万葉集/第五巻

提供: Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動

第五巻


[歌番号]05/0793

[題詞]雜歌 / <大>宰帥大伴卿報凶問歌一首 / 禍故重疊 凶問累集 永懐崩心之悲 獨流断腸之泣 但依兩君大助傾命纔継耳 [筆不盡言 古今所歎]

[原文]余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理

[訓読]世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり

[仮名]よのなかは むなしきものと しるときし いよよますます かなしかりけり

[左注]神龜五年六月二十三日

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太 -> 大 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:大伴旅人 哀悼 無常 仏教 太宰府 福岡 地名 神亀5年6月23日 年紀

[訓異]よのなかは[寛],

むなしきものと[寛],

しるときし[寛],

いよよますます[寛],

かなしかりけり[寛],


[歌番号]05/0794

[題詞]盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首

[原文]大王能 等保乃朝廷等 斯良農比 筑紫國尓 泣子那須 斯多比枳摩斯提 伊企陀<尓>母 伊摩陀夜周米受 年月母 伊摩他阿良祢婆 許々呂由母 於母波奴阿比陀尓 宇知那i枳 許夜斯努礼 伊波牟須弊 世武須弊斯良尓 石木乎母 刀比佐氣斯良受 伊弊那良婆 迦多知波阿良牟乎 宇良賣斯企 伊毛乃美許等能 阿礼乎婆母 伊可尓世与等可 尓保鳥能 布多利那良i為 加多良比斯 許々呂曽牟企弖 伊弊社可利伊摩須

[訓読]大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国に 泣く子なす 慕ひ来まして 息だにも いまだ休めず 年月も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ間に うち靡き 臥やしぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに 岩木をも 問ひ放け知らず 家ならば 形はあらむを 恨めしき 妹の命の 我れをばも いかにせよとか にほ鳥の ふたり並び居 語らひし 心背きて 家離りいます

[仮名]おほきみの とほのみかどと しらぬひ つくしのくにに なくこなす したひきまして いきだにも いまだやすめず としつきも いまだあらねば こころゆも おもはぬあひだに うちなびき こやしぬれ いはむすべ せむすべしらに いはきをも とひさけしらず いへならば かたちはあらむを うらめしき いものみことの あれをばも いかにせよとか にほどりの ふたりならびゐ かたらひし こころそむきて いへざかりいます

[左注](神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)

[校異]于 [紀][細] 乎 / <> -> 競 [西(右書)][紀][細] / 歌 [西] 謌 / <> -> 尓 [西(右書)][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 枕詞 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]おほきみの[寛],

とほのみかどと,[寛]とほのみかとと,

しらぬひ,[寛]しらぬひの,

つくしのくにに[寛],

なくこなす[寛],

したひきまして[寛],

いきだにも,[寛]いきたにも,

いまだやすめず,[寛]いまたやすめす,

としつきも[寛],

いまだあらねば,[寛]いまたあらねは,

こころゆも[寛],

おもはぬあひだに,[寛]おもはぬあひたに,

うちなびき,[寛]うちなひき,

こやしぬれ[寛],

いはむすべ,[寛]いはむすへ,

せむすべしらに,[寛]せむすへしらに,

いはきをも[寛],

とひさけしらず,[寛]とひさけしらす,

いへならば,[寛]いへならは,

かたちはあらむを[寛],

うらめしき[寛],

いものみことの[寛],

あれをばも,[寛]あれをはも,

いかにせよとか[寛],

にほどりの,[寛]にほとりの,

ふたりならびゐ,[寛]ふたりならひゐ,

かたらひし[寛],

こころそむきて[寛],

いへざかりいます,[寛]いへさかりいます,


[歌番号]05/0795

[題詞](盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首)反歌

[原文]伊弊尓由伎弖 伊可尓可阿我世武 摩久良豆久 都摩夜左夫斯久 於母保由倍斯母

[訓読]家に行きていかにか我がせむ枕付く妻屋寂しく思ほゆべしも

[仮名]いへにゆきて いかにかあがせむ まくらづく つまやさぶしく おもほゆべしも

[左注](神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]いへにゆきて[寛],

いかにかあがせむ,[寛]いかにかあかせむ,

まくらづく,[寛]まくらつく,

つまやさぶしく,[寛]つまやさふしく,

おもほゆべしも,[寛]おもほゆへしも,


[歌番号]05/0796

[題詞]((盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首)反歌)

[原文]伴之伎与之 加久乃未可良尓 之多比己之 伊毛我己許呂乃 須別毛須別那左

[訓読]はしきよしかくのみからに慕ひ来し妹が心のすべもすべなさ

[仮名]はしきよし かくのみからに したひこし いもがこころの すべもすべなさ

[左注](神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]はしきよし[寛],

かくのみからに[寛],

したひこし[寛],

いもがこころの,[寛]いもかこころの,

すべもすべなさ,[寛]すへもすへなさ,


[歌番号]05/0797

[題詞]((盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首)反歌)

[原文]久夜斯可母 可久斯良摩世婆 阿乎尓与斯 久奴知許等其等 美世摩斯母乃乎

[訓読]悔しかもかく知らませばあをによし国内ことごと見せましものを

[仮名]くやしかも かくしらませば あをによし くぬちことごと みせましものを

[左注](神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]くやしかも[寛],

かくしらませば,[寛]かくしらませは,

あをによし[寛],

くぬちことごと,[寛]くぬちことこと,

みせましものを[寛],


[歌番号]05/0798

[題詞]((盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首)反歌)

[原文]伊毛何美斯 阿布知乃波那波 知利奴倍斯 和何那久那美多 伊摩陀飛那久尓

[訓読]妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに

[仮名]いもがみし あふちのはなは ちりぬべし わがなくなみた いまだひなくに

[左注](神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]いもがみし,[寛]いもかみし,

あふちのはなは[寛],

ちりぬべし,[寛]ちりぬへし,

わがなくなみた,[寛]わかなくなみた,

いまだひなくに,[寛]いまたひなくに,


[歌番号]05/0799

[題詞]((盖聞 四生起滅方夢皆空 三界漂流喩環不息 所以維摩大士在于方丈 有懐染疾之患 釋迦能仁坐於雙林 無免泥洹之苦 故知 二聖至極不能拂力負之尋至 三千世界誰能逃黒闇之捜来 二鼠<競>走而度目之鳥旦飛 四蛇争侵而過隙之駒夕走 嗟乎痛哉 紅顏共三従長逝 素質与四徳永滅 何圖偕老違於要期 獨飛生於半路 蘭室屏風徒張 断腸之哀弥痛 枕頭明鏡空懸 染筠之涙逾落 泉門一掩 無由再見 嗚呼哀哉 / 愛河波浪已先滅 苦海煩悩亦無結 従来厭離此穢土 本願託生彼浄刹 / 日本挽歌一首)反歌)

[原文]大野山 紀利多知<和>多流 和何那宜久 於伎蘇乃可是尓 紀利多知和多流

[訓読]大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる

[仮名]おほのやま きりたちわたる わがなげく おきそのかぜに きりたちわたる

[左注]神龜五年七月廿一日 筑前國守山上憶良上

[校異]<> -> 和 [西(右書)][類][紀]

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 仏教 無常 哀悼 亡妻 太宰府 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]おほのやま[寛],

きりたちわたる[寛],

わがなげく,[寛]わかなけく,

おきそのかぜに,[寛]おきそのかせに,

きりたちわたる[寛],


[歌番号]05/0800

[題詞]令反<或>情歌一首[并序] / 或有人 知敬父母忘於侍養 不顧妻子軽於脱屣 自称<倍>俗先生 意氣雖揚青雲之上 身體猶在塵俗之中 未驗修行得道之聖 蓋是亡命山澤之民 所以指示三綱更開五教 遣之以歌令反其<或> 歌曰

[原文]父母乎 美礼婆多布斗斯 妻子見礼婆 米具斯宇都久志 余能奈迦波 加久叙許等和理 母<智>騰利乃 可可良波志母与 由久弊斯良祢婆 宇既具都遠 奴伎都流其等久 布美奴伎提 由久智布比等波 伊波紀欲利 奈利提志比等迦 奈何名能良佐祢 阿米弊由迦婆 奈何麻尓麻尓 都智奈良婆 大王伊摩周 許能提羅周 日月能斯多波 雨麻久毛能 牟迦夫周伎波美 多尓具久能 佐和多流伎波美 企許斯遠周 久尓能麻保良叙 可尓迦久尓 保志伎麻尓麻尓 斯可尓波阿羅慈迦

[訓読]父母を 見れば貴し 妻子見れば めぐし愛し 世間は かくぞことわり もち鳥の かからはしもよ ゆくへ知らねば 穿沓を 脱き棄るごとく 踏み脱きて 行くちふ人は 石木より なり出し人か 汝が名告らさね 天へ行かば 汝がまにまに 地ならば 大君います この照らす 日月の下は 天雲の 向伏す極み たにぐくの さ渡る極み 聞こし食す 国のまほらぞ かにかくに 欲しきまにまに しかにはあらじか

[仮名]ちちははを みればたふとし めこみれば めぐしうつくし よのなかは かくぞことわり もちどりの かからはしもよ ゆくへしらねば うけぐつを ぬきつるごとく ふみぬきて ゆくちふひとは いはきより なりでしひとか ながなのらさね あめへゆかば ながまにまに つちならば おほきみいます このてらす ひつきのしたは あまくもの むかぶすきはみ たにぐくの さわたるきはみ きこしをす くにのまほらぞ かにかくに ほしきまにまに しかにはあらじか

[左注](神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)

[校異]惑 -> 或 [紀][細] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 畏 -> 倍 [紀] / 歌令 [西] 謌令 [西(訂正)] 歌令 / 惑 -> 或 [紀][細] / <> -> 智 [西(右書)][紀][細] / 可可 [紀][細][温] 可々

[事項]作者:山上憶良 国司 逃亡民 儒教 教喩 道教 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]ちちははを[寛],

みればたふとし,[寛]みれはたふとし,

めこみれば,[寛]めこみれは,

めぐしうつくし,[寛]めくしうつくし,

よのなかは[寛],

かくぞことわり,[寛]かくそことわり,

もちどりの,[寛]もちとりの,

かからはしもよ[寛],

ゆくへしらねば,[寛]ゆくへしらねは,

うけぐつを,[寛]うきくつを,

ぬきつるごとく,[寛]ぬきつることく,

ふみぬきて[寛],

ゆくちふひとは[寛],

いはきより[寛],

なりでしひとか,[寛]なりてしひとか,

ながなのらさね,[寛]なかなのらさね,

あめへゆかば,[寛]あめへゆかは,

ながまにまに,[寛]なかまにまに,

つちならば,[寛]つちならは,

おほきみいます[寛],

このてらす[寛],

ひつきのしたは[寛],

あまくもの[寛],

むかぶすきはみ,[寛]むかふすきはみ,

たにぐくの,[寛]たにくくの,

さわたるきはみ[寛],

きこしをす[寛],

くにのまほらぞ,[寛]くにのまほらそ,

かにかくに[寛],

ほしきまにまに[寛],

しかにはあらじか,[寛]しかにはあらしか,


[歌番号]05/0801

[題詞](令反<或>情歌一首[并序] / 或有人 知敬父母忘於侍養 不顧妻子軽於脱屣 自称<倍>俗先生 意氣雖揚青雲之上 身體猶在塵俗之中 未驗修行得道之聖 蓋是亡命山澤之民 所以指示三綱更開五教 遣之以歌令反其<或> 歌曰)反歌

[原文]比佐迦多能 阿麻遅波等保斯 奈保<々々>尓 伊弊尓可弊利提 奈利乎斯麻佐尓

[訓読]ひさかたの天道は遠しなほなほに家に帰りて業を為まさに

[仮名]ひさかたの あまぢはとほし なほなほに いへにかへりて なりをしまさに

[左注](神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 奈保 -> 々々 [類][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 国司 逃亡民 儒教 教喩 道教 福岡 枕詞 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]ひさかたの[寛],

あまぢはとほし,[寛]あまちはとほし,

なほなほに[寛],

いへにかへりて[寛],

なりをしまさに[寛],


[歌番号]05/0802

[題詞]思子等歌一首[并序] / 釋迦如来金口正説 等思衆生如羅睺羅 又説 愛無過子 至極大聖尚有愛子之心 況乎世間蒼生誰不愛子乎

[原文]宇利<波><米婆> 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農

[訓読]瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐し寝さぬ

[仮名]うりはめば こどもおもほゆ くりはめば ましてしぬはゆ いづくより きたりしものぞ まなかひに もとなかかりて やすいしなさぬ

[左注](神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 婆 -> 波 [紀][細][温] / <> -> 米婆 [西(右書)][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 愛子 仏教 福岡 子供 植物 神亀5年7月21日 年紀 地名

[訓異]うりはめば,[寛]うりはめは,

こどもおもほゆ,[寛]こともおもほゆ,

くりはめば,[寛]くりはめは,

ましてしぬはゆ,[寛]ましてしのはゆ,

いづくより,[寛]いつくより,

きたりしものぞ,[寛]きたりしものそ,

まなかひに[寛],

もとなかかりて[寛],

やすいしなさぬ[寛],


[歌番号]05/0803

[題詞](思子等歌一首[并序] / 釋迦如来金口正説 等思衆生如羅睺羅 又説 愛無過子 至極大聖尚有愛子之心 況乎世間蒼生誰不愛子乎)反歌

[原文]銀母 金母玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母

[訓読]銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも

[仮名]しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも

[左注](神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 愛子 仏教 福岡 子供 神亀5年7月21日 年紀 地名

