明治元訳新約聖書(大正4年)/馬可傳福音書 (2)

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第十二章[編集]

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12 彼等かれらこの
[千七百二十七] たとへ己等おのれらさしかたれりとしりイエスとらへんとせしかども衆人ひとゞゝおそれイエスさりゆけり


13 彼等かれらイエス其言そのことばよりおとしいれんとしてパリサイのひとヘロデともがらうちより數人すにんつかはせり
14 つかはされし者等ものどもイエスもときたいひけるハなんぢまことなるものなり又誰またたれにもかたよらざること我儕われらしるそハかたちよりひととらまことかみみちをしふれバなりみつぎカイザルをさむるハよきいなわれらをさむべきかをさめざるべき
15 イエスそのまことならざるをしり彼等かれらいひけるハなんわれこゝろむるやデナリを携來もちきたりてわれみせ
16 かれら携來もちきたりけれバイエス彼等かれらいひけるハ此像このかたちしるしたれこたへカイザルなりといふ
17 イエスいひけるハカイザルものカイザルかへ又神またかみものかみかへすべし彼等かれらこれをあやしとせり


18 復生よみがへりなしといひなせるサドカイのひときたりてイエスとひけるハ
19 我儕われらモーセ書遣かきおけるにハひと兄弟きゃうだいもしなくしてつまのこしなバその兄弟きゃうだいこのつまめとり兄弟きゃうだいあとたつべしと
20 こゝ七人しちにん兄弟きゃうだいありしが長子妻あにつまをめとりなくしてしに
21 第二だいにものこれをめとりまたなくしてしに
22 第三だいさんもまたしか七人しちにんみなこれめとりたれどなくつひにハ此婦このをんなしね
23 復生よみがへりときかれらよみがへらバ此婦このをんなたれつまなるべきか蓋七人そはしちにんみなこれめとりたれバなり
24 イエスこたへ彼等かれらいひけるハ爾曹なんぢら聖書せいしょかみちからをもしらざるによりあやまれるならず
25 それよりよみがへときめとらとつがずてんにある使者等つかひたちごと
26 しにものよみがへことつきてハモーセ書棘中しょしばまきかみかれにかたりわれアブラハムかみイサクかみヤコブかみなりといひたまひしを爾曹讀なんぢらよまざる
27 かみしにものかみあらいけものかみなり爾曹大なんぢらおほいあやまれり


28 學者がくしゃ一人ひとりかれらの議論ぎろんきゝイエスよくこれにこたへしをしりきたりかれとひけるハ諸誡すべてのいましめのうちいづかしらなる
29 イエスかれこたへけるハ諸誡すべてのいましめかしらイスラエル
[千七百二十八] よしゅなる我儕われらかみすなはひとつしゅなり
30 なんぢこゝろつく精神せいしんつくこゝろつくちからつくしゅなるなんぢかみあいすべし是誡これいましめかしらなり
31 第二だいにまたこれにおなおのれごとなんぢとなりあいすべしこれよりおほいなるいましめなし
32 學者がくしゃイエスいひけるハよいかな爾神なんぢかみすなはひとつにしてほかかみなしといひしハまことなり
33 またこゝろつく智慧ちえつく精神せいしんつくちからつくしてこれあいまたおのれのごととなりあいするハすべて燔祭はんさい禮物そなへものよりもまさるなり
34 イエスかれ道理ことわりしれこたへこれいひけるハ爾神なんぢかみくによりとほからずこののちあへイエス問者とふものなかりき


35 イエス殿みやあり教誨をしへなせときかれらにこたへいひけるハなん學者がくしゃキリストダビデといふ
36 それダビデ聖霊せいれいかんじてみづからいふしゅわがしゅいひけるハわれなんぢのてきなんぢ足凳あしだいとなすまで我右わがみぎせよ
37 如此かくダビデみづかかれしゅとなへたりされ如何いか其裔そのこならんやおほく人々喜ひとゞゝよろこびてイエスきくことをせり


