歪んだ不具な醜婦

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本文[編集]

歪んだ不具な醜婦
萩原恭次郎

長いコンクリートの塀だ!
血と毛髪と疲労と失明のためにどすぐろくよどんだ泥溝!
私の恋人はその中を泳ぎ廻つてゐる!
永遠も信仰も苦悩も音響も色彩も消える!
生命は一箇の原色だ!
すべて氷結して写真版だ!

俺は切られた恋人の片腕や心臓を嚙む!
毛髪をしやぶる!
ヂヤリヂヤリ————泥と汚水と骨だ!
脳髄に熱をもつた うすつくらい煙突の草つ原で
狂人のやうな わなゝく激怒にふるえる日!
死は無残に醜骸を天日の下にさらす
自我のみにくい腐臭を放つて
青蝿とみゝずによつて土に帰る
空に帰る————絶無!

けれ共 強烈な爆煙の中に歪んだ不具な醜婦は
私の胸をひきとらへる!

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。