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明治元訳新約聖書 (大正4年)/馬可傳福音書

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新約全書しんやくぜんしょ馬可傳福音書マコでんふくいんしょ

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以下[千七百三]

第一章

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これかみイエスキリスト福音ふくいんはじめなり
預言者よげんしゃしるしてわれなんぢの面前かほのまへ我使わがつかひつかはさんかれなんぢのまへ其道そのみちまうくべし
よべひとこえありいはしゅみちそな其徑そのみちすぢをなほくせよとあるごと
ヨハ子おいてバプテスマをほどこつみゆるしさせんがため悔改くいあらためのバプテスマを宣傳のべつたへたり
ユダヤ全國くにぢゅうおよびエルサレム人々ひとゞゝかれにきたりておのゝゝそのつみいひあらハしヨルダンといふかはにてバプテスマをうく
ヨハ子駱駝らくだ毛衣けごろも着腰きこし皮帯かはおびをつかね蝗蟲いなご野蜜のみつくらへり
かれ宣傳のべつたへけるはわれよりまされるものわがのちきたらんわれかゞみ其履そのくつひもとくにもたら
われみづをもて爾曹なんぢらにバプテスマをほどこしゝがかれ聖霊せいれいをもてバプテスマをほどこすべし
當時そのころイエスガリラヤナザレよりきたヨルダンにてバプテスマをうけ
やがみづよりあがれるとき天開てんわか靈鳩みたまはとごと其上そのうへくだるをたり
十一 又天またてんよりこえありてふなんぢは愛子あいしわがよろこところものなりと

十二 かくみたまただちにイエスゆかしむ
1十三 かれ四十日野しじふにちのをりサタンこゝろみられけものともにをれりてん使等つかひたちこれにつかへ

十四 ヨハ子とらはれしのちイエスガリラヤいたかみくに福音ふくいんつたへいひけるハ
十五 ときみてかみくにちかづけり爾曹悔改なんぢらくいあらためて福音ふくいんしんぜよ

十六 イエスガリラヤみづうみほとりあゆめときシモン其兄弟そのきゃうだいアンデレみづうみあみうてるを彼等かれら漁者すなどりびとなり
十七 イエス彼等かれらいひけるはわれしたが我爾曹われなんぢらひとすなどものとせん
十八 彼等かれらたゞちに其網そのあみすてこれしたがへり
十九 こゝよりすこ進往すゝみゆきゼベダイヤコブとその兄弟きゃうだいヨハ子ふねありあみつくろふを
二十 たゞち彼等かれら召給よびたまひしがば其父そのちちゼベダイ傭人やとひびとともふねのこしかれしたがへり

二一 彼等かれらカペナウ
[千七百四]
いたイエスすなは安息日あんそくにち會堂くわいだういりをしへなししに
二二 人々ひとゞゝそのをしへおどろあへ蓋學者そはがくしゃごとくならず権威けんゐもてものごとをしへたまへバなり
二三 其會堂そのくわいだうけがれたるおにつかれたるひとありて
ニ四 喊叫さけびいひけるはあゝナザレイエス我儕われらなんぢなんかゝはあらんやなんぢきたりて我儕われらほろぼすかわれなんぢハたれなるしるすなハちかみせいなるものなり
二五 イエスこれせめいひけるはこえいだすことなか其處そこいで
二六 けがれたるおにそのひと拘攣ひきつけさせ大声おほごえさけびてかれいでたり
ニ七 衆人ひとゞゝみなおどろ相問あひとふいひけるは是何事これなにごとぞやこれいかなるあたらしきをしへぞや権威けんゐをもてめいじければしたがへり
二八 こゝおいイエス聲名徧きこえあまねガリラヤ四方しはうひろがりぬ


ニ九 彼等かれらやがて会堂くわいだういでヤコブおよヨハ子ともシモンアンデレいへいたりしに
三十 シモン岳母熱しうとめねつやみふしゐければ或人あるひとたゞちにこれイエスつぐ
三一 イエスゆき其手そのてをとりかれおこしければねつたちまちさりかく其婦そのをんなかれらに供事つかへたり
三二 ゆふかたいるとき人人ひとゞゝすべてのやまひわづらへるものおにつかれたるものイエスたづさきた
三三 そのまちこぞりてもんあつまれり
三四 イエス各様さまゞゝやまひわづらへるおほく人々ひとゞゝいや又多またおほくおに逐出おいいだおにものいふことをゆるさゞりき蓋鬼そはおにかれをしりたるによりりてなり


三五 昧爽よあけまへイエスはや起人おきひとなきところにゆき其處そこにて祈禱いのりせり
三六 シモンおよびかれともあり者等ものどもそのあとしたひゆき
三七 かれあひいひけるハ衆人ひとゞゝみななんぢたづ
三八 イエス彼等かれらいひけるはわれをしへ宣傳のべつたふるために爾曹なんぢらとも附近もより郷村むらゝゝゆかわれこれがためきたれバなり
三九 イエスあまねガリラヤくにめぐり其会堂そのかいだうにてをしへ宣且鬼のべかつおに逐出おひいだせり


四十 癩病らいびょうのもの一人ひとりかれにきたりてひざまづねがいひけるハなんぢもし聖意こゝろかなふときハわれきよ爲得なしうべし
四一 イエスあはれみをのべかれつけ我意わがこゝろかなへりきよくなれと
四二 やいなたゞち癩病らいびょうはなれ其人そのひときよまれり
四三-四四 イエスきびしこれいましつゝし
[千七百五]
なにをもひとつぐなかただゆきておの祭司さいし其潔そのきよめられしためにモーセめいぜしところものささげ彼等かれら證據しょうこをなせといひさらしめたり
四五 されどもかれいでゝまづこのことおほいにいひつたえへかたひろめければイエス此後こののちあらハにまちいりがたく獨人たゞひとなきところ居給ゐたまひしが人々四方ひとゞゝしはうよりかれきたれり

第二章

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數日すじつのちイエスまたカペナウンきたりしに
かれいへをることきこえけれバたゞちおほく人々集ひとゞゝつどひきたりもんたつべき塲處ばしょさへもなきほどなりきイエス彼等かれらをしへのぶ
こゝ癱瘋ちゅうぶやみたるもの四人よにんかゝイエスきたれるものありしが
群衆ぐんしゅうによりてちかづきがたかりけれバかれをるところの屋根やね取除とりのぞ癱瘋ちゅうぶひととこのまゝ縋下つりおろせり
イエス其信仰そのしんかう癱瘋ちゅうぶひといひけるはなんぢ罪赦つみゆるされたり
數人すにん學者がくしゃこゝにをりしが心中こゝろのうちおもひけるハ
斯人このひと何故なにゆゑかく惡口あくこういふかみにあらずしてたれつみゆるすことを
イエスたゞち彼等かれら心中こゝろのうちかくごとことろんずるをみづか其心そのこゝろしり彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらなんぞ心中こゝろのうちかゝことろんずる
癱瘋ちゅうぶひとなんぢつみゆるされたりといふおきなんぢとことりゆけいふいづやすき
それひと子地こちにてつみゆるすの権威けんゐあることを爾曹なんぢらしらせんとてつひ癱瘋ちゅうぶひと
十一 われなんぢにつぐおきてとことりなんぢのいへかへれといひけれバ
十二 そのひとたゞちにおきとこをとり衆人ひとゞゝまへにいづ衆人ひとゞゝみなおどろかみあがめていひけるハ我儕われらいまだかくごときことをしことなし


十三 イエスまた海邊うみべゆきしに人々ひとゞゝみなかれきたりければ是等これらをし
十四 これよりすゝみアルパヨレビといふもの税吏みつぎとり役所やくしょけるをわれしたがへといひければかれたちてしたがへり


