屋根裏の鴨

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本文[編集]

屋根裏の鴨
萩原恭次郎

鴨は長い独身のサラリーマンだ!

毎夜 鴨は屋根裏から
  遠く————黄色い心臓に向つて
 吠え 喋り 囀つてゐる
  ——今夜こそ手紙の中に
    幾らか金をつゝんで送るらしい
彼女は貧しい黄色い心臓の少女である

——鼠が壁に張つた新聞紙を破つてゐる
誰かが闇の中で怖ろしいキスをしてゐる
部屋の隅に長い独白を思ひ出して青年が立つてゐる
——闇はあらゆる心臓をはつきりさせる

俺は梯子段の下で
 「ふるさとのなまりで語つてゐる」

——今夜この家にお産があるかも知れないね
——いや たれか死人になるかもしれないよ

鴨は古洋服をたゝんだ
かたい寝台が細い身体をまつてゐた

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。