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| notes = 『拾遺和歌集』(しゅういわかしゅう)は、[[古今和歌集|古今]]・[[後撰和歌集|後撰]]に次ぐ第三番目の勅撰和歌集で、いわゆる「三代集」の最後にあたる。一条天皇の代、寛弘三年(1006)頃の成立か。古来、花山院の親撰もしくは院が藤原長能・源道済に撰進させたといわれてきたが、確証はない。「拾遺」の名は前代の勅撰集に漏れた秀歌を拾い集める意で、その名の通り、この集では[[作者:紀貫之|紀貫之]](107首)をはじめとする古今歌人が引き続き多数入集する一方、柿本人麿(104首)ら万葉歌人が再評価され、[[作者:大中臣能宣|大中臣能宣]](59首)・[[作者:清原元輔|清原元輔]](48首)・平兼盛(39首)ら後撰集時代の歌人の作が新たに補われた。また、斎宮女御・藤原道綱母・[[作者:藤原公任|藤原公任]]などの当代歌人も登場する。{{wikipediaref|拾遺和歌集}}
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巻十九:雑恋
巻十九:雑恋

2018年1月27日 (土) 02:11時点における版

巻十九:雑恋


01210

[詞書]題しらす

柿本人麿

をとめこか袖ふる山のみつかきのひさしきよより思ひそめてき

をとめこか-そてふるやまの-みつかきの-ひさしきよより-おもひそめてき


01211

[詞書]いなりにまうてあひて侍りける女の、ものいひかけ侍りけれと、いらへもし侍らさりけれは

平定文

いなり山社のかすを人とははつれなき人をみつとこたへむ

いなりやま-やしろのかすを-ひととはは-つれなきひとを-みつとこたへむ


01212

[詞書]題しらす

柿本人麿

みしま江の玉江のあしをしめしよりおのかとそ思ふいまたからねと

みしまえの-たまえのあしを-しめしより-おのかとそおもふ-いまたからねと


01213

[詞書]題しらす

大中臣能宣

あたなりとあたにはいかかさたむらん人の心を人はしるやは

あたなりと-あたにはいかか-さたむらむ-ひとのこころを-ひとはしるやは


01214

[詞書]題しらす

よみ人しらす

すくろくのいちはにたてるひとつまのあはてやみなん物にやはあらぬ

すくろくの-いちはにたてる-ひとつまの-あはてやみなむ-ものにやはあらぬ


01215

[詞書]題しらす

よみ人しらす

ぬれきぬをいかかきさらん世の人はあめのしたにしすまんかきりは

ぬれきぬを-いかかきさらむ-よのひとは-あめのしたにし-すまむかきりは


01216

[詞書]なかされ侍りける時

贈太政大臣

あめのしたのかるる人のなけれはやきてしぬれきぬひるよしもなき

あめのした-のかるるひとの-なけれはや-きてしぬれきぬ-ひるよしもなし


01217

[詞書]題しらす

よみ人しらす

いつくとも所定めぬ白雲のかからぬ山はあらしとそ思ふ

いつくとも-ところさためぬ-しらくもの-かからぬやまは-あらしとそおもふ


01218

[詞書]題しらす

よみ人しらす

白雲のかかるそら事する人を山のふもとによせてけるかな

しらくもの-かかるそらこと-するひとを-やまのふもとに-よせてけるかな


01219

[詞書]題しらす

よみ人しらす

いつしかもつくまのまつりはやせなんつれなき人のなへのかす見む

いつしかも-つくまのまつり-はやせなむ-つれなきひとの-なへのかすみむ


01220

[詞書]また少将に侍りける時、うねへまちのまへをまかりわたりけるに、あすかのうねへなかめいたして侍りけるにつかはしける

小野宮太政大臣

人しれぬ人まちかほに見ゆめるはたかたのめたるこよひなるらん

ひとしれぬ-ひとまちかほに-みゆめるは-たかたのめたる-こよひなるらむ


01221

[詞書]返し

明日香采女

池水のそこにあらてはねぬなはのくる人もなしまつ人もなし

いけみつの-そこにあらては-ねぬなはの-くるひともなし-まつひともなし


01222

[詞書]中納言敦忠、兵街佐に侍りける時に、しのひていひちきりて侍りけることのよにきこえ侍りにけれは

右近

人しれすたのめし事は柏木のもりやしにけむ世にふりにけり

ひとしれす-たのめしことは-かしはきの-もりやしにけむ-よにふりにけり


01223

[詞書]やむことなき所にさふらひける女のもとに、秋ころしのひてまからむと、をとこのいひけれは

よみ人しらす

秋はきの花もうゑおかぬやとなれはしかたちよらむ所たになし

あきはきの-はなもうゑおかぬ-やとなれは-しかたちよらむ-ところたになし


01224

[詞書]題しらす

よみ人しらす

こゆるきのいそきてきつるかひもなくまたこそたてれおきつしらなみ

こゆるきの-いそきてきつる-かひもなく-またこそたてれ-おきつしらなみ


01225

[詞書]人のめし侍りけるをとこのひとやに侍りて、めのとのもとにつかはしける

よみ人しらす

しのひつつよるこそきしか唐衣ひとや見むとはおもはさりしを

しのひつつ-よるこそきしか-からころも-ひとやみむとは-おもはさりしを


01226

[詞書]さたもりかすみ侍りける女に、くにもちかしのひてかよひ侍りけるほとに、さたもりまうてきけれは、まとひてぬりこめにかくして、うしろのとよりにかし侍りけるつとめて、いひつかはしける