38 イエスをしへをなせるときかれらにいひけるハなが衣服ころもてあるき市上まちにてひと問安あいさつ
39 會堂くわいだう高座筵席かうざふるまひ上座かみざこのみ
40 また嫠婦やもめいへのみいつハりてながいのりをする學者がくしゃ謹防つゝしめ彼等かれらのさばかるゝこともっとおも


41 イエス賽銭さいせんはこむかひ人々ひとゞゝぜにはこいるるをたまひしにおほく富者とめるものおほ投入なげいれたり
42 一人ひとりまづし嫠婦やもめきたりてレプタふたつ投入なげい四厘よりんほどにあたれり
43 イエスその弟子よび彼等かれらいひけるハまことわれなんぢらにつげはこ投入なげいれすべて人々ひとゞゝよりも此貧このまづし嫠婦やもめおほ投入なげいれたり
44 そハ彼等かれらみなそのあまれるところいれこのをんなハその不足ともしきところよりそのすべての所有もちものすなハち全業ぜんげふことゞゝいれたれバなり


第十三章[編集]

[1] イエス聖殿みやよりいでけれバ一人ひとり弟子でしかれにいひけるハたまへ此石このいしこの殿宇いへいか
[千七百二十九] にさかんならず
2 イエスこたへいひけるハ爾曹なんぢらこのおほいなる殿宇いへみるひとついしいしうへくづされずしてハのこら
3 イエス橄欖山かんらんざんにて殿みやむかたまひしにペテロヨハ子アンデレひそかとひけるハ
4 いづれときこのことあるやまたすべて此事このことならとき如何いかなるしるしあるや我儕われらつげたまへ
5 イエスこたへ彼等かれらいひけるハひとあざむかれざるやうつつしめよ
6 そはおほくのひとわが冒來おかしきたわれキリストなりといひおほくひとあざむくべし
7 爾曹戰なんぢらいくさいくさ風聲うはさきくときおそるゝなか是等これらことハみなあるべきなりしかれども末期をはりいまいたらず
8 たみおこりたみをせめくにくにせめまた随在ところゞゝゝ地震ぢしんあり饑饉きゝん變亂みだれあり是等これら苦難なやみはじめなり
9 爾曹なんぢらみづからつつしめよそはなんぢら集議所しふぎしょわたされ又會堂またくわいだうにてむちうたれ且證かつあかしなさんため我事わがことよりつかさおよびわうまへ曳立ひきたてらるべし
10 しかして福音ふくいんハまづ萬民ばんみん宣傳のべつたへざるを
11 ひとなんぢらを曳解ひきわたさバ以前まへかたよりなにいはんとはかりまた思煩おもひわづらなかたゞなんぢらそのときたまところこといふべしそはものいふもの爾曹なんぢらあら聖霊せいれいなり
12 兄弟きゃうだい兄弟きゃうだいわたちゝわた亦子またこハその父母ちゝはゝさからひてこれしなしめ
13 またなんぢらハ我名わがなよりすべてひとにくまるべしされをはりまでしのものすくはるゝことを
14 預言者よげんしゃダニエルいひところ殘暴あらすにくむべきものゝたつべからざるところたつバ(讀者よむものよくおもふべし)其時そのときユダヤにをるものやまのがれよ
15 屋上やのうへにをるものいへくだなか又物またものとらんとて其家そのいへいるなかれ
16 にをるもの其衣服そのころもとらんとてかへなか
17 其日そのひにハはらめもののまするをんなわざはひなるかな
18 なんぢらふゆにぐることをまぬかれんためいの
19 其日そのひ患難なやみあらんかくごと患難なやみかみもの創造つくりはじめたまひし開闢かいびゃくよりいまいたるまであらざりき亦後またのちにもあら
20 もししゅその減少すくなくたまはずバ一人ひとりだにすくはるゝものなしされしゅえらびたまへるところえらばれしものため其日そのひ減少すくなく
[千七百三十] したまふべし
21 其時そのときもしキリストこゝにありかしこあり爾曹なんぢらにいふものあるともしんずるなか
22 そハにせキリスト僞預言者にせよげんしゃおこりて休徴しるし奇能ふしぎなわざおこなえらばれたるものをもあざむくことをあざむくべけれバなり
23 なんぢらつゝしめ我預われあらかじめ爾曹なんぢらことゞゝこれつぐ
24 厥時そのときこの患難なやみののちくらつきひかりうしな
25 てんほしハおちてんいきほふるふべし
26 そのとき人々ひとゞゝひとおほいなる権威けんゐ榮光えいくわうくもうちあらはきたるを
27 またそのときひとその使者等つかひたちつかはしてはてよりてんはてまで四方しはうより其選そのえらばれしものあつむべし
28 それなんぢら無花果樹いちじくよりたとへまなべそのえだすでにやはらかにしてめぐめバなつちかきしる
29 かくごと爾曹なんぢらすべ是等これらことときちかく門口かどぐちいたるとしれ
30 われまこと爾曹なんぢらつげ是等これらことことゞゝくなるまでハ此民このたみうせざるべし
31 天地てんちうせされ我言わがことばうせ
32 其日そのひそのとき知者しるものたゞわがちゝのみなりてんにある使者つかひたれ知者しるものなし