[訓異]しろかねも[寛],

くがねもたまも,[寛]くかねもたまも,

なにせむに[寛],

まされるたから[寛],

こにしかめやも[寛],


[歌番号]05/0804

[題詞]哀世間難住歌一首[并序] / 易集難排八大辛苦 難遂易盡百年賞樂 古人所歎今亦及之 所以因作一章之歌 以撥二毛之歎 其歌曰

[原文]世間能 周弊奈伎物能波 年月波 奈何流々其等斯 等利都々伎 意比久留<母>能波 毛々久佐尓 勢米余利伎多流 遠等咩良何 遠等咩佐備周等 可羅多麻乎 多母等尓麻可志 [或有此句云 之路多倍乃 袖布利可伴之 久礼奈為乃 阿可毛須蘇i伎] 余知古良等 手多豆佐波利提 阿蘇比家武 等伎能佐迦利乎 等々尾迦祢 周具斯野利都礼 美奈乃和多 迦具漏伎可美尓 伊都乃麻可 斯毛乃布利家武 久礼奈為能 [一云 尓能保奈須] 意母提乃宇倍尓 伊豆久由可 斯和何伎多利斯 [一云 都祢奈利之 恵麻比麻欲i伎 散久伴奈能 宇都呂比<尓>家利 余乃奈可伴 可久乃未奈良之] 麻周羅遠乃 遠刀古佐備周等 都流伎多智 許志尓刀利波枳 佐都由美乎 多尓伎利物知提 阿迦胡麻尓 志都久良宇知意伎 波比能利提 阿蘇比阿留伎斯 余乃奈迦野 都祢尓阿利家留 遠等咩良何 佐那周伊多斗乎 意斯比良伎 伊多度利与利提 麻<多麻>提乃 多麻提佐斯迦閇 佐祢斯欲能 伊久陀母阿羅祢婆 多都可豆<恵> 許志尓多何祢提 可由既婆 比等尓伊等波延 可久由既婆 比等尓邇久<麻>延 意余斯遠波 迦久能尾奈良志 多麻枳<波>流 伊能知遠志家騰 世武周弊母奈新

[訓読]世間の すべなきものは 年月は 流るるごとし とり続き 追ひ来るものは 百種に 迫め寄り来る 娘子らが 娘子さびすと 唐玉を 手本に巻かし [白妙の 袖振り交はし 紅の 赤裳裾引き] よち子らと 手携はりて 遊びけむ 時の盛りを 留みかね 過ぐしやりつれ 蜷の腸 か黒き髪に いつの間か 霜の降りけむ 紅の [丹のほなす] 面の上に いづくゆか 皺が来りし [常なりし 笑まひ眉引き 咲く花の 移ろひにけり 世間は かくのみならし] ますらをの 男さびすと 剣太刀 腰に取り佩き さつ弓を 手握り持ちて 赤駒に 倭文鞍うち置き 這ひ乗りて 遊び歩きし 世間や 常にありける 娘子らが さ寝す板戸を 押し開き い辿り寄りて 真玉手の 玉手さし交へ さ寝し夜の いくだもあらねば 手束杖 腰にたがねて か行けば 人に厭はえ かく行けば 人に憎まえ 老よし男は かくのみならし たまきはる 命惜しけど 為むすべもなし

[仮名]よのなかの すべなきものは としつきは ながるるごとし とりつつき おひくるものは ももくさに せめよりきたる をとめらが をとめさびすと からたまを たもとにまかし [しろたへの そでふりかはし くれなゐの あかもすそひき] よちこらと てたづさはりて あそびけむ ときのさかりを とどみかね すぐしやりつれ みなのわた かぐろきかみに いつのまか しものふりけむ くれなゐの [にのほなす] おもてのうへに いづくゆか しわがきたりし [つねなりし ゑまひまよびき さくはなの うつろひにけり よのなかは かくのみならし] ますらをの をとこさびすと つるぎたち こしにとりはき さつゆみを たにぎりもちて あかごまに しつくらうちおき はひのりて あそびあるきし よのなかや つねにありける をとめらが さなすいたとを おしひらき いたどりよりて またまでの たまでさしかへ さねしよの いくだもあらねば たつかづゑ こしにたがねて かゆけば ひとにいとはえ かくゆけば ひとににくまえ およしをは かくのみならし たまきはる いのちをしけど せむすべもなし

[左注](神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 歌 [西] 謌 / <> -> 母 [西(右書)][紀][細] / <> -> 尓 [西(右書)][紀][細] / <> -> 多麻 [西(右書)][細][温] / 慧 -> 恵 [紀][細] / 可 [西(右書)][矢][京] 可久 / <> -> 麻 [西(右書)][紀][細] / 麻 [紀][細](塙) 摩 / 婆 -> 波 [細][温]

[事項]作者:山上憶良 仏教 無常 福岡 神亀5年7月21日 年紀 地名

[訓異]よのなかの[寛],

すべなきものは,[寛]すへなきものは,

としつきは[寛],

ながるるごとし,[寛]なかるることし,

とりつつき[寛],

おひくるものは[寛],

ももくさに[寛],

せめよりきたる[寛],

をとめらが,[寛]をとめらか,

をとめさびすと,[寛]をとめさひすと,

からたまを[寛],

たもとにまかし[寛],

[しろたへの,

そでふりかはし,

くれなゐの,

あかもすそひき],

よちこらと[寛],

てたづさはりて,[寛]てたつさはりて,

あそびけむ,[寛]あそひけむ,

ときのさかりを[寛],

とどみかね,[寛]ととみかね,

すぐしやりつれ,[寛]すくしやりつれ,

みなのわた[寛],

かぐろきかみに,[寛]かくろきかみに,

いつのまか[寛],

しものふりけむ[寛],

くれなゐの,[寛]くれなゐを,

[にのほなす],

おもてのうへに[寛],

いづくゆか,[寛]いつくゆか,

しわがきたりし,[寛]しわかきたりし,

[つねなりし,

ゑまひまよびき,

さくはなの,

うつろひにけり,

よのなかは,

かくのみならし],

ますらをの[寛],

をとこさびすと,[寛]をとこさひすと,

つるぎたち,[寛]つるきたち,

こしにとりはき[寛],

さつゆみを[寛],

たにぎりもちて,[寛]たにきりもちて,

あかごまに,[寛]あかこまに,

しつくらうちおき[寛],

はひのりて[寛],

あそびあるきし,[寛]あそひあるきし,

よのなかや,[寛]よのなかの,

つねにありける[寛],

をとめらが,[寛]をとめらか,

さなすいたとを[寛],

おしひらき[寛],

いたどりよりて,[寛]いたとりよりて,

またまでの,[寛]またまての,

たまでさしかへ,[寛]たまてさしかへ,

さねしよの[寛],

いくだもあらねば,[寛]いくたもあらねは,

たつかづゑ,[寛]たつかつゑ,

こしにたがねて,[寛]こしにたかねて,

かゆけば,[寛]かくゆきは,

ひとにいとはえ[寛],

かくゆけば,[寛]かくゆきは,

ひとににくまえ[寛],

およしをは[寛],

かくのみならし[寛],

たまきはる[寛],

いのちをしけど,[寛]いのちをしけと,

せむすべもなし,[寛]せむすへもなし,


[歌番号]05/0805

[題詞](哀世間難住歌一首[并序] / 易集難排八大辛苦 難遂易盡百年賞樂 古人所歎今亦及之 所以因作一章之歌 以撥二毛之歎 其歌曰)反歌

[原文]等伎波奈周 <迦>久斯母何母等 意母閇騰母 余能許等奈礼婆 等登尾可祢都母

[訓読]常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも

[仮名]ときはなす かくしもがもと おもへども よのことなれば とどみかねつも

[左注]神龜五年七月廿一日於嘉摩郡撰定 筑前國守山上憶良

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 加 -> 迦 [類][紀][温]

[事項]作者:山上憶良 仏教 無常 福岡 地名 神亀5年7月21日 年紀

[訓異]ときはなす[寛],

かくしもがもと,[寛]かくしもと,

おもへども,[寛]おもへとも,

よのことなれば,[寛]よのことなれは,

とどみかねつも,[寛]ととみをかねつつも,


[歌番号]05/0806

[題詞]伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]

[原文]多都能馬母 伊麻勿愛弖之可 阿遠尓与志 奈良乃美夜古尓 由吉帝己牟丹米

[訓読]龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため

[仮名]たつのまも いまもえてしか あをによし ならのみやこに ゆきてこむため

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 太 -> 大 [細][温]

[事項]作者:大伴旅人 書簡 枕詞 望郷 恋情 贈答

[訓異]たつのまも[寛],

いまもえてしか[寛],

あをによし[寛],

ならのみやこに[寛],

ゆきてこむため[寛],


[歌番号]05/0807

[題詞](伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿])

[原文]宇豆都仁波 安布余志勿奈子 奴<婆>多麻能 用流能伊昧仁越 都伎提美延許曽

[訓読]うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ

[仮名]うつつには あふよしもなし ぬばたまの よるのいめにを つぎてみえこそ

[左注]なし

[校異]波 -> 婆 [類][古][紀]

[事項]作者:大伴旅人 書簡 夢 恋情 贈答

[訓異]うつつには,

あふよしもなし,

ぬばたまの,

よるのいめにを,

つぎてみえこそ


[歌番号]05/0808

[題詞](伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]) / 答歌二首

[原文]多都乃麻乎 阿礼波毛等米牟 阿遠尓与志 奈良乃美夜古邇 許牟比等乃多仁

[訓読]龍の馬を我れは求めむあをによし奈良の都に来む人のたに

[仮名]たつのまを あれはもとめむ あをによし ならのみやこに こむひとのたに

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 仁 [紀] 米

[事項]作者:大伴旅人 書簡 枕詞 贈答

[訓異]たつのまを[寛],

あれはもとめむ[寛],

あをによし[寛],

ならのみやこに[寛],

こむひとのたに[寛],


[歌番号]05/0809

[題詞]((伏辱来書 具承芳旨 忽成隔漢之戀 復傷抱梁之意 唯羨去留無恙 遂待披雲耳 / 歌詞兩首 [<大>宰帥大伴卿]) / 答歌二首)

[原文]多陀尓阿波須 阿良久毛於保久 志岐多閇乃 麻久良佐良受提 伊米尓之美延牟

[訓読]直に逢はずあらくも多く敷栲の枕去らずて夢にし見えむ

[仮名]ただにあはず あらくもおほく しきたへの まくらさらずて いめにしみえむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 書簡 枕詞 夢 贈答

[訓異]ただにあはず,[寛]たたにあはす,

あらくもおほく[寛],

しきたへの[寛],

まくらさらずて,[寛]まくらさらすて,

いめにしみえむ[寛],


[歌番号]05/0810

[題詞]大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰

[原文]伊可尓安良武 日能等伎尓可母 許恵之良武 比等能比射乃倍 和我麻久良可武

[訓読]いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ

[仮名]いかにあらむ ひのときにかも こゑしらむ ひとのひざのへ わがまくらかむ

[左注]なし

[校異]蠻 -> 巒 [紀][細][温] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:大伴旅人 創作 藤原房前 贈り物 老荘 朝隠 書簡 対馬 琴賦 天平1年10月7日 年紀

[訓異]いかにあらむ[寛],

ひのときにかも[寛],

こゑしらむ[寛],

ひとのひざのへ,[寛]ひとのひさのへ,

わがまくらかむ,[寛]わかまくらせむ,


[歌番号]05/0811

[題詞](大伴淡等謹状 / 梧桐日本琴一面 [對馬結石山孫枝] / 此琴夢化娘子曰 余託根遥嶋之崇<巒> 晞o九陽之休光 長帶烟霞逍遥山川之阿 遠望風波出入鴈木之間 唯恐 百年之後空朽溝壑 偶遭良匠散為小琴不顧質麁音少 恒希君子左琴 即歌曰)僕報詩詠曰

[原文]許等々波奴 樹尓波安里等母 宇流波之吉 伎美我手奈礼能 許等尓之安流倍志

[訓読]言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし

[仮名]こととはぬ きにはありとも うるはしき きみがたなれの ことにしあるべし

[左注]琴娘子答曰 / 敬奉徳音 幸甚々々 片事覺 即感於夢言慨然不得止黙 故附公使聊以進御耳 [謹状不具] / 天平元年十月七日附使進上 / 謹通 中衛高明閤下 謹空

[校異]止黙 [矢][京] 黙止

[事項]作者:大伴旅人 創作 藤原房前 贈り物 老荘 朝隠 書簡 対馬 天平1年10月7日 年紀

[訓異]こととはぬ[寛],

きにはありとも[寛],

うるはしき[寛],

きみがたなれの,[寛]きみかたなれの,

ことにしあるべし,[寛]ことにしあるへし,


[歌番号]05/0812

[題詞]跪承芳音 嘉懽交深 乃知 龍門之恩復厚蓬身之上 戀望殊念常心百倍 謹和白雲之什以奏野鄙之歌 房前謹状

[原文]許等騰波奴 紀尓茂安理等毛 和何世古我 多那礼之美巨騰 都地尓意加米移母

[訓読]言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも

[仮名]こととはぬ きにもありとも わがせこが たなれのみこと つちにおかめやも

[左注]謹通 尊門 [記室] / 十一月八日附還使大監

[校異]閤 [紀] 閣 / 空 [西(訂正)] 言 / 歌 [西] 謌

[事項]作者:藤原房前 大伴旅人 書簡 天平1年11月8日 年紀

[訓異]こととはぬ[寛],

きにもありとも[寛],

わがせこが,[寛]わかせこか,

たなれのみこと[寛],

つちにおかめやも,[寛]つちにおかめいも,


[歌番号]05/0813

[題詞]筑前國怡土郡深江村子負原 臨海丘上有二石 大者長一尺二寸六分 圍一尺八寸六分 重十八斤五兩 小者長一尺一寸 圍一尺八寸 重十六斤十兩 並皆堕圓状如鷄子 其美好者不可勝論 所謂p尺璧是也 [或云 此二石者肥前國彼杵郡平敷之石 當占而取之] 去深江驛家二十許里近在路頭 公私徃来 莫不下馬跪拜 古老相傳曰 徃者息長足日女命征討新羅國之時 用茲兩石挿著御袖之中以為鎮懐 [實是御裳中矣] 所以行人敬拜此石 乃作歌曰

