<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書
『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、
1910年発行
〔ローマ・カトリック訳〕
『ラゲ訳新約聖書』エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)
ヨハネ聖福音書-1
1元始に御言あり、御言神の御許に在り、御言は神にてありたり。
2是元始に神の御許に在たるものにして、
3萬物之に由りて成れり、成りしものの一も、之に由らずして成りたるはあらず。
4之がうちに生命ありて、生命又人間の光たりしが、
5光闇に照ると雖も、闇之を曉らざりき。
6神より遣はされて、名をヨハネと云へる人ありしが、
7其來りしは證明の爲にして、光を證明し、凡ての人をして己に籍りて信ぜしめん爲なりき。
8彼は光に非ずして、光を證明すべき者たりしなり。
9[御言こそ、]此世に出來る凡ての人を照らす眞の光なりけれ。
10曾て世に在り、世又之に由りて成りたれども、世之を知らず、
11己が方に來りしも、其族之を承けざりき。
12然れど之を承けし人々には各神の子となるべき權能を授けたり。是卽ち其名を信ずる者、
13血統に由らず、肉の意に由らず、人の意に由らず、神に由りて生れ奉りたる者なり。
14斯て御言は肉と成りて、我等の中に宿り給へり、我等は其光榮を見奉りしが、其は父より來れる獨子の如き光榮なりき、卽ち恩寵と眞理とに滿ち給ひしなり。
15ヨハネは彼に就きて證明し、呼はりて曰く、我より後に來るべき人は、我に先ちて存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて我が曾て指示ししは是なり、と。
16斯て我等は皆其充滿せる所より授かりて、恩寵に恩寵を加へられたり。
17蓋律法はモイゼを以て與へられたるも、恩寵と眞理とはイエズス、キリストを以て成りたるなり。
18誰も曾て神を見奉りし人はあらず、父の御懷に在す獨子の自ら說き顯し給ひしなり。
19抑ヨハネの證明は次の如し。ユデア人がエルザレムより司祭及びレヴィ人等を彼に遣はして、汝は誰なるぞ、と問はしめし時、
20彼は宣言せしが、否む事なくして、我キリストに非ずと宣言せり。
21彼等、然らば何ぞや、汝はエリアなるか、と問ひしに、彼、然らずと云ひ、[彼]預言者なるか、と云ひしに、否と答へたり。
22斯て彼等、汝は誰なるぞ、我等を遣はしし人々に答ふる事を得しめよ、自ら己を何と稱するぞ、と云ひしかば、
23彼云ひけるは、我は預言者イザヤの云ひし如く、「汝等主の道を平にせよ」と野に呼はる者の聲なり、と。
24此遣はされし人々はファリザイの徒なりしが、
25又ヨハネに問ひて、然らば汝はキリストにも非ず、エリアにも非ず、[彼]預言者にも非ざるに、何ぞ洗するや、と云ひしに
26ヨハネ答へて云ひけるは、我は水にて洗すれども、汝等の中に、汝等の知らざる一個の人立てり、
27是ぞ我後に來るべき者、我より先にせられたる者にして、我は其履の紐を解くにだも堪へず、と。
28此等の事は、ヨハネの洗しつつありしヨルダン[河]の彼方、ベタニアにて成りき。
29明日ヨハネ、イエズスの己に來り給ふを見て云ひけるは、看よ神の羔を、看よ世の罪を除き給ふ者を。
30我が曾て、我より後に來る者あり、我より先に存したるが故に我より先にせられたり、と云ひて指示ししは是なり。
31我原之を知らざりしかど、水にて洗しつつ來れるは、彼をイスラエルに於て顯れしめん爲なり、と。
32ヨハネ又證明して云ひけるは、我は[聖]靈が鳩の如く天より降りて彼の上に止り給ふを見たり。
33我原彼を知らざりしかど、我を遣はして水にて洗せしめ給へえるもの、我に曰ひけらく、汝[聖]靈の降りて人の上に止り給ふを見ば、是ぞ聖靈にて洗する者なる、と。
34斯て我之を目擊して、彼が神の御子たる事を證明したるなり、と。
35翌日ヨハネ又弟子兩人と共に立ち居て、
36イエズスの步み給ふを見、看よ神の羔を、と云ひしかば、
37二人の弟子斯く語るを聞きて、イエズスに隨行きしに、
38イエズス回顧りて其從へるを見、之に曰ひけるは、汝等何を求むるぞ、と。彼等、ラビ――譯せば師よ――何處に住み給ふぞ、と云ひしかば、
39イエズス、來て見よ、と曰へり、彼等往きてイエズスの住み給ふ處を見、其日は其處に留れり。時は四時頃なりき。
40シモンペトロの兄弟アンデレアは、ヨハネより聞きてイエズスに從ひし兩人の其一人なりしが、
41先其兄弟シモンに出逢ひて之に云ひけるは、我等メッシア――譯せばキリスト――に遇へり、と。
42斯て之をイエズスの許に連來りしに、イエズス之を熟視めて曰ひけるは、汝はヨナの子シモンなり、ケファ――譯せばペトロ――と名けられん、と。
43次日ガリレアに往かんとして、フィリッポに遇ひ給ひしかば、イエズス、我に從へ、と曰ひしが、
44フィリッポは、アンデレアとペトロとの故鄕なる、ベッサイダの人なりき。
45フィリッポナタナエルに遇ひて云ひけるは、我等モイゼの律法にも預言者等にも錄されし人に遇へり、卽ちナザレトのヨゼフの子イエズスなり、と。
46ナタナエル、何等の善き者かナザレトより出づるを得んや、と云ひしかば、フィリッポ、來て見よ、と云へり。
47イエズスナタナエルの己に來るを見給ひ、之を指して、是實に野心なきイスラエル人なり、と曰へば、
48ナタナエル、如何にして我を知り給ふぞ、と云ひしに、イエズス答へて曰ひけるは、フィリッポが汝を呼ぶ前に、我汝が無花果樹の下に居るを見たり、と。
49ナタナエル答へて、ラビ汝は神の御子なり、イスラエルの王なり、と云ひしかば、
50イエズス答へて曰ひけるは、汝が信じたるは、我汝が無花果樹の下に居るを見たりと告げしによりてなり。汝、之よりも更に大いなる事を見ん、と。
51又之に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等は天開けて神の使等が人の子の上に陟降するを見るべし、と。
1三日目にガリレアのカナに婚筵ありて、イエズスの母其處に居れるに、
2イエズスも弟子等と共に招かれ給へり。
3酒盡きければ、母イエズスに向ひ、彼等酒なし、と云ひしに、
4イエズス、婦人よ、其は我と汝とに何かある、我時未だ來らずと曰ひしかば、
5母は給仕等に向ひて、彼が汝等に言ふ所は、何にもあれ之を爲せ、と言置けり。
