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オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter twentyfour

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[ⅩⅢ 地下鉄サリン事件について]

〔弁護人の主張〕

 1 地下鉄サリン事件において散布された物質がサリンであることについては重大な疑問がある。すなわち,現場遺留品とされる新聞紙に包まれたサリン入りビニール袋内等の液体についてサリンを含有するとの鑑定結果があるが,その現場遺留品と鑑定資料との同一性について証明がされていないし,その鑑定方法も鑑定資料からサリンが検出されたと結論づけるには十分なものとはいえない。

 2 サリンに被ばくしたとされる被害者らが,実際にサリンに被ばくし,その結果サリン中毒により死傷したことについては証明がされていない。

 3 地下鉄サリン事件は,教団に対する強制捜査が迫ったことに危機感を抱いたA6及びA28が,被告人を差し置いて,相談し企画立案した上で,指揮を執り,実行役をして実行させたものであり,被告人が,A6,A28及びA19らに対し,地下鉄電車内にサリンを散布するよう指示をした事実はなく,被告人が同席していたリムジン車内においても地 下鉄サリン事件の実行について何ら決定されていなかったものであるから,被告人には地下鉄サリン事件に係る殺人の共謀は存しない。

〔当裁判所の判断〕

第1 弁護人の主張1(現場遺留品がサリンを含有するか否か)に対する判断

 1 関係証拠によれば,次の事実が認められる(なお,特に年月日を記載していない時刻は平成7年3月20日のものであり,営団地下鉄の駅名については駅名のみ記載した。)。

 (1) A53は,日比谷線A720S電車の第3車両に持ち込みその床上に落とした新聞紙で包まれたサリン入りビニール袋3袋(以下「新聞包み①」という。)を傘で突き刺した後,直ちに秋葉原駅で降車した。同電車は,午前8時ころ,同駅を出発し,午前8時2分ころ,小伝馬町駅に到着したが,その間,新聞包み①からサリン混合液が床上に流れ出すとともにサリン等が気化して車両内に拡散して刺激臭を発するなどしたため,同車両内の乗客が,異臭を感じ,また,息苦しくなってきたことから,同駅で,新聞包み①をホーム上に押し出した。同電車は,午前8時3分ころ,同駅を出発し,人形町駅,茅場町駅,八丁堀駅に順次停車した後,午前8時10分ころ,築地駅に到着し,同駅で運転が中止された。

 警察官が,小伝馬町駅ホームで新聞包み①を発見し,午前10時35分ころ,応援に駆け付けた警察官にこれをビニール袋,布袋,大型ビニール袋に重ねて入れさせて回収した。同回収物は,午後3時5分ころから,大宮市にある陸上自衛隊化学学校で仕分けされた結果,新聞包み①を収納していたビニール袋内に黒褐色の油様の液体が若干量あり,その新聞紙は同液体で湿っていたことや,新聞包み①の中には,約20㎝四方の四角形の一隅が切り落とされた五角形の密封型のビニール袋2袋と,同様の形のビニール袋1袋を更に約25㎝四方の大型のビニール袋に密封したもの1袋があることが判明した。

 同液体の毒物含有の有無等について,警視庁科捜研薬物研究員C29らにより鑑定がされ,同液体がサリンを含有する旨の結果が得られた。 [A53,C30,C31,C32,C33,C34,C35,C29,A甲65,11675,11676,11678ないし11680,11683,11768等]

 (2) A25は,日比谷線B711T電車の第1車両に持ち込みその床上に置いた新聞紙で包まれたサリン入りビニール袋2袋(以下「新聞包み②」という。)を傘で突き刺した後,直ちに恵比寿駅で降車した。同電車は,午前8時2分ころ,同駅を出発し,広尾駅,六本木駅に順次停車し,午前8時11分ころ,神谷町駅に到着したが,その間,新聞包み②から サリン混合液が床上に流れ出すとともにサリン等が気化して車両内に拡散するなどしたことから,せき込んだり,けいれんを起こしたりする乗客が出るなどしたため,同駅で同車両 内の乗客はすべて降車し,同車両を空にした状態で,同電車は,午前8時18分ころ同駅を出発し,午前8時20分ころ霞ヶ関駅に到着し,同駅で運転が中止された。

 警察官が,午前9時25分ころ,日比谷線霞ヶ関駅に停車していた同電車の第1車両内の床上にぬれた新聞包み②を発見し,機動隊処理班に指示し,その周辺の床上に流出した液体を脱脂綿に付け,それをビニール袋に入れて領置し,警視庁科捜研係員に渡すとともに,新聞包み②もビニール袋に入れて領置した。後者の領置物は,午後6時50分ころから,大宮市にある陸上自衛隊化学学校で仕分けがされた結果,新聞包み②の中に,約20㎝四方の四角形の一隅が切り落とされた五角形の密封型のビニール袋2袋があることが判明した。

 上記脱脂綿に付着させた液体の毒物含有の有無等について,警視庁科捜研薬物研究員C29らにより鑑定がされ,同液体からサリンが検出された旨の結果が得られた。 [A25,C30,B38,B39,C36,C37,C38,C34,C35,C29,A甲11695,11696,11698ないし11700,11769]

