女の唇は虚偽に割れてゐる

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本文[編集]

女の唇は虚偽に割れてゐる
萩原恭次郎

生梅のやうなレストラントの女の投げ言葉は
ウヰスキーと強い粉煙草なぞでは消せない
私の悲しい神経を
紙のやうに燃やす

強度の焼火の下には
白い骨がくずれ残つてゐる
微笑も憎悪も陰毛も
柔い足で蹴らうとした女優の
タンバリンの音も消えて
霜げた薔薇ばつかが傷のやうに真赤だ
女の唇は虚偽に割れてゐる
胸にはゼンマイのやうな手段がまかれてゐる
生梅のやうな言葉で
胸の内部をしびれさす

私の衰弱してゐる空気の中を
私は骨だらけの部屋へ
質草を見つけに帰つて来る

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。