6然てユデア人が潔の習慣に隨ひて、其處に二三斗入の石甕六個備へありしが、
7イエズス給仕等に、水を甕に滿てよ、と曰ひければ、彼等口まで滿たししに、
8イエズス又、今汲取りて筵司に持行け、と曰ひしかば卽ち持行けり。
9筵司、酒に化したる水を嘗むるや、給仕等は其由りて來る所を知れども己は之を知らざれば、新郞を呼び、
10之に向ひて、誰も先佳酒を出して、人々の醉へるに至りて劣れる物を出すに、汝は佳酒を今まで取置けるよ、と云へり。
11是イエズスの奇蹟の始にして、之をガリレアのカナに行ひ、己が光榮を顯し給ひしかば、弟子等之を信仰せり。
12其後イエズス、母、兄弟、及び弟子等と共に、カファルナウムに下り給ひしが、皆其處に留る事久しからざりき。
13ユデア人の過越祭近づきければ、イエズスエルザレムに上り、
14[神]殿の内にて牛、羊、鴿を賣る人々、及び坐せる兩替屋等を見給ひしかば、
15繩を以て鞭めきたる物を作り、彼等を悉く[神]殿より逐出し、羊、牛をも逐出し、兩替屋の金を抛散して其案を覆し、
16鴿を賣る人々に向ひて、此物等を取退けよ、我父の家を商買の家と爲すな、と曰へり。
17弟子等は、錄して「汝の家に對する熱心は我を食盡せり」とあるを思出せり。
18斯てユデア人答へてイエズスに云ひけるは、汝如何なる徵を現して此等の事を爲すぞ、と。
19イエズス答へて、汝等此[神]殿を毀て、我三日の中に之を起さん、と曰ひしかば、
20ユデア人云ひけるは、此[神]殿は、造るに四十六年を要せしに、汝三日の中に之を起すべきか、と。
21但しイエズスは、己が體の[神]殿を斥して曰ひしなり。
22然れば死者の中より復活し給へる後、弟子等此曰ひたりし事を思出して、聖書とイエズスの曰ひし御言とを信ぜり。
23イエズス過越の祭日に當りてエルザレムに居給ふ間、多くの人、其爲し給へる奇蹟を視て、御名を信じたり。
24然れどイエズスは、此等に身を打任せ給はざりき、其は自ら凡ての人を知り、
25又人の心に在る事を知り給へば、人に就て他人の證明を要し給はざる故なり。
1爰にファリザイ人の中にニコデモと呼ばれて、ユデア人の長だちたる者ありしが、
2夜イエズスの許に至りて云ひけるは、ラビ、我等は汝が神より來りたる敎師なる事を知れり、其は何人も、神之と共に在すに非ざれば、汝の爲せる如き奇蹟を行ひ得ざればなり。
3イエズス答へて曰ひけるは、誠に眞に汝に告ぐ、人新に生るるに非ずば、神の國を見ること能はず。
4ニコデモ云ひけるは、人既に老いたるに爭でか生るる事を得べき、豈再び母の胎内に入て新に生るるを得んや。
5イエズス答へ給ひけるは、誠に實に汝に告ぐ、人は水と靈とより新に生るるに非ずば、神の國に入る事能はず。
6肉より生れたる者は肉なり、靈より生れたる者は靈なり。
7汝等再び生れざるべからずと我が汝に告げたるを怪しむこと勿れ。
8風は己が儘なる處に吹く、汝其聲を聞くと雖も、何處より來りて何處に往くかを知らず、總て靈より生れたる者も亦然り、と。
9ニコデモ答へて、此等の事如何にしてか成り得べき、と云ひしかば、
10イエズス答へて曰ひけるは、汝はイスラエルに於て師たる者なるに、是等の事を知らざるか。
11誠に實に汝に告ぐ、我等は知れる所を語り、見たる所を證す、然れど汝等は其證言を承けざるなり。
12我が地上の事を語りてすら汝等は信ぜざるものを、天上の事を語るとも爭でか之を信ぜんや。
13天より降りたるもの、卽ち天に在る人の子の外は、誰も天に昇りしものなし。
14又モイゼが荒野にて蛇を揚げし如く、人の子も必ず揚げらるべし、
15是總て之を信仰する人の、亡びずして永遠の生命を得ん爲なり。
16蓋神の此世を愛し給へる事は、御獨子を賜ふ程にして、是總て之を信仰する人の亡びずして永遠の生命を得ん爲なり。
17卽ち神が御子を此世に遣はし給ひしは、世を審判せしめん爲に非ず、世が彼に由りて救はれん爲なり。
18彼を信仰する人は審判せられず、信ぜざる人は既に審判せられたり、其は神の御獨子の御名を信ぜざればなり。
19審判とは是なり、卽ち光既に世に來りたるに、人は己の行の惡き爲に、光よりも寧暗を愛したるなり。
20總て惡を爲す人は光を憎み、己が行を責められじとて光に來らず。
21然れど眞理を行ふ人は、己が行の顯れん爲に光に來る、其は神の内に行はれたればなり、と。
22其後イエズス弟子等とユデア地方に至り、共に留りて洗し居給ひしが、
23ヨハネもサリムに近きエンノンに水多かりければ、其處にて洗しつつあり、人々來りて洗せられ居たり。
24卽ちヨハネ未だ監獄に入れられざりしなり。
25然るにヨハネの弟子等とユデア人との間に、洗禮に就きて議論起りしかば、
26彼等ヨハネの許に來りて云ひけるは、ラビ、ヨルダン[河]の彼方に汝と共に在りし時、汝より證明せられたる彼人は、今自ら洗して、人皆之に趣くなり、と。
27ヨハネ答へて云ひけるは、人は天より賜はりたるに非ずば、何物をも自ら受くる能はず、
28汝等自ら我に就きて證する如く、我曾て、我はキリストに非ず、唯其先に遣はされたるのみ、と告げたりき。
29新婦を有てる人こそ新郞なれ。然て新郞の友として立ちて之に聞く人は、新郞の聲の爲に喜びに喜ぶ。然れば我此喜は圓滿なり。
30彼は榮ゆべく我は衰ふべし。
31上より來れる人は衆人に上たり、地よりの人は地に屬して地上の事を語る、天より來れる人は衆人に上たるなり。
32彼は其親ら見且聞きし所を證すと雖も、一人も其證言を承けず、
33其證言を承けたる人は、神の眞實にて在す事を證印せる者なり。
34卽ち神の遣はし給ひし者は神の御言を語る、神は[聖]靈を賜ふに制限なければなり。
35父は御子を愛して萬物を其手に賜へり。
36御子を信仰する人は永遠の生命を有す。然れど御子を信ぜざる人は生命を見ざるべく、神の怒却て彼が上に止る、と。
1時にイエズス、己が弟子を造り人を洗する事、ヨハネよりも多き由の、ファリザイ人の耳に入りしを知り給ひしかば、
2――但洗せるはイエズスに非ずして、其の弟子等なりき――
3ユデアを去りて再びガリレアに往き給へり。
4然るにサマリアを通らざるを得ざりしければ、
5ヤコブが其子ヨゼフに與へし土地に近き、サマリアのシカルと云へる町に至り給ひしが、
6此處にヤコブの井ありけるに、イエズス旅に疲れて、其儘井の上に坐し給へり、時は十二時頃なりき。
7爰にサマリアの一人の婦、水汲みに來りしかば、イエズス之に向ひて、我に飲ませよ、と曰へり。
