秋 (萩原恭次郎)

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Wikisource:文学 < 『死刑宣告

本文[編集]

萩原恭次郎

昨日出獄したSは
「自画像が煙草をふかしてゐる」
自画像は三畳の部屋でポンプのやうに仕事をする!
笑ひは冷い!
夏の日は過ぎて行つた!
誰もみな痩せた顔が日焼けして
ナイフでけづられたやうだ!
何もかも過ぎてゆく!
海を越へた友人からは
便りがない!
忘られゆく僅かなる我等の中へ
君は帰つて来た!
飲み忘れたウヰスキーのやうに——
あゝ 秋は胸の中へ泌みてゆく!
どことなく自嘲の声が泌みてゆく!
真赤に咲いた秋の花のやうに————
我等の胸底は真黄色に砕けゆく————

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。