中国童話集 (佐藤春夫) 鳥獣の話(大きな鳥ほか六編)

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鳥獣(とりけもの)の話[編集]

大きな鳥[編集]

天津(てんしん)のあるお寺の大屋根の反り返ったのきのはしに、こうのとりが巣(す)を作っていたのです。その下のなげしの上のうつろになった所にはおわんぐらいの太さのある大蛇(だいじゃ)がかくれていたのです。こうのとりの卵(たまご)がかえって、そのひなのからだが羽(はね)でおおわれるころ、いつでもそのへびが現(あらわ)れて来て、巣(す)の中のひなたちをすっかり飲んでしまうのでした。そうしてこうのとりはいく日かそこに悲しげに鳴いて、やがて立ち去るのでした。こうしてそれが三年くり返されました。人びとはもう来年はかならず再(ふたた)びここへ来ることはないであろうと思ったのでした。
それなのにこうのとりはつぎの年ももとのようにそこへ来て巣(す)を作ったのでした。ひなが大きくなって毛が生えたであろうと思われるじぶん、こうのとりはその巣(す)を立ち去ってどこかへ飛(と)んで行きました。そうして三日ほどたってようやく帰って来て、またまえのようにひなをはぐくんでいるのでした。
へびはまたいつものようにうねうねとからだをよじらせて上って来ました。彼(かれ)が巣(す)に近づいたとき父と母のこうのとりは巣(す)から飛(と)び立って、悲しい声で泣(な)きながら、高く高く青空にのぼって行ったのでした。するとにわかにひゅうひゅうという音が聞こえていっしゅんのまに天地も暗くなってしまったのです。
人びとはおどろきあやしんでみんな空をながめました。見ると大きな大きなだれも見たこともない鳥がそのつばさで太陽の光をおおいかくして、大空を風のように早くまい下がって来ました。そうしてその足のつめでへびを撃(う)ったのです。撃(う)たれたへびの首はたちどころに転がり落ちました。それといっしょに屋根の反り返ったのきの角までも五、六尺(しゃく)くだけて落ちたのでした。大きな鳥はつばさをふるって飛(と)び去りました。こうのとりはその後ろについてちょうどそれをお見送りでもするかのように飛(と)んで行くのでした。
こうのとりの巣(す)はそのためにかたむきくずれて二ひきのひなは地上に落ちました。一ぴきは生きてはいたけれども一ぴきは死んでしまったのです。その生きているほうはお寺の坊さんが拾って鐘楼(しょうろう)の屋根の上に置(お)いてやりました。
しばらくして帰って来たこうのとりはそれに餌(え)を運んで養(やしな)いました。そうしてそのひなのつばさがじょうぶになったとき、親子の鳥はいっしょに連(つ)れ立って飛(と)んで行ってしまいました。


九官鳥(きゅうかんちょう)[編集]