 (3) A23は,丸ノ内線A777電車の第3車両に持ち込みその床上に落としたサリン入りビニール袋2袋(以下「ビニール袋③」という。)を傘で突き刺した後,直ちに御茶ノ水駅で降車した。同電車は,午前7時59分ころ,同駅を出発し,淡路町駅,大手町駅等の各駅を経て,午前8時25分ころ,中野坂上駅に到着したが,その間,ビニール袋③からサリン混合液が床上に流れ出すとともにサリン等が気化して車両内に拡散するなどしたことから,倒れたり,目の前が暗く感じたり,せき込んだりする乗客が出るなどし,同駅におい て,異常に気付いた同駅の駅員が,倒れた乗客を運び出すとともに,同車両内のドア付近の床上にあったビニール袋③を新聞紙に乗せてホーム中央に置き,さらにそれをビニール袋に入れて同駅事務室に運んだ。警察官は,午前9時30分ころ,駅員から同ビニール袋について任意提出を受けてこれを領置した。なお,同電車は,午前8時30分ころ,同駅を出発し,その後新高円寺駅等に停車した後,午前8時40分ころ,終点の荻窪駅に到着した。

 上記の領置物は,平成7年3月24日午後4時34分ころから,大宮市にある陸上自衛隊化学学校で仕分けがされた結果,ビニール袋③の中に,約20㎝四方の四角形の一隅が切り落とされた五角形の密封型のビニール袋2袋があり,そのうち1袋に無色及び薄茶色の2層をなす液体が在中していることが判明した。

 同液体の毒物含有の有無等について,警視庁科捜研薬物研究員C1らにより鑑定がされ,同液体がサリンを含有する旨の結果が得られた。 [A23,C30,B42,B41,C39,C40,C35,C13,C41,C29,C1,A甲11708,11 710,11712,11715,11770]

 (4) A33は,千代田線A725K電車の第1車両に持ち込みその床上に落とした新聞紙に包まれたサリン入りビニール袋2袋(以下「新聞包み④」という。)を傘で突き刺した後,直ちに新御茶ノ水駅で降車した。同電車は,午前8時4分ころ,同駅を出発し,大手町駅,二重橋前駅,日比谷駅に停車した後,午前8時12分ころ,霞ヶ関駅に到着したが, その間,新聞包み④からサリン混合液が床上に流れ出すとともにサリン等が気化して車両内に拡散するなどしたことから,座席に倒れ込んだり,せき込んだりする乗客が出るな どした。同駅においては,B33助役やB34助役らが,同車両内から新聞包み④をホーム上に出し,同車両内に流れ出ていた液体を新聞紙でふき,ふいた新聞紙や新聞包み④をビニール袋に入れて千代田線駅事務室に運んだ。警察官は,午前11時27分ころ,駅員から同ビニール袋の任意提出を受け,機動隊処理班に回収させてこれを領置した。なお,同電車は,同駅を午前8時14分ころ出発し,午前8時16分ころ国会議事堂前駅に到着し,運転を中止した。

 上記の領置物は,同月24日午後1時50分ころから,大宮市にある陸上自衛隊化学学校で仕分けがされた結果,新聞包み④の中に,約20㎝四方の四角形の一隅が切り落とされた五角形の密封型のビニール袋2袋があり,そのうち1袋に無色及び薄茶色の2層をなす液体が在中していることが判明した。

 同液体や上記領置物中の湿った新聞紙の毒物含有の有無等について,警視庁科捜研薬物研究員C29らにより鑑定がされ,同液体は約615ミリリットル(以下,この液体を「霞ヶ関駅物件」という。)であり,サリンを含有し,新聞紙からサリンが検出された旨の結果が得られた。 [A33,C30,B44,C42,C43,C35,C13,C44,C45,C29,C1,A甲11729,11 730,11733,11734,11738,11740,11743ないし11745,11771]

 (5) A26は,6両編成の丸ノ内線B701電車の第5車両に持ち込みその床上に移動した新聞紙に包まれたサリン入りビニール袋2袋(以下「新聞包み⑤」という。)を傘で突き刺 した後,直ちに四ッ谷駅で降車した。同電車は,午前8時2分ころ,同駅を出発し,赤坂見附駅,国会議事堂前駅等の各駅を経て,午前8時30分ころ,終点の池袋駅に到着し,折り返し新宿行きのA801電車として午前8時32分に池袋駅を出発し,午前8時42分に本郷三丁目駅に到着したが,その間,新聞包み⑤からサリン混合液が床上に流れ出すとともにサリン等が気化して車両内に拡散するなどしたことから,せき込んだり,視界が暗く感じたりする乗客が出るなどした。同駅で,駅員が,同電車の第2車両(B701電車の第5車両に相当する。)から新聞包み⑤をちりとりに掃き入れ,そのころ,警察官がその任意提出を受けて領置し,ゴミ用ビニール袋に入れた。

 上記の領置物は,同月25日午前9時40分ころから,大宮市にある陸上自衛隊化学学校で仕分けがされた結果,新聞包み⑤の中に,約20㎝四方の四角形の一隅が切り落とされた五角形の密封型のビニール袋2袋があり,いずれにも無色及び薄茶色の2層をなす液体が在中し,液量は一方が少なく他方が多いことが判明した。

 同液体の毒物含有の有無等について,警視庁科捜研薬物研究員C29らにより鑑定がされ,同液体は一方は約50ミリリットル,他方は約630ミリリットル(以下,後者の液体を「本郷三丁目駅物件」という。)であり,いずれもサリンを含有する旨の結果が得られた。 [A20,C30,B45,B46,B47,B48,C46,C47,C35,C29,C1,A甲11757,117 60,11761,11764,11767,11773,11774]

 2 上記認定によれば,地下鉄サリン事件の実行担当者が地下鉄車両内に持ち込み傘で突き刺した新聞包み①②④⑤内の各ビニール袋及びビニール袋③の中にあった液体又はそのビニール袋から流れ出た液体について警視庁科捜研において鑑定がされ,いずれもサリンを含有する又はサリンが検出されたとの鑑定結果が得られた事実を優に認めることができる。そのことは,地下鉄サリン事件の実行に使用されたビニール袋を製作したA14が,公判において,鑑定資料の一部であるビニール袋の写真を見て自分が作った袋である旨認めていることや,鑑定結果の内容も,サリンの生成にかかわったA19,A14及びA24の認識とも格別異なるものではないことからも明らかである。

