平成12(ワ)386,2561

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  • 損害賠償請求本訴事件,損害賠償請求反訴事件
  • 平成12(ワ)386,2561
  • 裁判官 中山節子

主文[編集]

  • 一 被告は原告に対し金一八六万五六五六円及びこれに対する平成一〇年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  • 二 原告のその余の請求を棄却する。
  • 三 反訴被告は反訴原告に対し金六九万一四六八円及びこれに対する平成一〇年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  • 四 反訴原告のその余の請求を棄却する。
  • 五 訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを三分し、その一を被告(反訴原告)の、その余を原告(反訴被告)の負担とする。
  • 六 この判決は主文第一、第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由[編集]

第一 請求[編集]

(本訴)
  • 一 被告は原告に対し金八九七万一六一七円及びこれに対する平成一〇年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  • 二 訴訟費用は被告の負担とする。
  • 三 仮執行宣言
(反訴)
  • 一 反訴被告は反訴原告に対し金九四万六〇五〇円及びこれに対する平成一〇年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  • 二 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
  • 三 仮執行宣言

第二 事案の概要[編集]

  • 一 本件は、交通整理の行われていない交差点に向かって直角方向に交差する道路上をそれぞれ自転車で進入してきた原告(反訴被告、以下「原告」という。)と被告(反訴原告、以下「被告」という。)が、同交差点内で衝突し、それぞれ負傷したことから、原告は本訴により治療費、休業損害等を、被告は反訴により後遺障害による損害を除く治療費等をお互いに損害賠償として請求したものである。
  • 二 争点
    • (1) 事故の態様
    • (2) 交通整理の行われていない交差点で自転車同士が衝突した場合の過失割合
    • (3) 競輪選手の逸失利益の算定方法
  • 三 当事者の主張
(原告の主張)
  • (1) 事故の発生
    • ア 日時 平成一〇年一〇月一一日(日)一二時三〇分ころ
    • イ 場所 東京都青梅市今寺四丁目二二番地先路上
      •  事故発生箇所は、原告の進行方向が両側に歩道のある歩道も含めた幅員が八メートルの道路、被告のそれが六メートルの道路が交わる信号機のない交差点(以下「本件交差点」という。)であり、左右の見通しが悪い。また、原告の進行道路は本件交差点にむかって緩やかな下り坂になっており、被告の進行道路には交差点手前に一時停止の標識と停止線が表示されている。
    • ウ 事故の態様(争点(1))
      •  原告は、競輪選手の街道練習専用自転車に乗車し、頭を上げた前傾姿勢で、即座に止まれる程度の速さである時速約二〇キロメートルで走行し、上記幅員八メートルの道路の歩道端から八〇センチから一二〇センチメートルほど離れた車道上を南から北方向に進行して本件交差点にさしかかり、まさに交差点に進入しようとした際、被告が自転車で立ちこぎ(サドルから腰を浮かして力を入れてこぐこと。)をしながら原告の左側交差道路から右側方向に向かって、交差点内に高速で飛び出してきたため、よける間もなく、原告の自転車の前輪部分が被告の自転車の前かご付近に衝突し、その衝撃により双方ともその場に転倒した。
  • (2) 双方の負傷
    •  原告は、本件事故により頸椎捻挫の傷害を負い、被告は後頭部のひび割れ骨折の傷害を負った。
  • (3) 被告の過失及び過失割合(争点(2))