九官鳥(きゅうかんちょう)を飼(か)っている者がありました。その九官鳥(きゅうかんちょう)はいろいろなことばを教えるとよくそれをしゃべります。そうしてよく慣(な)れているので、その人がよそへ出かけるときには、かならずいっしょに連(つ)れて行ったのです。
こうして九官鳥(きゅうかんちょう)とその人とは五、六年のあいだをいっしょにくらしてきたのでした。旅の日のある一日、絳州(こうしゅう)の町を過(す)ぎようというときでした。そこはふるさとにはまだ遠いのにその人の旅費(りょひ)はすでに使いつくされてしまっていたのでした。その人はそれをどう切りぬけることもできないことを想って心配していたのでした。すると九官鳥(きゅうかんちょう)はこう言うのでした。
「なんでわたしを売らないのです。わたしを華族(かぞく)さまのおやしきへ持って行けばいい値(ね)に売れるでしょう。そしたら帰りの道中の旅費(りょひ)がないことを心配しなくってもいいのではありませんか」
しかしその人は言いました。
「わたしにはそんなことはできないよ。おまえとはなれるなどということは」
「それはだいじょうぶですよ。あなたはお金をもらったら早くここを立ち去るのです。そうしてこの町の西三里ばかりの所にある大きな木の下でわたしを待っていてください」
その人は九官鳥(きゅうかんちょう)のことばに従(したが)うことにしました。そうして町へ行って往来(おうらい)じゅうで九官鳥(きゅうかんちょう)と問答を始めたのでした。見物人はしだいに増(ふ)えてゆきました。その見物人のうちには町の殿様(とのさま)のおそば付(づ)きの家来もいました。そうしてこの話を殿様(とのさま)にしたのでした。殿様(とのさま)はその人をおやしきに呼(よ)び入れてその九官鳥(きゅうかんちょう)を買い取ろうと言われるのでした。その人は、
「わたくしはこいつのおかげで生きておりますのでございます。売りたくはないのでございます」
と言いました。
殿様(とのさま)はしかし九官鳥(きゅうかんちょう)に向かって、
「おまえはどうだ、ここにいたいかね」とたずねたのです。
「たいへんいたいんです」と九官鳥(きゅうかんちょう)はまたこう言いました。
殿様(とのさま)はひどく喜(よろこ)びました。九官鳥(きゅうかんちょう)はまたこう言いました。
「値段(ねだん)は十金でいいのです。たくさんやらなくってもいいのです」殿様(とのさま)はますます喜(よろこ)んでそくざにその人に十金をあたえました。彼(かれ)はわざと残念(ざんねん)そうな様子をしてそこを立ち去ったのでした。殿様(とのさま)はそれから九官鳥(きゅうかんちょう)といろいろと問答をしたのでした。九官鳥(きゅうかんちょう)はいとも口がしこくそれに応対(おうたい)するのでした。殿様(とのさま)はほうびに肉を持って来させて鳥にやりました。それを食べ終わると鳥は、
「水が浴(あ)びとうございます」と言いました。
殿様(とのさま)は金のぼんに水をくんで来させてかごの戸を開いて水を浴(あ)びさせました。九官鳥(きゅうかんちょう)は水を浴(あ)び終わるとのきの先に飛(と)んで行ってくちばしで羽(はね)をこすったりつばさを整えたりしながらぺちゃくちゃと休みなく殿様(とのさま)の相手(あいて)となってしゃべっていました。しばらくしてその羽(はね)はかわきました。九官鳥(きゅうかんちょう)はひらりと飛(と)び立って、
「わたくしは失礼(しつれい)をいたします」とひと言いって、またたくまにどこかへか姿(すがた)をかくしてしまったのでした。そののち秦中(しんちゅう)という所で九官鳥(きゅうかんちょう)を持って歩いているその人を見かけた人もあるという話でした。


こうのとり[編集]

これは済南(さいなん)の町のある兵卒(へいそつ)の話です。その兵卒(へいそつ)はあるとき、こうのとりの飛(と)んで行くのを見つけてそれを弓(ゆみ)で射(い)たのです。つる音にこたえるようにしてそのこうのとりは落ちて来ました。こうのとりはくちばしに魚をくわえていました。それは持って行って子どもに食べさせるところだったのです。矢(や)をぬいてそのこうのとりを放してやったがよいと人びとは勧(すす)めましたが兵卒(へいそつ)は聞き入れませんでした。しかし、しばらくするとこうのとりは矢(や)をつけたままで飛(と)んで行ってしまいました。
それからのち、そのこうのとりはその町の付近(ふきん)を飛(と)び回っていました。そうして二年あまりのあいだ、その矢(や)はもとのとおりにこうのとりのからだにささっていたのです。
ある日、兵卒(へいそつ)は陣屋(じんや)の門の前にすわっていました。こうのとりがそこを飛(と)んで通りました。そうしてその矢(や)を地上に落として行ったのでした。兵卒(へいそつ)は、それを拾ってながめながらこの矢(や)もまったく無事(ぶじ)だったのだなあ、ちっとも傷(きず)もついていない、と思いました。そうしてそのとき、ちょうど耳がかゆくなったので、その矢(や)の先でもってそこをかきました。
すると、とつぜん強い風がふいて来て陣屋(じんや)の門をゆすりました。いきなり門のとびらはばたんと閉(し)まりました。彼(かれ)はそのためにその矢(や)で頭をつらぬきとおされて死んでしまいました。