 したがって,現場遺留物と鑑定資料の同一性が証明されていない旨の弁護人の主張は採用することができない。

 3 次に,警視庁科捜研における上記鑑定の経過ないし方法についてみると,関係証拠(主として1の鑑定関係の証拠等)によれば,(1) 警視庁科捜研研究員において,①全 鑑定資料について,GC/MS(EI法)による分析を行い,信頼性の置けるニストのライブラリーにあるサリンのスペクトルや他のサリンのデータとも照合した上で,サリンと同定したこと,②霞ヶ関駅物件及び本郷三丁目駅物件について,CI法による分析を行い,サリンの分子量と一致するスペクトルを得たこと,③霞ヶ関駅物件に関し,水素とリン31について核磁気共鳴法(NMR)を実施し,同物件がメチルホスホン酸タイプのリン化合物でリンとフッ素が結合している旨の結果を得たこと,④霞ヶ関駅物件について水酸化カリウム水溶液により加水分解したところ,メチルホスホン酸モノイソプロピルエステルを確認することができ,また,同物件を,エタノールに金属ナトリウムを溶かした物に加えたところ,メチルホスホン酸エチルイソプロピルエステルを確認することができるなど,同物件がサリンであることの裏付けを得たこと,⑤全鑑定資料について,サリンのほかに,サリンの副生成物であるメチルホスホン酸ジイソプロピルエステル及びジフロからサリンを生成する際に発生するフッ化水素をトラップすると同時に反応促進剤の役割を果たすNNジエチルアニリンを検出したこと,⑥数個の鑑定資料から,工業用ノルマルヘキサンの成分であるノルマルヘキサン,2-メチルペンタン,3-メチルペンタン及びメチルシクロペンタンを検出したこと,⑦霞ヶ関駅物件についてNMRにより分析した結果,同物件中にサリンが約35%の割合で含まれている旨の結果を得たこと,(2) 科警研においては,GC/MSによる分析がされ,霞ヶ関駅物件中にサリンが約30%含まれている旨の鑑定結果が得られたことなどが認められる。

 上記認定に係る鑑定の経過ないし方法に照らすと,上記鑑定資料である液体にサリンが含有されている,又は,同液体からサリンを検出した旨の鑑定結果は十分に首肯するに足りるものというべきである。さらに,その鑑定結果は,教団において,そのサリンが,ヘキサンを溶媒としNNジエチルアニリンを反応促進剤として使い,ジフロにイソプロピルア ルコールを滴下させて生成されたものであること,サリン生成後に,A24がGC/MSなどにより,生成した液体にサリンが約30%含有されていることを確認したこと,後記のとおりサリンに被ばくした被害者のうち数人の血液中からサリンの第1次加水分解物であるメチルホスホン酸モノイソプロピルが検出されたことともよく整合している。

 これらの点に照らすと,地下鉄サリン事件の実行担当者が地下鉄車両内に流出させた液体はサリンを含有するものであったことは明らかである。

 以上のとおりであるから,弁護人の主張1は採用することができない。

第2 弁護人の主張2(死傷被害者らがサリンに被ばくしたか否か)に対する判断

 1 B23について

 (1) B23は,普段自宅から茅場町駅が最寄り駅である会社に通勤するため,東武伊勢崎線で北千住駅まで行き同駅で同駅始発の日比谷線電車に乗り換え茅場町駅で下車していた。同人は,平成7年3月20日も午前7時15分ころ,会社に出勤するため自宅を出て,東武伊勢崎線を利用して北千住駅に午前7時45分前後ころ到着し,同駅で日比谷線電車(午前7時46分発のA720S電車の可能性が高い。)に乗車したが,小伝馬町駅に到着した際,降車を余儀なくされた。同人は,午前8時30分ころ,既に死亡した状態で,小伝馬町駅の地上出入口であるSビル口付近で他の傷病者と共に自動車に乗せられ,E28病院に搬送された。

 C48医師らの鑑定によれば,同月21日に採取されたB23の心臓内血液中の血清コリンエステラーゼ値は41IU/リットル(同医師らの計測による正常値は245~470IU/リットル),赤血球真コリンエステラーゼ値は0.1U/ミリリットル(同正常値は1.2~2.0U/ミリリットル),赤血球偽コリンエステラーゼ値は1.4U/ミリリットル(同正常値は4.1~8.5U/ミリリットル)であり,いずれも異常低値とされた。

 同医師らは,遺体の主要臓器全体において強いうっ血が見られたことから,死亡の直前に急激な呼吸循環障害が生じていたとした上,主要臓器のうっ血は上記のコリンエステラーゼ阻害による呼吸不全が生じたため低酸素状態又は窒息状態に陥って心機能・循環障害を引き起こしたことによるものとし,他に急激な呼吸循環障害を生じた原因となる異常が認められないことから,死因はコリンエステラーゼ阻害性毒物中毒による急性呼吸循環不全である旨の鑑定をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B23の解剖時に採取された血液中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.58U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は0.15U/ミリリットルであり,正常値(同技官らの計測による正常人8名の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットルであり,同赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は4.9U/ミリリットルである。)と比較して低い値とされた。 [A甲73,11935,11950,C49,C48,C20]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B23は,北千住駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は小伝馬町駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 (3) なお,弁護人は,A甲11935(C48ら作成の鑑定書)について,経口による毒薬物の摂取を調べるための胃内容物の検査を怠っており,コリンエステラーゼ値の低下が致死の程度にあったとの証明もなく,他の死因も否定し切れず,死因の鑑定として不十分である旨主張する。