十五 かくイエスそのいへにてしょくするときおほくの税吏罪みつぎとりつみある人々ひとゞゝイエスおよび弟子でしともせり是等これら者許多ものおほくありてイエスしたがひぬ
十六 學者がくしゃとパリサイのひとかれが税吏みつぎとりおよび
[千七百六]
つみあるひとともしょくするを其弟子そのでしいひけるハなにゆゑ税吏罪みつぎとりつみあるひととも食飮くひのみする
十七 イエスきゝ彼等かれらいひけるハ廉強すこやかなるもの醫者いしゃたすけもとめ唯病たゞやまひあるものこれをもとむわがきたりしハ義人たゞしきひとまねくためにあらつみあるひとまねき悔改くいあらためさせんがためなり


十八 ヨハ子弟子でしおよびパリサイのひとつねに断食だんじきすることありけれバ彼等かれらイエスきたりいひけるハヨハ子弟子でしとパリサイの弟子でし断食だんじきするになんぢ弟子でしなにゆゑ断食だんじきせざる
十九 イエス彼等かれらいひけるハ新郎はなむこ朋友ともだちその新郎はなむこともにをるうち断食だんじきすることをべきかれら新郎はなむこともにをるうち断食だんじきすることを
二十 將來のちかれら新郎はなむことらるゝきたらん其日そのひにハ断食だんじきすべきなり
二一 あたらしききれ舊衣ふるきころもぬひつくるものあらじしかせバ其新そのあらたおぎなへるものふるきほころバして其破そのやぶれかへってあしくなるべし
二二 またあたらしきさけふる革嚢かはぶくろにいるゝものあらじしかせば新酒あたらしきさけ其嚢そのふくろ破裂はりさきさけもれいで革嚢かはぶくろ亦壞またすたるべし新酒あたらしきさけあたらしき革嚢かはぶくろいるべきものなり


二三 さてイエス安息日あんそくにちむぎはたけとほりしに其弟子そのでしあゆみつゝむぎつみはじめけれバ
ニ四 パリサイの人彼ひとかれいひけるハ彼等安息日かれらあんそくにちまじきことをするハ何故なにゆゑ
二五 イエスこたへけるハダビデおよともありものとぼしくしてうゑしときなしたることいまよまざる
二六 すなは祭司さいしをさアビアタルのとき神殿かみのいへいり唯祭司たゞさいしほかくらふまじき供物そなへもののパンをくらひかつともありものにもあたへたり
ニ七 また彼等かれらいひけるは安息日あんそくにちひとためまうけられたるものにしてひと安息日あんそくにちためまうけられたるものあら
二八 されひと安息日あんそくにちにもしゅたるなり

第三章

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イエスまた會堂くわいだういりしに一手枯かたてなへたるひとありけるが
衆人ひとゞゝイエスうったへんとしてかれ此人このひと安息日あんそくにちいやすやいなうかがへり
イエス手枯てなへたるひといひけるハなかたて
また衆人ひとゞゝいひけるハ
[千七百七]
安息日あんそくにちにハよきなすあしきなすいけるをたすくころすといづれをかなすべき彼等黙然かれらもくねんたり
イエスいかりふくみ環視みまわ彼等かれらこゝろ頑硬かたくななるをうれ手枯てなへたるひとなんぢのべよといひけれバかれそののばしゝにすなはほかのごとくいえたり
パリサイのひといでゝ如何いかにしてかイエスころさんとたゞちヘロデともがら相謀あひはかりぬ


イエスその弟子でしとも海邊うみべ退しりぞきしにおほく人々ひとゞゝガリラヤよりかれしたがへりまたユダヤ
エルサレムイドマヤヨルダンむかふまたツロシドンほとりよりおほく人々ひとゞゝイエスなしこときゝかれむらがきた
イエス人々ひと〲群衆ぐんじふよりおしなやまさるゝこと これイエス數多あまた人々ひとゞゝいやしゝによりすべやまひある人々手ひとゞゝてにてかれさわらんとて擁逼おしせまりしがゆゑなり
十一 またけがれたるおにかれを其前そのまへ俯伏ひれふしさけびてなんぢかみなりといひしを
十二 イエス彼等かれらわれあらはすことなかれときびしいましめたり


十三 イエスやまのぼり其意そのこゝろかなところものよびしかばきたりてかれつけ
十四 こゝおい十二人じふににんたておのれともおきまたをしへ宣傳のべつたふためつかは
十五 かつやまひいやおに逐出おひいだすの権威けんゐさづ
十六 すなはシモンペテロなづ
十七 ゼベタイヤコブ其兄弟そのきゃうだいヨハ子この二人ふたりボア子ルゲなづこれとけかみなりなり
十八 またアンデレピリポバルトロマイマタイトマスアルパヨヤコブタッダイカナンシモン
十九 またイスイカリオテノユダこれイエスわたしゝものなり
二十 此等これら者家ものいへいりしにおほく人々ひとゞゝまたきたあつまりけれバしょくするいとまもなかりき
二一 }その親屬しんぞくきゝてかれ狂気きゃうきせりといひこれとらへんとてきた
二二 またエルサレムよりくだれる學者等がくしゃたちかれベルゼブルつかれたり且鬼かつおにかしらよりおに逐出おいいだすなりといへ
二三 イエス彼等かれらたとへいひけるはサタンいかサタン逐出おいいだんや
ニ四 もしくにおのれにもとり分爭わかれあらそハゞ其國立そのくにたつべからず
二五
[千七百八]
またいへおのれにもとり分爭わかれあらそハゞ其家立そのいへたつべからず
二六 もしサタンおのれもとたち分爭わかれあらそハゞかれたつからずかへっをはるなるべし
ニ七 たれにても勇士つよきものいへいり其家具そのかぐうばはんとせバ先勇士まづつよきものしばらざれバうばふことあたハじしばりてのちそのいへうばふべし
二八 われまこと爾曹なんぢらつげひとすべてつみけがところ褻瀆けがしゆるさるべけれど
ニ九 聖霊せいれいけがものかぎりなくゆるさるからずかぎりなき刑罰けいばつあづからん
三十 かくいへるは人々ひとゞゝイエス惡鬼あくきつかれたりといひしがゆゑなり


三一 その兄弟きゃうだいはゝきたりて戸外そとにたちひとつかはしてイエスよばしむ
三二 おほく人々ひとゞゝイエスめぐりしたりしがかれいひけるハなんぢはゝ兄弟戸外きゃうだいそとありなんぢたづ
三三 イエスこたへいひけるハ我母わがはゝわが兄弟きゃうだいたれぞや
三四 かくまはりする人々ひとゞゝ環視みまはしていひけるハ我母わがはゝわが兄弟きゃうだい
三五 それかみむねしたがものこれわが兄弟きゃうだいわが姉妹しまいわがはゝなり

第四章

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イエスまた海邊うみべにて教訓をしへはじめしにおほく人々ひとゞゝかれにあつまりけれバ彼舟かれふねのりすべて人々ひとゞゝうみ沿そふきしたて
2 かれたとへをもておほくこと彼等かれらをしをしへいひけるハ
3 きけ種播たねまくものまかんとていづ
4 まけるとき或種あるたねみちほとりおちしがそらとりきたりてこれくらへり
5 或種あるたねつちうすき磽地いしぢおちしが土深つちふかからねバたゞち萌出はえいでたれど
6 日出ひいでしかバやかなきがゆゑかれたり
7或種あるたねいばらなかおちしがいばらそだちてこれふさぎけれバむすバざりき
8 また或種あるたね沃壤よきちおちしが其苗そのなへはえいでゝはびこむすべることあるひ三十倍或さんじふばいあるひ六十倍ろくじふばいあるひは百倍ひゃくばいせり
9 また彼等かれらいひけるハみゝありてきこゆるものきくべし