8是弟子等は食物を買はんとて町に往きたればなり。
9其時サマリアの婦云ひけるは、汝はユデア人なるに、何ぞサマリアの婦なる我に飲物を求むるや、と。是ユデア人はサマリア人と交らざる故なり。
10イエズス答へて曰ひけるは、汝若神の賜を知り、又我に飲ませよと汝に云へる者の誰なるかを知らば、必ず彼に求め、彼は活ける水を汝に與へしならん。
11婦云ひけるは、君よ、汝は汲む物を有たず、井は深し、然るを何處よりして活ける水を有てるぞ。
12我等が父ヤコブ此井を我等に與へ、自らも其子等も其家畜も之より飲みしが、汝は彼より優れる者なるか。
13イエズス答へて曰ひけるは、總て此水を飲む者は復渴くべし、然れども我が與へんとする水を飲む者は永遠に渴かず、
14我が之に與ふる水は、却て彼に於て、永遠の生命に湧出づる水の源となるべし。
15婦云ひけるは、君よ、我が渴く事なく此處に汲みにも來らざる樣、其水を我に與へよ。
16イエズス曰ひけるは、往きて夫を呼來れ。
17婦答へて、我は夫なし、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、善くこそ夫なしと云ひたれ、
18夫は五人まで有ちたりしに、今あるは汝の夫に非ず、汝が然云ひしは實なり。
19婦云ひけるは、君よ、我觀るに、汝は預言者なり。
20我等が先祖は此山にて禮拜したるに、汝等は云ふ、禮拜すべき處はエルザレムなりと。
21イエズス曰ひけるは、婦よ、我を信ぜよ、汝等が此山となくエルザレムとなく、父を禮拜せん時來るなり。
22汝等は知らざる者を禮拜し、我等は知りたる者を禮拜す、救はユデア人の中より出づればなり。
23然て眞の禮拜者が、靈と實とを以て父を禮拜すべき時來る、今既に其時なり。其は父も、斯く己を禮拜する人を求め給へばなり。
24神は靈にて在せば、之を禮拜する人は、靈と實とを以て禮拜せざるべからず、と。
25婦イエズスに謂ひけるは、我はメッシア(所謂キリスト)の來るを知る。然れば彼來らば萬事を我等に告ぐべし。
26イエズス之に曰ひけるは、汝と語りつつある我、卽ち其なり、と。
27軈て弟子等來り、イエズスの婦と語り給へるを怪しみしかど、誰も何をか求め何故彼と語り給ふ、と云ふ者なかりき。
28斯て婦、其水甁を遺して町に往き、其處なる人々に向ひ、
29來て見よ、我が爲しし事を殘らず我に云ひたる人を、是はキリストならんか、と云ひしかば、
30彼等町より出でてイエズスの許に來れり。
31其隙に弟子等イエズスに請ひて、ラビ食し給へ、と云ひしに、
32曰ひけるは、我には汝等の知らざる食物の食すべきあり、と。
33弟子等、誰か食物を持來りしぞ、と云ひ合へるを、
34イエズス曰ひけるは、我食物は、我を遣はし給ひし者の御旨を行ひて其業を全うする事是なり。
35汝等は、尙四箇月の間あり、其後收穫の時來る、と云ふに非ずや。我汝等に告ぐ、目を翹げて田畑を見よ、最早穫取るべく白みたり。
36穫る人は報を受けて永遠の生命に至るべき果を收むれば、捲く人も穫る人も共に喜ぶべし。
37諺に一人は撒き一人は穫ると云へる事、是に於て乎實なり。
38我汝等を遣はして、勞作せざりし物を穫らしめたり。卽ち他の人前に勞作して、其勞作したる所を、汝等が承繼ぎたるなり、と。
39然て彼町にては、彼人我が爲しし事を殘らず我に告げたり、と證したる婦の言によりて、多くのサマリア人イエズスを信ぜしかば、
40人々御許に來りて、此處に留り給はんことを請へり、然れば此處に留り給ふ事二日にして、
41尙多くの人御言によりて之を信仰せり。
42斯て彼婦に向ひ、我等は最早汝の語る所によりて信ずる者に非ず、卽ち自ら彼に聽きて、其眞に救世主たる事を知れり、と云ひ居たり。
43然るに二日の後、イエズス其處を出でてガリレアに往き給へり。
44預言者其本國に尊ばれず、と自ら證し給ひしが、
45ガリレアに至り給ひしに、ガリレア人は、曾て祭日にエルザレムにて行ひ給ひし一切の事を見たりければ、イエズスを歡迎せり、其は彼等も祭日に往きてありしなり。
46斯てイエズス再び、嚮に水を酒に化し給ひしガリレアのカナに至り給ひしに、一人の王官あり、其子カファルナウムにて病み居ければ、
47イエズスユデアよりガリレアに來給ふと聞きて、御許に至り、下りて己が子を醫し給はん事を切に願ひ居たり、彼將に死なんとすればなり。
48イエズス之に曰ひけるは、汝等は徵と奇蹟とを見ざれば信ぜず、と。
49官人イエズスに向ひて、主よ、我子の死なざる前に下り來給へ、と云ひしに、
50イエズス、往け、汝の子活く、と曰ひしかば、此人イエズスの己に曰ひし御言を信じて往きたり。
51然て下る途に、僕等行逢ひて、其子の活きたる由を告げければ、
52其回復せし時刻を問ひしに、彼等、昨日の午後一時に熱去れり、と云ふにぞ、
53父は恰もイエズスが汝の子活くと己に曰ひしと同時なりしを知り、其身も一家も擧りて信仰せり。
54此第二の奇蹟は、イエズスユデアよりガリレアに至り給ひし時に行ひ給ひしなり。
1其後ユデア人の祭日ありしかば、イエズスエルザレムに上り給へり。
2然てエルザレムには、羊門の傍に、ヘブレオ語にてベテスダと云へる池あり、之に付屬せる五の廊ありて、
3其内に夥しき病人、瞽者、跛者、癱瘋者等偃して水の動くを待ち居れり。
4其は時として主の使池に下り、水爲に動く事あり、水動きて後、眞先に池に下りたる者は如何なる病に罹れるも痊ゆればなり。
5茲に卅八年來病を患ふる人ありしが、
6イエズス彼が偃せるを見、且其患ふる事の久しきを知り給ひしかば、汝痊えん事を欲するか、と曰ひしに、
7病者答へけるは、君よ、水の騷ぐ時に我を池に入るる人なし、然れば我が往く中に他の人我に先ちて下るなり、と。
8イエズス之に向ひ、起きよ、汝の寢臺を取りて步め、と曰へば、
9其人忽ち痊え、寢臺を取りて步みたり。其日は安息日なりければ、
10ユデア人其痊えたる人に向ひ、安息日なり、汝寢臺を携ふべからず、と云へるを、
11彼は、我を醫しし人、汝の寢臺を取りて步めと云ひたるなり、と答へければ、
12彼等、汝に寢臺を取りて步めと云ひし人は誰ぞ、と問ひたれど、
13痊えたる人は其誰なるを知らざりき、其はイエズス既に此場の雜踏を避け給ひたればなり。
14後イエズス[神]殿にて彼に遇ひ、看よ、汝は醫されたり、復罪を犯すこと勿れ、恐らくは尙大いなる禍汝に起らん、と曰ひけるに、
15彼人往きて、己を醫ししはイエズスなりとユデア人に告げしかば、
16ユデア人は、安息日に斯る事を爲し給ふとて、イエズスを譴め居たり。