 しかしながら,C48医師は,コリンエステラーゼ活性を阻害するものとしては有機リン系ガスのほかに有機リン系農薬やカーバメイト剤があるが,致死量の有機リン系農薬やカーバメイト剤を飲んでいれば強いにおいがするはずであるのにそれを疑う所見がなかったことから,胃内容物の詳しい検査をしなかったものであり[C48],関係証拠に照らしても,同医師の鑑定手法や上記の判断過程に誤りがあるとはいえず,この点に関する弁護人の主張は採用することができない(このことは,同医師ら作成の他の鑑定書であるA甲11 937,11939,11943,11945についても同様である。)。

 (4) 弁護人は,A甲11950(C20ら作成の鑑定書)について,①鑑定資料である血液は,遺体解剖をした医師が解剖に際し採取して捜査機関に任意提出し捜査機関から科警研に鑑定嘱託されたものであるが,他の機関に鑑定させるならば別個の令状により血液の採取をさせるべきであって,死体解剖のための鑑定処分許可状をもってこれに代えることは許されないから,鑑定資料の収集過程に令状主義に反する重大な違法があり,同鑑定書には証拠能力がない,②鑑定資料や比較対象である正常人血液についてのコリンエステラーゼ活性値の測定の正確性や,両数値を比較する作業における手法の正確性,客観性に問題がある旨主張する。

 しかしながら,前記(松本サリン事件における当裁判所の判断第1)のとおり,死亡者の死因等について鑑定を受託した鑑定人は,鑑定について必要がある場合には,鑑定処分許可状に基づき死体を解剖することができるとされているが,死因等を鑑定するために解剖の際血液の一部を採取して保管し,自らの鑑定を補助させるために他の機関に毒物含有の有無等の検査を依頼する意図でこれを捜査機関に任意提出することもまた,格別遺族の権利ないし利益を新たに侵害することがないことから,許されるものと解するのが相当であり,C48医師らは,上記の趣旨で解剖の際採取した血液の一部を捜査機関に任意提出したものであるから,その行為に違法があるとは認められない。もとより,関係証拠から認められる遺族感情等に照らすと,当該血液の処分について遺族の推定的承諾がないものとは考えられず,いずれにしても,上記の鑑定書の証拠能力が否定されるいわれはないというべきである(このことは,同技官ら作成の他の鑑定書であるA甲11955,11960,11965,11970,11975,11980,11985,11990,11995,12000についても同様である。)。

 また,関係証拠に照らしても,C20技官らによるコリンエステラーゼ活性値の測定の正確性に疑いを抱かせる事情は見出し難いし,同活性値の正常値を求める過程において検体を8人とした点も不合理とはいえず(このことは,同技官ら作成の上記他の鑑定書についても同様である。),さらに,B23の血液の同活性値が正常値と比較して低い値であったとする点も何ら疑問はないというべきである。

 以上のとおりであるから,A甲11950に関する弁護人の上記主張は採用することができない。

 2 B24について

 (1) B24は,普段自宅から霞ヶ関駅が最寄り駅である会社に通勤するため,自宅から歩いて5分くらいのところにある日比谷線北千住駅で電車に乗り同線霞ヶ関駅で下車していた。同人は,平成7年3月20日も会社に出勤するため午前7時33分ないし39分ころ自宅を出て,日比谷線北千住駅で電車(午前7時46分発のA720S電車の可能性が高い。)に乗車したが,小伝馬町駅に到着した際,降車を余儀なくされた。同人は,午前8時過ぎころ,同駅構内で大声で奇声を発し足をばたつかせ鼻水やよだれが出ている状態で救護され,午前9時8分ころ,縮瞳し既に心肺機能が停止している状態で判示E23クリニックに搬入され,午前10時2分ころ,同クリニックで死亡した。同クリニックで行われたB24の血液化学検査では,血しょう中コリンエステラーゼ活性値は0.03(同クリニックでの正常値は0.70~1.20)であった。

 C50医師らの鑑定によれば,同月21日の解剖時に採取されたB24の脳組織(前頭葉皮質部分)のアセチルコリンエステラーゼ活性値は26.6mU/g(同医師らの計測による正常値は110.0±8.1mU/g)で,著しく低下していたとされ,また,赤血球由来のアセチルコリンエステラーゼに結合しているリン酸化合物としてサリンの第1次分解物質であるメチルホスホン酸モノイソプロピル及び第2次分解物質であるメチルホスホン酸が検出された。また,同医師により,脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解物の検出が試みられ,脳組織からメチルホスホン酸が検出された。