10 衆人ひとゞゝをらざりしときイエスかたはらありもの十二弟子じふにでし此譬このたとへとひしかバ
11 イエス彼等かれらいひけるハかみくに奥義おくぎ爾曹なんぢらにハしることをたまへどほかものにハすべたとへもってす
12 これかれらみるときてもきくとききゝてもさとらずこゝろあらためて其罪そのつみゆるしざらんためなり
13 また彼等かれら
[千七百九]
いひけるハ爾曹なんぢらこのたとへしらざるかさら如何いかにしてすべてたとへしることをんや
14 それ播者まくものをしへまくなり
15 ことばまかれてみちほとりおちしものハ人道ひとことばきゝしときたゞちサタンきたり其心そのこゝろまかれたることば奪取うばひとるなり
16 また磽地いしじまかれたるものハ人道ひとことばきくときたゞちよろこびてこれうく
17 されどもおのれなきがゆゑたゞ暫時しばしのみ後道のちみちため患難くわんなんあるひハ迫害くるしみあふときハたちまつまづものなり
18 又棘またいばらなかまかれたるものハひとことバをきけども
19 此世このよ思慮こゝろづかひ貨財たからまどひまた各様さまゞゝ情欲じゃうよくいりきたりてことばふさぐによりつひむすばざるものなり
20 沃壤よきちまかれたるものハ人道ひとことばきゝこれをうけあるひ三十倍さんじふばいあるひハ六十倍ろくじふばいあるひハ百倍ひゃくばいむすものなり

21 また彼等かれらいひけるハともしび持來もちきたりますしたあるひハとこしたおくものあらんやこれ燭臺しょくだいうへおくならず
22 かくれ明瞭あきらかにならざるハなくつゝみあらはれざるものハなし
23 みゝありてきこゆるものきくべし
24 また彼等かれらいひけるハきくところをつゝしめよ爾曹なんぢらはかところはかりをもて爾曹なんぢらはからるべしきゝたる爾曹なんぢらにハなほくはへられん
25 それもてものハなほあたへられ無有者もたぬものもてものをもとらるゝなり

26 またいひけるハかみくに人種ひとたねまくごと
27 日夜起臥にちやおきふしするうちたねはえいでゝ成長そだてども其然そのしかゆゑしら
28 それみづからむすぶものにしてはじめにハなへつぎにいでなかじゅくしたるこくむす
29 すでみのれ穫時かるときいたるによりたゞちかまいれさするなり


30 またいひけるハかみくにいかなぞらなにたとへこれたとへ
31 一粒ひとつぶ芥種からしだねのごとしこれまくときハ百様よろづたねよりちひさけれど
32 すでまき萌出はえいづれば百様よろづ野菜やさいよりハおほきくかつおほいなるえだいだしてそらとりそのかげすむほどになるなり


33 イエス彼等かれら聽得きゝうるところにしたがおほくかゝるたとへをもてをしへ彼等かれらかたれり
34 たとへあらざれバ彼等かれらかたらずイエスその弟子でしともをれるとき彼等かれらことゞゝこれ解聽とききかせり


35 さて
[千七百十]
その夕暮くれがたイエス彼等かれらむかふきしわたれといひけれバ
36 弟子でしたち衆人ひとゞゝかへらせイエスふねをりしをそのまゝこれともわたれり又他またほか小舟こぶねもともにゆけ
37 とき颶風おほかぜおこりなみうちこみてほとんふね滿みつ
38 イエスとものかたにまくらしていねたりしが弟子でしかれのさましていひけるハ我儕われらおぼるゝをもかへりたまハざる
39 イエスおきかぜいまし且海またうみしづまりておだやかになれいひけれバかぜやみておほいなぎたり
40 かく彼等かれらいひけるハ何故なにゆゑかくおそるゝや爾曹なんぢらなんぞしんなき
41 彼等甚かれらはなはだしくおそたがひいひけるハかぜうみさへもしたが是誰これたれなるぞ

第五章

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[1] かれらうみわたりガダラびとつき
2 ふねよりイエスあがれるとき惡鬼あくきつかれたるひとたゞちに墓間はかばよりいでかれあふ
3-4 このひと墓間はかば居處すみかとせり屢次桎梏しばゝゝあしがせくさりをもてつなげどもくさりをうちきり桎梏あしがせ打碎うちくだくによりこれつなぎうるものなく亦誰またたれこれせいうるものなかりき
5 ひるつねやま墓間はかばおい喊叫さけびまたいしをもておのきずつけぬ
6 かれはるかにイエスはしりよりこれはい
7 大聲おほごゑよばゝりけるハ至上神いとたかきかみイエスわれなんぢとなにかゝはあらんや我神われかみよりねがわれくるしむることなか
8 これイエス惡鬼あくきひとよりいでよといひしによりてなり
9 イエスかれなんぢなにとひしにこたへけるハ我儕われらおほきがゆゑ我名わがなレギヨンいふ
10 しきり此土地このとちより我儕われら逐出おひいだなかれとイエスねがひたり
11 ここおほくぶた群山むれやまくさくひゐたりしが
12 すべて惡鬼あくきかれにねがひ我儕われらおくりぶたいらせよといひけれバ
13 イエスたゞち彼等かれらゆるせりけがれたるおにそのひとよりいでぶたいりしかバおほよ二千匹にせんびきほどのむれはげしくかけくだり山坡がけよりうみおちうみおぼれ
14 牧者かふものどもにげゆきて此事このことまちまた郷村むらゝゝつげけれバ衆人其ひとゞゝそのありしことんとていで
15 イエスきたりて惡鬼あくきつかれたるものすなハちレギヨンもち
[千七百十一]
りしひと衣服きものをつけたしかなるこゝろにてけるをおそれあへり
16 此事このことものども惡鬼あくきつかれたりしものこと彼等かれらつげけれバ
17 やがイエス其境そのさかひいでんことをねがひ
18 イエスふねのらんとせしとき惡鬼あくきつかれたりしものともにをらんことをねがひけれども
19 イエスゆるさずしてかれいひけるハなんぢいへかへ親屬しんぞくゆきしゅなんぢなしおほいなることなんぢあはれみしことつげ
20 かれゆきてイエスおのれなしたまへるおほいなることデカポリス言揚いひふらしけれバ衆人ひとゞゝみなおどろきあへり


21 イエスふねのり復海またうみ彼岸かなたわたりしに大勢おほぜい人々彼ひとゞゝかれあつまイエスうみちかくをれり
22 會堂くわいだうつかさヤイロといふひときたりイエス其足元そのあしもとふし
23 切々ひたすらねがひいひけるハわがいとけなき女死むすめしぬばかりになりぬこれすくはためきたりてかれおきたまへさらむすめいくべし
24 イエスかれともゆくとき衆多おほぜい人々彼ひとゞゝかれしたがひておしあへり
25 こゝ十二年血漏じふにねんちろうわづらひたるをんなあり
26 此婦このをんなおほくの醫者いしゃためはなはくるしめられ其所有そのしんだいをもことごとつひやしけれどもなにかひもなくかへっあしかりしが
27 イエスこときゝ群集ぐんじふなかよりかれうしろきたりそのころもさはれり
28 これそのころもにだにさはらバたすかるべしといへバなり
29 かくいづることたゞちにとまりすでやまひいえしと其身そのみおぼえたり
30 イエスみづか能力ちからおのれよりいでたるをしりおほぜいの人々ひとゞゝかへりみていひけるハ我衣わがころもさはりしものたれなる
31 弟子でしかれにいひけるハ群集ぐんじふ人々ひとゞゝなんぢおしあふをわれさはりしものたれぞといひたまふ
32 イエスこのことなせをんなんと環視みまはしけれバ
33 をんなおそれ戦慄おのゝきおのがにせられしことをしりきたりかれまへ俯伏ひれふしことゞゝく實情ありのまゝつぐ
34 イエスかれいひけるハむすめなんぢしんなんぢをすくへ安然あんぜんにしてゆけなんぢのやまひいゆべし