33 此日このひいづれのとききたるしらざれバ爾曹なんぢらつゝしみてさま祈禱いのりせよ
34 それひと遠行たびだちせんとして其權そのけん僕等しもべどもゆだおのゝゝなすべきことさづ又閽者またかどもりおこたらずまもれとめいじていへをさるひとごと
35 是故このゆゑ爾曹なんぢらおこたらずしてまも蓋家そはいへ主人あるじあるひハゆうべあるひハ夜半よなかあるひハ鷄鳴時にはとりなくころあるひハ早晨よあけかへるかをしらざれバなり
36 おそらくハ不意おもはざるとききたりて爾曹なんぢらねむれるを
37 われおこたらずしてまもれと爾曹なんぢらつぐるハすなはすべてひとつぐるなり


第十四章[編集]

[1] さて逾越即すぎこしすなは除酵節たねいれぬぱんのいはひ二日前ふつかまへ祭司さいしをさ學者がくしゃたち詭計たばかりイエスとらころさんとし
2 いひけるハまつりにハなすべからずおそらくハたみうちらんおこらん


3 イエスベタニヤ癩病人シモンいへにてしょくたまへるときある婦蠟石をんならうせきうつは價貴あたひたかきナルドの香膏あぶらもり携來もちきた
[千七百三十一] 其盒そのうつはやぶイエスかうべあぶらそゝぎたり
4 或人々互あるひとゞゝたがひいかりふくみいひけるハ此膏このあぶらついやすハ何故なにゆゑぞや
5 これうら三百有奇さんびゃくあまりのデナリを貧者まづしきものほどこすことをんと此婦このをんな言咎いひとが
6 イエスいひけるハかれかゝはなかなん此婦このをんななやますやわれ善事よきことおこなへるなり
7 貧者まづしきものつね爾曹なんぢらともあれ爾曹意なんぢらこゝろまかせて彼等かれらたすくることをべしわれつね爾曹なんぢらともあら
8 このをんなちからつくしてなせそはあらかじめわれはうむためわがあぶらそゝぎしなり
9 われまことに爾曹なんぢらつげあめしたいづくにても此福音このふくいん宣傳のべつたへらるゝところにハ此婦このをんななしことまたその記念かたみため言傳いひつたへらるべし
10 さて十二じふに一人ひとりなるイスカリオテユダイエスわたさんとて祭司さいしをさゆきしに
11 彼等かれらこれをきゝよろこ銀子ぎんすあたへんとやくせしかバユダイエスわたさんとをりうかゞへり


12 除酵節たねいれぬぱんのいはひはじめすなハち逾越すぎこしこひつじころすべき日弟子ひでしイエスいひけるハ逾越すぎこししょく何處いづかたゆき我儕備われらそなふべき
13 イエス二人ふたり弟子でしつかはさんとしてこれいひけるハ京城みやこゆけさらバみづいれたるかめもてひとあふべしこれしたが
14 そのいるところのいへ主人あるじいふ我弟子われでしとも逾越すぎこししょくすべき客房きゃくざしきいづこあるやといへ
15 さすれバ彼陳設かれそなへたるおほいなる樓房にかいざしき爾曹なんぢらみすべし我儕われらため其處そこそなへ
16 弟子でしゆきて京城みやこいりしにイエスいひたまへるごとあひしかバ逾越すぎこしそなへをなせり