    • ア 被告は本件交差点で右折予定であったところ、本件交差点は信号機が設置されておらず見通しが悪いうえ、原告が走行中の道路が優先道路であり被告の進行方向には一時停止の標識が設置されていたのであるから、右折予定の自転車の運転者としては、道路左側を走行し、交差点手前で一時停止をし、左右の安全を確認してから交差点に進入し、交差点内では徐行しつつ交差点の側端に沿って進行すべき義務があった。しかるに原告は、駅での待ち合わせ時間に遅れたために急いでいたことから、上記各義務に反し、道路右側を走行し、交差点手前で一時停止せず、左右の安全を確認することなく高速で交差点に進入し、被告の自転車を原告の自転車に激突させたものであって、被告には一時停止違反、右折方法違反、原告に対する走行妨害などの重大な過失があった。原告は、被告の侵入態様が上記のとおりであったため、避けることができなかったものである。
    • イ 過失相殺 一〇パーセント
      •  本件は自転車同士の衝突事故であるが、自動車同士の衝突事故例を準用すると上記道路状況よりして基本の過失割合は被告が八〇パーセント、原告が二〇パーセントとなるが、上記(1)ウ、(3)アのとおり、被告には重大な過失があるから、過失割合は被告が九〇パーセント、原告が一〇パーセントとするのが相当である。
  • (4) 原告の損害(争点(3))
    •  原告の損害は、以下のアからエの合計九〇三万五一三〇円に前記(3)イの過失割合をかけた八一三万一六一七円に、オの弁護士費用を加えた合計八九七万一六一七円である。
    • ア 自転車修理代        一八万二〇一七円
    • イ 通院医療費         三七万一一八〇円
      •  (平成一〇年一〇月一一日から平成一一年七月一五日までの分)
    • ウ 逸失利益         七二三万一九三三円
      •  原告は、社団法人日本競輪選手会に属する競輪選手であり、本件事故当時最上級のS級に属しており、本件事故前の平成一〇年七月から同年一〇月までの三ヶ月間には五四〇万二六〇〇円のレース賞金を獲得していたが、本件事故により合計七二三万一九三三円の得べかりし利益を失った。
        • (ア) 原告は本件事故後、熊本で開催されたレース一場所全部を欠場した。上記三ヶ月間の一場所平均獲得賞金は九〇万〇四二三円であったから、上記欠場により、同額の得べかりし利益を失った。
        • (イ) 原告は、本件事故による上記頸椎捻挫の傷害のため、事故後は成績が下落し、平成一〇年一〇月から平成一一年七月までの二三場所(合計六七レース)の獲得賞金額は一三七六万八七〇〇円(一レース平均獲得賞金二〇万五五〇〇円)にとどまり、本件事故前のそれに比べて一レースあたり九万四五〇〇円、六七レース分総額六三三万一五〇〇円の得べかりし利益を失った。
    • エ 通院慰謝料    一二五万円
      •  上記の九ヶ月間の通院に対する慰謝料である。
      • したがって、原告の損害額は九〇三万五一三〇円となる。
    • オ 弁護士費用     八四万円
      •  上記アからエまでの合計に過失相殺をした八一三万一六一七円の一割八〇万円に消費税四万円を加えたものである。
(被告の主張)
  • (1) 事故の発生
    • ア 原告の主張(1)ア、イは認める。
    • イ 本件事故の態様
      •  原告の主張(1)ウのうち、原告の走行車両が競輪選手の競技用自転車であることは認めるが、その余は否認する。以下のとおりである。
      •  被告は、自転車に乗って本件交差点にさしかかり、本件交差点手前の道路右側に駐車車両があったことから、いったん道路左側を走行し、交差点手前の停止線で徐行しながら道路中央あたりから交差点に入った。
      •  一方原告は、歩道ぎりぎりの車道部分を競輪選手の競技用自転車に乗車し競輪の練習走行として下り坂を加速しつつ直進し、背中を丸め頭を下にした競走走行姿勢のまま時速二〇キロメートルを超える速度で本件交差点内に進入し、原告の左方から徐行して交差点内に進入していた被告の自転車の中央部(フレーム、チェーンカバー、サドル部分)に突っ込んで衝突させ、原告の競技用ヘルメットを被告の顔面右側に激突させた。被告はその衝撃で自転車からとばされ、アスファルトの路面に頭を叩きつけ、左後頭部を強打した。
  • (2) 被告の負傷