くにもち

宮つくるひたのたくみのてをのおとほとほとしかるめをも見しかな

みやつくる-ひたのたくみの-てをのおと-ほとほとしかる-めをもみしかな


01227

[詞書]をとこもちたる女を、せちにけさうし侍りて、あるをとこのつかはしける

よみ人しらす

有りとてもいく世かはふるからくにのとらふすのへに身をもなけてん

ありとても-いくよかはふる-からくにの-とらふすのへに-みをもなけてむ


01228

[詞書]しかの山こえにて、女の山の井にてあらひむすひてのむを見て

つらゆき

むすふ手のしつくににこる山の井のあかても人に別れぬるかな

むすふての-しつくににこる-やまのゐの-あかてもひとに-わかれぬるかな


01229

[詞書]三条の尚侍、方たかへにわたりてかへるあしたに、しつくににこるはかりのうた今はえよましと侍りけれは、くるまにのらんとしけるほとに

つらゆき

家なからわかるる時は山の井のにこりしよりもわひしかりけり

いへなから-わかるるときは-やまのゐの-にこりしよりも-わひしかりけり


01230

[詞書]題しらす

よみ人しらす

はしたかのとかへる山のしひしはのはかへはすともきみはかへせし

はしたかの-とかへるやまの-しひしはの-はかへはすとも-きみはかへせし


01231

[詞書]ひさしうまうてこさりけるをとこのたまさかにきたりけれは、女のとみにもいてさりけれは

よみ人しらす

あやまちのあるかなきかをしらぬ身はいとふににたる心ちこそすれ

あやまちの-あるかなきかを-しらぬみは-いとふににたる-ここちこそすれ


01232

[詞書]題しらす

よみ人しらす

ゆく水のあわならはこそきえかへり人のふちせを流れても見め

ゆくみつの-あわならはこそ-きえかへり-ひとのふちせを-なかれてもみめ


01233

[詞書]題しらす

よみ人しらす

ともかくもいひはなたれよ池水のふかさあささをたれかしるへき

ともかくも-いひはなたれよ-いけみつの-ふかさあささを-たれかしるへき


01234

[詞書]題しらす

在原業平朝臣

そめ河をわたらん人のいかてかは色になるてふ事のなからん

そめかはを-わたらむひとの-いかてかは-いろになるてふ-ことのなからむ


01235

[詞書]賀茂臨時祭の使にたちてのあしたに、かさしの花にさして左大臣の北の方のもとにいひつかはしける

兵衛

ちはやふるかもの河辺のふちなみはかけてわするる時のなきかな

ちはやふる-かものかはへの-ふちなみは-かけてわするる-ときのなきかな


01236

[詞書]題しらす

よみ人しらす

世の中はいかかはせまししけ山のあをはのすきのしるしたになし

よのなかは-いかかはせまし-しけやまの-あをはのすきの-しるしたになし


01237

[詞書]題しらす

よみ人しらす

むもれ木は中むしはむといふめれはくめちのはしは心してゆけ

うもれきは-なかむしはむと-いふめれは-くめちのはしは-こころしてゆけ


01238

[詞書]題しらす

よみ人しらす

世の中はいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ

よのなかは-いさともいさや-かせのおとは-あきにあきそふ-ここちこそすれ


01239

[詞書]いはみに侍りける女のまうてきたりけるに

人まろ

いはみなるたかまの山のこのまよりわかふるそてをいも見けんかも

いはみなる-たかまのやまの-このまより-わかふるそてを-いもみけむかも


01240

[詞書]いつみのくにに侍りけるほとに、忠房朝臣やまとよりおくれる返し

つらゆき

おきつ浪たかしのはまのはま松のなにこそきみをまちわたりつれ

おきつなみ-たかしのはまの-はままつの-なにこそきみを-まちわたりつれ


01241

[詞書]神いたくなり侍りけるあしたに、せんえうてんの女御のもとにつかはしける

天暦御製

君をのみ思ひやりつつ神よりも心のそらになりしよひかな

きみをのみ-おもひやりつつ-かみよりも-こころのそらに-なりしよひかな


01242