35 イエスこのこといひをるうちに會堂くわいだうつかさいへより人々來ひとゞゝきたりていひけるハなんぢむすめすでにしにたりなんわづらハす
36 イエスたゞち
[千七百十二]
其告そのつぐところことをきゝ會堂くわいだうつかさいひけるハおそるゝなかれたゞしんぜよ
37 イエスペテロヤコブおよびその兄弟きゃうだいヨハ子ほかたれにもともゆくことをゆるさゞりき
38 すで會堂くわいだうつかさいへきたりて人々ひとゞゝ忙亂さわぎいたく哭泣なきさけぶ
39 いり彼等かれらいひけるハなん忙亂さわぎかつなくむすめしねるにあらずたゞいねたるのみ
40 彼等かれらイエス哂笑あざわらイエスすべて人々ひとゞゝいだむすめ父母ちゝはゝとそのしたがへる者等ものどもひきつれむすめふしたるところいり
41 むすめとりこれいひけるハタリタクミこれとけむすめわれなんぢにめいおきよといふなり
42 たゞちむすめおきてあゆめりかれ年十二歳としじふにさいなり彼等かれらはなハだおどろきぬ
43 イエスこのことひとしらするなかれときびしいまし又女またむすめ食物しょくもつあたへよとめいじたり

第六章

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[1] イエスこゝさり故郷ふるさといたりしに其弟子そのでしかれしたがひぬ
2 安息日あんそくにちおよびけれバ會堂くわいだうにてをしへをはじむ衆人ひとゞゝこれをきゝあやしいひけるハ如何いかにして此人このひとかくのごときことあるかたれより此知慧このちゑさづけられて如此かくふしぎなるわざをも其手そのてよりなす
3 かれ木匠たくみあらずやマリアヤコブヨセユダシモン兄弟きゃうだいにして其姉妹そのしまいこゝ我儕われらともあるあらずやつひ人々彼ひとゞゝかれつまづけり
4 イエス彼等かれらいひけるハ預言者よげんしゃ其故郷そのふるさとその親戚しんせきその室家いへほかおいてたふとバれざることなし
5 イエス彼處かしこにて患者わづらふものつけたりかれたゞ數人すにんいやしゝほかふしぎなるわざなすことあたはざりき
6 また彼等かれらしんぜざるをあやしつひ諸郷むらゝゝ經巡へめぐりをしへをなせり


7 イエス十二じふに弟子でしよび彼等かれら二人ふたりづゝつかはさんとしてこれ惡鬼あくき逐出おひいだ権威けんゐさづ
8 またかれらにめいじけるハひとつつゑほかたび用意よういなにをももつなかれ旅袋糧食たびぶくろくひものまたかねをももた
9 たゞくつをはきふたつころもをきるなか
10 また彼等かれらいひけるハ何處いづこにてもひといへいらバそのところさるまでハ其處そこをれ
11 すべ爾曹なんぢらうけずなんぢらにきかざるものにハ其處そこさるとき
[千七百十三]
あかしのため足下あしのしたちりはらわれまことに爾曹なんぢらつげ審判さばきいたらバソドムゴモラ此邑このまちよりもかへっやすかるべし
12 弟子でしたちいで人々ひとゞゝ悔改くひあらたべきことを宣傳のべつた
13 またおほく惡鬼あくき逐出おひいだ又多またおほくやめものあぶらつけいやしぬ


14 イエス名播なひろがりけれバヘロデわうこれをきゝいひけるハバプテスマをほどこしゝヨハ子よりよみがへれるゆゑ奇異ふしぎなるわざをなすなり
15 或人あるひとこれエリアなりといひあるひ往昔いにしへ預言者よげんしゃごと預言者よげんしゃなりといふ
16 ヘロデこれきゝいひけるハこれわが首斬くびきりところヨハ子なりかれよりよみがへりたるなり
17 さきヘロデその兄弟きゃうだいピリポつまヘロデヤことよりひとつかはヨハ子とらへひとやつなげりそはヘロデをんなめとりしを
18 ヨハ子いさめ爾兄弟なんぢきゃうだいつまいるゝよろしからずといへるによりてなり
19 ヘロデヤかれうらみころささんとおもひしかどあたはざりき
20 ヘロデヨハ子たゞしくかつぜんなるひとしりかれうやまかれ保護まもりかれにきゝおほくことおこな且喜かつよろこびてかれきくことをせり
21 かくヘロデその誕生たんじゃうもろゝゝの大臣千人だいじんせんにんかしらおよびガリラヤたふと人々ひとゞゝ享宴ふるまひをなせる機會をりよきいたりけれバ
22 ヘロデヤむすめきたりてまひをなしヘロデ其席そのせきつらなれる人々ひとゞゝたのしましむわうそのむすめいひけるハなににてもわれねがなんぢのぞむところのものわれなんぢにあたふべし
23 又彼またかれおほよなんぢもとむるものハ領分りゃうぶんなかばいたるともなんぢあたへんとちか
24 むすめいでゝ其母そのはゝなにねがふべきいひけれバ母乃はゝすなはちバプテスマのヨハ子くびいへ
25 むすめたゞちにいそわうにきたりねがふてバプテスマのヨハ子くびぼんのせ卽時すみやかわれたまへといふ
26 王甚わうはなはうれへけれどもすでちかひたると同席どうせきものゆゑとをもてこれこばむことをこのま
27 わうたゞちにヨハ子くび携來もちきたれとめいじて兵卒へいそつつかはしけれバかれゆきてひとやおいこれきり
28 其首そのくびぼんにのせ携來もちきたりてむすめあたむすめこれ其母そのはゝあたへたり
29 ヨハ子弟子等でしたちこの
[千七百十四]
こときゝきた其屍そのしかばねとりはかはうむりぬ


30 使徒等しとたちイエスあつまりておこなへることをしへこととをことゞゝかれつぐ
31 イエス彼等かれらいひけるハ爾曹衆なんぢらひとゞゝさけわれともしばら寂寞さびしきところにゆきやすむべし是往來これゆききのものおほくしてしょくするひまなかりしがゆゑなり
32 かれらひと避舟さけふねにて寂寞さびしきところにゆけ
33 其往そのゆく衆人ひとゞゝおほくイエスをしり諸邑むらゝゝより歩行かちにてはし彼等かれらゆかんとするところさきだゆきイエスあつまれり


34 イエスいでおほくひとみる彼等かれら牧者かふものなきひつじごとものなるによりこれあはれ許多さまゞゝことをしへはじめぬ
35 ときすでに暮景くれがたになりけれバ其弟子そのでしかれにきたりいひけるハこゝ寂寞さびしきところにしてとき既晩はやおそ
36 衆人ひとゞゝくらふべきものなきがゆゑ其自そのみづか四周あたり郷村むらざとゆきてパンをもとめんがため彼等かれらさらしめたま
37 イエスこたへけるハ爾曹なんぢらこれにしょくあたへ弟子でしかれにいひけるハ我儕われらゆきて銀二百ぎんにひゃくのパンをかひかれらにあたへくらはしむべき
38 イエス彼等かれらいひけるハパンハ幾何いくつあるゆき彼等かれらみて其數そのかずをしりいつゝのパンとふたつうをありとこた
39 イエスすべてひと組々くみゞゝにして青草あをくさうへすわらしめよとめいじけれバ
40 あるひ百人或ひゃくにんあるひ五十人ごじふにんづゝ列坐ならびざせり
41 イエスそのいつゝのパンとふたつうををとりてんあふしゃしてパンをわり弟子でしあたへ人々ひとゞゝまへおかしむ又二またふたつうを毎人ひとゞゝ分與わけあたへ
42 衆人ひとゞゝみなくらひあき
43 そのパンとうを餘屑くづひろひしに十二じふにかごみちたり
44 パンをくらひたるをとこおよそ五千人ごせんにんなりき


