墓場だ 墓場だ

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本文[編集]

墓場だ 墓場だ
萩原恭次郎

手も足も はなればなれだ————
身体の在り場所がわからない————
ぶらさげた電灯に————うどんのやうな
疲労が寄つてゐる!

借金!
仕事をするのがいやだ!
墓場のやうな万年床の中で
寝そべつて————何をするのも嫌だ!

賃金を貰ふのは嫌だ!
要らないものを貰ふやうに嫌だ!
借金!
  金 金 金 金 金 金 金 金
資本主義の金だ!
借金をふやすのが一番好い!
凹んでしまつた腹に
  歪んだ判断が————いつも弱い心を虐殺してゐる!
何んでも来い!こらつ!
どうにでも 畜生!

思ふ存分涙をしぼりきつてしまへ!
思ふ存分自分を堀つくり返してしまへ!
思ふ存分甦へられない————呼吸器と生殖器をとつてしまへ!
粉々に 飛散さしてしまへ!

墓場だ! 墓場だ!
恋愛も 理想も 夢も みんな正体をあらはして
今 滅びてゆかうとしてゐる!

ア! 誰でもいゝ 何んでもいゝ
壁の中から飛び出して!
嚙つて呉れ頭を!嚙つて呉れ!身体を!
嚙んで嚙んで!俺を嚙み殺して呉れ!

解題[編集]

作者:萩原恭次郎

底本:萩原恭次郎『死刑宣告』日本図書センター〈愛蔵版詩集シリーズ〉(2004年3月25日初版第1刷発行) ISBN 978-4-8205-9599-1

表記について:旧仮名遣いは初版本(1925年10月18日発行、長隆舎書店)のまま、漢字は常用漢字に改めてある。