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本学の現状と将来の抱負

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本学の現状と将来の抱負
(第二学期始業式式辞摘録)
総理事 山岡順太郎

本日、本学大学部並に大学予科始業式を挙行するに当つて、私は理事者を代表し一言所感を述べたいと思ふのである。

大学の目的が真理の討究と人格の陶冶といふ此二つに存することは今更申すまでも無いことであつて、我々が日夜本学の成長発達に努力して居るのも実に此目的を達成せんが為めに外ならない。又過般本学が、新大学令に依る大学として認可になつたこと即ち昇格の如きも、矢張り此目的達成の抱負を有するからの結果である。

昇格といふことに就ては、従来よりの理事者に於かれて非常に努力を払はれ其基礎をつくられたのは無論であつて、我々新に加はつた者も及ばすながら多少御手伝をすることが出来た次第であるが、尚ほ他の本学関係者各位及び学生諸君の熱誠も亦直接間接に与つて大いに力があつたのである。此点に就ては此機会に深く感謝の意を表する次第である。而して右申上げた所の大学の二大目的を達するには、どうしても大学そのものを、法律的にも社会的にも又経済的にも権威あるものとする必要があるが、此昇格といふ事も唯だ大学発展の第一歩たるに過ぎぬのであつて、真の大学として完成する迄には、尚ほ前途遼遠であることは諸君もお考へになつてゐることと思ふのである。

言を換へて申すならば、画竜の業は漸く成つたが、点睛の大事業を完成する為めには、未だ為さなければならぬ甚だ多くの仕事が残されてあるのである。而して、点睛の業とは即ち内容の充実といふことに外ならない。即ち我我は最近多少の努力を払つて、夫々進展の途を講じつつあるのである。

例へば新に理事を選任し、顧問、評議員等を推薦したこと等はその一例である。即ち、此大学に取つての最高機関たるものの組織に尠からぬ苦心をした結果、幸にして、その学識に於て、又その人格に於て申分なき方々に多く参加して頂くことが出来たのは非常に欣快とする所である。

第二の例としては、最近専任教授諸君も漸く増員して来たことである。此等の方々の御尽力に依つて、学生諸君の実力なり人格なりの指導が、一層その宜しきを得るに至るであらうと信ずるのである。

更に第三の例としては、運動即ち体育の奨励といふことに非常に重きを置いてゐるといふ事実である。即ち今や大学構内に於て、東洋第一の運動場を建設する為めに理事者は尠からぬ努力を試みて居るが、何れ遠からず実現することと思ふのである。

次に仮図書館の設置及び留学生の事であるが、抑も図書は大学の生命である。大学専門学校との区別は実に図書の多寡に在ると言つても過言ではない。本学は昨年末に於て洋書僅かに数十部に過ぎなかつたのであるが、今や約万を以て数へる事が出来る様になつた。勿論大学の蔵書としては未だ頗る貧弱ではあるが、比較的短時日の間にこれ丈蒐集したのである。比勢を以てすれば、遠からず相当の数に達する事を信して疑はない。

此一万の洋書はその数は貧弱であるが、その質に於ては稍々誇るに足る。即ち新刊の図書が多いのである。そこで本学舎の二三室を割いて仮図書館の設備をなすべく着々準備を急いでゐる次第である。

又専任教授養成の目的で、海外に留学生を出してゐる。己に御承知の通り法律学専攻の為め独逸へ二人、経済学攻究の為めに米国コロムビア大学に一人参つて居るが、更に又、経済学研究の為め米国加洲大学に入学の目的で、明十二日横浜を出発する者が一人ある。

尚は以上の事実と共に、今一つ特に申上げたいのは、本学の特色といふことに就てである。即ち本学の真髄ともいふべき事柄である。

何れの大学たるを問はす、皆同様の目的を持つてゐるといふことは明かである。併し各大学は各自多少の異つた色彩のあることは、個人個人が、夫々独自の特徴を有すると同様であつて、本学は殊に一大特色を発揮するの必要を認めるのである。この意味に於て、私は学の実化・・・・といふことを本学特有の本領とし度いと思ふのである。

所で、この学の実化といふことは決して深遠なる真理を離れて、平凡なる学問をするといふことではないのであつて、深遠なる真理を平易に説き、学理を実際に調和せしめたいといふに外ならないのである。

過般仏国大使クローデル氏の御来講を願ひ、又近く滋野男爵の御講演を願ふ筈であるが、更に本学評議員下村宏博士を煩し来月より明年二月まで連続的に毎週一回学の実化講座を開くことになつてゐる。

今回理事会の決議を以て、新に学歌─従来校歌と云つたもの─を選定したが、その真髄とする所も即ちこの学の実化といふ事を歌つたのである。

以上は大体の事を申上げたのであるが、要するに本学の目的とする所を達成し、特徴とする所を発揮する為めには、一私は切に学生諸君の雄大なる努力に信頼し本学が前述の趣意を徹底し、本学のその永き歴史を恥かしめず、その重き使命を全うし、その高き権威を発揚せしめんことを期待して止まないのである。茲に第二学期の業を始むるに際し、一言を費して一層諸君の奮起を希望する次第である。

この作品は1931年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。