無形文化遺産の保護に関する条約

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無形文化遺産の保護に関する条約をここに公布する。

御名御璽

平成十八年四月十四日

内閣総理大臣  小泉純一郎

条約第三号

無形文化遺産の保護に関する条約

国際連合教育科学文化機関(以下「ユネスコ」という。)の総会は、二千三年九月二十九日から十月十七日までパリにおいてその第三十二回会期として会合し、

人権に関する既存の国際文書、特に千九百四十八年の世界人権宣言、千九百六十六年の経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約及び千九百六十六年の市民的及び政治的権利に関する国際規約に言及し、

千九百八十九年の伝統的文化及び民間伝承の保護に関するユネスコの勧告、二千一年の文化の多様性に関するユネスコの世界宣言及び二千二年の第三回文化大臣円卓会議で採択されたイスタンブール宣言により強調された、文化の多様性を推進し及び持続可能な開発を保証するものとしての無形文化遺産の重要性を考慮し、

無形文化遺産と有形文化遺産及び自然遺産との間の深い相互依存関係を考慮し、

地球規模化及び社会の変容の過程は、社会間の新たな対話のための状況を作り出すと同時に、不寛容の現象と同様に、特に無形文化遺産の保護のための資源の不足により、無形文化遺産の衰退、消滅及び破壊の重大な脅威をもたらすことを認識し、

人類の無形文化遺産の保護に対する普遍的な意思及び共通の関心を認識し、

社会(特に原住民の社会)、集団及び場合により個人が無形文化遺産の創出、保護、維持及び再現に重要な役割を果たすことにより、文化の多様性及び人類の創造性を高めることに役立っていることを認識し、

文化遺産を保護するための規範的な文書(特に千九百七十二年の世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)の作成におけるユネスコの活動の広範な影響に留意し、

さらに、無形文化遺産の保護のための拘束力を有する多数国間の文書はいまだ存在しないことに留意し、

文化遺産及び自然遺産に関する既存の国際協定、勧告及び決議が、無形文化遺産に関する新たな規定により、効果的に高められ及び補足される必要があることを考慮し、

特に若い世代間において、無形文化遺産及びその保護の重要性に関する意識を一層高めることの必要性を考慮し、

国際社会は、この条約の締約国とともに、協力及び相互の援助の精神をもって、無形文化遺産の保護に関して貢献すべきであることを考慮し、

無形文化遺産に関するユネスコの事業、特に人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言を考慮し、

人々をより緊密にさせ並びに人々の間の交流及び理解を確保する要素としての無形文化遺産の極めて重要な役割を考慮し、

この条約を二千三年十月十七日に採択する。

I  一般規定

第一条  条約の目的

この条約の目的は、次のとおりとする。

⒜  無形文化遺産を保護すること。

⒝  関係のある社会、集団及び個人の無形文化遺産を尊重することを確保すること。

⒞  無形文化遺産の重要性及び無形文化遺産を相互に評価することを確保することの重要性に関する意識を地域的、国内的及び国際的に高めること。

⒟  国際的な協力及び援助について規定すること。

第二条  定義

この条約の適用上、

1  「無形文化遺産」とは、慣習、描写、表現、知識及び技術並びにそれらに関連する器具、物品、加工品及び文化的空間であって、社会、集団及び場合によっては個人が自己の文化遺産の一部として認めるものをいう。この無形文化遺産は、世代から世代へと伝承され、社会及び集団が自己の環境、自然との相互作用及び歴史に対応して絶えず再現し、かつ、当該社会及び集団に同一性及び継続性の認識を与えることにより、文化の多様性及び人類の創造性に対する尊重を助長するものである。この条約の適用上、無形文化遺産については、既存の人権に関する国際文書並びに社会、集団及び個人間の相互尊重並びに持続可能な開発の要請と両立するものにのみ考慮を払う。

2  1に定義する「無形文化遺産」は、特に、次の分野において明示される。

⒜  口承による伝統及び表現(無形文化遺産の伝達手段としての言語を含む。)