 同医師らは,解剖所見は急死の所見が認められるのみで内因死を考えなければならない所見は認められないことや,上記の検査成績や検出結果等を総合した上で,B24の死因は急性サリン中毒死である旨の鑑定をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B24の解剖時に採取された心臓血中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.58U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は0.15U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は4.9U/ミリリットル)と比較して低い値であるとされ,また,同人の心臓血がサリンの第1次分解物質であるメチルホスホン酸モノイソプロピルを含有するとされた。 [A甲74,11955,12003,C20,C51,C50]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B24は,北千住駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は小伝馬町駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 (3)ア これに対し,弁護人は,①A甲12003(C50ら作成の鑑定書)について,C50医師ら自身が鑑定をしていない疑いがある上,その鑑定の手法及び推論の過程に重大な疑問がある旨,②同鑑定書及び第54回公判調書中の同医師の供述部分(速記録24丁~38丁)について,同医師は,鑑定終了後も,死体解剖保存法に違反して,遺族の承諾 等のないまま死体の一部である脳の一部を保管し続け,その一部を消費して検査行為等を行ったものであり,そのような違法な行為によって収集した検査結果を証言することによりその不備を補完した同鑑定書並びに同検査過程及び結果について証言した同医師の供述部分は違法収集証拠に基づくものとして証拠から排除されるべきである旨,③鑑定資料である心臓血がメチルホスホン酸モノイソプロピルを含有するとしたA甲11955(C20ら作成の鑑定書)について,保持指標から計算したサリンの保持時間が他の鑑定書と5秒異なる上,本来一つであるべき標品の保持時間が2種類あるなど,GC/MSによる検査の正確性等について著しい疑問がある旨を主張する。

  イ しかしながら,関係証拠によれば,(ア) C50医師は,解剖には少なくとも補助者として立ち会い,鑑定作業の中で補助者を使用している部分もあるが,鑑定書の内容については相鑑定人と討論するなどしてすべてチェックしており,(イ) 参考にしたカルテ等が鑑定書に添付されていないものの,そのことから直ちに検査成績等の鑑定への引用に信用 性が欠けるわけではなく,(ウ) カーバメイト製剤についても,これを溶かしている有機溶剤の異臭が遺体に認められないことを確認するなど検討がされており,(エ) メチルホスホン酸やメチルホスホン酸モノイソプロピルの検出からサリンに被ばくしたことを推定しても不合理とはいえず,(オ) 脳組織のアセチルコリンエステラーゼ活性値の測定経過や赤血球 アセチルコリンエステラーゼ結合性リン酸化合物の検出経過は合理的であり鑑定手法としてこれを否定するいわれはないなどC50医師の鑑定手法ないし鑑定経過やその判断において,格別疑問を差し挟むような事情はうかがわれない(このことは,同医師ら作成の他の鑑定書であるA甲12005,12007[なお,同医師自ら解剖したものである。],12 009についても同様である。)。

 なお,C50医師は,上記鑑定において,鑑定資料の全血におけるアセチルコリンエステラーゼの活性値と正常人の血清中のブチリルコリンエステラーゼ活性値とを比較可能な条件で測定しているか証拠上判然としないが,C20技官らによる鑑定によれば,鑑定資料に係るアセチルコリンエステラーゼ活性値及びブチリルコリンエステラーゼ活性値はいずれも正常値と比較して明らかに低い値であると認められるのであるから,結局,上記の不明確さが上記鑑定の結果を左右するものとはいえない。  これらの事情等に照らすと,弁護人の上記①の主張は採用することができない。

  ウ 次に,C50医師は,A甲12003に係る鑑定終了後も,遺族の明示の承諾のないまま遺体の一部である脳の一部を保管し続け,その一部を消費して検査行為等をしていた ものである。脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解物の検出を試み,脳組織からメチルホスホン酸を検出し,その検出経過及び結果も公判で証人として供述したものである[C50]。

 ところで,死体解剖保存法は,大学医学部の法医学の教授が解剖する場合や刑事訴訟法225条1項の規定により解剖する場合などに死体の解剖をすることができる者は,医学の教育又は研究のため特に必要があるときは,遺族から引渡しの要求がない限り,解剖をした後その死体の一部を標本として保存することができる旨を規定している(18条)が,サリンに被ばくした者の脳組織については医学の教育又は研究のため特にこれを保存する必要があるものと言い得る上,いったん鑑定は終了したとして鑑定書を提出していても当該事件の公判審理が終了するまでは一定の限度で鑑定の補充ないし追加や再試の必要性が生じることも考えられるから,そのために鑑定資料を返還することなく保存することにも理由が全くないわけではなく,実際に,C50医師は,鑑定受託事項に関する鑑定の補充ないし追加として,上記認定のとおり,脳組織からサリン分解物の検出を試みてメチルホスホン酸を検出し,公判において,証人としてその検出経過及び結果について供述したものである。また,遺族から引渡し要求があったと認めるに足りる事情もうかがわれない。したがって,このような事実関係の下では,遺族の承諾等がないとしても,上記鑑定書(A甲12003)提出後の鑑定の補充ないし追加に関する公判供述がその証拠能力を否定されるほどの重大な違法を帯びているとはいえないし,もとより,上記鑑定書(A甲12003)までが違法に収集された証拠になるものではない。したがって,弁護人の上記②の主張は採用することができない。なお,C50医師は,脳組織のアセチルコリンエステラーゼ活性値の正常値を得るために,遺族の承諾を得ずに集めていた別件の脳組織を使用しているが,上記の趣旨に準じて考慮すると,鑑定書の証拠能力に影響する ような重大な違法があるとはいえないというべきである。また,脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解物であるメチルホスホン酸を検出した手法,経過及 び判断内容それ自体にも不合理な点はうかがわれない(以上の点は,C50医師ら作成の他の鑑定書であるA甲12005,12007,12009やそれらの鑑定内容に関する同医師の公判供述においても同様である。)。

  エ A甲11955についてみると,関係証拠によれば,サリンの保持時間の記載に2種類あるのは単なる誤記であり,メチルホスホン酸モノイソプロピルの保持時間の記載に2種類あるのは誤差を考慮したものであって,いずれも鑑定結果を左右するものではなく,その他の点においてもC20技官らが鑑定資料からGC/MSによりメチルホスホン酸モノイソプロピルを検出した手法,経過及び結果について格別不合理な点はうかがわれず,その正確性に疑問を差し挟む事情は見当たらない。弁護人の上記③の主張は採用することができない(このことは,C20技官ら作成のA甲11960についても同様である。)。