17 日暮ひくれイエス十二じふに弟子でしともきたれり
18 かれらせきついしょくするときイエスいひけるハまことわれなんぢらにつげわれともしょくする爾曹なんぢらのうち一人ひとりわれをわたすべし
19 彼等憂かれらうれひおのゝゝイエス言出いひいでけるハわれなるまたほか一人ひとりいひけるハわれなる
20 イエスこたへいひけるハ十二じふにうち一人ひとりわれとともさらつく者是ものこれなり
21 ひとおのれついしるされたるごとゆかされひとわたものわざはひなるかなそのひとうまれざりしならバさいはひなりしなら
22 かれ
[千七百三十二] らしょくするときイエスパンをとりしゅくこれさきかれらにあたへいひけるハとりくらこれ我身わがみなり
23 またさかづきとりしゃ彼等かれらあたへけれバみなこのさかづきよりのめ
24 イエスいひけるハこれ新約しんやく我血わがちにしておほくひとためながところのものなり
25 われまことに爾曹なんぢらつげいまよりのちあたらしきものをかみくににてのままでハ葡萄ぶどうにてつくれるものをのま


26 かれらうたうたひ橄欖山かんらんざんゆけ
27 イエス彼等かれらいひけるハ今夜こよひなんぢらみなわれについつまづかんそはわれ牧者かふものうたそのとき綿羊散めんようちるべしとしるされたれバなり
28 されわれよみがへりてのちなんぢらにさきだガリラヤゆくべし
29 ペテロイエスいひけるハ假令たとひみなつまづくともわれしからず
30 イエスかれいひけるハわれまことになんぢつげ今日けふこの夜鷄二次鳴よにはとりふたゝびなくまへに爾三次なんぢみたびわれをしらずといは
31 かれまた力言くりかへしいひけるハわれなんぢともしぬともなんぢしらずといは弟子でしみな如此かくいへり
32 かく彼等かれらゲツセマ子といふところいたイエスその弟子でしいひけるハいのあいだこゝにせよ
33 つひペテロヤコブヨハ子ともなひゆきはなはだしくうれかなしみもよほ
34 彼等かれらいひけるハ我心わがこゝろいたくうれへしぬるばかりなり爾曹なんぢらこゝにまちさまをれ
35 イエスすこ進往すゝみゆきにふしいのいひけるハもしかなはゞ此時このときさらしめたま
36 またいひけるハアバちゝなんぢおいてハすべて事能ことあたはざるなし此杯このさかづきわれよりとりたまへされおもところなさんとするにあらなんぢおもところまかたま
37 イエスきたりて彼等かれらいねたるをペテロいひけるハシモンなんぢいねたるか一時ひとゝきさまをることあたはざる
38 誘惑まどひいらぬやうさましかついのれその心神たましひねがふなれど肉體にくたいよわきなり
39 またゆきて同言おなじことばいひいのれり
40 かへりてまたかれらのいねたるを彼等かれらその目倦めつかれたるなりイエスなにこたべきやをしらざりき
41 三次みたびきたりて彼等かれらいひけるハいまいねやす充分じゅうぶんなりときいたれりひと罪人つみびとわたさる
[千七百三十三] るなり
42 おき我儕われらゆくべしわれわた者近ものちかづけり