[原文]可既麻久波 阿夜尓可斯故斯 多良志比咩 可尾能弥許等 可良久尓遠 武氣多比良宜弖 弥許々呂遠 斯豆迷多麻布等 伊刀良斯弖 伊波比多麻比斯 麻多麻奈須 布多都能伊斯乎 世人尓 斯咩斯多麻比弖 余呂豆余尓 伊比都具可祢等 和多能曽許 意枳都布可延乃 宇奈可美乃 故布乃波良尓 美弖豆可良 意可志多麻比弖 可武奈何良 可武佐備伊麻須 久志美多麻 伊麻能遠都豆尓 多布刀伎呂可儛

[訓読]かけまくは あやに畏し 足日女 神の命 韓国を 向け平らげて 御心を 鎮めたまふと い取らして 斎ひたまひし 真玉なす 二つの石を 世の人に 示したまひて 万代に 言ひ継ぐかねと 海の底 沖つ深江の 海上の 子負の原に 御手づから 置かしたまひて 神ながら 神さびいます 奇し御魂 今のをつづに 貴きろかむ

[仮名]かけまくは あやにかしこし たらしひめ かみのみこと からくにを むけたひらげて みこころを しづめたまふと いとらして いはひたまひし またまなす ふたつのいしを よのひとに しめしたまひて よろづよに いひつぐかねと わたのそこ おきつふかえの うなかみの こふのはらに みてづから おかしたまひて かむながら かむさびいます くしみたま いまのをつづに たふときろかむ

[左注](右事傳言那珂<郡>伊知郷蓑嶋人建部牛麻呂是也)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 伝説 鎮懐石 神功皇后 福岡 古事記 地名

[訓異]かけまくは[寛],

あやにかしこし[寛],

たらしひめ[寛],

かみのみこと[寛],

からくにを[寛],

むけたひらげて,[寛]むけたひらけて,

みこころを[寛],

しづめたまふと,[寛]しつめたまふと,

いとらして[寛],

いはひたまひし[寛],

またまなす[寛],

ふたつのいしを[寛],

よのひとに[寛],

しめしたまひて[寛],

よろづよに,[寛]よろつよに,

いひつぐかねと,[寛]いひつくかねと,

わたのそこ[寛],

おきつふかえの[寛],

うなかみの[寛],

こふのはらに[寛],

みてづから,[寛]みてつから,

おかしたまひて[寛],

かむながら,[寛]かむなから,

かむさびいます,[寛]かむさひいます,

くしみたま[寛],

いまのをつづに,[寛]いまのおつつに,

たふときろかむ,[寛]たふときろかも,


[歌番号]05/0814

[題詞](筑前國怡土郡深江村子負原 臨海丘上有二石 大者長一尺二寸六分 圍一尺八寸六分 重十八斤五兩 小者長一尺一寸 圍一尺八寸 重十六斤十兩 並皆堕圓状如鷄子 其美好者不可勝論 所謂p尺璧是也 [或云 此二石者肥前國彼杵郡平敷之石 當占而取之] 去深江驛家二十許里近在路頭 公私徃来 莫不下馬跪拜 古老相傳曰 徃者息長足日女命征討新羅國之時 用茲兩石挿著御袖之中以為鎮懐 [實是御裳中矣] 所以行人敬拜此石 乃作歌曰)

[原文]阿米都知能 等母尓比佐斯久 伊比都夏等 許能久斯美多麻 志可志家良斯母

[訓読]天地のともに久しく言ひ継げとこの奇し御魂敷かしけらしも

[仮名]あめつちの ともにひさしく いひつげと このくしみたま しかしけらしも

[左注]右事傳言那珂<郡>伊知郷蓑嶋人建部牛麻呂是也

[校異]<> -> 郡 [西(右書)][紀][細][温]

[事項]作者:山上憶良 伝説 鎮懐石 神功皇后 福岡 古事記 地名

[訓異]あめつちの[寛],

ともにひさしく[寛],

いひつげと,[寛]いひつけと,

このくしみたま[寛],

しかしけらしも[寛],


[歌番号]05/0815

[題詞]梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠

[原文]武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]

[訓読]正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ[大貳紀卿]

[仮名]むつきたち はるのきたらば かくしこそ うめををきつつ たのしきをへめ

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 役 -> 促 [矢][京] / 詩 [細](塙) 請 / 利 -> 岐 [紀][細]

[事項]梅花宴 作者:紀男人 琴歌譜 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 地名 植物 宴席

[訓異]むつきたち[寛],

はるのきたらば,[寛]はるのきたらは,

かくしこそ[寛],

うめををきつつ,[寛]うめをおりつつ,

たのしきをへめ[寛],


[歌番号]05/0816

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫]

[訓読]梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも[少貳小野大夫]

[仮名]うめのはな いまさけるごと ちりすぎず わがへのそのに ありこせぬかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:小野老 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

いまさけるごと,[寛]いまさけること,

ちりすぎず,[寛]ちりすきす,

わがへのそのに,[寛]わかへのそのに,

ありこせぬかも[寛],


[歌番号]05/0817

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜[少貳粟田大夫]

[訓読]梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや[少貳粟田大夫]

[仮名]うめのはな さきたるそのの あをやぎは かづらにすべく なりにけらずや

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:粟田人上 必登 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

さきたるそのの[寛],

あをやぎは,[寛]あをやきは,

かづらにすべく,[寛]かつらにすへく,

なりにけらずや,[寛]なりにけらすや,


[歌番号]05/0818

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武[筑前守山上大夫]

[訓読]春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ[筑前守山上大夫]

[仮名]はるされば まづさくやどの うめのはな ひとりみつつや はるひくらさむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:山上憶良 孤独 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]はるされば,[寛]はるされは,

まづさくやどの,[寛]まつさくやとの,

うめのはな[寛],

ひとりみつつや[寛],

はるひくらさむ[寛],


[歌番号]05/0819

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨[豊後守大伴大夫]

[訓読]世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを[豊後守大伴大夫]

[仮名]よのなかは こひしげしゑや かくしあらば うめのはなにも ならましものを

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:大伴三依 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]よのなかは[寛],

こひしげしゑや,[寛]こひしきしゑや,

かくしあらば,[寛]かくしあらは,

うめのはなにも[寛],

ならましものを[寛],


[歌番号]05/0820

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理[筑後守葛井大夫]

[訓読]梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり[筑後守葛井大夫]

[仮名]うめのはな いまさかりなり おもふどち かざしにしてな いまさかりなり

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:葛井大成 古歌謡 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

いまさかりなり[寛],

おもふどち,[寛]おもふとち,

かざしにしてな,[寛]かさしにしてな,

いまさかりなり[寛],


[歌番号]05/0821

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥]

[訓読]青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし[笠沙弥]

[仮名]あをやなぎ うめとのはなを をりかざし のみてののちは ちりぬともよし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:沙弥満誓 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]あをやなぎ,[寛]あをやなき,

うめとのはなを[寛],

をりかざし,[寛]をりかさし,

のみてののちは[寛],

ちりぬともよし[寛],


[歌番号]05/0822

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母[主人]

[訓読]我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも[主人]

[仮名]わがそのに うめのはなちる ひさかたの あめよりゆきの ながれくるかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:大伴旅人 予祝 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]わがそのに,[寛]わかそのに,

うめのはなちる[寛],

ひさかたの[寛],

あめよりゆきの[寛],

ながれくるかも,[寛]なかれくるかも,


[歌番号]05/0823

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代]

[訓読]梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ[大監伴氏百代]

[仮名]うめのはな ちらくはいづく しかすがに このきのやまに ゆきはふりつつ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:大伴百代 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

ちらくはいづく,[寛]ちらくはいつく,

しかすがに,[寛]しかすかに,

このきのやまに[寛],

ゆきはふりつつ[寛],


[歌番号]05/0824

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 <于>具比須奈久母[小監阿氏奥嶋]

[訓読]梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも[小監阿氏奥嶋]

[仮名]うめのはな ちらまくをしみ わがそのの たけのはやしに うぐひすなくも

[左注]なし

[校異]宇 -> 于 [類][紀][温]

[事項]梅花宴 作者:安倍 阿刀 阿曇 奥嶋 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

ちらまくをしみ[寛],

わがそのの,[寛]わかそのの,

たけのはやしに[寛],

うぐひすなくも,[寛]うくひすなくも,


[歌番号]05/0825

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都々 阿素i久良佐奈[小監土氏百村]

[訓読]梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな[小監土氏百村]

[仮名]うめのはな さきたるそのの あをやぎを かづらにしつつ あそびくらさな

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:土師百村 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

さきたるそのの[寛],

あをやぎを,[寛]あをやきを,

かづらにしつつ,[寛]かつらにしつつ,

あそびくらさな,[寛]あそひくらさな,


[歌番号]05/0826

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]有知奈i久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武[大典史氏大原]

[訓読]うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ[大典史氏大原]

[仮名]うちなびく はるのやなぎと わがやどの うめのはなとを いかにかわかむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:史大原 史部 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うちなびく,[寛]うちなひく,

はるのやなぎと,[寛]はるのやなきと,

わがやどの,[寛]わかやとの,

うめのはなとを[寛],

いかにかわかむ[寛],


[歌番号]05/0827

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓[小典山氏若麻呂]

[訓読]春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に[小典山氏若麻呂]

[仮名]はるされば こぬれがくりて うぐひすぞ なきていぬなる うめがしづえに

[左注]なし

[校異]利 [類][紀] 礼

[事項]梅花宴 作者:山口若麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]はるされば,[寛]はるされは,

こぬれがくりて,[寛]こぬれかくりて,

うぐひすぞ,[寛]うくひすそ,

なきていぬなる[寛],

うめがしづえに,[寛]うめかしつえに,


[歌番号]05/0828

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]比等期等尓 乎理加射之都々 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母[大判事<丹>氏麻呂]

[訓読]人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも[大判事<丹>氏麻呂]

[仮名]ひとごとに をりかざしつつ あそべども いやめづらしき うめのはなかも

[左注]なし

[校異]舟 -> 丹 [類][紀][細]

[事項]梅花宴 作者:丹治比 丹波 丹生 麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]ひとごとに,[寛]ひとことに,

をりかざしつつ,[寛]をりかさしつつ,

あそべども,[寛]あそへとも,

いやめづらしき,[寛]いやめつらしき,

うめのはなかも[寛],


[歌番号]05/0829

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良<婆那> 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子]

[訓読]梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや[藥師張氏福子]

[仮名]うめのはな さきてちりなば さくらばな つぎてさくべく なりにてあらずや

[左注]なし

[校異]波奈 -> 婆那 [類][紀][細]

[事項]梅花宴 作者:張福子 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

さきてちりなば,[寛]さきてちりなは,

さくらばな,[寛]くらはな,

つぎてさくべく,[寛]つきてさくへく,

なりにてあらずや,[寛]なりにてあらすや,


[歌番号]05/0830

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子[筑前介佐氏子首]

[訓読]万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし[筑前介佐氏子首]

[仮名]よろづよに としはきふとも うめのはな たゆることなく さきわたるべし

[左注]なし

[校異]留 [細][温][矢] 流

[事項]梅花宴 作者:佐伯子首 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]よろづよに,[寛]よろつよに,

としはきふとも,[寛]としはきのとも,

うめのはな[寛],

たゆることなく[寛],

さきわたるべし,[寛]さきわたるへし,


[歌番号]05/0831

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓[壹岐守板氏安麻呂]

[訓読]春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに[壹岐守板氏安麻呂]

[仮名]はるなれば うべもさきたる うめのはな きみをおもふと よいもねなくに

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:板持安麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]はるなれば,[寛]はるなれは,

うべもさきたる,[寛]うへもさきたる,

うめのはな[寛],

きみをおもふと[寛],

よいもねなくに[寛],


[歌番号]05/0832

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯[神司荒氏稲布]

[訓読]梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし[神司荒氏稲布]

[仮名]うめのはな をりてかざせる もろひとは けふのあひだは たのしくあるべし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:荒木田 荒木 荒田 新井田 稲布 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

をりてかざせる,[寛]をりてかさせる,

もろひとは[寛],

けふのあひだは,[寛]けふのあひたは,

たのしくあるべし,[寛]たのしくあるへし,


[歌番号]05/0833

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多<努>志久能麻米[大令史野氏宿奈麻呂]

[訓読]年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ[大令史野氏宿奈麻呂]

[仮名]としのはに はるのきたらば かくしこそ うめをかざして たのしくのまめ

[左注]なし

[校異]弩 -> 努 [類][紀][細]

[事項]梅花宴 作者:大野 小野 三野 宿奈麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]としのはに[寛],

はるのきたらば,[寛]はるのきたらは,

かくしこそ[寛],

うめをかざして,[寛]うめをかさして,

たのしくのまめ[寛],


[歌番号]05/0834

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛々等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯[小令史田氏肥人]

[訓読]梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし[小令史田氏肥人]

[仮名]うめのはな いまさかりなり ももとりの こゑのこほしき はるきたるらし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:田口 田辺 太田 矢田 肥人 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 季節 動物

[訓異]うめのはな[寛],

いまさかりなり[寛],

ももとりの[寛],

こゑのこほしき[寛],

はるきたるらし[寛],


[歌番号]05/0835

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素i尓 阿比美都流可母[藥師高氏義通]

[訓読]春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも[藥師高氏義通]

[仮名]はるさらば あはむともひし うめのはな けふのあそびに あひみつるかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 義道 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]はるさらば,[寛]はるさらは,