⒝  芸能

⒞  社会的慣習、儀式及び祭礼行事

⒟  自然及び万物に関する知識及び慣習

⒠  伝統工芸技術

3  「保護」とは、無形文化遺産の存続を確保するための措置(認定、記録の作成、研究、保存、保護、促進、拡充、伝承(特に正規の又は正規でない教育を通じたもの)及び無形文化遺産の種々の側面の再活性化を含む。)をいう。

4  「締約国」とは、この条約に拘束され、かつ、自国についてこの条約の効力が生じている国をいう。

5  この条約は、第三十三条に規定する地域であって、同条の条件に従ってこの条約の当事者となるものについて準用し、その限度において「締約国」というときは、当該地域を含む。

第三条  他の国際文書との関係

この条約のいかなる規定も、次のように解してはならない。

⒜  無形文化遺産が直接関連する世界遺産を構成する物件に関し、千九百七十二年の世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約の下での地位を変更し又は保護の水準を低下させる。

⒝  締約国が知的財産権又は生物学的及び生態学的な資源の利用に関する国際文書の当事国であることにより生ずる権利及び義務に影響を及ぼす。

Ⅱ  条約の機関

第四条  締約国会議

1  この条約により、締約国会議を設置する。締約国会議は、この条約の最高機関である。

2  締約国会議は、通常会期として二年ごとに会合する。締約国会議は、自ら決定するとき又は無形文化遺産の保護のための政府間委員会若しくは締約国の少なくとも三分の一の要請に基づき、臨時会期として会合することができる。

3  締約国会議は、その手続規則を採択する。

第五条  無形文化遺産の保護のための政府間委員会

1  この条約により、ユネスコに無形文化遺産の保護のための政府間委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、第三十四条に基づきこの条約が効力を生じた後は、締約国会議に出席する締約国により選出される十八の締約国の代表者によって構成される。