43 かくいへるときたゞちに十二じふに一人ひとりなるユダつるぎぼうとをもちたるおほく人々ひとゞゝとも祭司さいし長學者をさがくしゃおよび長老としよりもとよりきた
44 イエス賣者わたすものかれらにしるしをなしていひけるハ接吻くちつけするものそれなりこれとらへしか曳去ひきつれ
45 すなはきたりてイエスちかよりラビラビといひ接吻くちつけせり
46 人々手ひとゞゝてイエスかけとら
47 かたはらたてもの一人刃ひとりつるぎぬき祭司さいしをさしもべうちそのみゝきれ
48 イエスこたへ彼等かれらいひけるハつるぎぼうとをもち盗賊ぬすびととらふごとくしてわれとらへきた
49 われ日々ひゞなんぢらととも殿みやにてをしへしに爾曹なんぢらわれをとらへざりきされ聖書せいしょかなはせんがためなり
50 弟子でしみなイエスはなれ奔去にげさり
51 一少者あるわかきものそのにたゞあさ夜具やぐまとひイエスしたがひたりしが逮捕とりて者等ものどもこれをとらへけれバ
52 かれあさ夜具やぐをすてはだかにて逃去のがれされ


53 衆人ひとゞゝイエス祭司さいしをさ携往つれゆきけるに祭司さいし長長老をさとしよりおよび學者等がくしゃたちことゞゝくかれところあつまれり
54 ペテロとほはなれてイエスしたが祭司さいしをさにはうちまで入僕いりしもべともしてあたゝまりをれ
55 祭司さいしをさおよび議員ぎゐんみなイエスころさんとしてあかしもとむれども
56 おほく人々イエスいつはりあかし言出いひいだせども其證そのあかしあハず
57 或人々あるひとゞゝたちていつはりあかし言出いひいだしけるハ
58 かれつくりたる此聖殿このみやこぼ三日みっかうちつくらざるべつ殿みやたてんといひしを我儕われらきけ
59 如此かくいひしが其證そのあかしまたあは
60 祭司さいし長中をさなかたちイエスとひいひけるハ爾答なんぢこたふことなきこの人々ひとゞゝなんぢたつ證據しょうこ如何いかに
61 イエス黙然もくねんとしてなにこたへざりけれバ祭司さいしをさまたかれとひいひけるハなんぢほむべきものキリストなる
62 イエスいひけるハしかひと子大權こちからみぎてんくもなかあらはきたるを爾曹なんぢらみるべし
63 こゝおい祭司さいしをさそのころもさきいひけるハ我儕われらなんぞまたほかに證據しょうこもとめんや
64 その褻瀆けがしたること
[千七百三十四] ハ爾曹なんぢらきけところなり爾曹如何なんぢらいかおもふや彼等擧かれらこぞりイエスあたるべきものさだめたり
65 或者あるものかれつばきまたそのかほおほこぶしにてたゝきいひけるハ預言よげんせよ亦僕等またしもべどもひらにてかれうて
66 ペテロ下庭したにはありしに祭司さいしをさのあるしもめきたりて
67 其火そのひあたゝまりをるをつらゝゝかれいひけるハなんぢナザレイエスともあり
68 ペテロうけがハずしていひけるハわれこれをしらまたなんぢがいふところのこと識得さとりえざるなりかく庭門にはくちいでけれバ鷄鳴にはとりなき
69 そのしもめかれをかたはらたてものまたいひけるハ此人このひともかのともがら一人ひとりなり
70 ペテロまたうけがハず少頃しばらくしてかたはらたてものまたペテロいひけるハ爾誠なんぢまことともがら一人ひとりなり蓋爾そはなんぢガリラヤひとなり其方言そのくになまりこれにあへ
71 こゝおいペテロちかひ我神われかみたゝりうくるとも爾曹なんぢらいふそのひとわれしらざるなりいひしが
72 このとき鷄二次鳴にはとりふたたびなきけれバペテロイエス鷄二次にはとりふたたびなくまへ三次我みたびわれしらずといはんといひたまひしこと憶起おもひいだまたこれを思反おもひかへして哭悲なきかなしめり


第十五章[編集]

