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自動車取締令

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◎内務省令第一號

自動車取締令左ノ通之ヲ定ム

大正八年一月十一日

内務大臣  床次竹二郎


自動車取締令

第一條 本令ニ於テ自動車ト稱スルハ原動機ヲ用ヰ軌條ニ依ラスシテ運轉スル車輛ヲ謂フ

第二條 自動車ノ通行スル道路、區域又ハ時閒ニ關スル制限ハ地方長官之ヲ定ム

第三條 自動車ノ最高速度ハ一時閒十六哩トス但シ地方長官ハ道路、區域、時閒又ハ自動車ノ種類ヲ指定シテ之ニ異ナル速度ヲ定ムルコトヲ得

第四條 自動車ハ左ノ各號ノ構造裝置ヲ具備スルコトヲ要ス

一 轍ハ護謨製ノモノタルヘキコト但シ貨車ニ在リテハ地方長官ノ定ムル所ニ依リ之ニ異ナルモノヲ用ウルコトヲ得
二 各獨立ニ作用スヘキ二箇以上ノ制動機ヲ備フヘキコト
三 變速機ヲ備ヘ且運轉手ノ睹易キ箇所ニ速度計ヲ備フヘキコト
四 蒸汽、瓦斯又ハ油其ノ他爆發性若ハ可燃性ノモノヲ容ルヘキ器、管及氣筒竝電氣裝置等ハ堅牢ニ惟リ漏洩又ハ危險ノ虞ナキモノタルヘキコト
五 運轉ニ際シ甚シキ騷響ヲ發シ又ハ有臭若ハ有害ノ瓦斯若ハ煤煙ヲ多量ニ發散セサル構造タルへキコト
六 車輛ノ總重量八百封度以上ノ自動車ハ短半徑ヲ似テ容易ニ方向ヲ轉シ及逆行シ得ヘキ裝置ヲ有スヘキコト
七 適當ナル音響器ヲ備フヘキコト
八 車輛ノ前面ニハ二箇以上、後面ニハ一箇以上ノ相當光力ヲ有スル燈火ヲ備へ後面燈火ハ運轉手ノ座席ヨリ消燈シ得サル樣裝置スヘキコト

第五條 營業用又ハ自家用ノ爲自動車ヲ使用セムトスル者ハ主タル使用地ノ地方長官ニ願出テ其ノ檢査ヲ受クヘシ

商品トシテ自動車ヲ所持スル者ハ自動車所在地ノ地方長官ノ檢査ヲ受クルコトヲ得

檢査ニ合格シタルトキハ檢査ノ證明ヲ爲シ車輛番號ヲ指示ス

檢査證明ノ爲檢査證ヲ交付セラレタルトキハ車體內部ニ之ヲ標元スヘシ

第六條 自動車ノ主タル使用地ヲ變更シタルトキハ遲滯ナク其ノ旨後ノ使用地ノ地方長官ニ屆出テ更ニ車輛番號ノ指示ヲ受クヘシ

檢査ニ合格シタル自動車ヲ讓受又ハ相續シタル者ハ其ノ旨主タル使用地〈商品トシテ讓受又ハ相續シタルモノニ在リテハ其ノ所在地〉ノ地方長官ニ屆出ツヘシ其ノ主タル使用地〈商品トシテ讓受又ハ相續シタルモノニ在リテハ其所在地〉檢査ヲ受ケタル地ト異ナルトキハ更ニ車輛番號ノ指示ヲ受クヘシ