    •  被告は、本件事故により、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、頭部外傷の重症を負った。
  • (3) 過失
    •  上記(1)イのとおり、原告は、背中を丸め頭を下げた競走走行姿勢のまま衝突したもので、前方不注視の過失があった。また、下り坂を加速走行していたことから、速度超過の過失もあった。
    •  一方被告は、他の走行車両の有無を窺いながら徐行して交差点に進入したが、原告が高速で走行してきたため、よけるまもなく激突されたものである。
    •  自転車同士の衝突事故の過失割合については、自動車対自動車、自動車対単車の事故と異なり、一般的基準が確立しておらず、個別的に対応するほかない。これは、①自転車は人間の足の延長と考えられていること、②自転車に乗るには格別免許を要せず、実際、子供や高齢者も利用していること、③自転車に乗る者は、他者に被害を与えないということよりむしろ被害者の立場に立つことを前提にしていること、等が実情であるところから、自転車に乗る者に要求される規範は、加害行為を行わないことよりも被害を回避することに主眼が置かれているからと思われる。したがって、自動車対自動車、自動車対単車の場合の過失割合基準を準用することは相当ではない。
    •  本件においては、被告が未成年の女子高生で通常の自転車を日常的方法で使用していたのに対し、原告はS級のプロの競輪選手であり競走用自転車で練習走行していたものであって、両者の間には、使用していた自転車の走行速度、走行能力に差異があり、現に危険性も異なり、運転技術、回避技術にも著しい開きがある。
    •  本件に既成の過失割合を準用するとしても、上記差異からすれば、両者の基本的過失割合として①「自動車対自転車」の基準を準用しても差し支えない。少なくとも、両者の相対的関係は「自動車対単車」の差異より大きいといえるから、②「自動車対単車」の基準より被告に酷にすべきではない。
    •  本件の過失割合は、上記①の基準によれば基本割合として、原告六〇パーセント、被告四〇パーセントとなるが、原告の著しい過失(前方不注視)を加えると原告七〇パーセント、被告三〇パーセントとなる。
    •  また、上記②の基準によれば、基本割合として、原告四五パーセント、被告五五パーセントとなるが、同様に原告の著しい過失(前方不注視)を加えると原告五五パーセント、被告四五パーセントとなる。
    •  結局、過失割合は原告七〇パーセント、被告三〇パーセントとするのが相当であるが、少なくとも被告の過失割合が四五パーセントを超えるべきではない。
    •  また、本件につき直接諸事情を考慮して過失割合を決定するとしても、上記自転車の実情に基づく基本構造及び原告と被告の差異を重視すべきであり、いずれにせよ、原告の過失が五割を下回ることはない。
  • (4) 原告の損害について(争点(3))
    • ア 治療費について
      •  原告主張の治療費のうち、事故直後二回にわたる医療機関に対する支払い(合計一万二一五〇円)は認めるが、その余はすべてマッサージ等の費用であるから、本件事故との因果関係を否認する。
      •  イ 通院慰謝料について
        •  上記アの通院三日間についての慰謝料二万円程度を認め、その余は争う。
    • ウ 逸失利益について
      •  原告の主張(4)ウのうち、(ア)については、本件事故と欠場との因果関係、欠場と賞金が獲得できなかったこととの因果関係をいずれも争う。
        •  (イ)については、成績低下の事実を争う。競輪選手として好不調の範囲である。また、頸椎捻挫と成績低下との因果関係を争う。
  • (5) 被告の損害(反訴請求原因)        九四万六〇五〇円
    •  下記アからクの合計一一三万七二一五円に上記(3)の過失割合を乗じたものに、ケを加算して算定した。
    • ア 治療費(被告の自己負担分)    八万一六七五円
    • イ 入院付添費(入院九日間)     五万四〇〇〇円
    • ウ 入院雑費             一万一七〇〇円
    • エ 通院交通費(電車、バス利用)     二二二〇円
    • オ 入院付添交通費          一万三三二〇円
    • カ 慰謝料                 九一万円