45 たゞちイエスその弟子でししひふねのせむかふのきしなるベテサイダまづわたらしめおのれ衆人ひとゞゝかへらしむ
46 衆人ひとゞゝかへしゝのち祈禱いのりためやまゆけ
47 日暮ひくれふねうみなかありイエスひとおかをれ
48 風逆かぜさからふにより弟子等でしたちふねこぐつかれたるをあかつき四時よじごろイエスうみうへあゆみきたり彼等かれらすぎんとせしに
49 弟子でしそのうみあゆめるを變化へんげものならんとおもさけびたり
50 蓋弟子そはでしみなこれ
[千七百十五]
おそれしがゆゑなりイエスたゞち彼等かれらかたりていひけるハ心安こゝろやすかれわれなりおそるゝことなか

51 つひふねのぼりしかバかぜやみぬ彼等心かれらこゝろうちおどろあやしめることはなはだし 52 これそのこゝろ愚頑にぶきよりてパンの奇跡ふしぎをもさとらざりしなり


53 すでわたりゲ子サレといふいたり舟泊ふながゝりせり
54 彼等舟かれらふねよりいでしにやが人々ひとゞゝイエスしり
55 あまね其四方そのあたりはせゆきやめものとこまゝにてになイエスいま處々ところゞゝ聞出きゝいだしてこれつけ
56 おほよイエスいたるところあるひまちあるひハむらその街市いちばやめものおきかれ其衣そのころもすそにだにさはらせたまへとねがへすなはさはるほどのものハみないえたり

第七章

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[1] パリサイのひと或學者あるがくしゃたちエルサレムよりきたりてイエスまへあつま
2 かれ弟子でしうちきよからざる手即てすなはあらはざるにてパンをしょくするものありしをこれとがめたり
3 そはパリサイのひとユダヤ人々ひとゞゝハみないにしへひと遺傳つたへまもりて其手そのてきよくあらハざれバしょくせず
4 いちよりかへりきたりてあらはざれバ亦食またしょくせずこのほか杯椀鍋さかづきわんなべおよびとこあらふなど多端さまゞゝ遺傳つたへ受守うけまもれり
5 こゝおいてパリサイのひと學者等がくしゃたちイエスとひけるハなんぢ弟子なにゆゑいにしへひと遺傳つたへしたがハずしてあらはざるてパンをしょくする
6 イエスこたへ彼等かれらいひけるハイザヤ僞善者ぎぜんしゃなる爾曹なんぢらさしてよく預言よげんせり其錄そのしるしゝことば此民このたみくちびるにてわれうやまへども其心そのこゝろわれとほざかり
7 ひといましめをしへなしいたづらにわれはいすといへ
8 それなんぢらハかみいましめすてひと遺傳つたへまもれりすなは鍋、杯なべさかづきあらひおほくかくごとことおこな
9 また彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらじつおのれ遺傳つたへまもらんとてよくかみいましめすつものなり
10 モーセいひけるハなんぢ父母ちゝはゝうやま又父またちゝあるひハはゝのゝしものころさるべしと
11 され爾曹なんぢらいふもし人父ひとちゝあるひハはゝむかひなんぢやしなふべきものハコルバンすなは禮物そなへものなりといはつかへずともよし
12 しかしてひと其父そのちゝ
[千七百十六]
あるひハはゝためなにをも行事すること爾曹許なんぢらゆるさ
13 かくなんぢらハ其教そのをしふところ遺傳つたへをもてかみことばむなしうすまたおほく此類このたぐひことおこな


14 イエスまた衆庶ひとゞゝよび彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらみな我言わがことばきゝさと
15 そとよりひといるものハひとけがすことあたハずされひとよりいづるものハひとけがなり
16 きこゆるみゝあるものきくべし


17 イエス衆庶ひとゞゝはなれていへいりしに其弟子そのでしたとへのこゝろとひければ
18 彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらもなほさとらざるかおほよそとよりひといるものゝひとけがあたハざることしらざる
19 そはそのこゝろいらはらいりかはやおつすなハちくらところのものきよまれり
20 又曰またいひけるハひとよりいづるものハ是人これひとけが
21 ひとこゝろよりいづるものハ惡念、姦淫、苟合、兇殺、あくねん、かんいん、こうがふ、きょうさつ
22 盗竊、貪婪、惡慝、詭譎、好色、嫉妒、謗讟、驕傲、狂妄たうせつ、だんらん、あくとく、きけつ、かうしょく、しっと、はうとく、けうがう、きゃうぼうなり
23 是等これら惡行あしきことハみなうちよりいでひとけがすものなり


24 イエスこゝさりツロシドンさかひにゆきいへいりひとしられざらんことねがひしがかくざりき
25 そハ惡鬼あくきつかれたるおさなむすめもてをんなイエスこときゝきた其足下そのあしもとふしたるによりてなり
26 このをんなサイロピニケうまれしギリシャものなりしが惡鬼あくき其女そのむすめより逐出おひいだたまハんことイエスねがへ
27 イエスかれいひけるハ先兒女まづこどもあかしむべし兒女こどものパンをとりいぬなぐるハよからず
28 をんなこたへていひけるハしゅしかりされどもいぬだいしたあり兒女こども遺屑たべくづくらなり
29 イエスをんないひけるハ此言このことばよりかへ惡鬼あくきなんぢむすめよりいでたり
30 をんなそのいへかへりしに惡鬼既あくきすでいでとこむすめふしたるを


31 イエスツロシドンさりデカポリスすぎガリラヤうみいたれり
32 人々聾ひとゞゝつんぼどもるものイエス携來つれきたりて按給つけたまハんことねがひけれバ
33 イエス衆人ひとゞゝはなこれほかつれゆきゆび其耳そのみゝにさしいれ又唾またつばきして其舌そのしたさは
34 且天かつてんあふぎたん其人そのひとむかひてエッパタといふこれをとけひらけよとのなり
35 たゞち其耳そのみゝひらけした
[千七百十七]
すぢゆるみてたゞしものいへり
36 イエスこれひとつぐなかれ彼等かれらいましむれバいましむるほど益 言揚ますゝゝいひふらしぬ
37 衆人ひとゞゝはなハだしくおどろきていひけるハ此人このひとなしところことゞゝくよしあるひハつんぼきこえさせあるひ啞者おふしものいハしめたり

第八章

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[1] 當時そのころあつまれる人々甚ひとゞゝはなはおほかりしがなに食物しょくもつあらざりけれバイエス其弟子そのでしよびいひけるハ
2 われこのおほく人々ひとゞゝあはれすで三日みっかわれとともをりしゆゑいまなにも食物くらふものなし
3 もしうえしまゝ其家そのいへかへさバ途間みちにてなやま其中そのうち遠處とほくよりきたれるものあれバなり
4 その弟子でしかれにこたへけるハ此野こののにて何處いづこよりパンをこの人々ひとゞゝあかしめん
5 イエス彼等かれらとひけるハパン幾何いくつあるやなゝつこた
6 イエス人々ひとゞゝめいじてせしめなゝつのパンをとりしゃこれをわり人々ひとゞゝまへおかしめんがためその弟子でしあたへけれバすなは人々ひとゞゝまへおけ
7 またちひさうを些須わづかばかりもてりこれをもしゅくして人々ひとゞゝまへおけいふ
8 人々ひとゞゝこれをくらひあきその餘屑くづなゝつかごひろへ
9 これくらへものおほそ四千人しせんにんなりすなはイエスこれかへしぬ


10 イエスたゞち其弟子そのでしともふねのりダルマヌタかたゆきしに
11 パリサイのひといでゝかれこゝろみんがためてんよりの休徴しるしもとめてなじりはじむ
12 イエスこゝろうちふか歎息たんそくしていひけるハ此世このよひとなんぞ休徴しるしもとむるやまことわれなんぢらにつげ休徴しるし此世このよひとかならあたへられじ
13 イエス彼等かれらはなれて復舟またふねのりむかふのかたわたれり