第七條 自動車ノ構造裝置ニシテ左ノ各號ノ部分ヲ變更シタルトキハ更ニ地方長官ノ檢査ヲ受クヘシ

一 原動機
二 爆發性若ハ可燃性ノモノヲ容ルヘキ器、管
三 氣筒及曲柄
四 制動機、變速機及換向機
五 電氣裝置〈電路ヲ除ク〉
六 車臺
七 車體

第八條 檢査ニ合格シタル自動車ニ非サレハ使用スルコトヲ得ス但シ地方長官ノ定ムル所二依リ檢査又ハ試運轉若ハ運搬等ノ爲一時自動車ヲ使用スルハ此ノ限ニ在ラス

第九條 當該地方長官ハ定期又ハ臨時ニ自動車ノ檢査ヲ行ヒ必要ト認メタルトキハ使用ノ禁止ヲ命スルコトヲ得

二 前項ニ依リ使用ノ禁止ヲ命セラレタルトキハ檢査證ヲ返納シ其ノ他檢査證明ノ取消ヲ受クヘシ

第十條 營業用又ハ自家用ノ爲自動車ヲ使用スル者ハ其ノ構造裝置ニ付危害ヲ防止スル二必要ナル注意ヲ爲スヘシ

第十一條 營業用又ハ自家用ノ爲自動車ヲ使用スル者其ノ使用ヲ廢止シタルトキハ地方長官ニ屆出テ檢査證ヲ返納シ其ノ他檢査證明ノ取消ヲ受クヘシ

第十二條 自動車ニ依リ運輸ノ業ヲ營マムトスル者ニシテ一定ノ路線又ハ區閒ニ據ルモノハ營業地ノ地方長官其ノ他ノモノハ營業所所在地ノ地方長官ニ願出テ其ノ免許ヲ受クヘシ

第十三條 前條ノ規定ニ依ル營業ノ免許ハ地方長官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ讓受又ハ相續スルコトヲ得ス

第十四條 營業ヲ廢止シタルトキハ遲滯ナク地方長官ニ屆出ツヘシ但シ一定ノ路線又ハ區閒ニ據ルモノニ在リテハ廢止前營業地ノ地方長官ノ許可ヲ受クヘシ

第十五條 運轉手タラムトスル者ハ主タル就業地ノ地方長官ニ願出テ其ノ免許ヲ受クヘシ免許ヲ與ヘタルトキハ免許證ヲ交付ス

運轉手免許證ハ甲乙ノ二種トシ甲種免許證ヲ有スル運轉手ハ各種ノ自動車ヲ運轉スルコトヲ得乙種免許證ヲ有スル運轉手ハ特定又ハ特種ノ自動車ニ非サレハ之ヲ運轉スルコトヲ得ス

運轉手免許ノ有效期閒ハ五年トス

第十六條 運轉手ノ免許ハ試驗ニ合格シ左ノ各號ノ一ニ該當セサル者ニ之ヲ與フ

一 十八歲未滿ノ者
二 精神病者、聾者、啞者又ハ盲者
三 其ノ他地方長官ニ於テ不適當ト認ムル者
二 運轉手ノ試驗ハ地方長官ノ定ムル所ニ依リ自動車ノ構造、取締規則及實地ノ技能ニ關シ之ヲ行フ

第十七條 運轉手免許證ハ就業中之ヲ携帶スヘシ

第十八條 自動車檢査證又ハ運轉手免許證ヲ滅失又ハ毀損シタルトキハ其ノ再交付ヲ地方長官ニ願出ツヘシ

自動車ノ檢査證明ヲ毀損シタルトキハ地方長官ニ願出テ更ニ其ノ證明ヲ受クヘシ

第十九條 左ニ揭クル場合ニ於テハ運轉手ハ遲滯ナク免許證ヲ返納スヘシ

一 第二十七條ニ依リ免許ノ取消又ハ就業ヲ停止セラレタルトキ
二 免許ノ有效期閒ヲ經過シタルトキ

運轉手死亡シ又ハ行衞不明ト爲リタルトキハ其ノ雇主、戶主又ハ家族ニ於テ前項ノ手續ヲ爲スヘシ

第二十條 運轉手其ノ主タル就業地ヲ變更シタルトキハ五日內ニ免許證ノ寫ヲ添へ後ノ就業地ノ地方長官ニ屆出ツヘシ

第二十一條 前條ノ屆出ヲ受ケタル場含ニ於テ當該地方長官必要ト認ムルトキハ第十六條第二項ニ依リ試驗ヲ行フコトヲ得

前項ノ試驗ニ合格セサルトキハ其ノ道府縣內ニ於ケル就業ヲ停止スルコヲ得

第二十二條 運轉手ヲ雇入レタル者ハ五日內ニ免許證ノ寫ヲ添へ運轉手ノ氏名及住所ヲ地方長官ニ屆出ツヘシ

運轉手ヲ解雇シタル者ハ十日內ニ運轉手ノ氏名ヲ地方長官ニ屆出ツヘシ

第二十三條 車輛番號ハ車輛ノ前面及後面睹易キ箇所ニ標元スヘシ

後面車輛番號ハ夜閒三十閒ノ距離ニ於テ明瞭ニ認メ得ヘキ燈火ヲ以テ照射スヘシ

第二十四條 檢査證及車輛番號ハ他ノ車輛ニ使用スルコトヲ得ス

第二十五條 自動車ニ依リ人ヲ傷害シ又ハ物件ヲ損壞シタルトキハ運轉手ハ直ニ其ノ運轉ヲ停止スヘシ

前項ノ場合ニ於テ運轉手及其ノ他ノ從業員ハ被害者ノ救護其ノ他ニ付必要ナル應急ノ措置ヲ爲スヘシ但シ警察官吏在ルトキハ其ノ指示ニ從フヘシ

運轉手其ノ他ノ從業員ハ前項ノ措置ヲ了シ且各本人、雇主、自動車使用者ノ氏名、住所〈法人ニ在リテハ其ノ名稱、事務所所在地〉及車輛番號ヲ警察官吏ニ申吿シ、警察官吏在ラサルトキハ被害者若ハ其ノ同件者ニ同一事項ヲ通吿スルニ非サレハ自動車ノ運轉ヲ繼續スルコトヲ得ス

