初等整数論講義/第1章/附記 素数の分布

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附記 素数の分布[編集]

1. 自然数の順位の中に素数が如何なる法則に従って分布されているか. これは実に困難なる問題である.

素数の分布に関して現今知られている事柄の中で,最も著しいのは次の定理であろう.

定理 ディリクレの定理.

初項 と公差 とが公約数を有せぬ算術級数の項の中には無限に素数がある.

定理 1.10 なる特別の場合である.

上記定理を完全に証明したのはディリクレ(Dirichlet)である(1837). ディリクレの証明はむずかしいが, 現今外に簡単なる証明がないから、ここでは定理を紹介するだけにしておかねばならない(付録参照).

ディリクレは無限級数を用いて証明をしている. それが発端になって, 現今の函数論的整数論が発生したのである. の場合だけは, 代数的の証明ができるから後に述べるであろう.(§10)

奇数を の形のものと の形のものとの二種にわけると, 両種ともに公差 の算術級数を作る. 素数 は前者に属し, は後者に属する. の形の素数が無限にあることは 定理 1.10と同様の方法に由って容易に証明することができる. 即ち次の通り.

の形の素数 を大きさの順に並べて に達したとして

と置く. が素数ならば,それは の形で, よりも大きい素数である. また が合成数ならば, その素因数の中に少なくとも一つは の形のものがある. ( の形の因数をいくつ掛けても積は の形でしかあり得ぬから). その一つを とすれば, では割り切れぬから, . 即ち の形で よりも大きい素数が必ずある. 故に の形の素数は無限にある.

の形の素数が無限にあることは, このような方法では証明することができない.

以外の素数は または の形の数である. の形の素数 など)が無限にあることは 上記 の場合と同様の方法に由って証明されるが, の場合 など)にはこの方法を適用することが出来ない.

2. 任意の正数 を超えない素数の数を とすれば、 定理 1.10 に由って のとき であるが, が無限に増大するとき, が如何なる程度に無限大になるかに関して次の定理が証明せられている. ランダウがそれを 素数定理と名付けた.

定理 素数定理.

のとき

即ち の漸近値を与える.

この定理は既にガウスが予想したものであるが, 約百年の後 HadamardValle'e-Poussin とが殆ど同時(1896)に証明した. その証明は複雑であるから, 本書に述べることはできない.

このような定理の実質的な意味を正視することが肝要である. 率直にいえば興味の中心は問題がむずかしい所にあると言うべきであろう. のような不連続極まる函数と のような初等函数との間に, 上記のような関係が成立するのは 驚くべきことと言わねばなるまい.

3. 一つの素数 が知られたとき, 大きさの順序に於いて, その次の素数を求めることは, 素数の分布に関する重要なる問題である. 定理 1.10 の証明に由れば の次の素数は 以下に必ずあるが, このような限界はあまりに粗雑である.

上記問題に関して現今知られている最も著しい事実は次の定理である(Tschebyschef)

とすれば, との間に必ず素数がある.

これも粗雑であるが, 証明は随分むずかしい.

4. のように引き続いた二つの奇数が共に素数であるもの(素数の双生児)が 自然数の順位の始めの部分に於いて目立つ. 素数表を繰ると, このような素数の対は何処まで行っても見出される. 例えば

.

然らば素数の双生児は果たして無限に存在するか. この問題には未だ解答がない.

上記の問題とは反対に, 自然数の順位に於いて, 素数を一つも含まぬ長い範囲を求めることは, 容易である.

引き続いた 個の整数

.

は全部が合成数である. それらは, で割り切れる.

5. 尚一つの素数分布に関して古くから有名なる問題は所謂 ゴールドバッハ(Goldbach) の推測 である. それは 以外の偶数は二つの素数の和として表し得るというのである.

)

これも証明されてはいない. 問題は誰にも分かるが, それを解決する手掛かりが, 現今の数学には見出し難いのである. 近年 Hardy 及び Littlewoodゴールドバッハの推測 に関して興味味ある研究 を発表して, 専門家の注意をひいたが, その方法は甚だ複雑困難である.

このような困難なる問題が数学の進歩を促す動因になるのである.