あはむともひし[寛],

うめのはな[寛],

けふのあそびに,[寛]けふのあそひに,

あひみつるかも[寛],


[歌番号]05/0836

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利[陰陽師礒氏法麻呂]

[訓読]梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり[陰陽師礒氏法麻呂]

[仮名]うめのはな たをりかざして あそべども あきだらぬひは けふにしありけり

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:磯部 法麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

たをりかざして,[寛]たをりかさして,

あそべども,[寛]あそへとも,

あきだらぬひは,[寛]あきたらぬひは,

けふにしありけり[寛],


[歌番号]05/0837

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流能努尓 奈久夜汙隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汙米何波奈佐久[笇師志氏大道]

[訓読]春の野に鳴くや鴬なつけむと我が家の園に梅が花咲く[t師志氏大道]

[仮名]はるののに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:志紀 大道 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]はるののに[寛],

なくやうぐひす,[寛]なくやうくひす,

なつけむと[寛],

わがへのそのに,[寛]わかへのそのに,

うめがはなさく,[寛]うめかはなさく,


[歌番号]05/0838

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖[大隅目榎氏鉢麻呂]

[訓読]梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて[大隅目榎氏鉢麻呂]

[仮名]うめのはな ちりまがひたる をかびには うぐひすなくも はるかたまけて

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:榎井 榎本 榎室 鉢麻呂 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]うめのはな[寛],

ちりまがひたる,[寛]ちりまかひたる,

をかびには,[寛]をかひには,

うぐひすなくも,[寛]うくひすなくも,

はるかたまけて[寛],


[歌番号]05/0839

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流[筑前目田氏真上]

[訓読]春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る[筑前目田氏真上]

[仮名]はるののに きりたちわたり ふるゆきと ひとのみるまで うめのはなちる

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:田中 田辺 真上 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]はるののに[寛],

きりたちわたり[寛],

ふるゆきと[寛],

ひとのみるまで,[寛]ひとのみるまて,

うめのはなちる[寛],


[歌番号]05/0840

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]<波流>楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓[壹岐目村氏彼方]

[訓読]春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に[壹岐目村氏彼方]

[仮名]はるやなぎ かづらにをりし うめのはな たれかうかべし さかづきのへに

[左注]なし

[校異]流波 -> 波流 [西(訂正記号)][類][紀]

[事項]梅花宴 作者:村君 村国 村山 彼方 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]はるやなぎ,[寛]はるやなき,

かづらにをりし,[寛]かつらにをりし,

うめのはな[寛],

たれかうかべし,[寛]たれかうへし,

さかづきのへに,[寛]さかつききのへに,


[歌番号]05/0841

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由[對馬目高氏老]

[訓読]鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ[對馬目高氏老]

[仮名]うぐひすの おときくなへに うめのはな わぎへのそのに さきてちるみゆ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 老 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]うぐひすの,[寛]うくひすの,

おときくなへに[寛],

うめのはな[寛],

わぎへのそのに,[寛]わきへのそのに,

さきてちるみゆ[寛],


[歌番号]05/0842

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]

[訓読]我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ[薩摩目高氏海人]

[仮名]わがやどの うめのしづえに あそびつつ うぐひすなくも ちらまくをしみ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:高丘 高田 高橋 高向 高屋 高安 高 高麗 海人 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]わがやどの,[寛]わかやとの,

うめのしづえに,[寛]うめのしつえに,

あそびつつ,[寛]あそひつつ,

うぐひすなくも,[寛]うくひすなくも,

ちらまくをしみ[寛],


[歌番号]05/0843

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]宇梅能波奈 乎理加射之都々 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布[土師氏御<道>]

[訓読]梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ[土師氏御<道>]

[仮名]うめのはな をりかざしつつ もろひとの あそぶをみれば みやこしぞもふ

[左注]なし

[校異]通 -> 道 [紀][細]

[事項]梅花宴 作者:土師御道 太宰府 福岡 望郷 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]うめのはな[寛],

をりかざしつつ,[寛]をりかさしつつ,

もろひとの[寛],

あそぶをみれば,[寛]あそふをみれは,

みやこしぞもふ,[寛]みやこしそおもふ,


[歌番号]05/0844

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許々陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]

[訓読]妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも[小野氏國堅]

[仮名]いもがへに ゆきかもふると みるまでに ここだもまがふ うめのはなかも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:小野國堅 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]いもがへに,[寛]いもかへに,

ゆきかもふると[寛],

みるまでに,[寛]みるまてに,

ここだもまがふ,[寛]ここたもまかふ,

うめのはなかも[寛],


[歌番号]05/0845

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米[筑前拯門氏石足]

[訓読]鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため[筑前拯門氏石足]

[仮名]うぐひすの まちかてにせし うめがはな ちらずありこそ おもふこがため

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 作者:門部石足 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物 動物

[訓異]うぐひすの,[寛]うくひすの,

まちかてにせし[寛],

うめがはな,[寛]うめかはな,

ちらずありこそ,[寛]ちらすありこそ,

おもふこがため,[寛]おもふこかため,


[歌番号]05/0846

[題詞](梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠)

[原文]可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛[小野氏淡理]

[訓読]霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも[小野氏淡理]

[仮名]かすみたつ ながきはるひを かざせれど いやなつかしき うめのはなかも

[左注]なし

[校異]波那 [類][矢][京] 波奈

[事項]梅花宴 作者:小野田守 太宰府 福岡 天平2年1月13日 年紀 宴席 地名 植物

[訓異]かすみたつ[寛],

ながきはるひを,[寛]なかきはるひを,

かざせれど,[寛]かさせれと,

いやなつかしき[寛],

うめのはなかも[寛],


[歌番号]05/0847

[題詞]員外思故郷歌兩首

[原文]和我佐可理 伊多久々多知奴 久毛尓得夫 久須利波武等母 麻多遠知米也母

[訓読]我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまた変若めやも

[仮名]わがさかり いたくくたちぬ くもにとぶ くすりはむとも またをちめやも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 望郷 太宰府 福岡 老 神仙

[訓異]わがさかり,[寛]わかさかり,

いたくくたちぬ[寛],

くもにとぶ,[寛]くもにとふ,

くすりはむとも[寛],

またをちめやも[寛],


[歌番号]05/0848

[題詞](員外思故郷歌兩首)

[原文]久毛尓得夫 久須利波牟用波 美也古弥婆 伊夜之吉阿何微 麻多越知奴倍之

[訓読]雲に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしき我が身また変若ぬべし

[仮名]くもにとぶ くすりはむよは みやこみば いやしきあがみ またをちぬべし

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 望郷 太宰府 福岡 老 神仙

[訓異]くもにとぶ,[寛]くもにとふ,

くすりはむよは[寛],

みやこみば,[寛]みやこみは,

いやしきあがみ,[寛]いやしきあかみ,

またをちぬべし,[寛]またをちぬへし,


[歌番号]05/0849

[題詞]後追和梅歌四首

[原文]能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿

[訓読]残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも

[仮名]のこりたる ゆきにまじれる うめのはな はやくなちりそ ゆきはけぬとも

[左注]なし

[校異]留 [類][紀][細](塙) 流

[事項]梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物

[訓異]のこりたる[寛],

ゆきにまじれる,[寛]ゆきにましれる,

うめのはな[寛],

はやくなちりそ[寛],

ゆきはけぬとも[寛],


[歌番号]05/0850

[題詞](後追和梅歌四首)

[原文]由吉能伊呂遠 有<婆>比弖佐家流 有米能波奈 伊麻<左>加利奈利 弥牟必登母我聞

[訓読]雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも

[仮名]ゆきのいろを うばひてさける うめのはな いまさかりなり みむひともがも

[左注]なし

[校異]波 -> 婆 [類][紀][細] / 佐 -> 左 [類][紀][細]

[事項]梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物

[訓異]ゆきのいろを[寛],

うばひてさける,[寛]うはひてさける,

うめのはな[寛],

いまさかりなり[寛],

みむひともがも,[寛]みむひともかも,


[歌番号]05/0851

[題詞](後追和梅歌四首)

[原文]和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母

[訓読]我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも

[仮名]わがやどに さかりにさける うめのはな ちるべくなりぬ みむひともがも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物

[訓異]わがやどに,[寛]わかやとに,

さかりにさける,[寛]さかりにさける,

うめのはな[寛],

ちるべくなりぬ,[寛]ちるへくなりぬ,

みむひともがも,[寛]みむひともかも,


[歌番号]05/0852

[題詞](後追和梅歌四首)

[原文]烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽 [一云 伊多豆良尓 阿例乎知良須奈 左氣尓<宇>可倍許曽]

[訓読]梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ [一云 いたづらに我れを散らすな酒に浮べこそ]

[仮名]うめのはな いめにかたらく みやびたる はなとあれもふ さけにうかべこそ [いたづらに あれをちらすな さけにうかべこそ]

[左注]なし

[校異]于 -> 宇 [類] (楓) 于 / 許 [類][紀][細](塙) 己

[事項]梅花宴 追和 大伴旅人 太宰府 福岡 植物

[訓異]うめのはな[寛],

いめにかたらく[寛],

みやびたる,[寛]みやひたる,

はなとあれもふ[寛],

さけにうかべこそ,[寛]さけにうかへこそ,

[いたづらに,[寛]いたつらに,

あれをちらすな[寛],

さけにうかべこそ],[寛]さけにうかへこそ,


[歌番号]05/0853

[題詞]遊<於>松浦河序 / 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣凌雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨<玉>魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳<欵>曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯々 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠歌曰

[原文]阿佐<里><須流> 阿末能古等母等 比得波伊倍騰 美流尓之良延奴 有麻必等能古等

[訓読]あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と

[仮名]あさりする あまのこどもと ひとはいへど みるにしらえぬ うまひとのこと

[左注]なし

[校異]<> -> 於 [紀][細] / 王 -> 玉 [温] / 歎 -> 欵 [細] / 歌 [西] 謌 / 理 -> 里 [類][紀][細] / 流須 -> 須流 [西(訂正記号)][類][紀][細]

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名

[訓異]あさりする[寛],

あまのこどもと,[寛]あまのこともと,

ひとはいへど,[寛]ひとはいへと,

みるにしらえぬ[寛],

うまひとのこと[寛],


[歌番号]05/0854

[題詞](遊<於>松浦河序 / 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣凌雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨<玉>魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳<欵>曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯々 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠歌曰)答詩曰

[原文]多麻之末能 許能可波加美尓 伊返波阿礼騰 吉美乎夜佐之美 阿良波佐受阿利吉

[訓読]玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき

[仮名]たましまの このかはかみに いへはあれど きみをやさしみ あらはさずありき

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名

[訓異]たましまの[寛],

このかはかみに[寛],

いへはあれど,[寛]いへはあれと,

きみをやさしみ[寛],

あらはさずありき,[寛]あらはさすありき,


[歌番号]05/0855

[題詞]蓬客等更贈歌三首

[原文]麻都良河波 可波能世比可利 阿由都流等 多々勢流伊毛<何> 毛能須蘇奴例奴

[訓読]松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ

[仮名]まつらがは かはのせひかり あゆつると たたせるいもが ものすそぬれぬ

[左注]なし

[校異]客等 [類](塙) 客 / 歌 [西] 謌 / 河 -> 何 [紀] (塙) 河

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 遊仙窟 神功皇后 求婚 野遊び 地名

[訓異]まつらがは,[寛]まつらかは,

かはのせひかり[寛],

あゆつると[寛],

たたせるいもが,[寛]たたせるいもか,

ものすそぬれぬ[寛],

[左注]


[歌番号]05/0856

[題詞](蓬客等更贈歌三首)

[原文]麻都良奈流 多麻之麻河波尓 阿由都流等 多々世流古良何 伊弊遅斯良受毛

[訓読]松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも

[仮名]まつらなる たましまがはに あゆつると たたせるこらが いへぢしらずも

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 求婚 野遊び 地名

[訓異]まつらなる[寛],

たましまがはに,[寛]たましまかはに,

あゆつると[寛],

たたせるこらが,[寛]たたせるこらか,

いへぢしらずも,[寛]いへちしらすも,


[歌番号]05/0857

[題詞](蓬客等更贈歌三首)

[原文]等富都比等 末都良能加波尓 和可由都流 伊毛我多毛等乎 和礼許曽末加米

[訓読]遠つ人松浦の川に若鮎釣る妹が手本を我れこそ卷かめ

[仮名]とほつひと まつらのかはに わかゆつる いもがたもとを われこそまかめ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名

[訓異]とほつひと[寛],

まつらのかはに[寛],

わかゆつる[寛],

いもがたもとを,[寛]いもかたもとを,

われこそまかめ[寛],


[歌番号]05/0858

[題詞]娘等更報歌三首

[原文]和可由都流 麻都良能可波能 可波奈美能 奈美邇之母波婆 和礼故飛米夜母

[訓読]若鮎釣る松浦の川の川なみの並にし思はば我れ恋ひめやも

[仮名]わかゆつる まつらのかはの かはなみの なみにしもはば われこひめやも

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌

[事項]作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名

[訓異]わかゆつる[寛],

まつらのかはの[寛],

かはなみの[寛],

なみにしもはば,[寛]なみにしもはは,

われこひめやも,[寛]われこひめやも,


[歌番号]05/0859

[題詞](娘等更報歌三首)

[原文]波流佐礼婆 和伎覇能佐刀能 加波度尓波 阿由故佐婆斯留 吉美麻知我弖尓

[訓読]春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに

[仮名]はるされば わぎへのさとの かはとには あゆこさばしる きみまちがてに

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名

[訓異]はるされば,[寛]はるされは,

わぎへのさとの,[寛]わきへのさとの,

かはとには[寛],

あゆこさばしる,[寛]あゆこさはしる,

きみまちがてに,[寛]きみまちかてに,


[歌番号]05/0860

[題詞](娘等更報歌三首)