 3 B25について

 (1) B25は,普段,東西線を利用して茅場町駅まで行き同駅で日比谷線に乗り換え同線を利用して目黒区x2にある会社に通勤していた。同人は,平成7年3月20日朝も,通 勤途中,日比谷線茅場町駅で電車(A720S電車の可能性が高い。)に乗車したが,次の八丁堀駅に到着した際,降車を余儀なくされ,同駅のホームに保険証を入れたかばんや紙袋を遺留したまま,同駅から救急車でE24病院まで搬送され,午前10時30分ころ,同病院で死亡した。

 C48医師らの鑑定によれば,同月21日に採取されたB25の心臓内血液中の血清コリンエステラーゼ値は50IU/リットル(同医師らの計測による正常値は245~470IU/リットル),赤血球真コリンエステラーゼ値は0.1以下U/ミリリットル(同正常値は1.2~2.0U/ミリリットル),赤血球偽コリンエステラーゼ値は1.7U/ミリリットル(同正常値は4.1~8.5U/ミリリットル)であり,いずれも異常低値とされた。

 同医師らは,遺体の主要臓器全体において強いうっ血が見られたことから,死亡の直前に急激な呼吸循環不全が生じていたとした上,上記の重症のコリンエステラーゼ障害や後記の科警研における心臓血からメチルホスホン酸モノイソプロピルが検出された旨の鑑定結果をも踏まえ,上記の主要臓器のうっ血はサリン中毒による呼吸不全が生じた ため低酸素状態又は窒息状態に陥って心機能障害を含む循環障害を引き起こしたことによるものとし,他に急激な呼吸循環障害を生じた原因となる異常が認められないことから,死因はサリン中毒による急性呼吸循環不全である旨の鑑定をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B25の解剖時に採取された心臓血中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.63U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は0.00U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は4.9U/ミリリットル)と比較して低い値とされた。 [A甲72,75,11937,11960,C48,C20]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B25は,茅場町駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は八丁堀駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 4 B26について

 (1) B26は,普段,自宅から六本木駅が最寄り駅である会社に通勤するため,東西線を利用して茅場町駅まで行き同駅で日比谷線に乗り換え六本木駅で下車していた。同人は,平成7年3月20日朝も,通勤途中,日比谷線茅場町駅で電車(A720S電車の可能性が高い。)に乗車したが,築地駅から救急車でE25病院まで搬送され,午前10時30分ころ,同病院で死亡した。

 C48医師らの鑑定によれば,同月21日に採取されたB26の心臓内血液中の血清コリンエステラーゼ値は63IU/リットル(同医師らの計測による正常値は245~470IU/リットル),赤血球真コリンエステラーゼ値は0.1U/ミリリットル(同正常値は1.2~2.0U/ミリリットル),赤血球偽コリンエステラーゼ値は1.9U/ミリリットル(同正常値は4.1~8.5U/ミリリットル)であり,いずれも異常低値とされた。

 同医師らは,遺体の主要臓器全体において強いうっ血が見られたことから,死亡の直前に急激な呼吸循環障害が生じていたとした上,主要臓器のうっ血は上記のコリンエステラーゼ阻害による呼吸不全が生じたため低酸素状態又は窒息状態に陥って心機能・循環障害を引き起こしたことによるものとし,なお,血清中のトリグリセライド,リン脂質,遊離脂肪酸,総コレステロール及び遊離コレステロールが高値を示しているのは高脂血症又は食後の脂質値上昇によるもので直ちに死因となり得る異常とはいえず,他に急激な呼吸循環障害を生じた原因となる異常が認められないことから,死因はコリンエステラーゼ阻害性毒物中毒による急性呼吸循環不全である旨の鑑定をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B26の解剖時に採取された心臓血中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.80U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は0.43U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は 4.9U/ミリリットル)と比較して低い値とされた。 [A甲72,76,11939,11965,C48,C20]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B26は,茅場町駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は築地駅構内においてサリンガス を吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 5 B27について

 (1) B27は,普段自宅から神谷町駅が最寄り駅である会社に通うため,東武伊勢崎線を利用し北千住駅から日比谷線に入り神谷町駅で下車していた。同人は,平成7年3月20日朝も,会社に行くため北千住駅に午前7時46分前ころ到着するような時刻に自宅を出て,電車に乗り日比谷線北千住駅を経由して(北千住駅始発の午前7時46分発のA720S電車に乗り換えた可能性が高い。)築地駅に到着した後,救急車でE26病院まで搬送された。その時点においては,同人の血液中のコリンエステラーゼ活性の低下が観察され,著名な縮瞳が認められた。同人は,同病院でパムの投与などの治療を受け,血液中のコリンエステラーゼ活性値はほぼ正常値に回復したものの,同月22日午前7時10分ころ,同病院で死亡した。

 C50医師らの鑑定によれば,同日の解剖時に採取されたB27の脳組織(前頭葉皮質部分)のアセチルコリンエステラーゼ活性値は33.8mU/g(同医師らの計測による正常値は110.0±8.1mU/g)で,著しく低下していたとされ,また,赤血球由来のアセチルコリンエステラーゼに結合しているリン酸化合物としてサリンの第1次分解物質であるメチルホスホン酸モノイソプロピル及び第2次分解物質であるメチルホスホン酸が検出された。また,同医師により,脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解物の検出が試みられ,脳組織からメチルホスホン酸が検出された。なお,脳神経細胞と血管との間には障壁すなわち血液脳関門があり,治療薬であるパムはこれを通って脳神経細 胞に達することができないため,パムの投与により血液中のコリンエステラーゼ活性値が正常値に回復したにもかかわらず脳組織のコリンエステラーゼ活性値が著しく低下したままであることに矛盾はない(この点は,B34についても同様である。)。

