東京高裁平成13年(行ケ)第435号

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判    決

原      告     A
被      告     株式会社アスキー
訴訟代理人弁理士     網 野 友 康
同            初 瀬 俊 哉
同            高 野 明 子

主    文[編集]

 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由[編集]

第1 当事者の求めた裁判[編集]

1 原告
特許庁が無効2000-35313号事件について平成13年8月23日にした審決中、「登録第4346339号の指定商品中『印刷物』についての登録を無効とする。審判費用は2分の1を被請求人の負担とする。」との部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨

第2 当事者間に争いのない事実[編集]

1 特許庁における手続の経緯
登録第4346339号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年(1999年)3月12日に登録出願され、「リナックス」の文字と「Linux」の文字を二段に横書きしてなり、第16類「紙類、紙製包装用容器、家庭用食品包装フィルム、紙製ごみ収集用袋、プラスチック製ごみ収集用袋、印刷物、書画、遊技用カード、文房具類、事務用又は家庭用ののり及び接着剤、観賞魚用水槽及びその付属品、衛生手ふき、型紙、紙製タオル、紙製テーブルクロス、紙製手ふき、紙製テーブルナプキン、紙製のぼり、紙製旗、紙製ハンカチ、荷札、紙製ブラインド、紙製幼児用おしめ、裁縫用チャコ、事務用電動式ホッチキス、製図用具、文書裁断機、印字用インクリボン、写真、写真立て」を指定商品として、同11年12月24日に設定登録されたものである。
被告は、平成12年6月13日、本件商標の商標権者である原告及び訴外上原潤を被請求人として、本件商標について無効審判を請求した。特許庁は、この請求を無効2000-35313号事件として審理し、平成13年8月23日、「登録第4346339号の指定商品中『印刷物』についての登録を無効とする。その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年9月5日、原告に送達された。
2 審決の理由の要旨
審決の理由は、別紙審決の理由写しのとおりである。審決が本件商標の指定商品中「印刷物」について本件商標の商標登録を無効とした理由は、要するに、「Linux」は、リーナス・トーバルズにより開発されたコンピュータのオペレーティングシステム(OS)を表示するものとして、本件商標の登録出願当時、既に我が国を含む世界各国のこの種業界における取引者・需要者において周知・著名な商標となっていたものであることが認められるところ、本件商標は、周知、著名な商標である「Linux」と同じ綴字からなる「Linux」の欧文字と、その読みを表したものと認められる「リナックス」の片仮名文字を二段に横書きしてなるものであり、「リナックス」の語は特定の意味を有する既成語を表したものではなく、リーナス・トーバルズの創造語(造語)であって、しかも、コンピューターソフトには各種の解説書が発行されることも多く、印刷物とは密接な関連性を有するのであるから、これらの事情を考慮すると、被請求人(原告)が本件商標をその指定商品中の「印刷物」について使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、取引者・需要者の間に広く認識されている「Linux」を想起し、該商品がリーナス・トーバルズの業務に係る商品又はリーナス・トーバルズと組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本件商標はその指定商品中の「印刷物」について、商標法4条1項15号の規定に違反して登録されたものであり、同法46条1項の規定により、本件商標の登録を無効とするべきである、というものである。

第3 原告主張の審決取消事由[編集]

本件商標が商標法4条1項15号に該当するとの審決の認定判断は誤りである。
1 リーナス・トーバルズは、コンピュータOSや印刷物等で「Linux・リナックス」の商標を使用して商業活動は行っていないし、本を書いて印税を得る出版業務も行っていない。したがって、本件登録商標の使用によりリーナス・トーバルズの業務に係る商品又は役務との誤認混同を生じるおそれはないものである。
2 審決は、Linuxは日本でコンピュータのオペレーティングシステム(OS)として周知・著名であると判断しているが、Linuxが日本において広く知られるようになったのは、本件商標登録出願後のことである。
Linuxは、英語圏で、しかもインターネット料金の安価な国家内では、インターネットから直接ダウンロードできるので有名であるが、日本においては、本件商標登録出願当時、インターネットの通信料金が高価なため、インターネットからダウンロードしたLinuxが使用されることは稀であり、しかもウインドウズやマッキントッシュOSが圧倒的に優位な中で、パソコン関連用品の販売店にてパッケージされたRedHat,TurboLinux等のパッケージされたCD-ROMからのインストールによるLinuxの使用が話題となったのは、本件商標の登録出願後、多数の雑誌や書籍が出版され、テレビ放映等のマスコミに登場するようになってからであった。
例えば、株式会社アスキーは、1999年3月17日号の「週刊アスキー」(甲第5号証の1)で「Linux人気沸騰の本当の理由」と題して特集を初めて組んでいる。また、1999年7月30日フットワーク出版発行の「やさしくわかるLinux(リナックス)」(甲第7号証の1ないし4、甲第8号証の1)の書籍では、1999年春以降急激な変化が起きたことにより Linuxビジネスが注目されだしたこと、Linuxが注目されている市場は、ウインドウズ98のような一般クライアント向けの分野ではなく、PCサーバーと呼ばれる小規模ネットワーク・システムを管理する分野に限定されること等々が文系ビジネスマン(一般向け)に分かりやすく書かれている。これらのことから判断すれば、本件商標の出願当時、日本国内で誰もがLinuxをダウンロード若しくはCD-ROMからイン