14 さて弟子でしパンをたづさふることをわすれたゞひとつのパンのみふねあり
15 イエス彼等かれらいましめていひけるハ戒心こゝろしてパリサイのひと麪酵ぱんだねヘロデ麪酵ぱんだねつゝしめよ
16 弟子でしたがひにろんじていひけるハこれパンをたづさへざりしゆゑならん
17 イエスこれしり彼等かれらいひけるハなんたがひにパンをたづさへざりしことろんずるやいまさとらざるか爾曹なんぢらこゝろなほにぶき
18
[千七百十八]
りてみえざるかみゝありてきこえざるまたおぼえざる
19 我五千人われごせんにんいつゝのパンをわりあたへしときその餘屑くづ幾筐いくかごひろひしやこたへけるハ十二じふになり
20 又四千人またしせんにんななつのパンをわりあたへしときその餘屑くづ幾筐いくかごひろひしやこたへけるハなゝつなり
21 イエス彼等かれらいひけるハなんさとらざる


22 イエスベテサイダいたりけれバ人々瞽者ひとゞゝめしひ携來つれきたりてこれつけたまハんことねがへ
23 イエス瞽者めしひとりむらそと携出つれいでそのつばきしてかれつけとひけるハなにみゆるや
24 瞽者目めしひめあげいひけるハわれこの人々ひとゞゝ歩行あるくみるごと
25 つひイエスまた両手りゃうてかれつけそのあげさせけれバすなはいえ庶物すべてのものあきらかにみえたり
26 イエスかれ其家そのいへかへらせいひけるハ此村このむらいるなかれまたこの村人むらびとにもつぐなか


27 イエスその弟子でしともカイザリヤピリピ諸村むらゝゝへゆく途間みちにて其弟子そのでしとふいひけるハ衆人ひとゞゝわれいひたれとする
28 こたへけるハ或人あるひとハバプテスマのヨハ子或人あるひとエリヤ或人あるひと預言者よげんしゃ一人ひとりなりといへ
29 イエス彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらわれいふたれとするペテロこたへけるハなんぢキリストなり
30 イエス彼等かれらいましめて我事わがことたれにもつぐなかれとめいじたり


31 またひとかならおほく苦難くるしみをうけ長老祭司としよりさいし長學者をさがくしゃどもにすてられ且殺かつころされて三日みっかのちよみがへることを彼等かれらしめはじめたまへり
32 あきらかこれしめたまひしかバペテロイエスひきいさめんとせしに
33 イエス回顧ふりかへりその弟子でしペテロいましいひけるハサタン我後わがうしろ退しりぞなんぢかみことおもはかへっひとことおも


34 衆人ひとゞゝ其弟子そのでしともよび彼等かれらいひけるハわれしたがハんとおもものおのれすてその十字架じふじかおひわれしたが
35 そハ生命いのちまったうせんとするものこれうしなわがため且福音またふくいんため生命いのちうしなものこれべけれバなり
36 もし人全世界ひとせかいぢゅううるとも其生命そのいのちうしなハゞなにえきあらん
37 また人何ひとなにをもて其生命そのいのち
[千七百十九]
かへんや
38 姦惡かんあくなる此世このよおいわれ我道わがことばはづものをバひと亦聖使またきよきつかひともちゝ榮光えいくわうをもてきた時之ときこれはづべし


第九章

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[1] イエスまた彼等かれらいひけるハわれまことに爾曹なんぢらつげこゝたつものゝうちかみくに権威けんゐをもてきたるをみるまでハしなざるものあり


2 さて六日むいかのちイエスペテロヤコブヨハネともなひとさけ高山たかきやまのぼたまひしが彼等かれらまへにて其容貌そのすがたかハり
3 其衣そのころもかゞやきしろきことはなはだしくしてゆきのごとく世上よのなか布漂ぬのさらしかくしろくハ爲能なしあたハざるべし
4 エリヤモーセとも彼等かれらあらはれてイエスかたりをれり
5 ペテロこたへイエスいひけるハラビ我儕われらこゝにをるよしわれらにみついほりつくらたまひとつしゅのためひとつモーセのためひとつエリヤためにせん
6 其謂そのいふところをしらざりしなり彼等かれらいたくおそれしによる
7 かく雲彼等くもかれらおほ聲雲こえくもよりいでいひけるハ愛子あいしなりこれきくべし
8 やが弟子環視でしみまはしけれバイエスおのれほか一人ひとりをもざりき


9 やまくだときイエス彼等かれらめいじてひとよりよみがへまで爾曹なんぢらことひとつぐなかれといへ
10 弟子等でしたちこのことばまもりかつたがひろんいひけるハよりよみがへるといふなにこと
11 彼等かれらイエスとふいひけるハエリヤさききたるべしと學者がくしゃいへるハなにぞや
12 イエスこたへいひけるハエリヤさききたりて萬事ばんじ復振あらたむまたひとついてハ其各様そのさまゞゝ苦難くるしみうけかつ輕慢かろしめらるゝことかきしるされたり
13 されわれなんぢらにつげエリヤすできたりしにかれついしるされたりしごと人々意ひとゞゝこゝろまゝこれあしらへり


14 イエス弟子等でしたちもとにきたりおほく人々ひとゞゝ彼等かれら環圍めぐりかこめると學者がくしゃたちの彼等かれらろんじをりしをたり
15 衆人ひとゞゝたゞちにかれおどろはしりよりてれいをなせり
16 イエス學者がくしゃとひけるハ弟子でし何事なにごとろんずる
17 衆人ひとゞゝのうち一人あるひとこたへ
[千七百二十]
けるハわれものいハぬ惡鬼あくきつかれたる我子わがこなんぢ携來つれきたれり
18 惡鬼あくき憑時つくとき彼傾跌かれなげたふされあわをふきかみ疲勞つかれはつるなりこれを逐出おひいださんことをわれなんぢの弟子でしこひしかど彼等能かれらあたはざりき
19 イエス彼等かれらこたへいひけるハ噫信あゝしんなきなるかないつまでわれなんぢらとともあらんや何時いつまでわれなんぢらをしのばんやかれわれ携來つれきた
20 彼等かれらその携來つれきたりしに惡鬼あくきイエスたちまかれ拘攣ひきつけしむ彼地かれちたふ輾轉こけまろびあわふき
21 イエスそのちゝとひけるハ幾何時いつごろより如此かくなりしやちゝいひけるハ少時をさなきときよりなり
22 惡鬼あくきしばゝゝこれなかあるひハみづなか投入なげいれころさんとせりなんぢもしなすことを我儕われらあはれみてたすけ
23 イエスかれいひけるハなんぢもししんずることしんずるものおいなしあたハざることなし
24 其子そのこちゝたゞちにこえをあげなみだながしていひけるハしゅ我信われしんしんなきをたすけたまへ
25 イエス衆人ひとゞゝ趨集はしりあつまるを惡鬼あくきせめいひけるハおふしにしてつんぼなる惡鬼あくきわれなんぢにめいいでふたゝこれいるなかれ
26 惡鬼あくきさけびておほいかれ拘攣ひきつけしめていでしかバ彼死かれしにたるものごとくなりぬ人人ひとびとこれをすでしねりといふ
27 イエスそのとりおこしけれバかれたてり


28 イエスいへいりしに其弟子そのでしひそかにとひけるハ我儕われらこれを逐出おひいだすことあたはざりしハ何故なにゆゑ
29 イエス彼等かれらいひけるハ此族このたぐひ祈禱いのり断食だんじきあらざれバ逐出おひいだすことあたはざるなり


30 彼等かれらこゝをさりガリラヤすぐこのことイエスひとしるこのまざりき
31 そはその弟子でしをしへひとひとわたされ彼等かれらころされころされてのち第三日みっかめよみがへるべしといひたまふがゆゑなり
32 そのとき弟子等でしたちこのことばさとらず亦問またとふことをおそれたり