2  委員会の構成国の数は、この条約の締約国の数が五十に達した後は、二十四に増加する。

第六条  委員会の構成国の選出及び任期

1  委員会の構成国の選出は、衡平な地理的代表及び輪番の原則に従う。

2  委員会の構成国は、締約国会議に出席するこの条約の締約国により四年の任期で選出される。

3  もっとも、最初の選挙において選出された委員会の構成国の二分の一の任期は、二年に限定される。これらの国は、最初の選挙において、くじ引で選ばれる。

4  締約国会議は、二年ごとに、委員会の構成国の二分の一を更新する。

5  締約国会議は、また、空席を補充するために必要とされる委員会の構成国を選出する。

6  委員会の構成国は、連続する二の任期について選出されない。

7  委員会の構成国は、自国の代表として無形文化遺産の種々の分野における専門家を選定する。

第七条  委員会の任務

委員会の任務は、次のとおりとする。ただし、この条約により与えられる他の権限を害するものではない。

⒜  条約の目的を促進し並びにその実施を奨励し及び監視すること。

⒝  無形文化遺産を保護するための最良の実例に関する指針を提供し及びそのための措置の勧告を行うこと。

⒞  第二十五条に従って、基金の資金の使途に関する計画案を作成し及び承認を得るため締約国会議に提出すること。

⒟  第二十五条に従って、基金の資金を増額するための方法を追求し及びこのために必要な措置をとること。

⒠  この条約の実施のための運用指示書を作成し及びその承認を得るため締約国会議に提出すること。

⒡  第二十九条に従って締約国が提出する報告を検討し及び締約国会議のために当該報告を要約すること。

⒢  締約国が提出する次の要請について、検討し並びに委員会が定め及び締約国会議が承認する客観的な選考基準に従って決定すること。

(i)  第十六条、第十七条及び第十八条に規定する一覧表への記載及び提案

(ii)  第二十二条による国際的な援助の供与

第八条  委員会の活動方法

1  委員会は、締約国会議に対して責任を負う。委員会は、そのすべての活動及び決定を締約国会議に報告する。

2  委員会は、その構成国の三分の二以上の多数による議決で、その手続規則を採択する。

3  委員会は、その任務を遂行するために必要と認める特別の諮問機関を一時的に設置することができる。

4  委員会は、特定の事項について協議するため、無形文化遺産の種々の分野において能力を認められた公私の機関及び個人を会議に招請することができる。

第九条  助言団体の認定

1  委員会は、無形文化遺産の分野において能力を認められた民間団体の認定を締約国会議に提案する。当該民間団体は、委員会の顧問の資格で行動する。

2  委員会は、また、締約国会議にその認定の基準及び方法を提案する。

第十条  事務局

1  委員会は、ユネスコ事務局の補佐を受ける。

2  事務局は、締約国会議及び委員会の文書並びにそれらの会合の議題案を作成し、並びに締約国会議及び委員会の決定の実施を確保する。

Ⅲ  無形文化遺産の国内的保護

第十一条  締約国の役割

締約国は、次のことを行う。

⒜  自国の領域内に存在する無形文化遺産の保護を確保するために必要な措置をとること。

⒝  第二条3に規定する保護のための措置のうち自国の領域内に存在する種々の無形文化遺産の認定を、社会、集団及び関連のある民間団体の参加を得て、行うこと。

第十二条  目録

1  締約国は、保護を目的とした認定を確保するため、各国の状況に適合した方法により、自国の領域内に存在する無形文化遺産について一又は二以上の目録を作成する。これらの目録は、定期的に更新する。

2  締約国は、第二十九条に従って定期的に委員会に報告を提出する場合、当該目録についての関連情報を提供する。

第十三条  保護のための他の措置

締約国は、自国の領域内に存在する無形文化遺産の保護、発展及び振興のために次のことを行うよう努める。

⒜  社会における無形文化遺産の役割を促進し及び計画の中に無形文化遺産の保護を組み入れるための一般的な政策をとること。

⒝  自国の領域内に存在する無形文化遺産の保護のため、一又は二以上の権限のある機関を指定し又は設置すること。

⒞  無形文化遺産、特に危険にさらされている無形文化遺産を効果的に保護するため、学術的、技術的及び芸術的な研究並びに調査の方法を促進すること。

⒟  次のことを目的とする立法上、技術上、行政上及び財政上の適当な措置をとること。

(i)  無形文化遺産の管理に係る訓練を行う機関の設立又は強化を促進し並びに無形文化遺産の実演又は表現のための場及び空間を通じた無形文化遺産の伝承を促進すること。

(ii)  無形文化遺産の特定の側面へのアクセスを規律する慣行を尊重した上で無形文化遺産へのアクセスを確保すること。

(iii)  無形文化遺産の記録の作成のための機関を設置し及びその機関の利用を促進すること。

第十四条  教育、意識の向上及び能力形成

締約国は、すべての適当な手段により、次のことを行うよう努める。

⒜  特に次の手段を通じて、社会における無形文化遺産の認識、尊重及び拡充を確保すること。

(i)  一般公衆、特に若年層を対象とした教育、意識の向上及び広報に関する事業計画

(ii)  関係する社会及び集団内における特定の教育及び訓練に関する計画

(iii)  無形文化遺産の保護のための能力を形成する活動(特に管理及び学術研究のためのもの)

(iv)  知識の伝承についての正式な手段以外のもの

⒝  無形文化遺産を脅かす危険及びこの条約に従って実施される活動を公衆に周知させること。

⒞  自然の空間及び記念の場所であって無形文化遺産を表現するためにその存在が必要なものの保護のための教育を促進すること。

第十五条  社会、集団及び個人の参加

締約国は、無形文化遺産の保護に関する活動の枠組みの中で、無形文化遺産を創出し、維持し及び伝承する社会、集団及び適当な場合には個人のできる限り広範な参加を確保するよう努め並びにこれらのものをその管理に積極的に参加させるよう努める。

Ⅳ  無形文化遺産の国際的保護

第十六条  人類の無形文化遺産の代表的な一覧表

1  委員会は、無形文化遺産の一層の認知及びその重要性についての意識の向上を確保するため並びに文化の多様性を尊重する対話を奨励するため、関係する締約国の提案に基づき、人類の無形文化遺産の代表的な一覧表を作成し、常時最新のものとし及び公表する。

2  委員会は、この代表的な一覧表の作成、更新及び公表のための基準を定め並びにその基準を承認のため締約国会議に提出する。

第十七条  緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表

1  委員会は、適当な保護のための措置をとるため、緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表を作成し、常時最新のものとし及び公表し並びに関係する締約国の要請に基づいて当該一覧表にそのような遺産を記載する。