      •  入院期間を平成一〇年一〇月一一日から同年一一月二一日までとし、重傷増額三〇パーセントとして算出した。
    • キ 物損           五万八〇〇〇円
      •   自転車             五万円
      •   PHS           八〇〇〇円
      •   ク 文書(診断書)料    六三〇〇円
      •   ケ 弁護士費用       一五万円
    •  なお、被告の後遺障害は未だ症状固定には至っていないので、本件反訴請求においては後遺障害による損害賠償請求をしていない。

第三 判断[編集]

  • 一 争点(1)(事故の態様)について
    • (1) 事故の発生の日時、場所(原告の主張(1)ア、イ)、本件事故が自転車同士の衝突事故であることについては当事者間に争いがない。
    • (2) 事故の態様
      • ア 証拠(甲四、五、一五、二一、乙五、原告被告各本人)によれば、以下の事実が認められる。
        •  被告は、自宅からJR小作駅に向かう予定で、本件交差点の西方南側にある自宅を出て西側から本件交差点に向かったが、交差点の手前右側に駐車車両があったため、いったん道路の中央より左寄りに出て、一時停止線付近で徐行し(ただし一時停止はしなかった。)、やや前傾姿勢をとって交差する南北道路の交通の有無を窺いながら、道路中央付近から交差点に進入し、右折しようとして進路を右側に(南側)に取りかけたところ、右前方(南側)から北進してくる原告の自転車を認めた。一方原告は、ヘルメットを着用して競輪選手の街道練習専用自転車に乗車し、南北方向の下り坂の西側歩道端から一メートル程の車道上を前傾姿勢で北進していたが、進路前方に右折しつつ進行してくる被告の自転車を認めた。原告被告とも相手方を認めたのが衝突直前であったため、両者ともに停止や進路変更の措置をとらないまま進行し、直進中の原告自転車の前輪が斜め方向に進行してきた被告の自転車の前かご付近に衝突し、原告のヘルメットが被告の右頬にあたり、被告は倒れざま体が自転車から離れてアスファルト路面に叩きつけられ、左側後頭部を強打した。原告も被告に衝突した後前に回転した後、被告の自転車とは別の場所に転倒した。
      • イ 双方とも、衝突直前の速度について、お互いに相手が高速で走行していた旨主張し、また原告は被告が立ちこぎをしていたとも主張する。
        •  原告の速さについては、原告自身時速二〇キロメートル程度はあったことを自認しているから、少なくとも同程度の速さで走行していたと認められる。一方、被告については、速さについては証拠上明らかでなく、立ちこぎについても、これに沿う原告の供述部分があるが、原告のヘルメットが被告の顔面にあたったとの上記認定の事実にてらすと原告の上記主張は不自然であるから採用せず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
        •  また、原告は被告が被告の進行方向の右側を走行し、交差点南西角から飛び出してきた旨主張し、衝突場所及び態様を図示した書面として甲四を提出する。しかし、証拠(原告本人)によれば、同号証は原告の指示内容に基づき、原告の父親が作成したことが認められるが、原告自身、同指示の基礎となった原告の記憶は漠然としていた旨供述しており、被告が同図面作成に全く関与していないことを合わせると、同号証は原告の上記主張を証するに足りず、他に同主張を証するに足りる証拠はない。
  • 二 争点(2)(過失)について
    • (1) 本件は自転車同士の衝突事故である。自転車同士の事故には自動車ないし単車と自動車、単車、自転車、歩行者との事故のような過失割合についての一般的基準がないが、自転車(軽車両)も道路上を通行する以上、自転車の運転者は、事故の発生を防止するため、法規に則り安全確認を旨として走行すべきであるから、自転車の特質や危険性に鑑み、相応の注意義務を負担していることは当然である。
      •  そこで、まず、自転車同士の事故につき、他の事故類型の準用ができるかをみる。
      •  自動車や単車については、運転免許を要するほか、交通法規により走行方法や優先順位について規準が定められ、お互いに定められた規準に従うことが期待されている。過失割合は、この規準を事故が発生した場合の帰責割合としてあらわしたものにほかならない。