33 さてイエスカペナウンいたいへをり弟子でしとひけるハ爾曹途間なんぢらみちにてなにたがひろんぜし
34 弟子黙然でしもくねんたり是途間これみちにてたがひろんたれおほいならんとのあらそひありけれバなり
35 イエスして其十二そのじふによびかれらにいひ
[千七百二十一]
けるハかしらたらんとおもものすべてひとしりへとなりまたすべてのひと使役つかはれびととならん
36 また孩提をさなごとり彼等かれらなかたてこれいだ彼等かれらいひけるハ
37 おほよ我名わがなためかくのごとき孩提をさなご一人ひとりうくものすなはわれうくるなりまたわれをうくものすなはわれうくるにあらわれつかはしゝものうくるなり
38 ヨハ子かれこたへいひけるハ我儕われらしたがハざるものなんぢより惡鬼あくき逐出おひいだせるをしが我儕われらしたがハざるゆゑこれをとゞめたり
39 イエスいひけるハ其人そのひととゞむなかそはわがによりふしぎなるわざおこなひて輕易かるゞゝしくわれ誹得そしりうものハあらじ
40 我儕われらてきたハざるもの我儕われら屬者つくものなり
41 爾曹なんぢらキリスト屬者つくものとして我名わがなため一杯いっぱいみづにても爾曹なんぢらのまするものわれまことに爾曹なんぢらつげ其人そのひとむくいうしなハざるなり
42 またおほよわれしんずる小子ちひさきもの一人ひとりつまづかするものハそのくびひきうすかけられてうみ投入なげいれられんかたそのひとためになほよかるべし
43 なんぢ一手かたてなんぢをつまづかさバこれきりされ兩手りゃうてありて地獄ぢごくすなハちきえざるゆかんよりハ殘缺かたはにて永生いのちいるなんぢためよきことなり
44 彼處かしこいるものゝうじつきずきえず
45 もしなんぢの一足かたあしなんぢをつまづかさバこれきりされ兩足りゃうあしありて地獄ぢごくすなハちきえざる投入なげいれられんよりハあしなへにて永生いのちいるなんぢためよきなり
46 彼處かしこいるものゝうじつきずきえず
47 もしなんぢ一眼かためなんぢをつまづかさバこれぬきいだせ兩眼ありて地獄ぢごく投入なげいれられんよりハ一眼かためにてかみくにいるなんぢためよきなり
48 彼處かしこいるものゝうじつきずきえず
49 そはすべてのひとしほをつくるごともてせられすべて祭物そなへものしほをもてしほつけらる
50 しほよきものなりされしほもし其味そのあぢうしなハゞなにをもてこれあぢつけんや爾曹心なんぢらこゝろうちしほたもまたたがひにむつやはらぐべし

第十章

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[1] イエスこゝさりヨルダンむかふユダヤさかひうちきたりしにおほく人々ひとゞゝまたかれあつまりけれ
[千七百二十二]
つねごと彼等かれら教誨をしへなしたまへり
2 パリサイの人來ひときたりかれこゝろとひけるハひとそのつまいだすハよき
3 こたへいひけるハモーセ爾曹なんぢらなにめいぜし
4 彼等曰かれらいひけるハモーセ離縁状りえんじょう書與かきあたへてこれいだすことをゆるせり
5 イエスこたへ彼等かれらいひけるハモーセ爾曹なんぢらこゝろつれなきにより此命このおきてなしたるなり
6 され開闢かいびゃくのはじめ神人かみひと男女なんにょつくたまへり
7 是故このゆゑひとハその父母ちゝはゝはなれそのつまあい
8 二人ふたりのもの一體いったいなるべしされふたつにハあら一體いったいなり
9 是故このゆゑかみそはたまへるものひとこれをはなすべからず


10 いへあり弟子等でしたちまた此事このこととひけれバ
11 イエス彼等かれらいひけるハおほよ其妻そのつまいだしてほかをんなめともの其妻そのつまたいして姦淫かんいんおこなふなり
12 またをんなもし其夫そのをっといだしてほかとつがバ此婦このをんな姦淫かんいんおこなふなり


13 イエスさはられんがため人々孩提ひとゞゝをさなご携來つれきたりけれバ弟子等でしたちその携來つれきたれるものいましめたり
14 イエスこれいかりふくみかれらにいひけるハ孩提をさなごわれきたらせよ彼等かれらいましむなかかみくにをるものハかくごとものなり
15 まことわれなんぢらにつげおほよ孩提をさなごごとくにかみくにうけざるものこれいることをざるなり
16 すなは彼等かれらいだきをそのうへのせこれをしゅくせり


17 イエスみちいでけるに一人ひとりはしりきたりてひざまづとひけるハ善師よきしわれかぎりなき生命いのちつぐためになになすべき
18 イエスかれいひけるハなんわれよきいふ一人ひとりほか善者よきものハなしすなはかみなり
19 いましめなんぢしるところなり姦淫かんいんするなかころすなかれぬすむなかれいつはりあかしたつなか拐騙あざむきとるなかれなんぢちゝはゝうやま
20 こたへいひけるハこれみないとけなきよりまもれるものなり
21 イエスかれいつくしいひけるハなんぢなほひとつかくゆきて其所有そのもちものをうり貧者まづしきものほどこさらてんおいたからあらんしかしてきた十字架じふじかとりわれしたが
22 かれこのことばよりかなしうれへさりかれおほいなる産業さんげふもてものなれバなり
23 イエス環視みまわしてその弟子でしいひけるハ
[千七百二十三]
たからもてものかみくにいる如何いかかたいかな
24 弟子でしこのことばおどろけりイエスまたこたへて彼等かれらいひけるハ小子こどもたからたのものかみくにいる如何いかかたいかな
25 富者とめるものかみくにいるよりハ駱駝らくだはりあな穿とほるハかへっやす
26 弟子でしたちいたおどろたがひいひけるハさらたれすくひうくべき
27 イエス彼等かれらいひけるハ是人これひとにはあたはざるところなれどかみおいてしからずかみあたはざるところなけれバなり
28 こゝおいペテロかれいひけるハ我儕一切われらいっさいすてなんぢしたがへり
29 イエスこたへいひけるハまこと爾曹なんぢらつげわれ福音ふくいんため家宅いへあるひハ兄弟きゃうだいあるひハ姉妹しまいあるひハちゝあるひハはゝあるひハつまあるひハ兒女こどもあるひハ田疇たはたすつもの
30 このにて百倍ひゃくばひうけざるものなしすなは家宅、兄弟、姉妹、母、兒女、田疇いへ、きゃうだい、しまい、はゝ、こども、たはた迫害くるしみともうけまたのちにハかぎりなきいのちうけ
31 されおほくさきなるものあとになりあとなるものさきになるべし


32 さて彼等かれらエルサレムのぼ途間みちすがらイエス弟子でしさきだゆきけれバ彼等かれらおどろきかつおそれてしたがへりイエス十二じふにともなひてまさおのれおよばんとすること彼等かれら告給つげたまひけるハ
33 我儕われらエルサレムのぼひと祭司さいしをさ學者等がくしゃたちわたされん彼等かれらこれを死罪しざいさだ異邦人いはうじんわた
34 またこれを嘲弄てうろうむちうつばきかつこれをころさんかく第三日みっかめよみがへるべし


