死は奴隷と主人に無関心である

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本文[編集]

死は奴隷と主人に無関心である
萩原恭次郎

恐怖の昼と夜だ
 ———蟋蟀と雨と 憂欝な秋だ
怖ろしい影に追はれてゐる
眠れない飢餓はつづく秋だ

私は
血の気のない戦慄にふるえてゐる
愛は焼きつくされた
驚愕を取り去られた後の塊りが
文学も哲学も排斥した胸に
力なく動いてゐる

雨は流れてゐる
  蟋蟀は啼きつづけてゐる
生命は赤い痣のやうに痛む
血は血を————復讐は復讐を
夜は夜を————死は死を

生は剣によつて救はれるのみだ
死は奴隷と主人に無関心である
私の発砲は
私の全目的である

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。