おおとり[編集]

これはまた天津(てんしん)の一人の猟師(りょうし)の話です。その猟師(りょうし)は一ぴきのおおとり(がんの大きいのです)を生けどりにしたのです。生けどりにしたのはめすでした。そうしてそのおすは彼(かれ)の後をついて彼(かれ)の家まで来てその回りを悲しげな声で鳴きながら飛(と)び回っているのでした。
夕方までそうしていました。が、日がくれてようやくどこかへ飛(と)び去って行ったのでした。
翌日の朝、彼(かれ)が家を立ちいでると、おおとりはもうちゃんとそこに来ていて、鳴きながら彼(かれ)に近寄(ちかよ)って来ました。そうしてやがて彼(かれ)の足下に飛(と)び降(お)りて来たのでした。彼(かれ)はそれもいっしょにつかまえてしまおうとしたのです。
するとおおとりはその首をのばしてうつぶしたりあおむけたりしたすえに半錠(はんじょう)の黄金(こがね)をはき出したのでした。彼(かれ)はそのおおとりの心持ちがわかりました。それはこの金でもって自分の妻(つま)を彼(かれ)から買い取りたいというのでした。彼(かれ)はその妻(つま)であるめすのおおとりを放してやりました。
二羽(わ)のおおとりは悲しげに、そうしてまたさらにうれしげにそのあたりを飛(と)びめぐつていましたが、やがてつばさをならべて遠く遠く飛(と)び去って雲にかくれてしまいました。


ぞう[編集]

これは広東(カントン)の話です。ただ一人でけものを狩(か)りして歩く者がいました。その男は弓矢(ゆみや)を持って山へ行ったのです。歩きつかれて横になって休むつもりであったのが、いつかしら思わずねむりにしずんでしまいました。
そうしてねむっているうちにぞうが来て彼(かれ)を鼻で巻(ま)き上げてどこかへ持って行くのです。彼はもうかならずひどい目に会わされることであろう、無事(ぶじ)ではいられないことであろうとかくごしたのでした。
しかし、やがてぞうは彼(かれ)を一本の大きな木の下に降(お)ろして、頭を地につけて一声鳴きました。するとたくさんのぞうがどやどやとやって来て彼(かれ)の回りを取り囲(かこ)んでなにか彼(かれ)にたのむような様子をするのでした。まえの彼(かれ)を連(つ)れて来たぞうはその木の下にひざをついてあおむいては木の上を見、うつむいては彼(かれ)のほうを見てあたかも彼(かれ)にその木に登ってほしいと言うようです。彼(かれ)はその心をさとりました。そうしてぞうの背中(せなか)をふみ台にしてその木の頂(いただき)によじ登りました。けれどもまだそこへ登らせられた意味がどういうのであるかはわからなかったのでした。
しばらくすると一ぴきの獅子(しし)が現(あらわ)れて来たのです。たくさんのぞうどもはみなそこへひざを折(お)ってすわりました。獅子(しし)はその中のよく肥(こ)えた一頭を選(えら)んで、かみつこうとするのです。ぞうはしかしからだをわなわなとふるわして、にげる力もなく、ただみんなそろって木の上をあおいであわれみを求(もと)めるかのような様子なのでした。
彼(かれ)はねらいを定めて一発獅子(しし)に向かって矢(や)を放しました。獅子(しし)はたちどころに打ちたおれました。多くのぞうどもは空をあおぎ見て感謝(かんしゃ)するがごとくおどり立ったのでした。
彼が木を下りるとぞうはまたその鼻でもって彼(かれ)の着物を引(ひ)っ張(ぱ)って背中(せなか)に乗(の)れというようです。彼(かれ)はそこでその背(せ)にまたがりました。ぞうは彼(かれ)を背(せ)に乗せてある一つの所へ連(つ)れて行きました。そうして足で地をほって穴(あな)をあけたのでした。見るとその穴(あな)の中には無数(むすう)の象牙(ぞうげ)があったのです。そうして彼(かれ)がそれをあき集めて一つにたばねるとぞうはまた彼(かれ)を背(せ)に乗せてその山から送り出してくれました。