17イエズス、我父は今に至るまで働き給へば、我も働くなり、と答へ給ひければ、
18ユデア人愈イエズスを殺さんと謀れり、其は啻に安息日を冒し給ふのみならず、神を我父と稱して、己を神と等しき者とし給へばなり。然ればイエズス答へて彼等に曰ひけるは、
19誠に實に汝等に告ぐ、父の爲し給ふ事を見る外に、子は自ら何事をも爲す能はず。蓋總て父の爲し給ふ事は、子も亦同じく之を爲す。
20卽ち父は子を愛して、自ら爲し給ふ所を悉く之に示し給ふ、又更に汝等が驚くばかり、一層大いなる業を之に示し給はんとす。
21蓋父が死人を起して活かし給ふ如く、子も亦我が思ふ者を活かすなり。
22又父は誰をも審判し給はず、審判を悉く子に賜ひたり。
23是人皆父を尊ぶ如く子を尊ばん爲なり。子を尊ばざる人は、之を遣はし給ひし父を尊ばざる者なり。
24誠に實に汝等に告ぐ、我言を聽きて我を遣はし給ひし者を信ずる人は、永遠の生命を有し、且審判に至らずして、死より生に移りたる者なり。
25誠に實に汝等に告ぐ、時は來る、今こそ其よ、卽ち死人は神の子の聲を聞くべく、之を聽きたる人は活くべし。
26蓋父は生命を己の衷に有し給ふ如く、子にも亦生命を己の衷に有する事を得させ給へり。
27且人の子たるにより、審判する權能を之に賜ひしなり。
28汝等之を怪しむ勿れ、墓の中なる人悉く神の子の聲を聞く時來らんとす。
29斯て善を爲しし人は、出でて生命に至らんが爲に復活し、惡を行ひし人は、審判を受けんが爲に復活せん。
30我自らは何事をも爲す能はずして、聞くが儘に審判す、而も我審判は正當なり、其は我己が意を求めず、我を遣はし給ひし者の思召を求むればなり。
31我若自ら己を證明せば、我が證明は眞ならずとも、
32我爲に證明する者他にあり、而して我其わが爲に作す證明の眞なるを知れり。
33汝等曾て人をヨハネに遣はししに、彼は眞理を證明せり。
34我は人よりの證明を受くる者に非ざれども、之を語るは汝等の救はれん爲なり。
35彼は燃え且輝ける燈なりしが、汝等は暫時其明によりて樂しまんとせり。
36然れども我はヨハネのに優りて大いなる證明を有す。卽ち父が全うせよとて我に授け給ひし業、我が爲しつつある業其物が、父の我を遣はし給ひし事を證するなり。
37我を遣はし給ひし父も、亦自ら我爲に證し給ひしなり、然れど汝等は曾て御聲を聞きし事なく、御姿を見し事なく、
38又御言を心に留むる事なし、是其遣はし給ひし者を信ぜざればなり。
39汝等は聖書に永遠の生命を有すと思ひて之を探る、彼等も亦我を證明するものなり、
40然れど汝等は生命を得ん爲我許に來る事を肯ぜず。
41我は名譽を人より受くる者に非ず、
42而も汝等を知れり、卽ち汝等は心に神を愛する事あらざるなり。
43我は我父の名に由りて來れるに、汝等は我を承けず、若外に己の名に由りて來る人あらば、之をば承くるならん。
44互に名譽を受けて、而も唯一の神より出づる名譽を求めざる汝等なれば、豈信ずることを得んや。
45我汝等を父の御前に訟へんとすと思ふこと勿れ、汝等を訟ふる者あり、汝等が恃めるモイゼ是なり。
46汝等若モイゼを信ずるならば、必ず我をも信ずるならん、其は彼我事を錄したればなり。
47然れど若彼の書を信ぜずば、爭でか我言を信ぜんや、[と曰へり]。
1其後イエズス往きて、ガリレアの湖、卽ちチベリアデの湖の彼方へ渡り給ひしに、
2病める人々に爲し給へる奇蹟を見て、群衆夥しく從ひければ、
3山に引退きて、弟子等と共に其處に坐し居給へり。
4時はユデア人の過越の祭日近き頃なりき。
5イエズス目を翹げて、無數の群衆の我許に來るを見給ひしかば、フィリッポに曰ひけるは、此人々の食すべき麪を我等何處より買ふべきか、と。
6斯く曰へるは、彼を試み給はん爲なりき、蓋自らは其爲さんとする所を知り給へるなり。
7フィリッポ答へけるは、二百デナリオの麪は、各些少づつを受くるも、此人々には足らざるなり、と。
8弟子の一人なる、シモン、ペトロの兄弟アンデレア、イエズスに向ひて、
9茲に一人の童子あり、大麥の麪五と魚二とを有てり、然れど斯く夥しき人の中に、其が何になるぞ、と云ひしかば、
10イエズス、人々を坐せしめよ、と曰ひ、此處に草多かりければ、男子等坐したるに、其數五千人許なりき。
11イエズス軈て麪を取り、謝し給ひて後、坐せる人々に分ち、魚をも彼等の欲するに任せて分ち給へり。
12人々滿腹せし時、イエズス弟子等に向ひ、殘れる屑を遺らざる樣に拾へ、と曰ひしかば、
13食せし人々の餘したる五の大麥の麪の屑を拾ひて、十二の筐に滿たせり。
14斯て人々、イエズスの爲し給ひたる奇蹟を見て、實に是ぞ此世に來るべき預言者なる、と云ひしが、
15イエズス彼等の將に己を執へて王と爲さんとするを曉り給ひしかば、復獨り山に逃れ給へり。
16日没に及び、弟子等湖に下りて、
17船に乘り、カファルナウムに向ひて湖を渡るに、既に暗けれどもイエズス未だ彼等の處に來り給はず、
18湖は大風吹きて荒れ居たり。
19斯て約四五十町も漕出したる時、人々イエズスの水の上を步みて船に近づき給ふを見て怖れしが、
20イエズス我なるぞ、怖るること勿れ、と曰ひしかば、
21彼等之を船に乘せんとしたるに、船は忽ち之く所の地に着けり。
22明日に至りて、湖の此方に立てる群衆、船は一艘の外あらざりしに、イエズス弟子等と共に其船に入り給はずして、弟子等のみ往きし事を認めたり。
23折しも別の船等チベリアデより來り、主の謝し給ひて己等が麪を食せし處に近く着きしかば、
24人々イエズスと弟子等との其處に在らざるを見て其船に乘り、イエズスを尋ねてカファルナウムに至れり。
25斯て彼等湖を渡り、イエズスを見付けて、ラビ何時此處に來り給ひしぞ、と云ひしかば、
26イエズス彼等に答へて曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等が我を尋ぬるは、奇蹟を見し故に非ず、麪を食して飽足りし故なり。
27働く事は朽つる糧の爲にせずして、永遠の生命に至るまで存する糧、卽ち人の子が汝等に與へんとする糧の爲にせよ、其は父なる神彼を證印し給ひたればなり、と。
28是に於て人々イエズスに向ひ、神の業を働かん爲には、我等何を爲すべきぞ、と云ひしに、
29イエズス答へて曰ひけるは、汝等其遣はし給ひし者を信ずるは、是神の業なり、と。
30是に於て彼等又言ひけるは、然らば我等をして見て汝を信ぜしめん爲に、如何なる徵を爲し何を行ひ給ふぞ。