[詞書]こしなる人の許につかはしける

つらゆき

思ひやるこしのしら山しらねともひと夜も夢にこえぬ日そなき

おもひやる-こしのしらやま-しらねとも-ひとよもゆめに-こえぬひそなき


01243

[詞書]題しらす

人まろ

山しなのこはたの里に馬はあれとかちよりそくる君を思へは

やましなの-こはたのさとに-うまはあれと-かちよりそくる-きみをおもへは


01244

[詞書]題しらす

人まろ

春日山雲井かくれてとほけれと家はおもはす君をこそおもへ

かすかやま-くもゐかくれて-とほけれと-いへはおもはす-きみをこそおもへ


01245

[詞書]物へまかりけるみちに、はまつらにかひの侍りけるを見て

坂上郎女

わかせこをこふるもくるしいとまあらはひろひてゆかむ恋忘かひ

わかせこを-こふるもくるし-いとまあらは-ひろひてゆかむ-こひわすれかひ


01246

[詞書]人のくにへまかりけるに、あまのしほたれ侍りけるを見て

恵慶法師

旧里をこふるたもともかわかぬに又しほたるるあまも有りけり

ふるさとを-こふるたもとも-かわかぬに-またしほたるる-あまもありけり


01247

[詞書]仁和御屏風に、あましほたるる所につるなく

大中臣頼基

しほたるる身は我とのみ思へともよそなるたつもねをそなくなる

しほたるる-みはわれのみと-おもへとも-よそなるたつも-ねをそなくなる


01248

[詞書]まうてくる事かたく侍りけるをとこの、たのめわたりけれは

よみ人しらす

つれつれと思へはうきにおふるあしのはかなき世をはいかかたのまむ

つれつれと-おもへはうきに-おふるあしの-はかなきよをは-いかかたのまむ


01249

[詞書]うきしま

したかふ

定なき人の心にくらふれはたたうきしまは名のみなりけり

さためなき-ひとのこころに-くらふれは-たたうきしまは-なのみなりけり


01250

[詞書]中中ひとりあらはなと女のいひ侍りけれは

もとすけ

ひとりのみ年へけるにもおとらしをかすならぬ身のあるはあるかは

ひとりのみ-としへけるにも-おとらしを-かすならぬみの-あるはあるかは


01251

[詞書]題しらす

よみ人しらす

風はやみ峯のくすはのともすれはあやかりやすき人のこころか

かせはやみ-みねのくすはの-ともすれは-あやかりやすき-ひとのこころか


01252

[詞書]紀郎女におくり侍りける

中納言家持

久方のあめのふるひをたたひとり山へにをれはむもれたりけり

ひさかたの-あめのふるひを-たたひとり-やまへにをれは-うもれたりけり


01253

[詞書]をとこのまかりたえたりける女のもとに、雨ふる日見なれて侍りけるすさの、かけのむまもとめにとてなんまうてきつるといひ侍りけれは

よみ人しらす

雨ふりて庭にたまれるにこり水たかすまはかはかけの見ゆへき

あめふりて-にはにたまれる-にこりみつ-たかすまはかは-かけのみゆへき


01254

[詞書]をとこのまかりたえたりける女のもとに、雨ふる日見なれて侍りけるすさの、かけのむまもとめにとてなんまうてきつるといひ侍りけれは

よみ人しらす

世とともに雨ふるやとの庭たつみすまぬに影は見ゆるものかは

よとともに-あめふるやとの-にはたつみ-すまぬにかけは-みゆるものかは


01255

[詞書]日蝕の時、太皇太后宮より一品のみこのもとにつかはしける

太皇太后宮

あふ事のかくてやつひにやみの夜の思ひもいてぬ人のためには

あふことの-かくてやつひに-やみのよの-おもひもいてぬ-ひとのためには


01256

[詞書]題しらす

人まろ

いはしろの野中にたてるむすひ松心もとけす昔おもへは

いはしろの-のなかにたてる-むすひまつ-こころもとけす-むかしおもへは


01257

[詞書]女の許に菊ををりてつかはしける

よみ人しらす

けふかともあすともしらぬ白菊のしらすいく世をふへきわか身そ

けふかとも-あすともしらぬ-しらきくの-しらすいくよを-ふへきわかみそ


01258

[詞書]忠君宰相まさのふかむすめにまかりかよひて、ほとなくてうとともをはこひかへし侍りけれは、ちむのまくらをそへて侍りけるを、返しおこせたりけれは

