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  • )と見詰めた江口の眼に露が宿った。浅海は残酷な狂言を見ているよりもそれを見て女らしい同情をしている自分の遊女を見ている方がよかった。 「おい蜜柑(みかん)をくれ」 江口は黙ったまま薄皮まで綺麗に取っては一袋ずつ浅海の手に渡した。そうして時々自分も口の中に入れた。そんなことをしながら矢張り舞台に気を取られていた。…
    45キロバイト (9,267 語) - 2021年8月31日 (火) 22:43
  • ただよへる 新開町(しんかいまち)の春の静けさ 春の街(まち) 見よげに書ける女名(をんなな)の 門札(かどふだ)などを読みありくかな そことなく 蜜柑(みかん)の皮の焼くるごときにほひ残りて 夕(ゆふべ)となりぬ にぎはしき若き女の集会(あつまり)の こゑ聴(き)き倦(う)みて さびしくなりたり 何処(どこ)やらに…
    67キロバイト (13,278 語) - 2022年4月5日 (火) 21:39
  •  向うの机を占領している学生が二人、西洋菓子を食いながら、団子坂(だんござか)の菊人形の収入について大(おおい)に論じている。左に蜜柑(みかん)をむきながら、その汁(しる)を牛乳の中へたらしている書生がある。一房(ひとふさ)絞(しぼ)っては、文芸倶楽部(ぶんげいくらぶ)の芸者の写真を一枚…
    323キロバイト (60,728 語) - 2023年10月17日 (火) 13:52
  •  東京の町中の四季を語っているような水菓子屋の店頭(みせさき)には、冬を越した林檎(りんご)や、黄に熟した蜜柑(みかん)、香橙(オレンジ)などの貯えたのが置並べてあった。二月末のことで、町々の空気は薄暗い。長いこと東京に居なかった山本さんは、新式な店の飾り窓の前な…
    40キロバイト (8,155 語) - 2023年1月24日 (火) 19:17
  • 行った。種夫の為に新宿の通りで吸入器を買って、それを家内が提げて帰ったが、丁度菓物(くだもの)の変りめに成る頃で、医者の細君のところからは夏蜜柑(みかん)を二つばかりお菊にくれてよこした。  私の家では、飯を出す客などがあって、混雑した日のことであった。夕方に、お菊は悪い顔をして、遊び友達の方から…
    84キロバイト (17,404 語) - 2022年4月24日 (日) 06:43
  • ようなものである。三四郎は人がいいから、気の毒でならない。「どうもありがとう」と言って寝ている。よし子は風呂敷包(ふろしきづつ)みの中から、蜜柑(みかん)の籠(かご)を出した。 「美禰子さんの御注意があったから買ってきました」と正直な事を言う。どっちのお見舞(みやげ)だかわからない。三四郎はよし子に対して礼を述べておいた。…
    534キロバイト (98,327 語) - 2023年10月17日 (火) 13:35
  • と、いつの間にか山と山の間に割り込んで、幾度(いくたび)も上(あが)ったり下(さが)ったりした。その山の多くは隙間(すきま)なく植付けられた蜜柑(みかん)の色で、暖かい南国の秋を、美くしい空の下に累々(るいるい)と点綴(てんてつ)していた。 「あいつは旨(うま)そうだね」…
    1.06メガバイト (208,097 語) - 2023年10月17日 (火) 13:45
  • みかぶ)の熊笹(くまざさ)が岩の角を彩(いろ)どる、向うに枸杞(くこ)とも見える生垣(いけがき)があって、外は浜から、岡へ上る岨道(そばみち)か時々人声が聞える。往来の向うはだらだらと南下(みなみさ)がりに蜜柑(みかん
    315キロバイト (58,693 語) - 2023年10月17日 (火) 13:49
  • 「そう」と甲野さんは、左の手で顎(あご)を支(ささ)えながら、右に持ったコフィー茶碗を鼻の先に据(す)えたままぼんやり向うを見ている。 「蜜柑(みかん)が食いたい」と宗近君が云う。甲野さんは黙っている。やがて 「あの女は嫁にでも行くんだろうか」と毫(ごう)も心配にならない気色(けしき)で云う。…
    711キロバイト (133,899 語) - 2023年10月17日 (火) 13:49
  • かん)をつまんで主人の方を見ると、主人も迷亭の食(く)い気(け)が伝染して自(おの)ずから菓子皿の方へ手が出る。世の中では万事積極的のものが人から真似らるる権利を有している。 「株などはどうでも構わんが、僕は曾呂崎(そろさき)に一度でいいから電車
    1.06メガバイト (208,385 語) - 2022年11月4日 (金) 04:57
  • たよりは死んだ時か病気の時か、何か事の起った時にやりさえすればいい訳だ。  庭は十坪(とつぼ)ほどの平庭で、これという植木もない。ただ一本の蜜柑(みかん)があって、塀(へい)のそとから、目標(めじるし)になるほど高い。おれはうちへ帰ると、いつでもこの蜜柑を眺める。東京を出た事のないものには蜜柑の生…
    318キロバイト (59,334 語) - 2023年10月17日 (火) 13:42
  • た。そこは長火鉢(ながひばち)なぞの置いてある下座敷で、二階にある岸本の書斎の丁度直(す)ぐ階下(した)に当っていた。節子は仏壇のところから蜜柑(みかん)を二つ取出して来て、一つを繁の手に握らせ、もう一つの黄色いやつを針医の娘の前へ持って行った。 「へえ、あなたにも一つ」…
    1メガバイト (204,909 語) - 2019年9月29日 (日) 05:14
  • な明快さで打ち樹(た)てられている。(原文八行欠) ある日彼阿暮近い銀座の雑沓(ざっとう)のなかをあるいていた。道路の片隅に老婆がひとり、蜜柑箱(みかんばこ)様の箱をおき、その上の台に三銭五銭の玩具(おもちゃ)を並べて売っていた。八ツ口に手を入れ空(から)っ風のなかにふるえていたが、時々おもいだし…
    116キロバイト (23,537 語) - 2021年8月31日 (火) 22:35
  • 聞いているだけだった。絶え間なく病棟から流れて来る雑音が、彼女らの声と入り乱れて、団塊になると、頭の上をくるくる廻った。その時ふと彼は故郷の蜜柑(みかん)の木を思い出した。笠のように枝を厚ぼったく繁らせたその下でよく昼寝をしたことがあったが、その時の印象が、今こうして眼を閉じて物音を聞いている気持…
    72キロバイト (14,580 語) - 2023年10月17日 (火) 13:33