正教要理問答/聖三の祈祷

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聖三（せいさん）の祈祷

聖（せい）なる神（かみ）　聖（せい）なる勇（ゆう）毅（き）　聖（せい）なる常（じゃう）生（せい）の者や我等を憐（あはれ）めよ

（此祈祷は三次唱へらる）

問　是（これ）は誰に捧（ささ）ぐる祈祷なりや

答　是（これ）は聖三者（せいさんじゃ）に捧（ささ）ぐる祈祷なり而（しかし）て『聖なる神』とは神父（かみちち）のことを名づけ『聖なる勇（ゆう）毅（き）』とは神（かみ）子（こ）のことを名づけ『聖なる常（じゃう）生（せい）の者』とは聖神を名づくるなり

問　何故に神の子を『勇（ゆう）毅（き）』と名づけられしや

答　如何（いかん）となれば彼に因（よつ）て神の能力（ちから）は顕（あら）はれたればなり故に預言者イサイヤも（賽（イサイヤ）九の六）前（ぜん）駆（く）イオアンも（太（マトフェイ）三の二）斯（か）く名づけたり

問　何故に聖神を『常（じゃう）生（せい）なる者』と名づけられしや

答　如何（いかん）となれば彼は神として萬物（ばんもつ）に生命（いのち）を與（あた）へ殊（こと）に我等の霊（たましひ）に永生（かぎりなきいのち）を與（あた）ふればなり

問　此祈祷は何と名づけらるるや

答　聖三（せいさん）の祈祷と名づけらる又一名（いちめい）天（てん）使（し）の歌（うた）と名づけらる

問　何故に聖三（せいさん）の祈祷と名づけらるるや

答　如何（いかん）となれば此祈祷に於（おい）て『聖（せい）なる』と云ふ語（ことば）が三（み）度（たび）繰（く）り返（かへ）さるればなり

問　何故に此祈祷を天（てん）使（し）の歌（うた）と名づけらるるや

答　此祈祷の斯（か）く名づけらるるは或時（あるとき）天に於（おい）て神の使（つかひ）の歌（うた）ひたる讃（さん）美（び）の歌（うた）より採（と）られしに因（よ）るなり

問　何時（いつ）如何（いか）にして其（その）事（こと）ありしや

答　傳（つたひ）て言ふ第五世紀に於（おい）て皇（くわう）帝（てい）ヘオドシイ及び府（ふ）主教（しゅけう）プロクルの時ギリシヤの国に恐（おそ）ろしき大（おほ）地（ぢ）震（しん）ありて人（じん）家（か）盡（ことごと）く潰（つぶ）れ人々皆難（なん）を郊（かう）外（ぐわい）に避（さ）けて地（ぢ）震（しん）鎮静（ちんせい）の祈祷を執行（しっこう）せられしが此時不思議（ふしぎ）にも群（ぐん）集（しゅう）の中に混（まざ）り居たる一人の小児（こども）は俄（にわか）に見えざるの手を以（もつ）て天に挙（あ）げられたり之を見たる群（ぐん）集（しゅう）は驚（おどろ）きて天を見詰（みつ）め居りしが暫時（しばらく）にして再び復（また）群（ぐん）集（しゅう）の中に降（くだ）りたり人々は小児（こども）の傍（そば）に群（むらが）り集（あつま）りて如何なることに出遭（であ）ひしかを尋（たづ）ねしに小児（こども）は天に於（おい）て神（かみ）の使（つかひ）の群（むれ）が『聖（せい）なる神（かみ）聖なる勇（ゆう）毅（き）』と歌ひつつ神を讃美するを聞けりと告（つ）げたり是（これ）よりして人々は此天（てん）使（し）の歌に『我等を憐（あはれ）み給へ』と云へる語（ことば）を加（くは）へ幾度（いくたび）も復（くりかへ）して此祈祷を唱（とな）へたりしが其後地（ぢ）震（しん）は忽（たちま）ち鎮（しづ）まりたりと