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これはある商人の話です。その商人は蕪湖(ぶこ)の町に品物を売りに行って、たくさんの金をもうけて、船を一せきやとうて帰って来るときのことでした。
ちょうど船に乗ろうとするつつみの上で犬殺(いぬごろ)しが一ぴきの犬をしばっているのを見たのです。彼は犬殺(いぬごろ)しに金をやって犬の命を助けて、その船に乗せて養(やしな)っていたのでした。
この船の船頭は盗賊(とうぞく)でした。商人のたくさんのお金を持っているのにねらいをつけて、船をあしのしげみの中に入れて、力をふるって商人を殺(ころ)そうとしたのでした。商人は殺(ころ)されるのはしかたがないが、せめてからだに傷(きず)をつけないようにしておしいとあわれみをこいました。
盗賊(とうぞく)はそこで彼(かれ)を毛布(もうふ)にくるんで揚子江(ようすこう)の水の中へしずめてしまったのでした。
犬はそれを見ると悲しげに鳴いて水の中へ飛(と)びこんで、その毛布(もうふ)の包(つつ)みを口にくわえたのでした。そうしてその包(つつ)みといっしょにういたりしずんだりして、流れのまにまにどのくらいのあいだを川の上にただよったかは知りません。ともかく浅瀬(あさせ)に流れ着いてはじめてその包(つつ)みをそこに置(お)いたのでした。犬はそれから泳いで人里近い所まで行くと、悲しい声で鳴いたのです。
人がその鳴き方をあやしんで犬の導(みちび)くままに来て見ると毛布(もうふ)の包(つつ)みがそこにあるのです。水の中から引きだし、しばってあるなわを断(た)ち切って、それを開けてみると商人はまだ死んではいませんでした。そうして商人は事情(じじょう)を述(の)べてとある船の船頭の情(なさ)けにすがって蕪湖(ぶこ)まで乗せて帰(かえ)してもらったのでした。ここで盗賊(とうぞく)の船のもどって来るのを見つけ出そうというのでしたが、船に乗るときに犬を見失(みうしな)ってしまったことがきわめて悲しく思われたのでした。
蕪湖(ぶこ)の船着きに帰って来て三日四日のあいだ、帆柱(ほばしら)の数は林のように、多くの船は港にとまってはいるけれども盗賊(とうぞく)の船は見つからなかったのでした。それでちょうど出会った同じいなかの商人といっしょにもう故郷(こきょう)へ帰ろうと思っていたときのことなのです。とつぜんいなくなった犬がどこからか出て来て、彼(かれ)を目がけてわんわんとほえたてるのでした。彼(かれ)が来い来いと呼(よ)べば犬は後退(あとしざ)りをするのです。
彼(かれ)が船へ乗ると犬はその後を追って走るのです。そうしてしまいにはその船に走り上がると一人の男のももにかみついて打ってもたたいても放れないのでした。
商人は急いで近寄(ちかよ)って行って犬をしかりつけました。そうしてそのときに見ると犬がかみついているのはまえの盗賊(とうぞく)であったのです。着物もそのときのとは着かえているし、船もちがっていたので気がつかなかったのでした。そこでただちに盗賊(とうぞく)をしばり上げて、船を探(さが)してみると商人の金はまだ手もつけないであったので、そっくり彼(かれ)の手に返ったのでした。


きつね[編集]