31我等が先祖は荒野にてマンナを食せり、錄して「彼等に天よりの麪を與へて食せしめ給へり」とあるが如し、と。
32其時イエズス彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、モイゼは天よりの麪を汝等に與へず、我父こそ天よりの眞の麪を汝等に賜ふなれ。
33蓋神の麪とは、天より降りて世に生命を與ふるもの是なり、と。
34斯て人々、主よ、此麪を恒に我等に與へよ、と云ひしかば、
35イエズス曰ひけるは、我は生命の麪なり、我に來る人は飢ゑず、我を信ずる人は、何時も渴かざるべし。
36然れども我が既に汝等に告げし如く、汝等は我を見たれども、猶信ぜざるなり。
37總て父の我に賜ふ者は我に來らん、我に來る人は我之を逐出さじ、
38是我が天より降りしは、我意を成さん爲に非ずして、我を遣はし給ひし者の思召を成さん爲なればなり。
39然て我を遣はし給ひし父の思召は、總て我に賜ひし者を我毫も失はずして、終の日に之を復活せしむべき事是なり。
40又我を遣はし給ひし我父の思召は、總て子を見て之を信仰する人は永遠の生命を得ん事是なり。斯て我終の日に之を復活せしむべし、と。
41是に於てイエズスが、我は天より降りたる麪なり、と曰ひし爲に、ユデア人等彼に就きて呟きつつ、
42是ヨゼフの子イエズスにして、其父母は我等が知れる者ならずや。然るを如何ぞ、我は天より降れりと云ふや、と云ひければ、
43イエズス答へて曰ひけるは、汝等呟き合ふこと勿れ、
44我を遣はし給ひし父の引き給ふに非ずば、何人も我に來る事を得ず、[來る人は]我終の日に之を復活せしめん。
45預言者等[の書]に錄して、「皆神に敎へらるる者とならん」とあり。父に聽きて學べる人は皆我に來る、
46父を人の見奉りしには非ず、惟神より成る者のみ父を見奉りたるなり。
47誠に實に汝等に告ぐ、我を信ずる人は永遠の生命を有す。
48我は生命の麪なり。
49汝等の先祖は、荒野にマンナを食して死せしが、
50是は天より降る麪にして、人之を食せば死せざらん爲なり。
51我は天より降りたる活ける麪なり。人若此わが麪を食せば永遠に活くべし。[52]而して我が與へんとする麪は、此世を活かさん爲の我肉なり、と。
52[53]是に於てユデア人等相爭ひ、此人爭でか己が肉を我等に與へて食せしむるを得んや、と云ひしかば、
53[54]イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、汝等人の子の肉を食せず其血を飲まずば、汝等の衷に生命を有せざるべし。
54[55]我肉を食し我血を飲む人は永遠の生命を有す、而して我終の日に之を復活せしむべし。
55[56]蓋我肉は實に食物なり。我血は實に飲物なり。
56[57]我肉を食し我血を飲む人は我に止り、我も亦之に止る。
57[58]活ける父我を遣はし給ひて、我父に由りて活くる如く、我を食する人も亦我に由りて活きん。
58[59]是ぞ天より降りし麪なる、汝等の先祖がマンナを食して然も死せしが如くならず、此麪を食する人は永遠に活くべし、と。
59[60]イエズスカファルナウムなる會堂の内にて敎へつつ斯く曰ひしに、
60[61]弟子等の中には、之を聞きて、此談は難し、誰か之を聽くことを得ん、と謂ふ者多かりしが、
61[62]イエズス彼等が之に就きて呟けるを自ら知りて曰ひけるは、此事汝等を躓かしむるか、
62[63]然れば汝等若人の子が原居りし處に昇るを見ば如何、
63[64]活かすものは靈にして、肉は益する所なし、我が汝等に語りし言は靈なり生命なり。
64[65]然れども汝等の中には信ぜざる者あり、と。是イエズス素より、信ぜざる人々の誰なるか、己を賣るべき人の誰なるかを知り居給へばなり。
65[66]斯て曰ひけるは、然ればこそ我曾て、人は我父より賜はりたるに非ずば我に來ることを得ず、と汝等に告げたるなれ、と。
66[67]此後は、弟子等多く退きて、最早イエズスと共に步まざりしかば、
67[68]イエズス十二人に向ひ、汝等も去らんと欲するか、と曰ひしに、
68[69]シモン、ペトロ答へけるは、主よ、我等誰にか之かん、汝こそ永遠の生命の言を有し給ふなれ。
69[70]我等は汝が神の御子キリストなる事を信じ且曉れり、と。
70[71]イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等十二人を選みしに非ずや、然るに汝等の一人は惡魔なり、と。
71[72]是はシモンの子イスカリオテのユダを曰へるものにて、彼は十二人の一人ながら、イエズスを賣るべき者なればなり。
1ユデア人が殺さんと謀れるに因り、イエズス其後はユデアを巡ることを好み給はず、ガリレアを巡り給ひしが、
2ユデア人の幕屋の祝日近づきければ、
3兄弟等イエズスに向ひ、汝の行へる業を弟子等に見せん爲、此處を去りてユデアに往け、
4蓋公に知れん事を求めながら、而も窃に事を爲す人はあらず、斯る事を爲す上は己を世を顯せかし、と云へり。
5是其兄弟等も之を信ぜざりし故なり。
6然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等の時は恒に備はれども、我時は未だ至らず、
7世は汝等を憎む能はざるに我をば憎めり、其は我之に就きて、其所業の惡きことを證すればなり、
8汝等は此祭日に上れ、我時未だ滿たざれば、我は此祭日に上らず、と。
9斯く曰ひてガリレアに留り給ひしが、
10兄弟等の上りたる後、自らも顯ならず忍びたる樣にて祭日に上り給へり。
11然れば祭日に當りて、ユデア人、彼は何處に居るぞとて之を探し、
12又群衆の中に之に就きて囁く者多かりき。卽ち或人は彼は善人なりと謂ひ、或人は否人民を惑はすのみと謂ひ居たり、
13然れど孰もユデア人の懼ろしさに、彼に就きて顯に語る人なかりき。
14斯て祭日の半に、イエズス[神]殿に上りて敎へ給ひければ、
15ユデア人驚嘆して、彼曾て學ばざるに如何にして文字を知れるぞ、と云ひ居たるを、
16イエズス彼等に答へて曰ひけるは、我敎は我のに非ず、我を遣はし給ひし者の[敎]なり。
17其思召を肯て爲さん人は、此敎が神よりせるか又は我が私を以て言へるかを曉らん。
18己が私を以て語る人は己の光榮を求むれども、己を遣はしし者の光榮を求むる人は、眞實にして衷に不義ある事なし。
19モイゼは律法を汝等に授けしに、汝等の中に之を行ふ者なきは何ぞや、
