山 厳  
逓信大臣   伯爵後藤象二郞 
外務大臣   子爵青木周蔵  
海軍大臣   子爵樺山資紀  
文部大臣     芳川顕正  
農商務大臣    陸奧宗光  

勅令第二百二十一号

   貴族院議員資格及選挙争訟判決規則

第一条 貴族院は毎会期の始において貴族院議員の資格及選挙に関る争訟を審査するために常任委員を選挙すべし。
第二条 伯子男爵議員の各選挙人又は多額納税者議員の互選人、貴族院令第九条により出訴する者は、当選議員を被告とすべし。
第三条 原告人は訴状及びその副本一通を作り、これを議長に差出すべし。議長訴状を受取りたるときは、これを資格審査委員に付す。
第四条 訴状には請求の要領、理由及び立証を具え、原告人自ら署名すべし。
第五条 資格審査委員は訴状の副本を被告人に送達し期日を定め、被告人をして答弁書及びその副本一通を差出さしめ、その副本はこれを原告人に送達すべし。
 委員は必要と認むるときは、原告被告をして更に弁駁書及再答弁書を差出さしむることを得。
第六条 原告被告は郵便をもって文書を差出すことを得。郵便到達の日数は期限に参入せず。
第七条 資格審査委員は、議長を経由して、議員の選挙に関る証憑文書を政府に要求することを得。
第八条 審査の結果により刑法に触るゝの事件を発見したるときは、議長よりこれを司法大臣に通告すべし。ただし、これがために審査及び判決を中止せず。[1]
第九条 被告人期日内に答弁書を差出さざるときは、資格審査委員は直ちに審査の結果を報告することを得。
 天災事変により期日内に答弁書を差出すこと能わざりしことを証明する者あるときは、議長は更に期日を定め、これを差出さしむることと得。
第十条 資格審査委員その審査報告を議長に提出したるときは議長これを各議員に配布したる後、院議に付すべし。
第十一条 議院において判決したるときは、議長は書記官長をしてその議事録により議決の謄本を作らしめ、これを原告被告に送達すべし。
 議院の判決は、理由を付せず。[2]
第十二条 貴族院において議員の当選または資格を不法と判決したるときは、議長はその位列を停止して奏上すべし。
第十三条 被告議員は前条の判決を受くるまで、議院において位列及び発言の権を失わず。ただし、自己に関る争訟については自己又は他の議員に託し弁明することを得るも、その表決に預かることを得ず。
 被告議員は自己に関る争訟については、委員会に参ずることを得ず。
第十四条 第十四条 補欠議員の選挙開院中にあるときは、伯子男爵にあっては当選確定の後、多額納税者にあっては勅任せられたる後、十日をもって出訴の期限とす。
 前項の期限に満たずして議院閉会せられ出訴すること能わざるときは、なお次会期の開会後十日以内に出訴することを得。
第十五条 議員他の議員の資格に対し異議を申立つる者あるときは、第三条、第四条、第五条、第七条、第九条、第十条、第十一条、第十二条、第十三条の例により審査及判決すべし。ただしこの場合においては貴族院伯子男爵議員選挙規則第十八条、及貴族院多額納税者議員互選規則第二十六条に掲げたる期限の限にあらず。

注釈

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。

 
  1. ピゴットの意見参照。
  2. ピゴットの意見参照。後段は「議院の判決には委員会報告の全文を掲ぐべし」とした意見と異なる。