浜州(ひんしゅう)という所に一人の書生がいました。書斎(しょさい)で本を読んでいると表に案内(あんない)をこう者があるのです。門を開いてみると白髪(しらが)の老翁(ろうおう)がそこに立っていました。ざしきへ通してまずその姓名(せいめい)をたずねると、自分は胡養真(こようしん)という名前ではあるが、じつはきつねです。あなたの高尚(こうしょう)風雅(ふうが)なご人格(じんかく)をおしたいして、ご交際(こうさい)を願(ねが)おうと思って来たのですと言うのでした。
書生はもともとのんきな男でしたから、べつにあやしむふうもなくいっしょにいろいろと話をしました。歴史(れきし)の話でも書物の話でも、そのきつねはきわめて博識(はくしき)で人の考えもおよばないようなりっぱな意見を述(の)べるのです。書生はすっかり感服して、そのままその老翁(ろうおう)を自分の家に引き留(と)めておいたのでした。
ある日、書生はこっそりとその老翁(ろうおう)にたのんで言いました。
「あなたはわたしをかわいがてくださるのですが、わたしはご覧(らん)のとおりのびんぼうです。あなたがちょっと術(じゅつ)を使ってくだされば金銭(きんせん)はそくざに集まって来るではありませんか。どうして少しそうやって金をめぐんではくださらんのです。どうかひとつそうお願(ねが)いしたいものですがね」
老翁(ろうおう)は黙然(もくねん)として答えません。そしてたのみを聞き入れないかのような様子に見えました。しかししばらくするとにっこり笑(わら)って、
「それはきわめてやさしいことだが、しかしそれにはもとでにする銭(ぜに)が十五、六枚(まい)なくてはいけないのですよ」
書生は言うとおりに十いく枚(まい)かの銭(ぜに)を出して老翁(ろうおう)にわたしました。老翁(ろうおう)は彼(かれ)と一緒にあたりをぴったりと閉(し)めた部屋(へや)の中へはいりました。そして一人でびっこを引くような歩き方で、その中を歩き回りながらじゅもんを唱(とな)えるのでした。
するとたちまち、いく千いく万という銭(ぜに)が天井(てんじょう)の梁(はり)の間からちゃらちゃらと音を立てて降(ふ)って来るのです。まるで夕立のように降(ふ)って来るのです。そしてまたたくうちに彼(かれ)らのひざをうずめました。足を抜き出してその積(つ)み重なった銭(ぜに)の上に立つとたちまちにまたくるぶしをうずめます。広い部屋(へや)のうちはこうして三、四尺(しゃく)の深さにいっぱいの銭(ぜに)でうずめられたのです。
「どうですか、これですこしはお望(のぞ)みにかないましたか」と言いました。
「じゅうぶんです」と書生は言いました。
老翁(ろうおう)が手を一ふりするとその銭(ぜに)の雨はぴたりとやんでしまったのでした。
二人は部屋(へや)の戸にかんぬきを下ろして出て来たのです。書生は心の中で、
「自分は大金持ちになったのだ」と思って喜(よろこ)んでいました。
しかし、しばらくしてその部屋(へや)へ銭(ぜに)を取りに行って見ると、部屋(へや)じゅうに満(み)ちていたその銭(ぜに)はあとかたもなくみな消えてしまって、ただもとでの銭(ぜに)が十いく枚(まい)かぽつりとさびしげにゆかの上に残(のこ)されているのでした。
書生はすっかり落胆(らくたん)しました。そして老翁(ろうおう)に向かって腹(はら)を立てて、彼(かれ)をあざむいたことをうらんだのでした。すると老翁(ろうおう)はおこって言いました。
「わたしはあなたと学問の上でのご交際(こうさい)を願(ねが)ったのです。あなたとごいっしょにどろぼうをいたそうとぞんじてはおらなかったのです。あなたのお考えのようなことがしたいのなら、あなたは梁(はり)の上の君子(くんし)(どろぼうのこと)とご交際(こうさい)なさったがよろしかろう。わたしはごめんこうむります。わたしはあなたを見そこなった」
そう言って老翁(ろうおう)はたもとをはらって立ち去ったのでした。