 同医師らは,解剖所見では急死の所見が認められるのみであること,肝硬変の所見が認められたが中等度のものであるなど経過及び解剖所見より考えて死因となり得る程度のものではないことや,上記の検査成績や検出結果等を総合した上で,B27の死因はサリン中毒死である旨の鑑定をした。 [A甲72,77,12005,C50]

 (2) 上記の事実関係に加え,判示第1の1の認定事実をも併せ考えると,B27は,北千住駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は築地駅構内においてサリンガス を吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 6 B28について

 (1) B28は,普段,自宅から最寄り駅が人形町駅である会社に通勤するため,JR線を使って上野駅まで行き,同駅で日比谷線に乗り換え人形町駅で下車していた。同人は,平 成7年3月20日朝も,通勤途中,上野駅から日比谷線の電車(A720S電車に乗った可能性が高い。)に乗車したが,小伝馬町駅に到着した際,降車を余儀なくされ,同駅ホーム上に押し出された新聞包み①から約4.5m離れたホーム上で全身をけいれんさせて仰向けに倒れていたところ,午前8時35分ころ,乗降客に一時介抱してもらい,午前9時ころ,縮瞳,心肺停止の状態でE27病院に搬送され,蘇生術が施行され,心拍は回復したが,意識は戻らなかった。血液中のコリンエステラーゼ値は,同日に17単位/リットル (同病院での計測による正常値は186~490単位/リットル)であり,4日目に151単位とやや回復したが正常範囲には至らなかった。B28は,3日目の脳波検査では脳波平坦で,8日目の聴性脳幹反射検査でも誘発電位が得られず,脳死状態であり,以後,心臓機能が低下し,呼吸器感染,腎不全が続発し,同年4月1日に同病院で意識の回復しないまま死亡した。

 C52医師は,B28の解剖所見及び臨床経過症状等を総合し,①解剖所見では,異常所見として,脳が全体として硬度を失い,泥状に近い状態であったが,これは脳の機能 がほぼ失われた後,長期間人工呼吸器により延命されていた状況で脳死の所見を呈している,②同人の心臓は肥大しているが,心筋梗塞や冠状動脈狭窄などの直ちに死因となる所見はない,③左右肺には急性肺炎の像が認められたが,これは脳死状態から心停止に至る過程で随伴的に発現したものであるなどとした上で,B28は,有機リン系の有毒ガスを吸引して心臓及び呼吸機能が停止したため脳機能が障害され,心拍は回復したが,脳死状態となって13日間その状態が続き,諸臓器の機能が低下し,最後は肺炎が起こって呼吸が障害され,心臓停止に至ったものであり,死因は有機リン中毒である旨の鑑定判断をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B28の解剖時に採取された心臓血中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.87U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は1.30U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は4.9U/ミリリットル)と比較して低い値とされた。 [A甲17,79,11975,12019,C53,C52,C20]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B28は,上野駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は小伝馬町駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 (3) 弁護人は,B28は心停止,呼吸停止の状態で病院に収容されたものの,蘇生術と人工呼吸装置により呼吸循環機能を回復し維持することができたが,肺炎を発症し,これに抗生物質を投薬して重篤な副作用を生じさせ,その結果,敗血症,引き続いて腎不全を発症させ,ついには医師の手によって人工呼吸装置が外され,窒息死に至ったものであり,A甲17(C52医師作成の鑑定書)は明らかに誤りである旨主張する。

 しかしながら,同医師は,公判で,この点に関し,「すべての臓器に障害が来ているが,呼吸できる状態でないという意味では肺炎が最も直接的に心臓に障害を与えたものである。そして,その肺炎を起こしたのは脳死の状態にあったことによるものであり,その原因は有機リン中毒である。」旨供述しているところであり,関係証拠に照らしても,その供述内容や鑑定結果に格別不合理な点を見出すことはできないのであって,同医師の鑑定結果に明らかな誤りがある旨の弁護人の上記主張は採用することができないというべきである。

 7 B29について

 (1) B29は,普段,自宅から最寄り駅が茅場町駅である会社に通勤するため,北千住駅まで東武伊勢崎線を,同駅から茅場町駅までは日比谷線をそれぞれ利用していた。同人は,平成7年3月20日朝も,午前8時30分の勤務開始時刻に間に合うように自宅を出て,電車に乗った(北千住駅から日比谷線A720S電車に乗った可能性が高い。)が,小伝馬町駅,人形町駅又は茅場町駅のいずれかの駅からE28病院に搬送された。同人は病院搬入時には心肺停止状態にあり,その後蘇生術等が施され,呼吸循環機能は一応回復したが,脳死状態となり,意識の戻らないまま,同年4月16日,死亡した。なお,同人の血液中のコリンエステラーゼ活性値は,同年3月20日午前11時に6(同病院での計測による正常値はおよそ50~150),正午に10であったが,パム等の投与の効果が出て,午後3時30分には100になり,正常値に回復した。