[原文]麻都良我波 奈々勢能與騰波 与等武等毛 和礼波与騰麻受 吉美遠志麻多武

[訓読]松浦川七瀬の淀は淀むとも我れは淀まず君をし待たむ

[仮名]まつらがは ななせのよどは よどむとも われはよどまず きみをしまたむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:娘等 大伴旅人 玉島川 巡行 創作 神功皇后 恋愛 求婚 野遊び 地名

[訓異]まつらがは,[寛]まつらかは,

ななせのよどは,[寛]ななせのよとは,

よどむとも,[寛]よとむとも,

われはよどまず,[寛]われはよとます,

きみをしまたむ[寛],


[歌番号]05/0861

[題詞]後人追和之<詩>三首 [帥老]

[原文]麻都良河波 <可>波能世波夜美 久礼奈為能 母能須蘇奴例弖 阿由可都流良<武>

[訓読]松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ

[仮名]まつらがは かはのせはやみ くれなゐの ものすそぬれて あゆかつるらむ

[左注]なし

[校異]謌 -> 詩 [類][紀][細] / 河 -> 可 [類][紀][細] / 哉 -> 武 [西(右書)][類][紀]

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名

[訓異]まつらがは,[寛]まつらかは,

かはのせはやみ[寛],

くれなゐの[寛],

ものすそぬれて[寛],

あゆかつるらむ,[寛]あゆかるらむ,


[歌番号]05/0862

[題詞](後人追和之<詩>三首 [帥老])

[原文]比等未奈能 美良武麻都良能 多麻志末乎 美受弖夜和礼波 故飛都々遠良武

[訓読]人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我れは恋ひつつ居らむ

[仮名]ひとみなの みらむまつらの たましまを みずてやわれは こひつつをらむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名

[訓異]ひとみなの[寛],

みらむまつらの[寛],

たましまを[寛],

みずてやわれは,[寛]みすてやわれは,

こひつつをらむ[寛],


[歌番号]05/0863

[題詞](後人追和之<詩>三首 [帥老])

[原文]麻都良河波 多麻斯麻能有良尓 和可由都流 伊毛良遠美良牟 比等能等母斯佐

[訓読]松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人の羨しさ

[仮名]まつらがは たましまのうらに わかゆつる いもらをみらむ ひとのともしさ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:大伴旅人 玉島川 創作 追和 求婚 野遊び 地名

[訓異]まつらがは,[寛]まつらかは,

たましまのうらに[寛],

わかゆつる[寛],

いもらをみらむ,[寛]いもらをみをむ,

ひとのともしさ[寛],


[歌番号]05/0864

[題詞]宜啓 伏奉四月六日賜書 跪開封函 拜讀芳藻 心神開朗以懐泰初之月鄙懐除<袪> 若披樂廣之天 至若羈旅邊城 懐古舊而傷志 年矢不停<憶>平生而落涙 但達人安排 君子無悶 伏冀 朝宜懐翟之化暮存放龜之術 架張趙於百代 追松喬於千齡耳 兼奉垂示 梅<苑>芳席 群英摛藻 松浦玉潭 仙媛贈答類否壇各言之作 疑衡皐税駕之篇 耽讀吟諷<感>謝歡怡 宜戀主之誠 誠逾犬馬仰徳之心 心同葵藿 而碧海分地白雲隔天 徒積傾延 何慰勞緒 孟秋膺節 伏願萬祐日新 今因相撲部領使謹付片紙 宜謹啓 不次 / 奉和諸人梅花歌一首

[原文]於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓<忘> 奈良麻之母能乎

[訓読]後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを

[仮名]おくれゐて ながこひせずは みそのふの うめのはなにも ならましものを

[左注]なし

[校異]私 -> 袪 [細] / <> -> 憶 [西(右書)][紀][細] / 花 -> 苑 [細] / 戚 -> 感 [代匠記精撰本] / 誠 [紀][細][温] 々 / 心 [紀][細][温] 々 / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 母 -> 忘 [類][細]

[事項]作者:吉田宜 書簡 大伴旅人 梅花宴 唱和 植物 贈答 恋情

[訓異]おくれゐて[寛],

ながこひせずは,[寛]なかこひせすは,

みそのふの[寛],

うめのはなにも[寛],

ならましものを[寛],


[歌番号]05/0865

[題詞]和松浦仙媛歌一首

[原文]伎弥乎麻都 々々良乃于良能 越等賣良波 等己与能久尓能 阿麻越等賣可<忘>

[訓読]君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも

[仮名]きみをまつ まつらのうらの をとめらは とこよのくにの あまをとめかも

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 忌 -> 忘 [類][細]

[事項]作者:吉田宜 書簡 大伴旅人 松浦仙媛 唱和 地名 贈答

[訓異]きみをまつ[寛],

まつらのうらの[寛],

をとめらは[寛],

とこよのくにの[寛],

あまをとめかも[寛],


[歌番号]05/0866

[題詞]思君未盡重題二首

[原文]波漏々々尓 於忘方由流可母 志良久毛能 <知>弊仁邊多天留 都久紫能君仁波

[訓読]はろはろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は

[仮名]はろはろに おもほゆるかも しらくもの ちへにへだてる つくしのくには

[左注](天平二年七月十日)

[校異]々 [細] 婆 / 智 -> 知 [類][紀]

[事項]作者:吉田宜 書簡 奈良 大伴旅人 地名 天平2年7月10日 年紀

[訓異]はろはろに,[寛]はるはるに,

おもほゆるかも[寛],

しらくもの[寛],

ちへにへだてる,[寛]ちへにへたてる,

つくしのくには[寛],


[歌番号]05/0867

[題詞](思君未盡重題二首)

[原文]枳美可由伎 氣那<我>久奈理奴 奈良遅那留 志満乃己太知母 可牟佐飛仁家<里>

[訓読]君が行き日長くなりぬ奈良道なる山斎の木立も神さびにけり

[仮名]きみがゆき けながくなりぬ ならぢなる しまのこだちも かむさびにけり

[左注]天平二年七月十日

[校異]家 -> 我 [類][紀][細] / 理 -> 里 [類][紀][細]

[事項]作者:吉田宜 書簡 奈良 大伴旅人 天平2年7月10日 年紀

[訓異]きみがゆき,[寛]きみかゆき,

けながくなりぬ,[寛]けなかくなりぬ,

ならぢなる,[寛]ならちなる,

しまのこだちも,[寛]しまのこたちも,

かむさびにけり,[寛]かむさひにけり,


[歌番号]05/0868

[題詞]憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰

[原文]麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃<尾>夜 伎々都々遠良武

[訓読]松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ

[仮名]まつらがた さよひめのこが ひれふりし やまのなのみや ききつつをらむ

[左注](天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上)

[校異]鄙歌 [西] 鄙謌 [西(左別筆訂正)] 鄙歌 / 歌曰 [西] 謌曰 / 列 [紀][細] 例 [類] 礼 / 美 -> 尾 [類][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 天平2年7月11日 年紀 地名

[訓異]まつらがた,[寛]まつらかた,

さよひめのこが,[寛]さよひめのこか,

ひれふりし[寛],

やまのなのみや[寛],

ききつつをらむ[寛],


[歌番号]05/0869

[題詞](憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰)

[原文]多良志比賣 可尾能美許等能 奈都良須等 美多々志世利斯 伊志遠多礼美吉 [一云 阿由都流等]

[訓読]足姫神の命の魚釣らすとみ立たしせりし石を誰れ見き [一云 鮎釣ると]

[仮名]たらしひめ かみのみことの なつらすと みたたしせりし いしをたれみき [あゆつると]

[左注](天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 神功皇后 天平2年7月11日 年紀 推敲

[訓異]たらしひめ[寛],

かみのみことの[寛],

なつらすと[寛],

みたたしせりし[寛],

いしをたれみき[寛],

[あゆつると]


[歌番号]05/0870

[題詞](憶良誠惶頓首謹啓 / 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙歌 欲寫五蔵之欝結 其歌曰)

[原文]毛々可斯母 由加奴麻都良遅 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈尓可佐夜礼留

[訓読]百日しも行かぬ松浦道今日行きて明日は来なむを何か障れる

[仮名]ももがしも ゆかぬまつらぢ けふゆきて あすはきなむを なにかさやれる

[左注]天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 松浦佐用姫 天平2年7月11日 年紀 地名

[訓異]ももがしも,[寛]ももかしも,

ゆかぬまつらぢ,[寛]ゆかぬまつらち,

けふゆきて[寛],

あすはきなむを[寛],

なにかさやれる[寛],


[歌番号]05/0871

[題詞]大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰

[原文]得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非尓 比例布利之用利 於返流夜麻能奈

[訓読]遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名

[仮名]とほつひと まつらさよひめ つまごひに ひれふりしより おへるやまのな

[左注]なし

[校異]黙 -> 黯 [古] / 歌 [西] 謌

[事項]山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名

[訓異]とほつひと[寛],

まつらさよひめ[寛],

つまごひに,[寛]つまこひに,

ひれふりしより[寛],

おへるやまのな[寛],


[歌番号]05/0872

[題詞](大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)後人追和

[原文]夜麻能奈等 伊賓都夏等可母 佐用比賣何 許能野麻能閇仁 必例遠布利家<牟>

[訓読]山の名と言ひ継げとかも佐用姫がこの山の上に領巾を振りけむ

[仮名]やまのなと いひつげとかも さよひめが このやまのへに ひれをふりけむ

[左注]なし

[校異]何 [類][紀][細](塙) 河 / 無 -> 牟 [類][紀][細]

[事項]山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名

[訓異]やまのなと[寛],

いひつげとかも,[寛]いひつけとかも,

さよひめが,[寛]さよひめか,

このやまのへに[寛],

ひれをふりけむ[寛],


[歌番号]05/0873

[題詞](大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最後人追和

[原文]余呂豆余尓 可多利都夏等之 許能多氣仁 比例布利家良之 麻通羅佐用嬪面

[訓読]万世に語り継げとしこの丘に領巾振りけらし松浦佐用姫

[仮名]よろづよに かたりつげとし このたけに ひれふりけらし まつらさよひめ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名

[訓異]よろづよに,[寛]よろつよに,

かたりつげとし,[寛]かたりつけとし,

このたけに[寛],

ひれふりけらし[寛],

まつらさよひめ[寛],


[歌番号]05/0874

[題詞](大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最々後人追和二首

[原文]宇奈波良能 意吉由久布祢遠 可弊礼等加 比礼布良斯家武 麻都良佐欲比賣

[訓読]海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫

[仮名]うなはらの おきゆくふねを かへれとか ひれふらしけむ まつらさよひめ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名

[訓異]うなはらの[寛],

おきゆくふねを[寛],

かへれとか[寛],

ひれふらしけむ,[寛]ひれふらしなむ,

まつらさよひめ[寛],


[歌番号]05/0875

[題詞]((大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦[佐用嬪面] 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝<黯>然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作歌曰)最々後人追和二首)

[原文]由久布祢遠 布利等騰尾加祢 伊加婆加利 故保斯<苦>阿利家武 麻都良佐欲比賣

[訓読]行く船を振り留みかねいかばかり恋しくありけむ松浦佐用姫

[仮名]ゆくふねを ふりとどみかね いかばかり こほしくありけむ まつらさよひめ

[左注]なし

[校異]古 -> 苦 [京]

[事項]山上憶良 鏡山 唐津 大伴佐提比古 松浦佐用姫 領布振伝説 地名

[訓異]ゆくふねを[寛],

ふりとどみかね,[寛]ふりととみかね,

いかばかり,[寛]いかはかり,

こほしくありけむ[寛],

まつらさよひめ[寛],


[歌番号]05/0876

[題詞]書殿餞酒日<倭>歌四首

[原文]阿麻等夫夜 等利尓母賀母夜 美夜故<麻>提 意久利摩遠志弖 等比可弊流母能

[訓読]天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの

[仮名]あまとぶや とりにもがもや みやこまで おくりまをして とびかへるもの

[左注]なし

[校異]和 -> 倭 [類][紀][細] / 歌 [西] 謌 / 麻 [類][細] 摩 / 摩 -> 麻 [類][紀][温] / 摩 [紀][温] 麻

[事項]山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名

[訓異]あまとぶや,[寛]あまとふや,

とりにもがもや,[寛]とりにもかもや,

みやこまで,[寛]みやこまて,

おくりまをして[寛],

とびかへるもの,[寛]とひかへるもの,


[歌番号]05/0877

[題詞](書殿餞酒日<倭>歌四首)

[原文]比等母祢能 宇良夫禮遠留尓 多都多夜麻 美麻知可豆加婆 和周良志奈牟迦

[訓読]ひともねのうらぶれ居るに龍田山御馬近づかば忘らしなむか

[仮名]ひともねの うらぶれをるに たつたやま みまちかづかば わすらしなむか

[左注]なし

[校異]なし

[事項]山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名

[訓異]ひともねの[寛],

うらぶれをるに,[寛]うらふれをるに,

たつたやま,[寛]たつたつやま,

みまちかづかば,[寛]みまちかつかは,

わすらしなむか,[寛]わすられなむか,


[歌番号]05/0878

[題詞](書殿餞酒日<倭>歌四首)

[原文]伊比都々母 能知許曽斯良米 等乃斯久母 佐夫志計米夜母 吉美伊麻佐受斯弖

[訓読]言ひつつも後こそ知らめとのしくも寂しけめやも君いまさずして

[仮名]いひつつも のちこそしらめ とのしくも さぶしけめやも きみいまさずして

[左注]なし

[校異]なし

[事項]山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名

[訓異]いひつつも[寛],

のちこそしらめ[寛],

とのしくも[寛],

さぶしけめやも,[寛]さふしけめやも,

きみいまさずして,[寛]きみいまさすして,


[歌番号]05/0879

[題詞](書殿餞酒日<倭>歌四首)