前項後段ノ規定ニ從ヒ自動車ノ運轉ヲ爲シタルトキハ運轉手其ノ他ノ從業員ハ遲滯ナク前各項ノ事實ヲ警察官吏ニ申吿スヘシ

乘用者ハ運轉手其ノ他ノ從業員カ前四項ノ措置ヲ爲スニ付之ヲ妨クルコトヲ得ス

第二十六條 地方長官ハ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ第十二條ノ規定ニ依ル營業免許ヲ取消シ又ハ營業ヲ停止スルコトヲ得

一 正當ノ事由ナクシテ許可ノ日ヨリ百二十日以內ニ營業ヲ開始セサルトキ
二 營業ヲ繼續スルニ適セスト認メタルトキ
三 公安上危害ヲ生スルノ虞アリト認メタルトキ
四 營業免許ノ條件ニ違反シタルトキ
五 本令又ハ本令ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキ

第二十七條 地方長官ハ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ運轉手ノ免許ヲ取消シ又ハ其ノ就業ヲ停止スルコトヲ得

一 自動車ニ依リ人ヲ傷害シ又ハ物件ヲ損壞シタルトキ
二 第十六條第一項第二號又ハ第三號ニ該當スルニ至リタルトキ
三 本令又ハ本令ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキ

第二十八條 第八條、第十二條、第十三條、第十五條第一項第二項、第二十五條ノ規定ニ違反シタル者、又ハ第九條第一項、第二十六條及第二十七條ニ基ク地方長官ノ處分ニ違反シタル者ハ三月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ百圓以下ノ罰金若ハ拘留又ハ科料ニ處ス

第二十九條 過失ニ因リ前條ノ罪ヲ犯シタル者ハ拘留又ハ科料ニ處ス

第三十條 故意又ハ過失ニ因リ第五條第四項、第六條、第七條、第丸條第二項、第十條、第十一條、第十四條、第十七條、第十九條、第二十條、第二十二條乃至第二十四條ノ規定又ハ第二條、第二十一條第二項ニ基ク地方長官ノ命令若ハ處分ニ違反シ又ハ第三條及第三條ニ基キテ地方長官ノ定メタル速度ヲ超過シテ自動車ヲ運轉シタル者ハ拘留又ハ科料ニ處ス地方長官ノ定メタル期日ニ自動車ノ檢査ヲ受クルコトヲ怠リタル者亦同シ

第三十一條 營業用又ハ自家用自動車ノ使用者ニシテ未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ本令又ハ本令ニ基キテ發スル命令ニ依リ之ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ其ノ法定代理人ニ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス

第三十二條 法人ノ代表者其ノ他ノ從業者法人ノ業務ニ關シ本令又ハ本令ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス

法人ヲ處罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被吿人トス

第三十三條 自動自轉車〈サイドカー附ノモノヲ除ク〉及オートペッドノ類ニ付テハ其ノ運轉者ニ封シ第三條、第二十五條及其ノ罰則ノ規定ヲ適用スルノ外本令ヲ適用セス

前項ノ外特種ノ自動車ニ付テハ地方長官ノ定ムル所二依リ第四條ノ規定ニ依ル構造裝置ノ一部ヲ省略スルコトヲ得

第三十四條 本令ニ定ムルモノノ外必要ナル事項ハ地方長官之ヲ定ム

第三十五條 本令ハ大正八年二月十五日ヨリ之ヲ施行ス

第三十六條 本令施行前ニ於テ自動車營業ノ免許ヲ受ケタル者ハ本令ニ依リ免許ヲ受ケタルモノト看做ス

本令施行前ニ於テ自動車ノ檢査又ハ運轉手ノ免許ヲ受ケタル者ハ本令施行後東京府ニ在リテハ六箇月內ニ、其ノ他ノ地方ニ在リテハ三箇月內ニ本令ニ依リ檢査又ハ免許ヲ受クヘシ

前項ニ依リ運轉手ノ免許ヲ願出テタル者ニ對シテハ地方長官ハ第十六條第二項ノ規定ニ依ル試驗ノ全部又ハ一部ヲ省略スルコトヲ得

第三十七條 東京府ニ在リテハ地方長官ノ職務ハ警視總監之ヲ行フ

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。