      •  自動車や単車はその性能や機能からして当然高速走行を前提にしており、重量ともあいまって、衝突事故を生じた場合は、相手方や自身に損害が生じる危険が高く、しかも制御可能性に限界がある(「車は急には止まれない。」)。そのため、自動車や単車については、免許制度を採って法規や運転技術の教育を経て一定以上の知識と技能を修得した者のみに運転を許すことにし、交通整理、道路の優劣も含め、この規範を周知徹底することにより、安全かつ円滑な交通の獲得維持を図ろうとしているものである。自動車ないし単車にかかる過失割合についての一般的基準は、各車両や歩行者の特質に基づき、それぞれの相対的な危険性や結果回避可能性などを考慮して、上記交通法規を事故が生じた場合の過失割合として具体的に表したものである。
      •  しかるところ、自転車は、その重量や機能からして自動車や単車に比して容易に制御でき、他者と衝突した場合に相手方に与える衝撃や外力もはるかに少ない。また、自転車が自動車や単車と衝突した場合には、自転車自身の速度があり転倒や巻き込まれを生ずる場合も少なくないことから、歩行者が自動車等に衝突した場合と比べて、むしろ被害が増大することが多い。そのため、自転車の注意義務や過失は、加害者としての過失が問題にされることは少なく、被害者的立場から過失相殺として考慮されるのが多いことは、被告主張のとおりである。
      •  以上の、自転車と自動車ないし単車との相違よりすれば、自動車、単車の機能や危険性を前提として定められた過失割合の一般的基準を自転車同士の事故に対しそのまま適用ないし準用するのは相当でないというべきである。
    • (2) 本件における両者の過失について検討する
      •  原告についてみると、原告は、上記認定のとおり、時速少なくとも二〇キロメートルで、南北方向の下り坂の西側歩道端から一メートル程の車道上をヘルメットを着用し前傾姿勢で進行し、本件交差点に進入したものである。
      •  本件交差点は、交通整理の行われていない交差点であるから、車両の運転者としては、交差点に進入するにあたり、前方を注視し、歩行者等の飛び出しがあっても対処が可能な速度で進入すべき義務がある。自転車も同様であるところ、甲四によれば、原告が時速二〇キロメートルから停止するには約六・五メートルを要するというのであるから、原告としては、前方を注視し、前方に歩行者や他の車両があるときは衝突以前に停止が可能な程度まで徐行して交差点に進入すべきであったといえる。しかるに原告は、被告が交差点に数メートル(前方少なくとも三メートル、左右少なくとも二メートル)進入するまで被告に気付かなかったのであるから、原告には前方不注視の過失があったというべきである。また、原告が時速二〇キロメートルの速さで進入したことは、交差道路をほぼ通過するまで停止できないということであり、しかも進入後も減速しなかったことを合わせると、原告の進入、進行方法は、交通整理の行われていない交差点に進入し、進行した自転車としては減速不十分というべきである(かりに、原告が被告の自転車ではなく自動車ないし単車は衝突した場合、過失割合はともかくとして、原告自身重大な傷害を負う危険性があったことは否定できない)。
      •  なお、原告はプロの競輪選手であるが、そのことによって公道上を自転車で走行する場合の注意義務が加減されるわけではないのはいうまでもない。
      •  次に被告についてみると、上記認定の被告の右折方法は自転車の右折方法として定められた方法とは異なっている。そのうえ、被告は、交差点進入にあたり、通行車両の有無を確認し、通行車両がある場合は相手方の速度を測り安全を確認して進入すべきところ、原告自転車に気付かないまま進入したのであるから、安全確認が不十分であったというほかない。
      •  原告と被告の過失割合を見ると、自転車はお互いに衝突を避けうること、衝突した場合もその衝撃は相手方に重大な傷害を与えない程度にとどまることが前提とされていることよりすれば、自転車同士の衝突の基本的過失割合は五〇対五〇というべきである。そのうえで、原告の時速二〇キロメートルの走行から交通整理の行われていない交差点に進入する自転車としての注意義務と、被告の左右の安全確認をして一時停止のある道路から交差点に進入すべき注意義務を比較し、さらに双方の危険性及び結果回避可能性を考慮すると、過失割合は、原告五五、被告四五とするのが相当である。