ストールして利用したかのように認定している審決は、世間一般の常識とかけ離れていることが分かる。

3 また、審決の判断は、過去にコンピューター業界、電機業界の著名な用語(例えばASCII(アスキー)、Macintosh(マッキントッシュ)、TRON(トロン)、WINDOWS(ウインドウズ)、Mobile(モービル、モバイル)等)について商標登録が認められていることと比較しても、著しく不当なものである。

第4 被告の反論の要点[編集]

審決は、審判で提出された甲第2ないし第23号証(本訴乙第2ないし第23号証)に基づいて、本件商標が商標法4条1項15号に該当するという被告(審判請求人)の主張が合理的なものであると認定判断したのであって、その認定判断は正当であり、何の誤りもない。
原告の主張する諸点はいずれも理由がなく、失当である。

  

第5 当裁判所の判断[編集]

1 本件商標
本件商標は、「リナックス」の片仮名文字と「Linux」の欧文字を二段に横書きしてなり、平成11年(1999年)3月12日に商標登録出願され、第16類の「印刷物」等を指定商品として、同年12月24日に設定登録されたものである(争いがない。)。
2 本件商標の指定商品中「印刷物」に関する商標法4条1項15号該当性
(1) 乙第2号証ないし第23号証(審判甲第2ないし第23号証)によれば、次の事実が認められる。
リーナス・トーバルズによって開発され、無償公開されたコンピュータオペレーションシステム(OS)の「Linux」は、本件商標が登録出願された1999年よりはるかに前の1992年に、既に、コンピュータ雑誌「月刊スーパーアスキー」(同年10月1日発行号)の特集記事に「Linuxは最近注目を集めているUNIX互換システムである。」として取り上げられ、その概要、機能、入手方法等が詳しく紹介されている(乙第11号証)。1995年には、「Linux活用入門(初版)」(CQ出版)、「Linuxネットワーク環境 PC-UNIX」(蕗出版)、「Linuxお気楽・極楽インストール」(カットシステム)、「Linuxを256倍使うための本」(アスキー)等々の解説書が出版され(乙第6号証の紀伊国屋書店bookweb検索結果)、その後も、コンピュータ関連の各種雑誌で繰り返し取り上げられ、多くの解説書が出版されている(乙第6ないし第23号証)。なかでも、1998年12月発行のコンピュータ情報誌「OPEN DESIGN」(乙第20号証)には、Linuxの紹介記事の中で「・・・コンピュータ関係の人間でリナックスを知らない人はいないくらい発展したのです。・・・Windowsの次にユーザーの多いのはLinuxだそうです・・・」等と記述され、1999年2月発行のパソコン情報誌「日経バイト」(乙第22号証)では、「6年間に、Linuxユーザーは700万人を超え、最も急成長するサーバーOSとなった。」と記述されている。また、辞典類をみると、コンピュータ関連の用語を収録した辞典である「情報・通信・新語辞典」(1998年版、日経BP社、乙第2号証)には、「Linux」の説明として「CD-ROMが何種類か市販されている」と記述されているほか、平成10年(1998年)3月1日発行の「パソコン用語事典」(第9版)(技術評論社、乙第3号証)には、「Linux」の見出し語の下に、「現在ではペンティアム用のフリーUNIXの代表格で、最新のバージョンが大手パソコン通信や、雑誌あるいは書籍などの付録のCD-ROMといったものでも簡単に入手できる。この他有料でサポート付きのパッケージ販売もなされている。」(1999年3月1日発行の同辞典第10版(乙第4号証)においても同一の内容)と説明されていることが認められる。なお、審決も認定資料の一つとした現代用語に関する一般的な辞典である2000年1月1日発行の「現代用語の基礎知識 2000」(自由国民社、乙第5号証)の「OS」の項には、「ウインドウズOS」、「ウインドウズNT」、「マックOS」の見出し語と並んで「リナックス(Linux)」の見出し語の下に、Linuxがリーナス・トーバルズの開発に係るOSとして紹介され、「日本でもメーカーの採用が始まるなど、WindowsOSに対して並び立つOSとしての発展が大いに期待されている。」などと記述されていることが認められ、審決が説示するとおり、その発行日は本件商標登録出願後(7月後)ではあるが、記事内容は登録出願前の事柄も含まれている。
(2) 以上の事実を総合すると、コンピュータのOSとしての「Linux」は、本件商標登録出願日(平成11年・1999年3月12日)より相当前から、我が国のコンピュータ業界関係者及びパーソナルコンピュータに関心のある需要者の関心を集めており、Linuxを解説した書籍や雑誌等の紹介記事が多数存在したこと、またLinuxを搭載した機器やLinux関連のパッケージソフト等が有償・無償で頒布され流通する状況にあったことが認められる。このような状況に照らすと「Linux」は、リーナス・トーバルズにより開発されたコンピュータOSを表示するものとして、本件商標登録出願前に、「Linux」の文字に接した取引者・需要者をして直ちにコンピュータOSである「Linux」を想起させる程度にまで、取引者・需要者の間に浸透して、周知・著名となっていたものと推認される。本件全証拠を検討しても、上記推認を覆す事情は認められない。
