聖金口イオアン教訓下/第7講話

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第7講話[編集]

<<かみのぞむはいかなるちからゆうするか>>


かみのぞむのちからおほいなり。かれちかづくべからざる防禦ぼうぎょなり、おかすべからざる城壘しろなり、つべからざるたすけなり、平穏へいおんなるみなとなり、やぶるべからざる炮台ほうだいなり、ふせぐべからざる武器ぶきなり、たれざるちからなり、つうしがたき場所ばしょ中間ちゅうかん穿うがところみちなり、これもつ武器ぶきなきものそうせるものち、女子ぢょしだんち、どう戦術せんじゅつ老練ろうれんせるものよりつよくなるはいとたやすかりき。かれはすでにかちそうしゝなれば、てき征服せいふくせしはあにあやしむにらんや。かれまえには、すいせいわすれしごとく、かへつかれえきをなし、猛獣もうじゅう猛獣もうじゅうならず、火炉かろ火炉かろたらざりき、なんとなればかみのぞむはすべてを変改へんかいせしむればなり。えいなると、せまきくるしきごくと、天然てんねん兇猛きょうもうと、くるしき飢餓うえ又腭またあごとは言者げんしゃからだちかづきしもこれためなにがいあらざりき、かへつかみのぞむはいかなる勒轡くつわよりもつよく、あごひかえてかれ逡巡あとしざりせしめたりき。しょうしゃこれおもひ、安然あんぜんはしけてみづかすくひもとめんことをすゝむるものにつげてごとくいへり『たましいや、なにふか、しゅたのめよ』といへり。われなにをかいはん。われぜん世界せかい主宰しゅさいゆうしておのれじょしゃとなし、われはすべてをつね容易たやすものゆうして大将たいしょうとなし、また保護者ほごしゃとなす、しかるをなんぢわれにんつかはし、こうおい安全あんぜんもとめんことをすゝむるか。こうたすけはすべてをおほいにたやすくものよりまさるか。何故なにゆえなんぢさかんそうせるわれしひ逃走とうそうせしめんとすること、裸体はだかにして武器ぶきをもたざるものごとくし、追放者ついほうしゃとならんことをほつするか。軍勢ぐんぜいゆうし、城壘しろ武器ぶきとにてまもられたるもの逃走とうそうせむことをなんぢすゝめざるべし、もしこれをすゝむるならば、わらきのきはみならん、しかるを何故なにゆえなんぢぜん世界せかい主宰しゅさいみづかともにしたまものひ、漂白ひょうはくして罪人ざいにん攻撃こうげきのがれしめんとするか。さてみぎところほかわれ逃走とうそうすべからざるゆうをもゆうするなり。それたすくるものはかみにして攻撃こうげきするものは罪人ざいにんならば、臆病おくびょうなるとりならはんことをすゝむるものきはめてけいにあらずや。われたいしてそなふる軍勢ぐんぜい蛛網くものすよりもよわきをなんぢらざるか、けだしこのおうてき何処いづこかんも、いたところあやふきありて、おそかつおのゝくならば、ましてあらゆるものかみてき何処いづこかんも、ことごとかれてきたるべく、ぜんさへもてきたらんとするなり。けだしすい猛獣もうじゅうかみともおそれ、万物ばんぶつかれ尊敬そんけいするごとく、れい造物ぞうぶつといへどもかみてき叛逆者はんぎゃくしゃとにたいしてはそうして攻撃こうげきをなさんとす。