第2回帝国議会 衆議院本会議 (蛮勇演説)
速記録
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○國務大臣(子爵樺山資紀君) 國體ニ對シテドレ程······國權ヲ汚シタ事ガアルカサウ云フ今日事業ヲ見ズニシテ置イテ、徒ニ唯目前ノ事ヲ以テ一億二千万ヲ使用シタト云フハ(問題外ト呼ブ者アリ)本大臣ニ於テ意外千万ノ事デアルサウ云フ事ヲ以テ、今日海軍大臣ガ不信用ダト言ツテハ斯クテハ却テ事ノ事實ヲ損ヒ事ノ卽チ虛妄ノ事ヲ連ネテ海軍大臣ガ不信用デアルト云フノハ、自ラ不信用ヲ招クノ所以デハナイカ分のタ話デアルジヤラウ、ソコデサ今日此新事業ノ新事業二件ヲ削除セラレタト云フ如キハ此ノ如キノ事件ヨリ起レリ、此ノ如キ事由ニ依ッテ削除スルト云フコトナレバ、本大臣ニ於テ遺憾千萬デアル、此何囘ノ役ヲ經過シテ來タ海軍デアッテ、今迄此國權ヲ汚シ、海軍ノ名譽ヲ損ジタ事ガアルカ、却テ國權ヲ擴張シ海軍ノ名譽ヲ施シタ事ハ幾度カアルダラウ、四千万ノ人民モ其位ノ事ハ御記臆デアルダラウ、先日井上角五郞君ガ四千万ノ人民ハ八千万ノ眼ガアルト云フタ四千万ノ人民デ今日幾分カ不具ノ人ガアルト見テモ千万人ノ眼ハアルダラウ、其眼ヲ以テ見タナレバ、今日海軍ヲ今ノ如キ事ニ見テ居ル人ガアルデアラウカ(アル〱ト呼ブ者アリ)此ノ如ク今日此海軍ツミナラズ、卽チ現政府デアル現政府ハ此ノ如ク內外國家多難ノ艱難ヲ切拔ケテ、今日迄來タ政府デアル、薩長政府トカ何政府トカ言ッテモ今日國ノ此安寧ヲ保チ四千万ノ生靈ニ關係セズ、安全ヲ保クタト云フコトハ誰ノ功力デアル(笑聲起ル)甚タ···御笑ニ成ル樣ノ事デハゴザイマスマイドレ程殪レ且ツ廢疾ニ成リ、實ニ泉下ニ對シテ我輩死ンダ時ニハ面目ガナイ、夫ニ依ッテ今ノ卽チ此軍艦製造費、此製鋼所設立ノ件ニ就イテ、此ノ如キ理由ヨリ削除シタト云フ事ナレバ本大臣ニ於テ決シテ······不滿足ニ考ヘル他ニ理由ガアレバ宜シイ、能ク御分リニナリマシタラウ
○議長(中島信行君) 海軍大臣ニ一寸申シマスガ
○海軍大臣(子爵樺山資紀君) 趣意ノ起ル所ヲ唯今申シタノデアル
○議長(中島信行君) 海軍大臣ニ申シマス
- 〔此時議長號鈴ヲ鳴ラス〕
○海軍大臣(樺山資紀君) 諸君ヨ、諸君ヨ
- 〔此時議長號鈴ヲ鳴ラス〕
- 〔議長ノ命令ニ從ハヌカト呼ブ者アリ〕
- 〔無禮千万ト呼ブ者アリ〕
- 〔海軍大臣ニ退場ヲ命セヨト呼ブ者アリ〕
- 〔帝國議會ヲ何ト思フト呼ブ者アリ〕
- 〔退場セヨト呼ブ者アリ議場喧騒ス〕
- 〔議長又號鈴ヲ鳴ラス〕
- 〔海軍大臣演壇ヲ降ル〕
○議長(中島信行君) 靜上
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現代表記
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○国務大臣(子爵樺山資紀君) 国体に対して、どれほど……国権を汚したことがあるか。
そういうこんにち事業を見ずにしておいて、いたずらにただ目前の事を以って1億2000万を使用したと言うは(問題外と呼ぶ者あり)、本大臣において意外千万のことである。そういう事を以って、こんにち海軍大臣が不信用だと言っては、かくては却って事の事実を損ない、事のすなわち虚妄の事を連ねて、海軍大臣が不信用であると言うのは、自ら不信用を招くの所以ではないのか。分かった話であるじゃろう。そこでさこんにちこの新事業の新事業2件を削除せられたという如きは、かくの如きの事件より起これり、かくの如き事由によって削除するということなれば、本大臣において遺憾千万である。
この何回の役を経過して来た海軍であって、今までこの国権を汚し、海軍の名誉を損じた事があるか。却って国権を拡張し海軍の名誉を施した事は幾度かあるだろう。4000万の人民もそのくらいの事はご記憶であるだろう。先日井上角五郎君が4000万の人民は8000万の目があると言うた。4000万の人民でこんにち幾分か不具の人があると見ても、1000万人の目はあるだろう。その目を以って見たなれば、こんにち海軍を今の如き事に見ている人があるであろうか(あるあると呼ぶ者あり)。
かくの如くこんにちこの海軍のみならず、すなわち現政府である。現政府はかくの如く内外国家多難の艱難を切り抜けて、こんにちまで来た政府である。薩長政府とか何政府とか言ってもこんにち国のこの安寧を保ち、4000万の生霊に関係せず、安全を保ったということは、誰の功力である(笑声起る)。甚だ……お笑いになるようの事ではございますまい。どれほど倒れかつ廃疾になり、実に泉下に対して我輩死んだ時には面目がない。それによって今のすなわちこの軍艦製造費、この製鋼所設立の件について、かくの如き理由より削除したという事なれば、本大臣において決して……不満足に考える。他に理由があればよろしい。よくお分かりになりましたろう。
○議長(中島信行君) 海軍大臣にちょっと申しますが。
○海軍大臣(子爵樺山資紀君) 趣意の起こるところをただいま申したのである。
○議長(中島信行君) 海軍大臣に申します。
- 〔この時議長号鈴を鳴らす〕
○海軍大臣(樺山資紀君) 諸君よ、諸君よ。
- 〔この時議長号鈴を鳴らす〕
- 〔議長の命令に従わぬかと呼ぶ者あり〕
- 〔無礼千万と呼ぶ者あり〕
- 〔海軍大臣に退場を命ぜよと呼ぶ者あり〕
- 〔帝国議会をなんと思うと呼ぶ者あり〕
- 〔退場せよと呼ぶ者あり議場喧騒す〕
- 〔議長また号鈴を鳴らす〕
- 〔海軍大臣演壇を降りる〕
○議長(中島信行君) 静かに。
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この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。