そして、このような「Linux」OSの周知・著名性と、コンピュータソフトについては開発者や開発者から情報を受けた者が執筆したものを含めて他種多様の解説書が刊行されることが多いという事情を考慮するとき、周知・著名なOSである「Linux」と同一の欧文字とその日本語読みと認められる「リナックス」の片仮名文字より構成される本件商標を、その指定商品中の「印刷物」に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、直ちに周知・著名なOSの名称である「Linux」を想起し、本件商標を使用した商品がOSの「Linux」の開発者又は推進主体と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品でるあるかのごとく誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(3) 原告はOSの「Linux」は、外国では知られていても、日本国内において広く知られるようになったのは、本件商標の登録出願後のことであるから、それ以前に「Linux」が周知・著名であったとした審決の認定判断は誤りであると主張する。しかし、本件商標登録出願当時における「Linux」の周知、著名性は、原告が証拠として提出した雑誌記事や書籍の記載からもうかがい知ることができる。例えば、登録出願当時発行された1999年3月17日号の「週刊アスキー」(甲第5号証の1)には、「Linuxの人気沸騰の本当の理由」と題する特集記事が掲載されており、同特集記事のタイトルからして、「Linux」は、同雑誌発行時点すなわち、事件商標登録出願当時において既に「人気沸騰」と評される状態に達していたことがうかがわれる。また、「アスキーNT」の同年4月号(甲第6号証の1)には、「Linuxをどう考えますか?」というアンケート調査の結果が掲載されているが、このようなアンケート調査が可能であること自体、「Linux」の知名度の高さを裏付けるものということができる。また同年7月30日発行の「やさしくわかるLinux」(甲第7号証の1ないし4、第8号証の1)にはLinuxに対する評価が「バブル的過大評価」である旨の記述があるが、これは、当時「Linux」に多くの期待が寄せられ関心を集めていたことを示すといってよい。以上のような例があることからみても、「Linux」が本件商標登録出願当時、日本においては周知・著名ではなかったとする原告の主張は採用することができない。
原告は、また、リーナス・トーバルズは、コンピュータOSや印刷物等で「Linux(リナックス)」を使用して商業活動は行っていないし、出版業務も行っていないから、本件登録商標の使用によりリーナス・トーバルズの業務に係る商品又は役務との誤認混同のおそれはないとも主張する。しかし、商標法4条1項15号は、出所の混同を生ずるおそれのある商標の登録を阻止する趣旨の規定であって、同号の「他人の業務に係る商品又は役務」とは、必ずしも他人が現実に行っている業務に限られるものではなく、客観的にみてその他人が業務主体として商品を取り扱い又は役務を提供するものと推認されるような業務に係る商品又は役務も含むものと解される。したがって、リーナス・トーバルズがOSや印刷物等にかかわる商業活動や出版業務を現実に行っているか否かは、同号の適用の有無を左右するものではないというべきである。よって、リーナス・トーバルズは「Linux(リナックス)」商標を使用して業務活動を行っていないから商標法4条1項15号は適用されない旨の原告の主張は、採用することができない。
なお、原告は、コンピュータのOSやコンピュータ用語として著名なものに商標登録が認められた例があることを指摘するが、それらの事例は、本件と事案の内容を同じくするものということはできず、本件の判断を左右するものではない。
3 結論
以上のとおりであるから、本件商標は、その指定商品中「印刷物」について、商標法4条1項15号に規定する「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当すると認められるものであり、これと同旨の認定判断のもとに、本件商標は、その指定商品中の「印刷物」について、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるから、同法46条1項の規定により、その登録を無効とするとした審決に原告主張の誤りはない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第18民事部

裁判長裁判官 永 井 紀 昭
   裁判官 塩 月 秀 平
   裁判官 古 城 春 実

別紙 審決書理由写し

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