20汝等如何ぞ我を殺さんとは謀る、と。群衆答へて、汝は惡魔に憑かれたり、誰か汝を殺さんとはする、と云ひしかば、
21イエズス答へて曰ひけるは、我一の業を爲ししに汝等皆之を訝れり、
22夫モイゼ割禮を汝等に授けたれば、――モイゼより出しに非ずして先祖より出でたるものなるに、――汝等安息日にも人に割禮を行ひ、
23モイゼの律法を破らじとて、人は安息日にも割禮を受くるに、我が安息日に人の全身を醫したればとて、汝等の我を憤るは何ぞや。
24外見によりて是非すること無く、正しき判斷によりて是非を定めよ、と。
25是に於てエルザレムの或人々言ひけるは、是人々が殺さんと謀れる者に非ずや、
26看よ公然と談話すれども人は之に何をも言はず。司等は彼がキリストたる事を眞に認めたるか、
27然りながら我等は此人の何處の者なるかを知れり、キリストの來る時には其何處よりせるかを知る人あらじ、と。
28然るにイエズス神殿にて呼はりつつ敎へて曰ひけるは、汝等は我を知り、亦我が何處より來れるかを知れり、然れども我は己によりて來りたるには非ず、我を遣はし給ひし者は眞實にて在す、汝等は之を知らず、
29我は之を知れり、其は我彼より出でて、彼我を遣はし給ひたればなり、と。
30是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼が時未だ至らざればなり。
31然れど人民の中には之を信じたる者多く、キリスト來ればとて豈此人の爲すより多くの奇蹟を爲さんや、と云ひ居たり。
32人民がイエズスに就きて斯く囁ける由ファリザイ人の耳に入りしかば、司祭長とファリザイ人とは、下役等を遣はしてイエズスを捕へしめんとせしを、
33イエズス彼等に曰ひけるは、我尙暫く汝等と共に居て、然て我を遣し給し者の御許に之かんとす、
34汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と。
35是に於てユデア人等語合ひけるは、我等彼に遇はじとて、彼は何處に往かんとするぞ、異邦人の中に散在せる同邦人の許に往きて、異邦人を敎へんとするか、
36其言に、汝等我を尋ぬべけれど而も我に遇はじ、我が居る處には汝等來る事能はず、と云ひしは何事ぞや、と。
37祭の終の日、卽ち其大祭日に、イエズス立ちて呼はりつつ曰ひけるは、渴ける人あらば我許に來りて飲め、
38我を信ずる人は、聖書に云へる如く、活ける水の川其腹より流出づべし、と。
39斯く曰ひしは、己を信ずる人々に賜はるべき[聖]靈の事なりき、其はイエズス未だ光榮を受け給はざるにより、[聖]靈は未だ賜はざりしが故なり。
40斯て彼群衆の中に、是等の言を聞きて、是眞に彼預言者なり、と謂ふ人あり、
41是キリストなり、と謂ふ人もありき。然れど或人は、キリストはガリレアより出づべき者なるか、
42聖書にキリストはダヴィドの裔より、又ダヴィドの居たりしベトレヘムの町より出づ、と云へるに非ずや、と云ひつつ、
43イエズスに就きて群衆の中に諍論を生じたり。
44中にはイエズスを捕へんと欲する者ありたれど、誰も手を掛くる者なかりき。
45然れど下役等は、司祭長とファリザイ人との許に還りしに、何ぞ彼を引來らざる、と云はれて、
46下役等、此人の如く語りし人は未だ曾てあらず、と答へしかば、
47ファリザイ人答へけるは、汝等も亦惑はされしか、
48長及びファリザイ人の中に、一人だも彼を信じたる者ありや、
49然れど律法を知らざる彼群衆は詛はれたる者なり、と。
50曾て夜イエズスに至りし彼ニコデモは、其中の一人なりしが、彼等に向ひて、
51我律法は、先其人にも聽糺さず、其爲す所をも知らずして、之を罪に定むるものなるか、と云ひしかば、
52彼等答へて云ひけるは、汝も亦ガリレア人なるか、聖書を探り見よ、然て預言者はガリレアより起るものに非ずと曉れ、と。
53斯て各自宅に歸れり。
1イエズス、橄欖山に往き、
2黎明に復[神]殿に至り給ひしに、人民皆御許に來りければ、坐して之を敎へ居給ひしが、
3律法學士、ファリザイ人等、姦淫せる時捕へられたる一人の婦を引來りて之を眞中に立たせ、
4イエズスに云ひけるは、師よ、此婦は今姦淫せる處を捕へられたり、
5モイゼは律法に於て斯る者に石を擲つ事を我等に命じたるが、汝は之を何と謂ふぞ、と。
6斯く云へるは、イエズスを試みて、訟ふる條件を得ん爲なりしが、イエズスは身を屈め、指もて地に物を書き居給へり。
7然るに彼等問ひて止まざりしかば、イエズス立上り、汝等の中罪なき人は、先に石を彼に擲つべし、と曰ひ、
8再び身を屈めて地に物書き居給へるに、
9彼等聞きて、年長を初として一人々々に立去り、唯イエズスと眞中に立てる婦とのみ遺りしかば、
10イエズス立上りて之に曰ひけるは、婦よ、汝を訟へ居たりし人々は何處に居るぞ、誰も汝を罪に定めざりしか、と。
11婦、主よ誰も、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我も汝を罪に定めじ、往け、此後復罪を犯すこと勿れ、と。
12然てイエズス再び人々に語りて、我は世の光なり、我に從ふ人は暗黑を步まず、却て生命の光を得べし、と曰ひければ、
13ファリザイ人之に謂ひけるは、汝は自ら己を證明す、汝の證明は眞實ならず。
14イエズス答へて曰ひけるは、我は己を證明すれども、我證明は眞實なり、是我が何處より來りて何處に往くかを知ればなり。然れど汝等は、我が何處より來りて何處に往くかを知らず、
15汝等は肉親によりて是非し、我は誰をも是非せず、
16若是非する事あれば、我が是非する所は眞實なり、其は我獨に非ずして我と我を遣はし給ひし父となればなり。
17汝等の律法に錄して、「二人の證は眞實なり」とあり、
18我は己を證し、我を遣はし給ひし父も亦我を證し給ふなり、と。
19彼等乃ちイエズスに向ひ、汝の父何處にか在る、と云ひしかば、イエズス答へ給ひけるは、汝等は我をも我父をも知らず、若我を知りたらば必ず我父をも知れるならん、と。
20イエズスが斯く語り給ひしは、[神]殿の内、賽錢箱の傍にて敎へつつありし時なれども、誰も手を掛くる者なかりき、其は彼の時未だ至らざればなり。
21然ればイエズス再び彼等に向ひ、我は往く、汝等我を尋ぬべけれども、己が罪の中に死せん、我が往く處には汝等來る能はず、と曰ひしかば、
22ユデア人、彼は我が往く處には汝等來る能はずと云ひしが、自殺せんとするか、と云ひけるに、
