祈禱はマツチの棒一本で足りる

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本文[編集]

祈禱はマツチの棒一本で足りる
主人・妻・子供・蒼ざめる勿れ!
萩原恭次郎

不眠症で不妊症の
四角なコンクリートの腕は伸びる!伸びる!
摑む———————夜
 恋人の肉体は廻転木馬である!
 空中に舞って————ピシヤンコに砕ける!
手 足 胴 首
猿●●●●●●●ココアを飲む
螺旋階段
頂上に上るため私は女の腕を握つて進む!
フヒイーユツ!
ラン!

高利貸の眼に
さすがに あばら骨に肉はついてゐるだらう!
疥癬かきて梅毒病みの紙幣を100000枚と借りはしない!
赤い艦尾にずられた彼の女の腹に子供はゐる!
青貝●●●●●私の眼球はペスト菌だ!
網ですくい取つて消毒しろ!
鯡は泳ぐ——————錨を下して呉れ!
内部はすつかり疲れてゐる————休みたいものだ!
脱腸!
金は支払はれない!
レールの上に爪づいて倒れてゐる生活である!

変化! 廻転
花を造る! 咲かせる! 幕を下す! 摑首!
爆発! 瓦斯タンク! 彼の女は死ぬのを待つてゐた!
直線と直角と円は彼の女を製造しはしない!
彼の女がメリケン袋になつてくれるなら
子供はまる肥え育つだらうに
木乃伊には笑みもない!
我々の腹から自動車を走り出させた奴!
ハンマーを脳天にぶち込むぞ!
待つものは明日である!
明日は餓死と絞首台と盲目の群集である!

孤独と暴露と突撃に脳髄はしびれ
彼の女は眠る!
永遠の夢に!
俺の眼はねむれない! 何時までも————
俺は俺以外のものを何一つもたない!
燃えて燃えて燃えて 燃え限らない炭鉱がつづくのだ!
限りなく地底を燃えてゆく!

空は果てしなく 限りない視野だ!
——煙りは何時この美しい空を復讐で黒こげにするか?

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。