2  委員会は、この一覧表の作成、更新及び公表のための基準を定め並びにその基準を承認のため締約国会議に提出する。

3  極めて緊急の場合(その客観的基準は、委員会の提案に基づいて締約国会議が承認する。)には、委員会は、関係する締約国と協議した上で、1に規定する一覧表に関係する遺産を記載することができる。

第十八条  無形文化遺産の保護のための計画、事業及び活動

1  委員会は、締約国の提案に基づき並びに委員会が定め及び締約国会議が承認する基準に従って、また、発展途上国の特別のニーズを考慮して、無形文化遺産を保護するための国家的、小地域的及び地域的な計画、事業及び活動であってこの条約の原則及び目的を最も反映していると判断するものを定期的に選定し並びに促進する。

2  このため、委員会は、このような提案の準備のための締約国からの国際的な援助の要請を受領し、検討し及び承認する。

3  委員会は、そのような計画、事業及び活動を実施する場合、自らが決定した方法により最良の実例を普及させる。

Ⅴ  国際的な協力及び援助

第十九条  協力

1  この条約の適用上、国際的な協力には、特に、情報及び経験の交換、共同の自発的活動並びに締約国による無形文化遺産を保護するための努力を支援するための制度を設けることを含む。

2  締約国は、国内法令、慣習法及び慣行の適用を妨げることなく、無形文化遺産の保護が人類にとって一般的な利益であることを認識し、そのため、二国間で並びに小地域的、地域的及び国際的に協力することを約束する。

第二十条  国際的な援助の目的

国際的な援助は、次の目的のために供与することができる。

⒜  緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表に記載されている遺産の保護

⒝  第十一条及び第十二条における目録の作成

⒞  無形文化遺産の保護を目的とする国家的、小地域的及び地域的に実施される計画、事業及び活動への支援

⒟  委員会が必要と認める他の目的

第二十一条  国際的な援助の形態

委員会は、第七条に規定する運用指示書及び第二十四条に規定する協定に従って、締約国に対し、次の形態の援助を供与することができる。

⒜  保護の種々の側面に関する研究

⒝  専門家及び実践する者の提供

⒞  すべての必要な職員の養成

⒟  規範の設定及びその他の手段の作成

⒠  基盤の整備及び運用

⒡  設備及びノウハウの供与

⒢  他の形態の財政的及び技術的援助(適当な場合には、低利の貸付け及び贈与を含む。)

第二十二条  国際的な援助に関する条件

1  委員会は、国際的な援助の要請を検討する手続を定め及び当該要請に含める情報(例えば、予定される措置、必要とされる関与、それらに要する費用の見積り)を特定する。