[原文]余呂豆余尓 伊麻志多麻比提 阿米能志多 麻乎志多麻波祢 美加<度>佐良受弖

[訓読]万世にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて

[仮名]よろづよに いましたまひて あめのした まをしたまはね みかどさらずて

[左注]なし

[校異]<> -> 度 [西(右書)][類][紀][細]

[事項]山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 帰京 宴席 地名

[訓異]よろづよに,[寛]よろつよに,

いましたまひて[寛],

あめのした[寛],

まをしたまはね[寛],

みかどさらずて,[寛]みかとさらすて,


[歌番号]05/0880

[題詞]敢布私懐歌三首

[原文]阿麻社迦留 比奈尓伊都等世 周麻比都々 美夜故能提夫利 和周良延尓家利

[訓読]天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり

[仮名]あまざかる ひなにいつとせ すまひつつ みやこのてぶり わすらえにけり

[左注](天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 地名 天平2年12月6日 年紀

[訓異]あまざかる,[寛]あまさかる,

ひなにいつとせ[寛],

すまひつつ[寛],

みやこのてぶり,[寛]みやこのてふり,

わすらえにけり[寛],


[歌番号]05/0881

[題詞](敢布私懐歌三首)

[原文]加久能<未>夜 伊吉豆伎遠良牟 阿良多麻能 吉倍由久等志乃 可伎利斯良受提

[訓読]かくのみや息づき居らむあらたまの来経行く年の限り知らずて

[仮名]かくのみや いきづきをらむ あらたまの きへゆくとしの かぎりしらずて

[左注](天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上)

[校異]米 -> 未 [類][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 天平2年12月6日 年紀

[訓異]かくのみや[寛],

いきづきをらむ,[寛]いきつきをらむ,

あらたまの[寛],

きへゆくとしの[寛],

かぎりしらずて,[寛]かきりしらすて,


[歌番号]05/0882

[題詞](敢布私懐歌三首)

[原文]阿我農斯能 美多麻々々比弖 波流佐良婆 奈良能美夜故尓 咩佐宜多麻波祢

[訓読]我が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げたまはね

[仮名]あがぬしの みたまたまひて はるさらば ならのみやこに めさげたまはね

[左注]天平二年十二月六日筑前國守山上憶良謹上

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴旅人 太宰府 福岡 餞別 宴席 帰京 天平2年12月6日

[訓異]あがぬしの,[寛]あかのしの,

みたまたまひて[寛],

はるさらば,[寛]はるさらは,

ならのみやこに[寛],

めさげたまはね,[寛]めさけたまはね,


[歌番号]05/0883

[題詞]三嶋王後追和松浦佐用嬪面歌一首

[原文]於登尓吉<岐> 目尓波伊麻太見受 佐容比賣我 必礼布理伎等敷 吉民萬通良楊満

[訓読]音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山

[仮名]おとにきき めにはいまだみず さよひめが ひれふりきとふ きみまつらやま

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 伎 -> 岐 [類][紀][細]

[事項]作者:三嶋王 松浦佐用姫 追和 領布振伝説 地名

[訓異]おとにきき[寛],

めにはいまだみず,[寛]めにはいまたみす,

さよひめが,[寛]さよひめか,

ひれふりきとふ[寛],

きみまつらやま[寛],


[歌番号]05/0884

[題詞]大伴君熊凝歌二首 [大典麻田陽春作]

[原文]國遠伎 路乃長手遠 意保々斯久 計布夜須疑南 己等騰比母奈久

[訓読]国遠き道の長手をおほほしく今日や過ぎなむ言どひもなく

[仮名]くにとほき みちのながてを おほほしく けふやすぎなむ ことどひもなく

[左注]なし

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:麻田陽春 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人

[訓異]くにとほき[寛],

みちのながてを,[寛]みちのなかてを,

おほほしく[寛],

けふやすぎなむ,[寛]こふやすきなむ,

ことどひもなく,[寛]こととひもなく,


[歌番号]05/0885

[題詞](大伴君熊凝歌二首 [大典麻田陽春作])

[原文]朝露乃 既夜須伎我身 比等國尓 須疑加弖奴可母 意夜能目遠保利

[訓読]朝露の消やすき我が身他国に過ぎかてぬかも親の目を欲り

[仮名]あさつゆの けやすきあがみ ひとくにに すぎかてぬかも おやのめをほり

[左注]なし

[校異]露 [類][紀][細] 霧

[事項]作者:麻田陽春 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人

[訓異]あさつゆの[寛],

けやすきあがみ,[寛]けやすきわかみ,

ひとくにに[寛],

すぎかてぬかも,[寛]すきかてぬかも,

おやのめをほり[寛],


[歌番号]05/0886

[題詞]筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰

[原文]宇知比佐受 宮弊能保留等 多羅知斯夜 波々何手波奈例 常斯良奴 國乃意久迦袁 百重山 越弖須<疑>由伎 伊都斯可母 京師乎美武等 意母比都々 迦多良比遠礼騰 意乃何身志 伊多波斯計礼婆 玉桙乃 道乃久麻尾尓 久佐太袁利 志<婆>刀利志伎提 等許自母能 宇知<許>伊布志提 意母比都々 奈宜伎布勢良久 國尓阿良婆 父刀利美麻之 家尓阿良婆 母刀利美麻志 世間波 迦久乃尾奈良志 伊奴時母能 道尓布斯弖夜 伊能知周<疑>南 [一云 和何余須疑奈牟]

[訓読]うちひさす 宮へ上ると たらちしや 母が手離れ 常知らぬ 国の奥処を 百重山 越えて過ぎ行き いつしかも 都を見むと 思ひつつ 語らひ居れど おのが身し 労はしければ 玉桙の 道の隈廻に 草手折り 柴取り敷きて 床じもの うち臥い伏して 思ひつつ 嘆き伏せらく 国にあらば 父とり見まし 家にあらば 母とり見まし 世間は かくのみならし 犬じもの 道に伏してや 命過ぎなむ [一云 我が世過ぎなむ]

[仮名]うちひさす みやへのぼると たらちしや ははがてはなれ つねしらぬ くにのおくかを ももへやま こえてすぎゆき いつしかも みやこをみむと おもひつつ かたらひをれど おのがみし いたはしければ たまほこの みちのくまみに くさたをり しばとりしきて とこじもの うちこいふして おもひつつ なげきふせらく くににあらば ちちとりみまし いへにあらば ははとりみまし よのなかは かくのみならし いぬじもの みちにふしてや いのちすぎなむ [わがよすぎなむ]

[左注]なし

[校異]筑前國守山上憶良敬和 [紀][細](楓) 敬和・・・筑前國守・・・ / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 某 [紀][細](塙) ム / 作歌 [西] 作謌 / 歌曰 [西] 謌曰 / 凝 -> 疑 [類][紀][細] / 遠 [紀][細](塙) 袁 / 波 -> 婆 [類][温][細] / 計 -> 許 [代匠記(初稿)] / 凝 -> 疑 [類][紀][細]

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常

[訓異]うちひさす[寛],

みやへのぼると,[寛]みやへのほると,

たらちしや[寛],

ははがてはなれ,[寛]ははかてはなれ,

つねしらぬ[寛],

くにのおくかを[寛],

ももへやま[寛],

こえてすぎゆき,[寛]こえてすきゆき,

いつしかも[寛],

みやこをみむと[寛],

おもひつつ[寛],

かたらひをれど,[寛]かたらひをれと,

おのがみし,[寛]おのかみし,

いたはしければ,[寛]いたはしけれは,

たまほこの[寛],

みちのくまみに,[寛]みちのまに,

くさたをり[寛],

しばとりしきて,[寛]しはとりしきて,

とこじもの,[寛]とけしもの,

うちこいふして[寛],

おもひつつ[寛],

なげきふせらく,[寛]なけきふせらく,

くににあらば,[寛]くににあらは,

ちちとりみまし[寛],

いへにあらば,[寛]いへにあらは,

ははとりみまし[寛],

よのなかは[寛],

かくのみならし[寛],

いぬじもの,[寛]いぬしもの,

みちにふしてや[寛],

いのちすぎなむ,[寛]いのちすきなむ,

[わがよすぎなむ],[寛]わかよすきなむ,


[歌番号]05/0887

[題詞](筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰)

[原文]多良知子能 波々何目美受提 意保々斯久 伊豆知武伎提可 阿我和可留良武

[訓読]たらちしの母が目見ずておほほしくいづち向きてか我が別るらむ

[仮名]たらちしの ははがめみずて おほほしく いづちむきてか あがわかるらむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常

[訓異]たらちしの[寛],

ははがめみずて,[寛]ははかめみすて,

おほほしく[寛],

いづちむきてか,[寛]いつちむきてか,

あがわかるらむ,[寛]あかわかるらむ,


[歌番号]05/0888

[題詞](筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰)

[原文]都祢斯良農 道乃長手袁 久礼々々等 伊可尓可由迦牟 可利弖波奈斯尓 [一云 可例比波奈之尓]

[訓読]常知らぬ道の長手をくれくれといかにか行かむ糧はなしに [一云 干飯はなしに]

[仮名]つねしらぬ みちのながてを くれくれと いかにかゆかむ かりてはなしに [かれひはなしに]

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常

[訓異]つねしらぬ[寛],

みちのながてを,[寛]みちのなかてを,

くれくれと[寛],

いかにかゆかむ[寛],

かりてはなしに[寛],

[かれひはなしに][寛],


[歌番号]05/0889

[題詞](筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰)

[原文]家尓阿利弖 波々何刀利美婆 奈具佐牟流 許々呂波阿良麻志 斯奈婆斯農等母 [一云 能知波志奴等母]

[訓読]家にありて母がとり見ば慰むる心はあらまし死なば死ぬとも [一云 後は死ぬとも]

[仮名]いへにありて ははがとりみば なぐさむる こころはあらまし しなばしぬとも [のちはしぬとも]

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常 鎮魂

[訓異]いへにありて[寛],

ははがとりみば,[寛]ははかとりみは,

なぐさむる,[寛]なくさむる,

こころはあらまし[寛],

しなばしぬとも,[寛]しなはしぬとも,

[のちはしぬとも][寛],


[歌番号]05/0890

[題詞](筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰)

[原文]出弖由伎斯 日乎可俗閇都々 家布々々等 阿袁麻多周良武 知々波々良波母 [一云 波々我迦奈斯佐]

[訓読]出でて行きし日を数へつつ今日今日と我を待たすらむ父母らはも [一云 母が悲しさ]

[仮名]いでてゆきし ひをかぞへつつ けふけふと あをまたすらむ ちちははらはも [ははがかなしさ]

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常

[訓異]いでてゆきし,[寛]いててゆきし,

ひをかぞへつつ,[寛]ひをかそへつつ,

けふけふと[寛],

あをまたすらむ[寛],

ちちははらはも,[寛]ちちははをはも,

[ははがかなしさ],[寛]ははかかなしさ,


[歌番号]05/0891

[題詞](筑前國守山上憶良敬和為熊凝述其志歌六首[并序] / 大伴君熊凝者 肥後國益城郡人也 年十八歳 以天平三年六月十七日為相撲使某國司官位姓名従人 参向京都 為天不幸在路獲疾 即於安藝國佐伯郡高庭驛家身故也 臨終之時 長歎息曰 傳聞 假合之身易滅 泡沫之命難駐 所以千聖已去 百賢不留 况乎凡愚微者何能逃避 但我老親並在菴室 侍我過日 自有傷心之恨 望我違時 必致喪明之泣 哀哉我父痛哉我母 不患一身向死之途 唯悲二親在生之苦 今日長別 何世得覲 乃作歌六首而死 其歌曰)

[原文]一世尓波 二遍美延農 知々波々袁 意伎弖夜奈何久 阿我和加礼南 [一云 相別南]

[訓読]一世にはふたたび見えぬ父母を置きてや長く我が別れなむ [一云 相別れなむ]

[仮名]ひとよには ふたたびみえぬ ちちははを おきてやながく あがわかれなむ [あひわかれなむ]

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 大伴熊凝 追悼 哀悼 行路死人 儒教 孝養 無常

[訓異]ひとよには[寛],

ふたたびみえぬ,[寛]ふたたひみえぬ,

ちちははを[寛],

おきてやながく,[寛]をきてやなかく,

あがわかれなむ,[寛]あかわかれなむ,

[あひわかれなむ][寛],


[歌番号]05/0892

[題詞]貧窮問答歌一首[并短歌]

[原文]風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波 為部母奈久 寒之安礼婆 堅塩乎 取都豆之呂比 糟湯酒 宇知須々呂比弖 之<叵>夫可比 鼻i之i之尓 志可登阿良農 比宜可伎撫而 安礼乎於伎弖 人者安良自等 富己呂倍騰 寒之安礼婆 麻被 引可賀布利 布可多衣 安里能許等其等 伎曽倍騰毛 寒夜須良乎 和礼欲利母 貧人乃 父母波 飢寒良牟 妻子等波 乞々泣良牟 此時者 伊可尓之都々可 汝代者和多流 天地者 比呂之等伊倍杼 安我多米波 狭也奈里奴流 日月波 安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴 人皆可 吾耳也之可流 和久良婆尓 比等々波安流乎 比等奈美尓 安礼母作乎 綿毛奈伎 布可多衣乃 美留乃其等 和々氣佐我礼流 可々布能尾 肩尓打懸 布勢伊保能 麻宜伊保乃内尓 直土尓 藁解敷而 父母波 枕乃可多尓 妻子等母波 足乃方尓 圍居而 憂吟 可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎尓波 久毛能須可伎弖 飯炊 事毛和須礼提 奴延鳥乃 能杼与比居尓 伊等乃伎提 短物乎 端伎流等 云之如 楚取 五十戸良我許恵波 寝屋度麻R 来立呼比奴 可久<婆>可里 須部奈伎物能可 世間乃道