[1] 平旦よあけおよたゞち祭司さいし長長老學者をさとしよりがくしゃたちすべて議員ぎゐんともはかりイエスしば曳携ひきつれピラトわたせり
2 ピラトかれとひけるハなんぢユダヤびとわうなるやイエスこたへけるハなんぢいへごと
3 祭司さいし長多端をさおほくのことをもてかれうった
4 ピラトまたイエスとふいひけるハなにこたへざるか彼等かれらなんぢについてあかしたてしこと幾何いかばかりぞ
5 ピラトあやしするまでにイエスなにをもこたへざりき
6 さてこの節筵まつりにハ彼等かれらねがひまかせて一人ひとり囚人めしうどゆるすのれいなり
7 ときバラバいへものありおのれとも謀叛むほんせしとうおなじつながたりしが彼等かれらハその謀叛むほんのときひところしゝ者等ものどもなり
8 人々聲ひとゞゝこゑあげよばゝ恒例いつもごとくせんことねがへ
9 ピラト彼等かれらこたへいひけるハユダヤびとわう爾曹なんぢらゆるさんことのぞ
[千七百三十五] や
10 これピラト祭司さいし長等をさたちねたみよりイエスわたしたりとしれバなり
11 祭司さいし長民をさたみどもにバラバゆるさんことねがへすゝ
12 ピラトまたこたへ彼等かれらいひけるハさらユダヤびとわう爾曹なんぢらとなふものにハなになさことをなんぢらのぞむや
13 彼等かれらまたさけびてこれ十字架じふじかつけよといふ
14 ピラト彼等かれらいひけるハかれなんの悪事あくじなししや彼等かれらますゝゝさけびてこれ十字架じふじかつけよといふ
15 ピラトたみよろこびをとらんとしてバラバ彼等かれらゆるイエスむちうちてこれ十字架じふじかつけためわたせり
16 兵卒等へいそつどもこれを公廳やくしょつれゆき全營くみぢゅう呼集よびあつ
17 かれむらさきうはぎをきせいばらにてかんむりあみかむらしめたり
18 かくいひけるハユダヤびと王安わうやすかれ
19 またよし其首そのかうべたゝきかつつばきひざまづきてはいしぬ
20 嘲弄てうろうをはりむらさきころもをはぎもところもをきせて十字架じふじかつけんとて曳往ひきゆきしが
21 アレキサンデルルフちゝなるクレ子シモンいへるもの田間いなかよりきたりて其處そのところ經過とほりかゝりけれバしひこれイエス十字架じふじかおはせたり
22 イエスゴルゴダとけすなは髑髏されかうべいへところ携來つれきた
23 没薬もつやくさけまじへのませんとしたりしにこれうけざりき
24 イエス十字架じふじかつけしのちなにとらんとくじとりてその衣服ころもわかてり
25 あさ第九時だいくじイエス十字架じふじかつけ
26 その罪標すてふだユダヤびとわうかきつく
27 二人ふたり盗賊ぬすびとかれととも一人ひとり其右一人そのみぎひとり其左そのひだり十字架じふじかつけらる
28 これ聖書せいしょかれ罪人つみびとともかぞへられたりといひしにかなへ
29 往來ゆきゝものイエスのゝしくびふりいひけるハ噫聖殿あゝみやこぼちこれ三日みっかたつもの
30 自己みづからすくひ十字架じふじかおり
31 祭司さいし長學者等をさがくしゃどもおなじ嘲弄てうろうしてたがひいひけるハひとすくひ自己みづからすくあたは
32 イスラエルわうキリスト今十字架いまじふじかよりくだるべしさら我儕見われらみこれしんぜんまたともに十字架じふじかつけられたる者共ものどもかれのゝしれり
33 第十二時だいじふにじより三時さんじいたるまであまねのうへくらくなりぬ
34 第三時だいさんじイエス大聲おほごゑ
[千七百三十六] よばはりエリ、エリ、ラマ、サバクタニといふこれをとけ吾神わがかみわがかみなんぞわれすてたまふいへるなり
35 かたはたらにたちたるもののうち或人あるひとこれをきゝかれエリヤよぶなりといふ
36 一人ひとりはしりゆき海綿うみわたをとりふくまこれよしつけかれのましめいひけるハまてエリヤきたりてかれすくふやいなこゝろむべし


37 イエスおほいなるこえいだし氣絶いきたつ
38 殿みや幔上まくうへよりしたまでさけふたつなれ
39 イエスむかひたちたる百夫ひゃくにんかしらかくよばは氣絶いきたえしをいひけるハまこと此人このひとかみ子也こなり