35 ゼベダイヤコブヨハ子イエスきたりていひけるハ我儕われらもとむことねがはくハ我儕われらなしたまへ
36 彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらなになさことねがふや
37 彼等かれらいひけるハ爾榮なんぢさかえんとき我儕われら一人ひとり其右そのみぎ一人ひとり其左そのひだりせしめよ
38 イエス彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらねがところしら爾曹なんぢらわがのむところのさかづきのみわがうくところのバプテスマを受得うけうるや
39 彼等かれらいひけるハよくすべしイエス彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢらじつのむところのさかづきのみまたうくところのバプテスマをうくべし
40 され右左みぎひだりすることあたふべきにあらずたゞ
[千七百二十四]
そなへられたるものあたへらるべし
41 十人じふにん弟子でしこれをきゝヤコブヨハ子いきどほれり
42 イエス彼等かれらよびいひけるハ異邦人いはうじんきみみゆもの其民そのたみをさめまたおほいなるものどもは彼等かれらうへけんとるこれ爾曹なんぢらしるところなり
43 され爾曹なんぢらうちにてはしかべからず爾曹なんぢらのうちおほいならんとおももの爾曹なんぢらつかはるゝものとならん
44 また爾曹なんぢらのうちかしらたらんとおもものすべてひとしもべとならん
45 蓋人そはひときたるもひとつかためあらかへっひとつかはれまたおほくのひとかはりそのいのちあたへあがなひとならんためなり


46 かく彼等かれらエリコいたりイエスその弟子でしおほいなる群衆ぐんじふ人々ひとゞゝともエリコいづときテマイなるバルテマイといふ瞽者路めしひみちかたはらしてこひゐけるが
47 ナザレイエスなりときゝよばゝいひけるはダビデイエスわれあはれたま
48 おほく人々ひとゞゝこれに緘黙しづまれいましめけれどいよゝゝよバゝりてダビデわれあはれたまへといひけれバ
49 イエス立止たちどまりてかれよべめいじけれバ人々瞽者ひとゞゝめしひよびかれいひけるはこゝろやすんぜよたてイエスなんぢよぶ
50 瞽者めしひその表衣うはぎすてたちてイエスきたれり
51 イエスこたへかれいひけるはなんぢわれになにせられんとねがふや瞽者めしひいひけるはしゅみえなんことねが
52 イエスかれいひけるはゆけなんぢの信仰しんかうなんぢをすくへりたゞちかれみることをイエスしたがひてみちゆけ

第十一章

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[1] かれら橄欖山かんらんざんベテパゲベタニヤいたりエルサレムちかづけるときイエス二人ふたり弟子でしつかはさんとして
2 彼等いひけるは爾曹對面なんぢらたいめんむらゆけかしこにいらやがひといまのらざるところつなげる驢馬ろばみるべしそれとき牽來ひききた
3 もしたれ爾曹なんぢらなにゆゑしかするといふものあらバしゅようなりといへさらバたゞちそれこゝおくるべし
4 彼等かれらゆきてもんそと岐路ちまたつなげる驢馬ろばこれときけれバ
5 其處そこたて或人あるひとかれらにいひけるは此驢馬このろばとき如何いかにする
6 [千七百二十五]
弟子イエスめいぜしごといひしかバつひゆるしたり
7 弟子驢馬でしろばイエスひききたりておのころも其上そのうへおきければイエスこれにのれ
8 人々ひとゞゝおほくは其衣そのころも路上みちしきあるひはえだきり路上みちしき
9 かつまへにゆきあとしたが人々呼ひとゞゝよばはいひけるはホザナよしゅよりきたものさいはひなり
10 しゅよりきた我儕われらちゝなるダビデくにさいはひなり至高處いとたかきところにホザナよ


11 イエスエルサレムいた聖殿みやいりことゞゝくみまハしときすでにくれおよびけれバ十二じふにともベタニヤ出往いでゆけ


12 明日あくるひかれらベタニヤよりいでときイエスうゑたり
13 はるかある無花果いちじくてそのなにあらんとてきたりしにほかなにもみえざりき是無花果樹これいちじくのきときあらざれバなり
14 イエスこのむかひいまよりのち永久いつまでなんぢくらひとあらざれといふ弟子でしこれをきけ


15 彼等かれらエルサレムいたイエス殿みやいりてそのうちにをる賣買うりかひするもの殿みやより逐出おひいだ兌銀者りゃうがへするもの案鴿だいはと鬻者うるもの椅子こしかけたふ
16 かつ器具うつはもの殿みやとほることをゆるさず
17 また彼等かれらをしへいひけるは我室わがいへ萬國ばんこくひと祈禱いのりいへとなへらるべしとしるされたるにあらずしかるに爾曹なんぢらこれ盗賊ぬすびととなせり
18 學者がくしゃ祭司さいしをさこれをきゝ如何いかにしてかイエスほろぼさんとはかりしがかれおそれたり蓋人々そはひとゞゝみな其教そのをしへおどろきたればなり


19 くれてイエス城邑みやこ出行いでゆけ
20 翌朝あくるあさかれら無花果いちじくすぐときそのよりことゞゝかれたるを
21 ペテロ憶出おもひいでイエスいひけるハラビのろひところ無花果樹いちじくかれたり
22 イエスこたへ彼等かれらいひけるハかみしんぜよ
23 まことわれなんぢらにつげたれにても其心そのこゝろうたがことなくそのいふところことばかならなるべしとしん此山このやまうつりうみいれといはゞ其言そのことごとなるべし
24 是故このゆゑわれなんぢらにつげおほよ祈禱いのりときそのねがところのものハかならべしとしんぜバかならべし
25 またなんぢらたち祈禱いのりするときもしひとうらむことあら
[千七百二十六]
これ蓋天そはてんいま爾曹なんぢらちゝ爾曹なんぢらまたそのあやまちゆるされんためなり
26 もし爾曹免なんぢらゆるさずバてんいま爾曹なんぢらちゝまたなんぢらのあやまちゆるたまハじ


27 彼等かれらまたエルサレムいたイエス殿みやあるけるとき祭司さいし長學者をさがくしゃおよび長老等としよりどもきたりて
28 かれいひけるハなに権威けんゐ此事このことなす此事このことなすべきためなんぢ此権威このけんゐあたへしや
29 イエスこたへ彼等かれらいひけるハわれ一言ひとことなんぢらにとはわれこたへさらわれなんぢらになに権威けんゐこれなすといふことつぐべし
30 ヨハ子のバプテスマハてんよりかひとよりかわれこたへ
31 彼等かれらたがひにろんいひけるハてんよりといはさら何故彼なにゆゑかれしんぜざるかといは
32 もしひとよりといは彼等民かれらたみおそれたるなりそはたみみなヨハ子預言者よげんしゃせしよる
33 つひこたへしらずといふイエスこたへいひけるハわれなに権威けんゐこれなす爾曹なんぢらかたらじ

第十二章

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[1] イエスたとへをもて彼等かれらかたれり或人葡萄園あるひとぶどうばたけつくまがきめぐら酒榨さかぶねをほりものみをたて農夫のうふ租與かしほかくにゆきしが
2 ときいたりけれバ葡萄園ぶどうばたけ収取うけとらためしもべ農夫のうふもとつかはしけるに
3 農夫等のうふどもこれをとら打撲うちたゝきてむなしかへらしめたり
4 またほかしもべ彼等かれらつかはしゝに農夫等のうふどもこれをいしにてうちかうべきずつけはづかしめてかへらしむ
5 またほかのものつかはしゝにこれをもころせりまたほかにおほつかはししにあるひうちあるひハころしぬ
6 こゝ一人ひとり愛子あいしありけるがこのわがうやまふならんといひつひ其子そのこつかはしゝに
7 農夫等のうふらたがひにいひけるハ嗣子あとつぎなりいでこれをころさんさら産業さんげふ我儕われらものとならん
8 すなはとらへてこれころ葡萄園ぶどうばたけそとすてたり
9 しから葡萄園ぶどうばたけ主人あるじなにをなすべきかかれきたりて農夫等のうふども打滅うちほろぼ葡萄園ぶどうばたけほかひとあたふべし
10 工匠いへつくりすてたるいしいへすみ首石おやいしなれ
11 これしゅなしたまへることにして我儕われらあやしとするところなりとしるされしをいまよまざる