[訓読]風交り 雨降る夜の 雨交り 雪降る夜は すべもなく 寒くしあれば 堅塩を とりつづしろひ 糟湯酒 うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ ひげ掻き撫でて 我れをおきて 人はあらじと 誇ろへど 寒くしあれば 麻衾 引き被り 布肩衣 ありのことごと 着襲へども 寒き夜すらを 我れよりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ凍ゆらむ 妻子どもは 乞ふ乞ふ泣くらむ この時は いかにしつつか 汝が世は渡る 天地は 広しといへど 我がためは 狭くやなりぬる 日月は 明しといへど 我がためは 照りやたまはぬ 人皆か 我のみやしかる わくらばに 人とはあるを 人並に 我れも作るを 綿もなき 布肩衣の 海松のごと わわけさがれる かかふのみ 肩にうち掛け 伏廬の 曲廬の内に 直土に 藁解き敷きて 父母は 枕の方に 妻子どもは 足の方に 囲み居て 憂へさまよひ かまどには 火気吹き立てず 甑には 蜘蛛の巣かきて 飯炊く ことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端切ると いへるがごとく しもと取る 里長が声は 寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世間の道

[仮名]かぜまじり あめふるよの あめまじり ゆきふるよは すべもなく さむくしあれば かたしほを とりつづしろひ かすゆざけ うちすすろひて しはぶかひ はなびしびしに しかとあらぬ ひげかきなでて あれをおきて ひとはあらじと ほころへど さむくしあれば あさぶすま ひきかがふり ぬのかたきぬ ありのことごと きそへども さむきよすらを われよりも まづしきひとの ちちははは うゑこゆらむ めこどもは こふこふなくらむ このときは いかにしつつか ながよはわたる あめつちは ひろしといへど あがためは さくやなりぬる ひつきは あかしといへど あがためは てりやたまはぬ ひとみなか あのみやしかる わくらばに ひととはあるを ひとなみに あれもつくるを わたもなき ぬのかたぎぬの みるのごと わわけさがれる かかふのみ かたにうちかけ ふせいほの まげいほのうちに ひたつちに わらときしきて ちちははは まくらのかたに めこどもは あとのかたに かくみゐて うれへさまよひ かまどには ほけふきたてず こしきには くものすかきて いひかしく こともわすれて ぬえどりの のどよひをるに いとのきて みじかきものを はしきると いへるがごとく しもととる さとをさがこゑは ねやどまで きたちよばひぬ かくばかり すべなきものか よのなかのみち

[左注](山上憶良頓首謹上)

[校異]歌 [西] 謌 / 可 -> 叵 [定本] / 々 [代匠記精撰本](塙) 弖 / 波 -> 婆 [紀][細]

[事項]作者:山上憶良 社会性 国司 貧窮

[訓異]かぜまじり,[寛]かせましり,

あめふるよの,[寛]あめのふるよの,

あめまじり,[寛]あめましり,

ゆきふるよは,[寛]ゆきのふるよは,

すべもなく,[寛]すへもなく,

さむくしあれば,[寛]さむくしあれは,

かたしほを[寛],

とりつづしろひ,[寛]とりつつしろひ,

かすゆざけ,[寛]かすゆさけ,

うちすすろひて[寛],

しはぶかひ,[寛]しかふかひ,

はなびしびしに,[寛]ひひしひしに,

しかとあらぬ[寛],

ひげかきなでて,[寛]ひけかきなてて,

あれをおきて[寛],

ひとはあらじと,[寛]ひとはあらしと,

ほころへど,[寛]ほころへと,

さむくしあれば,[寛]さむくしあれは,

あさぶすま,[寛]あさふすま,

ひきかがふり,[寛]ひきかかふり,

ぬのかたきぬ[寛],

ありのことごと,[寛]ありのことこと,

きそへども,[寛]きそへとも,

さむきよすらを,[寛]さむきよすらも,

われよりも[寛],

まづしきひとの,[寛]まつしきひとの,

ちちははは[寛],

うゑこゆらむ,[寛]うへさむからむ,

めこどもは,[寛]めこともは,

こふこふなくらむ,[寛]こひてなくらむ,

このときは[寛],

いかにしつつか[寛],

ながよはわたる,[寛]なかよはわたる,

あめつちは[寛],

ひろしといへど,[寛]ひろしといへと,

あがためは,[寛]あかためは,

さくやなりぬる[寛],

ひつきは[寛],

あかしといへど,[寛]あかしといへと,

あがためは,[寛]あかためは,

てりやたまはぬ[寛],

ひとみなか[寛],

あのみやしかる,[寛]われのみやしかる,

わくらばに,[寛]わくらはに,

ひととはあるを[寛],

ひとなみに[寛],

あれもつくるを[寛],

わたもなき[寛],

ぬのかたぎぬの,[寛]ぬのかたきぬの,

みるのごと,[寛]みるのこと,

わわけさがれる,[寛]わわけさかれる,

かかふのみ[寛],

かたにうちかけ[寛],

ふせいほの[寛],

まげいほのうちに,[寛]まきいほのうちに,

ひたつちに[寛],

わらときしきて[寛],

ちちははは[寛],

まくらのかたに[寛],

めこどもは,[寛]めこともは,

あとのかたに[寛],

かくみゐて,[寛]かこみゐて,

うれへさまよひ[寛],

かまどには,[寛]かまとには,

ほけふきたてず,[寛]けふりふきたてす,

こしきには[寛],

くものすかきて[寛],

いひかしく[寛],

こともわすれて[寛],

ぬえどりの,[寛]ぬえとりの,

のどよひをるに,[寛]のとよひをるに,

いとのきて[寛],

みじかきものを,[寛]みしかきものを,

はしきると[寛],

いへるがごとく,[寛]いへるかことく,

しもととる,[寛]とる,

さとをさがこゑは,[寛]いとらかこゑは,

ねやどまで,[寛]ねやとまて,

きたちよばひぬ,[寛]きたてよはひぬ,

かくばかり,[寛]かくはかり,

すべなきものか,[寛]すへなきものか,

よのなかのみち[寛],


[歌番号]05/0893

[題詞](貧窮問答歌一首[并短歌])

[原文]世間乎 宇之等夜佐之等 於母倍杼母 飛立可祢都 鳥尓之安良祢婆

[訓読]世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば

[仮名]よのなかを うしとやさしと おもへども とびたちかねつ とりにしあらねば

[左注]山上憶良頓首謹上

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 社会性 国司 貧窮

[訓異]よのなかを[寛],

うしとやさしと[寛],

おもへども,[寛]おもへとも,

とびたちかねつ,[寛]とひたちかねつ,

とりにしあらねば,[寛]とりにしあらねは,


[歌番号]05/0894

[題詞]好去好来歌一首[反歌二首]

[原文]神代欲理 云傳久良久 虚見通 倭國者 皇神能 伊都久志吉國 言霊能 佐吉播布國等 加多利継 伊比都賀比計理 今世能 人母許等期等 目前尓 見在知在 人佐播尓 満弖播阿礼等母 高光 日御朝庭 神奈我良 愛能盛尓 天下 奏多麻比志 家子等 撰多麻比天 勅旨 [反云 大命]<戴>持弖 唐能 遠境尓 都加播佐礼 麻加利伊麻勢 宇奈原能 邊尓母奥尓母 神豆麻利 宇志播吉伊麻須 諸能 大御神等 船舳尓 [反云 布奈能閇尓] 道引麻<遠志> 天地能 大御神等 倭 大國霊 久堅能 阿麻能見虚喩 阿麻賀氣利 見渡多麻比 事畢 還日者 又更 大御神等 船舳尓 御手<打>掛弖 墨縄遠 播倍多留期等久 阿<遅>可遠志 智可能岫欲利 大伴 御津濱備尓 多太泊尓 美船播将泊 都々美無久 佐伎久伊麻志弖 速歸坐勢

[訓読]神代より 言ひ伝て来らく そらみつ 大和の国は 皇神の 厳しき国 言霊の 幸はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり 今の世の 人もことごと 目の前に 見たり知りたり 人さはに 満ちてはあれども 高照らす 日の朝廷 神ながら 愛での盛りに 天の下 奏したまひし 家の子と 選ひたまひて 大御言 [反云 大みこと] 戴き持ちて もろこしの 遠き境に 遣はされ 罷りいませ 海原の 辺にも沖にも 神づまり 領きいます もろもろの 大御神たち 船舳に [反云 ふなのへに] 導きまをし 天地の 大御神たち 大和の 大国御魂 ひさかたの 天のみ空ゆ 天翔り 見わたしたまひ 事終り 帰らむ日には またさらに 大御神たち 船舳に 御手うち掛けて 墨縄を 延へたるごとく あぢかをし 値嘉の崎より 大伴の 御津の浜びに 直泊てに 御船は泊てむ 障みなく 幸くいまして 早帰りませ

[仮名]かむよより いひつてくらく そらみつ やまとのくには すめかみの いつくしきくに ことだまの さきはふくにと かたりつぎ いひつがひけり いまのよの ひともことごと めのまへに みたりしりたり ひとさはに みちてはあれども たかてらす ひのみかど かむながら めでのさかりに あめのした まをしたまひし いへのこと えらひたまひて おほみこと [おほみこと] いただきもちて からくにの とほきさかひに つかはされ まかりいませ うなはらの へにもおきにも かむづまり うしはきいます もろもろの おほみかみたち ふなのへに [ふなのへに] みちびきまをし あめつちの おほみかみたち やまとの おほくにみたま ひさかたの あまのみそらゆ あまがけり みわたしたまひ ことをはり かへらむひには またさらに おほみかみたち ふなのへに みてうちかけて すみなはを はへたるごとく あぢかをし ちかのさきより おほともの みつのはまびに ただはてに みふねははてむ つつみなく さきくいまして はやかへりませ

[左注](天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室)

[校異]歌 [西] 謌 / 反歌 [西] 反謌 [西(訂正)] 反歌 / 載 -> 戴 [代匠記精撰本] / 志遠 -> 遠志 [細] / 行 -> 打 [西(訂正)][紀][細] / 遠 [紀] 袁 / 庭 -> 遅 [紀][細] / 太 [紀] 大

[事項]作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀

[訓異]かむよより,[寛]かみよより,

いひつてくらく,[寛]いひつてけらく,

そらみつ,[寛]そらにみつ,

やまとのくには[寛],

すめかみの,[寛]すへかみの,

いつくしきくに[寛],

ことだまの,[寛]ことたまの,

さきはふくにと[寛],

かたりつぎ,[寛]かたりつき,

いひつがひけり,[寛]いひつかひけり,

いまのよの[寛],

ひともことごと,[寛]ひともことこと,

めのまへに[寛],

みたりしりたり,[寛]みまちま,

ひとさはに[寛],

みちてはあれども,[寛]みちてはあれとも,

たかてらす[寛],

ひのみかど,[寛]ひのみかとに,

かむながら,[寛]かみなから,

めでのさかりに,[寛]めくみのさかりに,

あめのした[寛],

まをしたまひし,[寛]まうしたまひし,

いへのこと[寛],

えらひたまひて[寛],

おほみこと[寛],

[おほみこと],

いただきもちて,[寛]のせもたしめて,

からくにの,[寛]もろこしの,

とほきさかひに[寛],

つかはされ[寛],

まかりいませ[寛],

うなはらの[寛],

へにもおきにも[寛],

かむづまり,[寛]かみつまり,

うしはきいます[寛],

もろもろの[寛],

おほみかみたち[寛],

ふなのへに[寛],

[ふなのへに],

みちびきまをし,[寛]みちひかましを,

あめつちの[寛],

おほみかみたち[寛],

やまとの,[寛]やまとなる,

おほくにみたま[寛],

ひさかたの[寛],

あまのみそらゆ[寛],

あまがけり,[寛]あまかけり,

みわたしたまひ[寛],

ことをはり,[寛]ことをへて,

かへらむひには[寛],

またさらに[寛],

おほみかみたち[寛],

ふなのへに[寛],

みてうちかけて[寛],

すみなはを[寛],

はへたるごとく,[寛]はへたることく,

あぢかをし,[寛]あてかをし,

ちかのさきより,[寛]ちかのくきより,

おほともの[寛],

みつのはまびに,[寛]みつのはまへに,

ただはてに,[寛]たたはてに,

みふねははてむ[寛],

つつみなく[寛],

さきくいまして[寛],

はやかへりませ[寛],


[歌番号]05/0895

[題詞](好去好来歌一首[反歌二首])反歌

[原文]大伴 御津松原 可吉掃弖 和礼立待 速歸坐勢

[訓読]大伴の御津の松原かき掃きて我れ立ち待たむ早帰りませ

[仮名]おほともの みつのまつばら かきはきて われたちまたむ はやかへりませ

[左注](天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀

[訓異]おほともの[寛],

みつのまつばら,[寛]みつのまつはら,

かきはきて[寛],

われたちまたむ[寛],

はやかへりませ[寛],


[歌番号]05/0896

[題詞]((好去好来歌一首[反歌二首])反歌)

[原文]難波津尓 美船泊農等 吉許延許婆 紐解佐氣弖 多知婆志利勢武

[訓読]難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ

[仮名]なにはつに みふねはてぬと きこえこば ひもときさけて たちばしりせむ

[左注]天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室

[校異]波 [類][紀][細] 破

[事項]作者:山上憶良 多治比広成 遣唐使 餞別 羈旅 天平5年3月1日 年紀

[訓異]なにはつに[寛],

みふねはてぬと[寛],

きこえこば,[寛]きこえこは,

ひもときさけて[寛],

たちばしりせむ,[寛]たちはしりせむ,


[歌番号]05/0897

[題詞]老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首]