23イエズス曰ひけるは、汝等は下よりせるに、我は上よりせり、汝等は此世の者なるに、我は此世の者に非ず、
24我是によりて、汝等己が罪の中に死せんと云へり、蓋汝等、若我が其なる事を信ぜずば、己が罪の中に死すべし、と。
25彼等、汝は誰なるぞ、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我は卽ち素より汝等に告ぐる所の者なり。
26我汝等に就きて云ふべき事、審くべき事多し、然りながら我を遣はし給ひし者は眞實にて在し、我が世に在りて語る所は彼より聞きしものなり、と。
27斯ても彼等は、イエズスが神を我父と稱し給へることを曉らざりき。
28然ればイエズス彼等に曰ひけるは、汝等人の子を擧げたらん時、我が其なる事を曉り、又我が私には何事をも爲さず、父の敎へ給へる儘に、此等の事を語るを曉らん。
29我を遣はし給ひし者は我と共に在して、我を孤ならしめ給はず、其は我が恒に御意に適へる事を爲せばなり、と。
30斯く語り給へるに、信仰する人多かりければ、
31イエズス己を信じたるユデア人に向ひ、汝等若我言に止らば實に我弟子にして、且眞理を曉り、
32眞理は汝等を自由ならしめん、と曰ひしかば、
33彼等答へけるは、我等はアブラハムの子孫にして未だ曾て誰にも奴隷たりし事なし、何ぞ汝等自由なるべしと言ふや、と。
34イエズス彼等に答へ給ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、總て罪を犯す人は罪の奴隷なり、
35奴隷は限なく家に止る者に非ず、子こそ限なく止るなれ、
36然れば子若汝等を自由ならしめば、汝等實に自由成るべし。
37汝等がアブラハムの子孫なる事は我之を知れり、然れども我言汝等の中に容れられざるによりて、汝等我を殺さんとす。
38我は我父に就きて見し所を語り、汝等は己が父に就きて見し所を行ふなり、と。
39彼等答へて、我等の父はアブラハムなり、と云ひしかば、イエズス彼等に曰ひけるは、汝等若アブラハムの子等ならばアブラハムの業を爲せ、
40然るに汝等は今、神より聞きたる眞理を汝等に告ぐる人たる我を殺さんと謀る、是アブラハムの爲さざる所、
41汝等は己が父の業を爲すなり、と。是に於て彼等イエズスに云ひけるは、我等は私通によりて生れし者に非ず、我等に獨一の父卽ち神あり、と。
42イエズス乃ち彼等に曰ひけるは、神若汝等の父ならば汝等は必ず我を愛するならん、其は我神より出來りたればなり、卽ち我は私に來りしに非ず、神こそ我を遣はし給ひしなれ。
43汝等我談を弁へざるは何故ぞ、是我が語る所を聞き得ざる故なり。
44汝等は惡魔なる父より出でて敢て己が父の望を行ふ、彼は初より殺人者にして眞理に立たざりき、眞理は彼の中に在らざればなり、彼は僞を云ふ時己より語る、其は僞者にして而も僞の父なればなり。
45我眞理を說けども汝等之を信ぜず、
46汝等の中誰か我に罪ある事を證せん。我汝等に眞理を說くも我を信ぜざるは何故ぞ、
47神よりの者は神の御言を聽く、汝等の聽かざるは神よりの者ならざるによれり、と。
48斯てユデア人答へてイエズスに謂ひけるは、我等が、汝はサマリア人にして惡魔に憑かれたる者なり、と云へるは宜ならずや。
49イエズス答へけるは、我惡魔に憑かれず、却て我父を尊べるに、汝等は我を侮辱す。
50但我は己の光榮を求めず、之を求め且審判し給ふ者は別に在り。
51誠に實に汝等に告ぐ、人若我言を守らば永遠に死を見ざるべし、と。
52是に於てユデア人云ひけるは、我等汝が惡魔に憑かれたるを今こそは曉りたれ、アブラハムも死し、預言者等も死せり、然るを汝、人若我言を守らば永遠に死を味はじと云ふ。
53汝は我等の父アブラハムよりも大いなる者なるか、彼も死し預言者も死したるに、汝は己を誰なりとするぞ。
54イエズス答へ給ひけるは、我若自ら己に光榮を歸せば、我光榮は皆無成るべし、我に光榮を歸する者は我父なり。卽ち汝等が己の神と稱する者なり。
55汝等は彼を知らざれども我は彼を知れり、我若彼を知らずと云はば、汝等と均しく僞者たるべし、然れども我は彼を知り且其御言を守る。
56汝等の父アブラハムは、我日を見んと樂しみしが、見て喜べり、と。
57是に於てユデア人イエズスに向ひ、汝未だ五十歲ならざるに、而もアブラハムを見たりしや、と云ひたるに、
58イエズス曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我はアブラハムの生るるに先ちて存す、と。
59是に於て人々石を取りてイエズスに擲たんとしけるに、イエズス身を隱して[神]殿より出で給へり。
1イエズス通りかかりに、一人の生れながらの瞽者を見給ひしかば、
2弟子等、ラビ此人の瞽者に生れしは誰の罪ぞ、己の罪か兩親の罪か、と問ひたるに、
3イエズス答へ給ひけるは、此人も其親も罪を犯ししに非ず、彼が身の上に神の業の顯れん爲なり。
4我を遣はし給ひし者の業を我晝の間に爲さざるべからず、誰も業を爲す能はざる夜は將に來らんとす、
5我世に在る間は世の光なり、と。
6斯く曰ひて、イエズス地に唾し、唾を以て泥を造り、之を彼の目に塗りて、
7曰ひけるは、シロエの池に至りて洗へ、と。シロエとは遣はされたるものと譯せらる。彼卽ち往きて洗ひしに、目明きて歸れり。
8斯て隣人及び曾て彼が乞食せるを見し人々は、是坐りて乞食し居たりし者ならずや、と云へば、或人は其なりと言ひ、
9或人は否其に似たる人なりと言ふを彼は、我其なりと云ひ居たり。
10然れば彼等、汝の目は如何にして明きたるぞ、と言へるに、
11彼答へけるは、彼イエズスと稱する人、泥を造りて我目に塗り、シロエの池に至りて洗へと云ひしかば、我往きて洗ひて、然て見ゆるなり、と。
12人々、其人何處に居るぞと云ひしに彼、我は之を知らず、と云へり。
13彼等其瞽者なりし人をファリザイ人の許に伴ひ行きしが、
14イエズスの泥を造りて其目を明け給ひしは、安息日なりければ、
15ファリザイ人更に、如何にして見ゆるに至りしぞ、と問へるを彼答へて、彼人わが目に泥を塗り、我之を洗ひたれば見ゆるなり、と云ひしかば、
16ファリザイ人の或者は、安息日を守らざる彼人は神よりの者に非ずと云ひ、或者は、罪人なる者爭でか斯る奇蹟を行ふを得んや、と云ひて彼等の間に諍論ありき。
17然れば重ねて瞽者なりし人に、汝は其目を明けし人を何と謂ふぞ、と云へば、彼は、預言者なり、と云へり。
18ユデア人は、彼が曾て瞽者にして、見ゆる樣になれるを信ぜざれば、遂に彼目明きし人の兩親を呼び、