40 またはるかのぞみゐたるをんなありし其中そのなかありものマグダラマリアおよび年少ちひさきヤコブヨセはゝなるマリアまたサロメなり
41 彼等かれらイエスガリラヤたまひしときこれにしたがつかへ者等ものどもなりまたこのほかにもかれともエルサレムのぼりしおほくをんなゐたりき


42 是日このひ備節日そなへびにて安息日あんそくにちまへなりしゆゑ
43 日暮ひくるるときたふと議員ぎゐんなるアリマタヤヨセフいへものきたれり此人このひとかみくにのぞめものなりかれはゞからずピラトゆきイエスしかばねこひたり
44 ピラトイエスすでしねるをあやし百人ひゃくにんかしらよびかれしにてよりときたるやいなやをとふ
45 百夫ひゃくにんかしらよりきゝこれをしりしかばねヨセフあた
46 ヨセフ枲布ぬの買求かひもとしかしてイエス取下とりおろこれをその枲布ぬのにてつゝいはほりたるはかにおきいしはかもんまろばおけ
47 マグダラマリアおよびヨセはゝなるマリア其屍そのしかばねおきところたり

第十六章[編集]

[1] 安息日過あんそくにちすぎマグダラマリアヤコブはゝなるマリアおよびサロメ香科かうもつかひとゝのへイエスぬらんとてきたれり
2 七日なぬかはじめいとはやいづころかれらはかきた
3 たがひいひけるハたれ我儕われらためいしはかもんよりまろばとるものあらんかこれそのいしはなはだ巨大おほいなれバなり
4 かく彼等目かれらめあぐれバいしすでまろびあるを
5 はかいりしに白衣しろきころもをきたる少者わかきものみぎかたせるをおどろ
[千七百三十七] きあやしめり
6 少者わかきものかれらにいひけるハおどろあやしなか爾曹なんぢら十字架じふじかつけられしナザレイエスたづかれよみがへりてこゝをらかれおきところ
7 かつゆきて其弟子そのでしペテロつげかれ爾曹なんぢらさきだちてガリラヤゆけ爾曹なんぢらかしこにてかれみるべしすなはそのなんぢらにいひしがごと
8 彼等かれらいでゝはかよりはしれり且戰慄かつおののきかつおどろ亦一言またひとことをもひとかたらざりき是懼これおそれしがゆゑなり

9 イエス七日なぬかはじめよあけごろよみがへりてまずマグダラマリアあらはさきイエスかれよりなゝつ惡鬼あくき逐出おひいだせり
10 イエスともありもの哭哀なきかなしめるとき此婦このをんなきたりて是等これらことつぐ
11 彼等かれらイエスいきをんなたまひしことをきゝしがしんぜざりき
12 此後このゝちかれらの中二人うちふたり者鄕村ものゐなかゆきけるがみちゆくときイエスかはりたるかたちにて彼等かれらあらは
13 この二人ふたりものゆきてほか弟子等でしたちつげけれどもまたこれをもしんぜざりき


14 またその後十一のちじふいち弟子しょくしをるときあらはれて彼等かれらしんなきと其心そのこゝろにぶきとをいましたまへりこれかれらイエスよみがへたまへるのちそれものいふところをしんぜらりきゆゑなり
15 イエス彼等かれらいひけるハあまね世界せかいめぐりすべてひと福音ふくいん宣傳のべつたへ
16 しんじてバプテスマをうくものすくはしんぜざるものつみさだめらるゝなり
17 しんずるものにハごと奇跡しるししたがふべし我名わがなより惡鬼あくき逐出おいいだ異邦ことくに方言ことばをいひ
18 またへびとらどくのむともがいなく又手またてやまひものつけなバすなはいえ


19 かくしゅ彼等かれらかたりしのちてんあげられかみみぎしぬ
20 弟子でしたちあまね福音ふくいん宣傳のべつたしゅまたかれらにちからあは其從そのしたがところ奇跡しるしによりてみちかたうしたまへりアメン



新約全書馬可傳福音書 終