まさのふ

涙河水まされはやしきたへの枕のうきてとまらさるらん

なみたかは-みつまされはや-しきたへの-まくらのうきて-とまらさるらむ


01259

[詞書]延喜御時、按察のみやす所ひさしくかむしにて、御めのとにつけてまゐらせける

按察のみやす所

世の中を常なき物とききしかとつらきことこそひさしかりけれ

よのなかを-つねなきものと-ききしかと-つらきことこそ-ひさしかりけれ


01260

[詞書]御返し

延喜御製

つらきをはつねなき物と思ひつつひさしき事をたのみやはせぬ

つらきをは-つねなきものと-おもひつつ-ひさしきことを-たのみやはせぬ


01261

[詞書]題しらす

伊勢

我こそはにくくもあらめわかやとの花見にたにも君かきまさぬ

われこそは-にくくもあらめ-わかやとの-はなみにたにも-きみかきまさぬ


01262

[詞書]つつむこと侍りける女の返事をせすのみ侍りけれは、一条摂政いはみかたといひつかはしたりけれは

よみ人しらす

いはみかたなにかはつらきつらからは怨みかてらにきても見よかし

いはみかた-なにかはつらき-つらからは-うらみかてらに-きてもみよかし


01263

[詞書]一条摂政下らふに侍りける時、承香殿女御に侍りける女にしのひて物いひ侍りけるに、さらになとひそといひて侍りけれは、ちきりし事ありしかはなといひつかはしたりけれは

本院侍従

それならぬ事もありしをわすれねといひしはかりをみみにとめけん

それならぬ-こともありしを-わすれねと-いひしはかりを-みみにとめけむ


01264

[詞書]題しらす

よみ人しらす

みかりするこまのつまつくあをつつら君こそ我はほたしなりけれ

みかりする-こまのつまつく-あをつつら-きみこそわれは-ほたしなりけれ


01265

[詞書]題しらす

よみ人しらす

君見れはむすふの神そうらめしきつれなき人をなにつくりけん

きみみれは-むすふのかみそ-うらめしき-つれなきひとを-なにつくりけむ


01266

[詞書]延喜御時中宮屏風に

つらゆき

いつれをかしるしとおもはむみわの山有りとしあるはすきにそありける

いつれをか-しるしとおもはむ-みわのやま-ありとしあるは-すきにそありける


01267

[詞書]いなりにまうててけさうしはしめて侍りける女の、こと人にあひて侍りけれは

藤原長能

我といへはいなりの神もつらきかな人のためとはいのらさりしを

われといへは-いなりのかみも-つらきかな-ひとのためとは-いのらさりしを


01268

[詞書]稲荷のほくらに女のてにてかきつけて侍りける

よみ人しらす

滝の水かへりてすまはいなり山なぬかのほれるしるしとおもはん

たきのみつ-かへりてすまは-いなりやま-なぬかのほれる-しるしとおもはむ


01269

[詞書]元良のみこ、ひさしくまからさりける女のもとに、紅葉をおこせて侍りけれは

よみ人しらす

思ひいててとふにはあらす秋はつる色の限を見するなりけり

おもひいてて-とふにはあらす-あきはつる-いろのかきりを-みするなりけり


01270

[詞書]女のもとに扇をつかはしたりけれは、いひつかはしたりける

よみ人しらす

ゆゆしとていむとも今はかひもあらしうきをは風につけてやみなん

ゆゆしとて-いむともいまは-かひもあらし-うきをはかせに-つけてやみなむ


01271

[詞書]題しらす

つらゆき

ひとりして世をしつくさは高砂の松のときはもかひなかりけり

ひとりして-よをしつくさは-たかさこの-まつのときはも-かひなかりけり


01272

[詞書]三条右大臣の屏風に

つらゆき

玉もかるあまのゆき方さすさをの長くや人を怨渡らん

たまもかる-あまのゆきかた-さすさをの-なかくやひとを-うらみわたらむ


01273

[詞書]年のをはりに、人まち侍りける人のよみ侍りける

つらゆき

たのめつつ別れし人をまつほとに年さへせめてうらめしきかな

たのめつつ-わかれしひとを-まつほとに-としさへせめて-うらめしきかな