19問ひて云ひけるは、瞽者に生れしと汝等が云へる其子は是なるか、然らば如何にして今見ゆるぞ、と。
20兩親答へて、彼が我子なる事と、瞽者に生れし事とは、我等之を知る、
21然れど如何にして今見ゆるかを知らず、又其目を明けし者の誰なるかは、我等は知らざるなり、彼に問へ、彼年長けたれば自ら己が事を語るべし、と云へり。
22兩親の斯く云ひしは、ユデア人を懼れたる故にして、彼等が、イエズスをキリストなりと宣言する人あらば、之を會堂より逐出すべし、と言合せたるに因れり、
23彼年長けたれば之に問へ、と兩親の云ひしは之が爲なり。
24是に於て彼等、再び彼瞽者なりし人を呼出して、汝神に光榮を歸せよ、我等は彼人の罪人なる事を知れり、と云ひしかば、
25彼云ひけるは、彼が罪人なりやは我之を知らず、我が知る所は一、卽ち瞽者なりしに今見ゆる事是なり、と。
26其時彼等又、彼人汝に何を爲ししぞ、如何にして汝の目を明けしぞ、と云ひしに、
27彼、我既に汝等に告げて汝等之を聞けり、何爲ぞ復聞かんとはする、汝等も其弟子と成らん事を欲するか、と答へしかば、
28彼等之を詛ひて云ひけるは、汝は彼の弟子にてあれ、我等はモイゼの弟子なり、
29我等は神がモイゼに語り給ひし事を知れど、彼人の何處よりせるかを知らず、と。
30瞽者なりし人答へて、汝等が其何處よりせるかを知らざるこそ怪しけれ、彼我目を明けしものを。
31我等は知る、神は罪人に聽き給はず、然れど神に奉事して御旨を行ふ人あれば之に聽き給ふことを。
32開闢以來生れながらなる瞽者の目を明けし人ある事を聞かず、
33彼人若神より出でたるに非ずば何事をも爲し得ざりしならん、と云ひしかば、
34ファリザイ人答へて、汝は全く罪の中に生れたるに、猶我等を敎ふるか、と云ひて之を逐出だせり。
35イエズス其逐出だされし事を聞き、之に出遇ひ給ひし時、汝神の子を信仰するか、と曰ひしに、
36彼答へて、主よ、我が之を信仰すべき者は誰ぞ、と云ひしかば、
37イエズス曰ひけるは、汝それを見たり、汝と語る者卽ち是なり、と。
38彼、主よ、我は信ず、と云ひて平伏しつつイエズスを禮拜し奉れり。
39イエズス曰ひけるは、我審判の爲に此世に來れり、卽ち目見えざる人は見え、見ゆる人は瞽者と成るべし、と。
40ファリザイ人の中イエズスと共に在りし者之を聞きて、我等も瞽者なるか、と云ひしかば、
41イエズス彼等に曰ひけるは、汝等瞽者ならば罪なかるべし、然れど今自ら見ゆと云ふに由りて、汝等の罪は遺るなり。
1誠に實に汝等に告ぐ、羊の檻に入るに、門よりせずして他の處より越ゆるは、盜人なり强盜なり、
2門より入るは羊の牧者なり。
3門番は彼に戶を開き、羊は其聲を聽き、彼亦己が羊を一々に名指して引出す、
4斯て其羊を出せば、彼先ちて往き羊之に從ふ、其聲を知ればなり、
5然れども他人には從はず、却て之を避く、他人の聲を知らざればなり、と。
6イエズス此喩を彼等に曰ひしかど、彼等は其語り給ふ所の何たるを曉らざりき。
7然ればイエズス再び彼等に曰ひけるは、誠に實に汝等に告ぐ、我は羊の門なり、
8已に來りし人は皆盜人、强盜にして、羊之に聽從はざりき。
9我は門なり、人若我に由りて入らば救はれ、出入して牧場を得べし。
10盜人の來るは盜み、殺し、亡さんとするに外ならざれども、
11我が來れるは羊が生命を得、而も尙豐に得ん爲なり。我は善き牧者なり、善き牧者は其羊の爲に生命を棄つ、
12然れども牧者に非ずして羊吾物に非ざる被雇人は、狼の來るを見れば羊を棄てて逃げ、狼は羊を奪ひ且追散す。
13被雇人の逃ぐるは、被雇人にして羊を勞らざる故なり。
14我は善き牧者にして我羊を知り、我羊亦我を知る、
15恰も父我を知り給ひ、我亦父を知り奉るが如し、斯て我は我羊の爲に生命を棄つ、
16我は又此檻に屬せざる他の羊を有てり、彼等をも引來らざるべからず、然て彼等我聲を聞き、斯て一の檻、一の牧者となるべし。
17父の我を愛し給へるは、之を再び取らんが爲に我生命を棄つるに因る、
18誰も之を我より奪ふ者はあらず、我こそ自ら之を棄つるなれ。我は之を棄つるの權を有し、又再び之を取るの權を有す、是我父より受けたる命なり、と。
19是等の談の爲に、ユデア人の中に復諍論起れり、
20其中には、彼は惡魔に憑かれて狂へるなり、汝等何ぞ之に聽くや、と云ふ人多かりしが、
21他の人は、是惡魔に憑かれたる者の言に非ず、惡魔豈瞽者の目を明くことを得んや、と云ひ居たり。
22然てエルザレムに奉殿記念祭行はれて、時は冬なりしが、
23イエズス[神]殿に在りてサロモンの廊を步み居給ふに、
24ユデア人之を取圍みて、汝何時まで我等の心を疑惑せしむるぞ、汝若キリストならば、明白に我等に告げよ、と云ひければ、
25イエズス彼等に答へ給ひけるは、我汝等に語れども汝等信ぜざるなり、我が父の御名を以て行へる業、是ぞ我を證明するものなるに、
26汝等尙之を信ぜず、是我羊の數に入らざればなり。
27我羊は我聲を聽き、我彼等を知り、彼等我に從ふ、
28斯て我永遠の生命を彼等に與ふ、彼等長久に亡びず、誰も彼等を我手より奪はじ、
29之を我に賜ひたる我父は、一切に優れて偉大に在し、誰も我父の御手より之を奪ひ得る者なし、
30我と父とは一なり、と。
31是に於てユデア人石を取りてイエズスに擲たんとせしかば、
32イエズス彼等に曰ひけるは、我わが父に由れる善業を多く汝等に示ししが、汝等其孰の爲に我に石を擲たんとはするぞ。
33ユデア人答へけるは、我等が汝に石を擲つは善業の爲に非ず、冒涜の爲、且汝が人にてありながら己を神とする故なり。
34イエズス彼等に答へ給ひけるは、汝等の律法に錄して「我言へらく、汝等は神なり」とあるに非ずや、
35斯く神の言を告げられたる人々を神と呼びたるに、而も聖書は廢すべからず、我は神の子なりと言ひたればとて、
36汝等は、父の聖成して世に遣はし給ひし者に向ひて、汝は冒涜すと謂ふか、
37我もし我父の業を爲さずば我を信ずること勿れ、
38然れど我もし之を爲さば、敢て我を信ぜずとも業を信ぜよ、然らば父の我に在し我の父に居る事を曉りて信ずるに至らん、と。
39是に於て彼等イエズスを捕へんと謀れるを、彼等の手を遁れて、
40ヨルダン[河]の彼方、ヨハネが初に洗しつつありし處に至り、其處に留り給ひしに、
41多くの人御許に來りて、ヨハネは何の奇蹟をも行はざりしかど、
42此人に就きて告げし事は悉く眞なりき、と云ひつつイエズスを信仰せる者多かりき。