[原文]霊剋 内限者 [謂瞻州人<壽>一百二十年也] 平氣久 安久母阿良牟遠 事母無 裳無母阿良牟遠 世間能 宇計久都良計久 伊等能伎提 痛伎瘡尓波 <鹹>塩遠 潅知布何其等久 益々母 重馬荷尓 表荷打等 伊布許等能其等 老尓弖阿留 我身上尓 病遠等 加弖阿礼婆 晝波母 歎加比久良志 夜波母 息豆伎阿可志 年長久 夜美志渡礼婆 月累 憂吟比 許等々々波 斯奈々等思騰 五月蝿奈周 佐和久兒等遠 宇都弖々波 死波不知 見乍阿礼婆 心波母延農 可尓<可>久尓 思和豆良比 祢能尾志奈可由

[訓読]たまきはる うちの限りは [謂瞻州人<壽>一百二十年也] 平らけく 安くもあらむを 事もなく 喪なくもあらむを 世間の 憂けく辛けく いとのきて 痛き瘡には 辛塩を 注くちふがごとく ますますも 重き馬荷に 表荷打つと いふことのごと 老いにてある 我が身の上に 病をと 加へてあれば 昼はも 嘆かひ暮らし 夜はも 息づき明かし 年長く 病みしわたれば 月重ね 憂へさまよひ ことことは 死ななと思へど 五月蝿なす 騒く子どもを 打棄てては 死には知らず 見つつあれば 心は燃えぬ かにかくに 思ひ煩ひ 音のみし泣かゆ

[仮名]たまきはる うちのかぎりは たひらけく やすくもあらむを こともなく もなくもあらむを よのなかの うけくつらけく いとのきて いたききずには からしほを そそくちふがごとく ますますも おもきうまにに うはにうつと いふことのごと おいにてある あがみのうへに やまひをと くはへてあれば ひるはも なげかひくらし よるはも いきづきあかし としながく やみしわたれば つきかさね うれへさまよひ ことことは しななとおもへど さばへなす さわくこどもを うつてては しにはしらず みつつあれば こころはもえぬ かにかくに おもひわづらひ ねのみしなかゆ

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]等 -> 壽 [紀][細] / 醎 -> 鹹 [矢][京] / <> -> 可 [西(右書)][紀][細][温]

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀

[訓異]たまきはる[寛],

うちのかぎりは,[寛]うちのかきりは,

たひらけく,[寛]たいらけく,

やすくもあらむを[寛],

こともなく[寛],

もなくもあらむを[寛],

よのなかの[寛],

うけくつらけく[寛],

いとのきて[寛],

いたききずには,[寛]いたききすには,

からしほを[寛],

そそくちふがごとく,[寛]そそくちふかことく,

ますますも[寛],

おもきうまにに[寛],

うはにうつと[寛],

いふことのごと,[寛]いふことのこと,

おいにてある[寛],

あがみのうへに,[寛]わかみのうへに,

やまひをと[寛],

くはへてあれば,[寛]かてあれは,

ひるはも[寛],

なげかひくらし,[寛]なけかひくらし,

よるはも[寛],

いきづきあかし,[寛]いきつきあかし,

としながく,[寛]としなかく,

やみしわたれば,[寛]やみしわたれは,

つきかさね[寛],

うれへさまよひ[寛],

ことことは[寛],

しななとおもへど,[寛]しななとおもへと,

さばへなす,[寛]さはへなす,

さわくこどもを,[寛]さわくこともを,

うつてては[寛],

しにはしらず,[寛]しなむはしらす,

みつつあれば,[寛]みつつあれは,

こころはもえぬ[寛],

かにかくに[寛],

おもひわづらひ,[寛]おもひさつらひ,

ねのみしなかゆ[寛],


[歌番号]05/0898

[題詞](老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌

[原文]奈具佐牟留 心波奈之尓 雲隠 鳴徃鳥乃 祢能尾志奈可由

[訓読]慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ

[仮名]なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆくとりの ねのみしなかゆ

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀

[訓異]なぐさむる,[寛]なくさむる,

こころはなしに[寛],

くもがくり,[寛]くもかくれ,

なきゆくとりの[寛],

ねのみしなかゆ[寛],


[歌番号]05/0899

[題詞]((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)

[原文]周弊母奈久 苦志久阿礼婆 出波之利 伊奈々等思騰 許良尓<佐>夜利奴

[訓読]すべもなく苦しくあれば出で走り去ななと思へどこらに障りぬ

[仮名]すべもなく くるしくあれば いではしり いななとおもへど こらにさやりぬ

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]作 -> 佐 [類][紀][古][細]

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀

[訓異]すべもなく,[寛]すへもなく,

くるしくあれば,[寛]くるしくあれは,

いではしり,[寛]いててはしり,

いななとおもへど,[寛]いななとおもへと,

こらにさやりぬ[寛],


[歌番号]05/0900

[題詞]((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)

[原文]富人能 家能子等能 伎留身奈美 久多志須都良牟 絁綿良波母

[訓読]富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ絹綿らはも

[仮名]とみひとの いへのこどもの きるみなみ くたしすつらむ きぬわたらはも

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀

[訓異]とみひとの[寛],

いへのこどもの,[寛]いへのこともの,

きるみなみ[寛],

くたしすつらむ[寛],

きぬわたらはも[寛],


[歌番号]05/0901

[題詞]((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)

[原文]麁妙能 布衣遠陀尓 伎世難尓 可久夜歎敢 世牟周弊遠奈美

[訓読]荒栲の布衣をだに着せかてにかくや嘆かむ為むすべをなみ

[仮名]あらたへの ぬのきぬをだに きせかてに かくやなげかむ せむすべをなみ

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀

[訓異]あらたへの[寛],

ぬのきぬをだに,[寛]ぬのきぬをたに,

きせかてに[寛],

かくやなげかむ,[寛]かくやなけかむ,

せむすべをなみ,[寛]せむすへをなみ,


[歌番号]05/0902

[題詞]((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)

[原文]水沫奈須 微命母 栲縄能 千尋尓母何等 慕久良志都

[訓読]水沫なすもろき命も栲縄の千尋にもがと願ひ暮らしつ

[仮名]みなわなす もろきいのちも たくづなの ちひろにもがと ねがひくらしつ

[左注](天平五年六月丙申朔三日戊戌作)

[校異]なし

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 年紀 枕詞

[訓異]みなわなす,[寛]みなはなす,

もろきいのちも[寛],

たくづなの,[寛]たくなはの,

ちひろにもがと,[寛]ちひろにもかと,

ねがひくらしつ,[寛]ねかひくらしつ,


[歌番号]05/0903

[題詞]((老身重病經年辛苦及思兒等歌七首 [長一首短六首])反歌)

[原文]倭<文>手纒 數母不在 身尓波在等 千年尓母<何>等 意母保由留加母 [去神龜二年作之 但以<類>故更載於茲]

[訓読]しつたまき数にもあらぬ身にはあれど千年にもがと思ほゆるかも [去る神龜二年之を作る。但し類を以ての故に更に茲に載す]

[仮名]しつたまき かずにもあらぬ みにはあれど ちとせにもがと おもほゆるかも

[左注]天平五年六月丙申朔三日戊戌作

[校異]父 -> 文 [類][細] / 可 -> 何 [類][紀][古] / <> -> 類 [類][紀]

[事項]作者:山上憶良 仏教 儒教 老 嘆翮 子供 天平5年6月3日 枕詞

[訓異]しつたまき[寛],

かずにもあらぬ,[寛]かすにもあらぬ,

みにはあれど,[寛]みにはあれと,

ちとせにもがと,[寛]ちとせにもかと,

おもほゆるかも[寛],


[歌番号]05/0904

[題詞]戀男子名古日歌三首 [長一首短二首]

[原文]世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼<婆> 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等々奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃 <尓布敷可尓> 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸々 可多知都久保里 朝々 伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣<吉> 手尓持流 安我古登<婆>之都 世間之道

[訓読]世間の 貴び願ふ 七種の 宝も我れは 何せむに 我が中の 生れ出でたる 白玉の 我が子古日は 明星の 明くる朝は 敷栲の 床の辺去らず 立てれども 居れども ともに戯れ 夕星の 夕になれば いざ寝よと 手を携はり 父母も うへはなさがり さきくさの 中にを寝むと 愛しく しが語らへば いつしかも 人と成り出でて 悪しけくも 吉けくも見むと 大船の 思ひ頼むに 思はぬに 邪しま風の にふふかに 覆ひ来れば 為むすべの たどきを知らに 白栲の たすきを掛け まそ鏡 手に取り持ちて 天つ神 仰ぎ祈ひ祷み 国つ神 伏して額つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 我れ祈ひ祷めど しましくも 吉けくはなしに やくやくに かたちつくほり 朝な朝な 言ふことやみ たまきはる 命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 我が子飛ばしつ 世間の道

[仮名]よのなかの たふとびねがふ ななくさの たからもわれは なにせむに わがなかの うまれいでたる しらたまの あがこふるひは あかぼしの あくるあしたは しきたへの とこのへさらず たてれども をれども ともにたはぶれ ゆふつづの ゆふへになれば いざねよと てをたづさはり ちちははも うへはなさがり さきくさの なかにをねむと うつくしく しがかたらへば いつしかも ひととなりいでて あしけくも よけくもみむと おほぶねの おもひたのむに おもはぬに よこしまかぜの にふふかに おほひきたれば せむすべの たどきをしらに しろたへの たすきをかけ まそかがみ てにとりもちて あまつかみ あふぎこひのみ くにつかみ ふしてぬかつき かからずも かかりも かみのまにまにと たちあざり われこひのめど しましくも よけくはなしに やくやくに かたちつくほり あさなさな いふことやみ たまきはる いのちたえぬれ たちをどり あしすりさけび ふしあふぎ むねうちなげき てにもてる あがことばしつ よのなかのみち

[左注]?(右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 波 -> 婆 [紀][細] / 尓母布敷可尓布敷可尓 -> 尓布敷可尓 [新訓] / 都久 [代匠記精撰本](塙) 久都 / 古 -> 吉 [温][矢][京] / 波 -> 婆 [紀][細]

[事項]山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮 枕詞

[訓異]よのなかの,[寛]よのひとの,

たふとびねがふ,[寛]たふともねかふ,

ななくさの[寛],

たからもわれは[寛],

なにせむに,[寛]なにかせし,

わがなかの,[寛]わかなかの,

うまれいでたる,[寛]むまれいてたる,

しらたまの[寛],

あがこふるひは,[寛]わかこふるひは,

あかぼしの,[寛]あかほしの,

あくるあしたは[寛],

しきたへの[寛],

とこのへさらず,[寛]とこのへさらす,

たてれども,[寛]たてれとも,

をれども,[寛]をれとも,

ともにたはぶれ,[寛]ともにたはふれ,

ゆふつづの,[寛]ゆふほしの,

ゆふへになれば,[寛]ゆふへになれは,

いざねよと,[寛]いさねよと,

てをたづさはり,[寛]てをたつさはり,

ちちははも[寛],

うへはなさがり,[寛]うへはなさかり,

さきくさの[寛],

なかにをねむと[寛],

うつくしく,[寛]おもはしく,

しがかたらへば,[寛]しかかたらへは,

いつしかも[寛],

ひととなりいでて,[寛]ひととなりいてて,

あしけくも[寛],

よけくもみむと[寛],

おほぶねの,[寛]おほふねの,

おもひたのむに[寛],

おもはぬに[寛],

よこしまかぜの,[寛]よこかせのにも,

にふふかに,[寛]にもしくしくかにふくかに,

おほひきたれば,[寛]おほひきぬれは,

せむすべの,[寛]せむすへの,

たどきをしらに,[寛]たときをしらに,

しろたへの[寛],

たすきをかけ[寛],

まそかがみ,[寛]まそかかみ,

てにとりもちて[寛],

あまつかみ[寛],

あふぎこひのみ,[寛]あふきこひのみ,

くにつかみ[寛],

ふしてぬかつき[寛],

かからずも,[寛]かからすも,

かかりも[寛],

かみのまにまにと[寛],

たちあざり,[寛]たちあさり,

われこひのめど,[寛]われこひのめと,

しましくも,[寛]しはらくも,

よけくはなしに[寛],

やくやくに[寛],

かたちつくほり[寛],

あさなさな,[寛]あさなあさな,

いふことやみ[寛],

たまきはる[寛],

いのちたえぬれ[寛],

たちをどり,[寛]たちをとり,

あしすりさけび,[寛]あしすりさけひ,

ふしあふぎ,[寛]ふしあふき,

むねうちなげき,[寛]むねうちなけき,

てにもてる[寛],

あがことばしつ,[寛]あかことはしつ,

よのなかのみち[寛],


[歌番号]05/0905

[題詞](戀男子名古日歌三首 [長一首短二首])反歌

[原文]和可家礼婆 道行之良士 末比波世武 之多敝乃使 於比弖登保良世

[訓読]若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ

[仮名]わかければ みちゆきしらじ まひはせむ したへのつかひ おひてとほらせ

[左注]?(右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉)

[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌

[事項]山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮

[訓異]わかければ,[寛]わかけれは,

みちゆきしらじ,[寛]みちゆきしらし,

まひはせむ[寛],

したへのつかひ[寛],

おひてとほらせ[寛],


[歌番号]05/0906

[題詞]((戀男子名古日歌三首 [長一首短二首])反歌)

[原文]布施於吉弖 吾波許比能武 阿射無加受 多太尓率去弖 阿麻治思良之米

[訓読]布施置きて我れは祈ひ祷むあざむかず直に率行きて天道知らしめ

[仮名]ふせおきて われはこひのむ あざむかず ただにゐゆきて あまぢしらしめ

[左注]右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉

[校異]歌 [西] 謌 / 太 [類][細] 大

[事項]山上憶良 仏教 儒教 孝養 子供 嘆翮

[訓異]ふせおきて,[寛]ふしおきて,

われはこひのむ[寛],

あざむかず,[寛]あせむかす,

ただにゐゆきて,[寛]たたにゐゆきて,

あまぢしらしめ,[寛]あまちしらしめ,