2  緊急の場合においては、委員会は、援助の要請を優先事項として検討する。

3  委員会は、決定を行うために、必要と認める研究及び協議を行う。

第二十三条  国際的な援助の要請

1  締約国は、自国の領域内に存在する無形文化遺産の保護のための国際的な援助の要請を委員会に提出することができる。

2  当該要請は、また、二以上の締約国が共同で提出することができる。

3  当該要請には、必要な資料とともに前条1に定める情報を含める。

第二十四条  受益国となる締約国の役割

1  この条約の規定に従って、供与される国際的な援助は、受益国となる締約国と委員会との間の協定により規律される。

2  受益国となる締約国は、原則として、自己の資金の限度内で、国際的な援助が供与される保護のための措置の経費を負担する。

3  受益国となる締約国は、無形文化遺産の保護のために供与される援助の使途に関する報告を委員会に提出する。

Ⅵ  無形文化遺産基金

第二十五条  基金の性質及び資金

1  この条約により、「無形文化遺産の保護のための基金」(以下「基金」という。)を設立する。

2  基金は、ユネスコの財政規則に従って設置される信託基金とする。

3  基金の資金は、次のものから成る。

⒜  締約国による分担金及び任意拠出金

⒝  ユネスコの総会がこの目的のために充当する資金

⒞  次の者からの拠出金、贈与又は遺贈

(i)  締約国以外の国

(ii)  国際連合の機関(特に国際連合開発計画)その他の国際機関

(iii)  公私の機関又は個人

⒟  基金の資金から生ずる利子

⒠  募金によって調達された資金及び基金のために企画された行事による収入

⒡  委員会が作成する基金の規則によって認められるその他のあらゆる資金

4  委員会は、その資金の使途を締約国会議が定める指針に基づいて決定する。

5  委員会は、特定の事業に関連する一般的及び特別な目的のための拠出金その他の形態による援助を受けることができる。ただし、当該事業が委員会により承認されている場合に限る。

6  基金に対する拠出には、この条約の目的と両立しないいかなる政治的又は経済的条件その他の条件も付することができない。

第二十六条  基金に対する締約国の分担金及び任意拠出金

1  締約国は、追加の任意拠出金とは別に、少なくとも二年に一回、基金に分担金を支払うことを約束する。分担金の額は、締約国会議が決定するすべての締約国について適用される同一の百分率により決定する。この締約国会議の決定は、会議に出席しかつ投票する締約国(2の宣言を行っていない締約国に限る。)の過半数による議決で行う。締約国の分担金の額は、いかなる場合にも、ユネスコの通常予算に対する当該締約国の分担金の額の一パーセントを超えないものとする。

2  もっとも、第三十二条及び第三十三条に規定する国は、批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託する際に、1の規定に拘束されない旨を宣言することができる。

3  2の宣言を行った締約国は、ユネスコ事務局長に通告することにより、その宣言を撤回するよう努める。この場合において、その宣言の撤回は、当該締約国が支払うべき分担金につき、その後の最初の総会の会期が開催される日まで効力を生じない。

4  2の宣言を行った締約国の任意拠出金は、委員会がその活動を実効的に計画することができるようにするため、少なくとも二年に一回定期的に支払う。その任意拠出金の額は、1の規定に拘束される場合に支払うべき分担金の額にできる限り近いものとすべきである。

5  当該年度及びその直前の暦年度についての分担金又は任意拠出金の支払が延滞している締約国は、委員会の構成国に選出される資格を有しない。ただし、この規定は、最初の選挙については適用しない。支払が延滞している締約国であって、委員会の構成国であるものの任期は、第六条に規定する選挙の時に終了する。

第二十七条  基金への追加の任意拠出金

前条に定めるもののほか、任意拠出金の提供を希望する締約国は、委員会がその活動を計画することができるように、できる限り速やかに委員会に通知する。

第二十八条  国際的な募金運動

締約国は、基金の利益のためユネスコの主催の下に組織される国際的な募金運動に対して可能な範囲内で援助を与えるものとする。

Ⅶ  報告

第二十九条  締約国による報告

締約国は、委員会が定める様式及び周期を遵守し、この条約の実施のためにとられた立法措置、規制措置その他の措置に関する報告を委員会に提出する。

第三十条  委員会による報告

1  委員会は、その活動及び前条に規定する締約国による報告に基づいて、締約国会議に対し、その会期ごとに報告を提出する。

2  1の報告については、ユネスコの総会に通知する。

Ⅷ  経過規定

第三十一条  人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言との関係

1  委員会は、この条約の効力発生前に「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」として宣言されたものを、人類の無形文化遺産の代表的な一覧表に記載する。

2  人類の無形文化遺産の代表的な一覧表へのこれらのものの記載は、第十六条2の規定に従って決定する将来の記載基準に何ら予断を与えるものではない。

3  この条約の効力発生の後は、更なる宣言は行われない。

Ⅸ  最終規定

第三十二条  批准、受諾又は承認

1  この条約は、ユネスコの加盟国により、それぞれの自国の憲法上の手続に従って批准され、受諾され又は承認されなければならない。

2  批准書、受諾書又は承認書は、ユネスコ事務局長に寄託する。

第三十三条  加入

1  この条約は、ユネスコの総会が招請するすべてのユネスコの非加盟国による加入のために開放しておく。

2  この条約は、国際連合により完全な内政上の自治権を有していると認められているが、国際連合総会決議第千五百十四号(第十五回会期)に基づく完全な独立を達成していない地域であって、この条約により規律される事項に関する権限(これらの事項に関して条約を締結する権限を含む。)を有するものによる加入のために開放しておく。