  • 三 損害について
    • (1) 被告の損害については、原告は明らかに争わない。
      •  すなわち、被告の損害は、被告の主張(5)アからクの合計一一三万七二一五円に上記過失割合をかけた六二万五四六八円に、これに対する弁護士費用六万六〇〇〇円を加えた六九万一四六八円となる。
    • (2) 原告の損害について
      • ア 治療費等
        •  医療費(一万二一五〇円)については、当事者間に争いがない。
        •  その他の費用(マッサージ)については、従前の費用が明らかでなく、本件事故と因果関係を認めるべき範囲が判然としない。しかし、甲六(診断書)によれば、原告の傷害は一〇日間の安静加療を要する程度と認められ、この事実に頸椎捻挫の特質を考慮すると、平成一〇年中の医療費合計一四万九一三〇円をもって本件事故と因果関係のある損害と認めるのが相当でうる。甲二二は、この認定を妨げるものではない。
      • イ 通院慰謝料について
        •  上記認定の安静加療期間及び治療期間よりして、通院慰謝料は四五万円とするのが相当である。
      • ウ 逸失利益について
        •  原告は競輪選手であって、獲得賞金を所得としているところ、証拠(甲九)によれば、本件事故前後の原告の獲得賞金額は、同号証記載のとおりと認められる。
        •  競輪選手に好不調の波があるのは通常であるうえ、成績と獲得賞金との関連も複雑であって証拠(甲二四)によっても判然としないところから、本件事故と因果関係のある損害の算定は容易ではないが、そうであっても、事故と因果関係あるべき期間内の収入が基準額に比して減少したときは、その減少額をもって損害と算定することは格別不当ではない。
        •  本件事故と賞金額の減少とに因果関係を認めるべき期間としては、原告の傷害が頸椎捻挫であり、レース時の走行姿勢からして頸椎部分に負担がかかることにてらし、上記治療期間及びその後の三ヶ月間をもって上記因果関係のある期間と認め、治療期間については減少額の全額を、その後の三ヶ月間についてはその半額を本件事故と因果関係のある損害と認めるのが相当である。
        •  まず、基準額をみると、甲二四によれば、競輪選手の獲得賞金額は開催場所によっても異なること、成績に比例するのではなく、特に三位以上はそれぞれ大幅に増額すること、原告が基準として主張している期間は賞金基準が高い開催場所が多く、かつ、うち別府における場所については一場所全部が一位ないし二位であって賞金額中割増部分の割合が高いことが認められ、これらを考慮して、基礎となるべき収入額としては、本件事故前の六場所のうち最高値と最小値を算入せず、中間の四場所の平均値をもって基準額とするのが相当である。上記証拠によれば、四場所の獲得賞金額の総額は三四二万四八〇〇円となるから、基準額は一場所あたり八五万六二〇〇円、一レースあたり二八万五四〇〇円となる。
        •  本件事故以降平成一〇年一二月末までの原告の獲得賞金総額は三〇四万二五〇〇円(一五レース)であるから、上記基準額との差額一二三万八五〇〇円と欠場した一場所分八五万六二〇〇円の合計二〇九万四七〇〇円をもって原告の損害と算定するものである。また平成一一年一月から同年三月までの原告の獲得賞金総額は合計四二四万四四〇〇円(二一レース)であるから、上記基準額との差額一七四万九〇〇〇円の半額八七万四五〇〇円が同期間における原告の損害と算定でき、結局、原告の逸失利益は、二九六万九二〇〇円となる。
      • エ 物損(自転車修理代)    一八万二〇一七円
      • オ 弁護士費用         一七万八〇〇〇円
        •  上記アからエの合計三七五万〇三四七円に過失割合をかけた一六八万七六五六円の一割に消費税を加えたものである。
      • カ 以上のとおり、原告の損害は一八六万五六五六円となる。
    • (3) 以上のとおり、原告の損害は一八六万五六五六円、被告の損害は六九万一四六八円となるから、本訴、反訴はそれぞれ上記範囲で理由がある。
  • 四 よって、主文のとおり判決する。