後鑑/後鑑凡例
後鑑第一篇
後鑑凡例
一武家の記錄其體凡そ二樣に過ず。保元平治物語。平家物語。盛衰記等は戰記なり。東鑑。花營三代記等は日記なり。戰記は軍陣爭鬪を詳にして日件を略す。日記は日用恒儀を主とすれば戰爭を次にす。今編輯する所は東鑑の後を繼で。室町殿歷世の事を記すれば。其體もまた東鑑に倣はざるを得ず。但彼書は當時の編纂にいで。これは追輯に係れば。必しも同じからざる事あらむ。文に臨み事により。其宜を量て取捨すべし。
一卷首題するに某將軍の記を以てし。某年某月に始り某月に終るといふことを注記し。また提頭して某年干支を揭げ。一層下して某月とし。其次は日次にして某日某事を冒記し。原書を引て次第に附載す。たとへば今修する所の文は綱にして。引所の原書は目といふものゝ如し。
一事蹟の月ありて日なきは。其月の終に是月云々として一條を別行す。又年ありて月のしれざる事は。卷末に是年云々としてその事をいだす。もし又諸書に異同ある歟。あるひは誤謬の類は。斷案を加へて是を辨ず。
一朝家の御事は受禪。卽位。立后。立坊等の大儀は。是を擧るといへども。朝家にのみ限りし節會儀注等はのせず。但義滿。義教の二公。天皇元服の理髮及び三節會の内辨を役せられ。義持公大甞會御禊の供奉。義政公八幡放生會の上卿に候せられし類をはじめとして。すべて幕府にわたりし事は。全く朝家の儀といへども。其事を委記して參見に備ふ。
一管領四職の補任生卒及び奉行。頭人。問注所。政所等の諸有司。其他各國大名の事蹟しるべきかぎりは。各書譜牒より遍く搜り廣く索めて是を擧ぐ。
一義量。義尚二公の薨後に。勝定慈照の兩將軍。老退を以て幕政を執行ありし間は。義持將軍後記。義政將軍後記として。義教。義植二公の任幕に接す。義植公復職の後もおなじ樣なり。
一義榮將軍三好松永等が爲に擁立せられしを以て。室町將軍の代數に入れざる論もあれど。この朝臣將軍宣下ありしは。まさしく御湯殿上日記にも見えてまがふべくもなし。且この朝臣を除きなば。光源院殿弑せられし後。靈陽院殿の任幕まで一年が程の事蹟は誰に屬すべき。依ていま義榮將軍の記を立て。その間の事を係記す。
一義昭公出走の後は。將軍の宣旨を蒙ておはしけれども全く空名にて。織田。豐臣二家の事をその記に係べきに非れば。出走までを日次にして正記とし。其後卒年までの事蹟は連記して附見す。
一每代將軍の事蹟群書に雜出して。日月の知れざるもの。又は事の體本編に載せかぬる類は。附錄として別卷に載す。又本編に記せしも事のさまによりては。附錄に載せざるを得ず。これらみな兩所に出して其事を詳にす。義政。義持の二公は前記に附し。義植公は後記に附す。
一南北合和の前南朝の御事も。室町殿に關係せし類は漏さずといへども。全く南山のみの事は附載するに及ばず。
一關東幕府の事も。基氏卿の開府より持氏卿の敗亡まで。四世の間の事はいふまでもなし。其後古河。堀越。小弓および兩上杉の事に至るまで。その大要を記して。東陲の治亂興亡をしらしむ。
一西國の事も鎭西探題の廢置沿革を主として。その盛衰興替必しも幕府に關係せざる事といへども。略記して月日の下に出す。其他の各國も是に同じ。これ室町殿兵馬の權を掌握せられければ。中世以來政令天下に行れずといへども。天下の諸大名は元よりその管轄する所なればなり。
一天變地妖はさらなり。神怪寄異の事もその時正しく筆記せしは。舊に遵て是を擧ぐ。すべて室町殿の事蹟。湮晦して傳らざる事多ければ。少しも引據となるべきは。網羅して漏さゞる所なり。
一義滿將軍このかた明國に贈りし書翰。及び彼より答へしもの。其他朝鮮。琉球等の往復にいたるまで。必ず備載して鄰交の顚末を詳にす。
一五山名僧高緇夢窓。虎關以下。春屋。義堂。絶海。橫川。村庵。瑞溪等。その出處進退幕府に關係する事少からざれば。方外の徒といへども是を載す。
一引書は幾種を限らずといへども。まづその大略は。尊氏。義詮二公の事蹟は太平記。梅松論。保曆間記等にて大體を觀るに足れり。其後は花營三代記。齋藤親基記。蜷川親元記。同親俊記。大館常興記等をもて正記とし。慈氏日工集。臥雲日件錄。季瓊日錄のごときは。僧徒の記なれども。幕府にあづかる事多ければ。揀取して採用す。多門院日記。大乘院舊記もまた同じ。
一室町殿代々府を京師に開かれしゆゑ。搢紳家の日記に其事蹟の散見するもの。朝家の事を記すと相半せり。殊に薩戒記。建内記は昵近衆の記なれば。一々引用に足れり。かの正記とする花營三代記等より遙に詳悉せり。其他も數十部に下らず。此編第一の引據は家記をもて主とす。
一太平記をはじめ明德。應永。嘉吉。應仁。長祿。寬正諸記及び足利季世記。室町殿日記の類。はた各家の記祿も正しきものは採用す。但軍記の例慣にて。無用の事を冗記せるは略節に從ふ。
一日記、戰記の外第一考據とすべきは古文書なり。其年月日を署せしものは全載し。年月不知。又は寺社領證文。本領安堵狀等の瑣屑の事は必しも擧ず。
一五山僧徒の詩文集は蕉堅稿。翰林胡蘆集をはじめ。幕府に涉る事あるものは。悉く引用す。語錄の如きもおなじ。
一式目追加。武政軌範等の室町家の令條を載しもの。年月に隨て著錄す。一代の辭令を觀せしめんが爲なり。
一伊勢。小笠原。武田の家々にて弓馬の禮節を記せし書の内に。室町殿の事實散見するもの少からず。是また拾取して正記の闕を補ふ所なり。