3  加入書は、ユネスコ事務局長に寄託する。

第三十四条  効力発生

この条約は、三十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された日の後三箇月で、その寄託の日以前に批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託した国についてのみ効力を生ずる。この条約は、その他の国については、その批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の日の後三箇月で効力を生ずる。

第三十五条  憲法上の連邦制又は非単一制

次の規定は、憲法上連邦制又は非単一制をとっている締約国について適用する。

⒜  この条約の規定であって、連邦又は中央の立法機関の立法権の下で実施されるものについては、連邦又は中央の政府の義務は、連邦制をとっていない締約国の義務と同一とする。

⒝  この条約の規定であって、邦、州又は県の権限の下で実施されるものであり、かつ、連邦の憲法制度によって邦、州又は県が立法措置をとることを義務付けられていないものについては、連邦の政府は、これらの邦、州又は県の権限のある機関に対し、採択についての勧告を付してその規定を通報する。

第三十六条  廃棄

1  締約国は、この条約を廃棄することができる。

2  廃棄は、ユネスコ事務局長に寄託する文書により通告する。

3  廃棄は、廃棄書の受理の後十二箇月で効力を生ずる。廃棄は、脱退が効力を生ずる日までは、廃棄を行う国の財政上の義務に何ら影響を及ぼすものではない。

第三十七条  寄託

ユネスコ事務局長は、この条約の寄託者として、ユネスコの加盟国及び第三十三条に規定するユネスコの非加盟国並びに国際連合に対し、第三十二条及び第三十三条に規定するすべての批准書、受諾書、承認書及び加入書の寄託並びに前条に規定する廃棄を通報する。

第三十八条  改正

1  締約国は、事務局長にあてた書面による通報により、この条約の改正を提案することができる。同事務局長は、当該通報をすべての締約国に送付する。同事務局長は、当該通報の送付の日から六箇月以内に締約国の二分の一以上がその要請に好意的な回答を行った場合には、審議及び採択のため、次の総会の会期にこの提案を提出する。

2  改正案は、出席し、かつ、投票する締約国の三分の二以上の多数による議決で採択する。

3  この条約の改正は、採択された後は、締約国に対し、批准、受諾、承認又は加入のために送付する。

4  改正は、批准し、受諾し、承認し又は加入した締約国に対してのみ、締約国の三分の二が3の文書を寄託した日の後三箇月で効力を生ずる。改正は、その後批准し、受諾し、承認し又は加入する各締約国については、当該締約国がその批准書、受諾書、承認書又は加入書を寄託した日の後三箇月で当該締約国に対して効力を生ずる。

5  3及び4に定める手続は、委員会の構成国の数に関する第五条の改正については、適用しない。これらの改正は、採択された際に効力を生ずる。

6  4の規定により改正が効力を生じた後にこの条約の締約国となる国は、別段の意思を表明しない限り、次のようにみなされる。

⒜  改正された条約の締約国

⒝  改正によって拘束されない締約国との関係においては、改正されていない条約の締約国

第三十九条  正文

この条約は、ひとしく正文であるアラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により作成する。

第四十条  登録

この条約は、ユネスコ事務局長の要請により、国際連合憲章第百二条の規定に従って、国際連合事務局に登録する。

二千三年十一月三日にパリで、総会の第三十二回会期の議長及びユネスコ事務局長の署名を有する本書二通を作成した。これらの本書は、ユネスコに寄託するものとし、その認証謄本は、第三十二条及び第三十三条に規定するすべての国並びに国際連合に送付する。

以上は、ユネスコの総会が、パリで開催されて二千三年十月十七日に閉会を宣言されたその第三十二回会期において、正当に採択した条約の真正な本文である。

以上の証拠として、下名は、二千三年十一月三日にこの条約に署名した。

総会議長

ミカエル・アビオラ・オメレワ

事務局長

外務大臣  麻生  太郎

文部科学大臣  小坂  憲次

内閣総理大臣  小泉純一郎

右条約の英文

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