 C54医師は,B29の解剖所見及び臨床経過症状等を総合し,①B29は脳死状態において全身感染症を引き起こして死亡した,②臨床的には,抗アセチルコリンエステラーゼ 物質による中毒作用の急性中毒期(コリン作動性発作期。コリン作動性の末梢細胞における中毒作用の発現期で,縮瞳,筋肉のけいれん,呼吸循環不全,意識障害等が発現する時期である。)に見られる発作の発生が捕捉されており,パム等の効果があったことから,有機リン中毒の存在があった可能性を十分に肯定できる,③病理組織学的には,大脳の脳死状態,脊髄及び末梢神経系の軸索変性を中心とした病巣,骨格筋や心筋の変性が認められ,特に,脊髄や末梢神経系に認められたOPIDN(有機リンによる遅発性神経症候群期。有機リンに被ばくして2ないし4週間後になって四肢の麻痺が生じる型で,病理組織学的には末梢神経が侵襲を受け,また,脊髄の神経経路にも重篤な侵襲が生じる。)の存在が特徴的である,④有機リン系化学物質の中で,ホスホン酸化合物であるサリンはOPIDNを引き起こし得ると推定されており,サリンに被ばくしたというのであれば,脊髄及び末梢神経線維に認められた病変はサリンによって生じたということは十分考えられるなどとして,上記脳死状態は重篤な有機リン中毒によって引き起こされた可能性が強く,死因は重篤な有機リン系の化学物質(リン酸又はホスホン酸系統の有機リン化合物)による中毒である可能性が高い旨の鑑定判断をした。  なお,科警研C20技官らの鑑定において,B29の解剖時に採取された心臓血中の血しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.87U/ミリリットルであり,赤血球に係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は2.06U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブチリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は 4.9U/ミリリットル)と比較して低い値とされた。 [A甲80,11941,11980,C54,C20]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B29は,北千住駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は小伝馬町駅,人形町駅又は茅場町駅のいずれかの駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 (3) これに対し,弁護人は,A甲11941(C54医師作成の鑑定書)及びC54医師の公判供述について,同医師は,軸索,髄鞘の変性について判断する能力に欠けており病 理組織学上の所見は信用できない,個々の所見について他の原因を十分検討することなく,有機リン,特にサリンに結び付けて結論を導こうとしており公正中立さに欠ける,OPIDNについての所見もこれまでの症例とは明らかに異なるなど,同医師の鑑定内容は信用できるものではない旨主張する。

 しかしながら,関係証拠に照らすと,弁護人は病理組織学上の所見につき,添付写真等をもとに種々論難しているが,鑑定書の記載内容で補充訂正すべき部分は公判供述により補充訂正されている上,C54医師の個別の所見を誤りとしなければならないような事情があるとは認められないし,同医師の個別の所見がサリンに被ばくしたとの予断に影響されて歪められていることを疑わせる事情もうかがわれない。また,OPIDNについてのC54医師の所見がこれまでの症例とは明らかに異なるとはいえないことも同医師の公判供述から明らかである。この点に関する弁護人の上記主張は採用することができない。

 8 B30について

 (1) B30は,普段埼玉県内の自宅から東京都港区y2にある職場まで通う経路の一部として日比谷線を利用していた。同人は,平成7年3月20日朝も,職場に向かうため,日比谷線電車(A720S電車の可能性が高い。)に乗車したが,築地駅に到着した後,同駅から救急車でE37病院に搬送された。同人は,同病院搬入時には,意識を喪失して心肺 停止状態にあり,直ちに蘇生術が開始された。また,同人には,同日,縮瞳や唾液・喀痰分泌の亢進が見られ,血清中のコリンエステラーゼの活性値が極端に低下し,22IU/リ ットル(同病院での計測による正常値は540~1300IU/リットル)であり,同年5月9日時点でも同活性値は373IU/リットルであった。同人は,1年2か月以上にわたり医療行為を施されたが,意識の戻らないまま,平成8年6月11日に死亡した。

 C50医師らは,治療を担当した医師のカルテ及び解剖所見を総合し,①平成7年3月20日の時点の状態からB30は有機リン系毒物の中毒で心肺停止と意識障害を来し,その 後,医師が何度かレスピレーターからの離脱を図ろうとしたができなかったものである,②このような遷延的に継続する意識障害に対しては,気管切開,中心静脈栄養,尿道内カ テーテル挿入等の生存に不可欠な医療行為を施す必要があり,実際にB30に対して最大限の医療行為が施されている,③このような医療行為が長期にわたって施されると,不 可避的に肺炎や尿路感染,静脈注射部位からの細菌感染,褥瘡からの細菌感染などを合併し敗血症で死亡することが多いが,B30の解剖所見として,心内膜炎,腎臓及び心筋内の微小膿瘍並びに脾炎の存在が認められ,これらは医療行為に不可避的に合併して死亡の数箇月以内に形成されたものであり,同人は敗血症により死亡したものである,④末梢神経において,座骨神経では有髄線維は比較的よく保たれているのに対し,腓腹神経では有髄線維,無髄線維とも変性脱落し,特に大径有髄線維がより強く脱落しているが,これらの所見は,逆行性死滅型の軸索末梢神経障害に一致し,有機リン剤による神経炎の所見としても矛盾しない,⑤1か月以上たってもコリンエステラーゼ活性値が回復していない状況では当該毒物はカーバメイト製剤ではあり得ないなどと判断した上 で,B30は,平成7年3月20日の時点で有機リン系毒物中毒の状態となって意識障害,呼吸停止,低酸素脳症を来し,それに対する1年以上にわたる生存に不可欠な医療行為が施された結果,その医療行為に不可避的な合併症として細菌感染から細菌性心内膜炎を起こし,最終的には敗血症で死亡したものである旨の鑑定判断をした。

[A甲72,90,12015,12032,D16,C50]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B30は,日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は築地駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒に起因する敗血症によって死亡したものと認められる。

 (3)ア これに対し,弁護人は,A甲12032(C50ら作成の鑑定書)について,①C50医師ら自身が鑑定をしていない疑いがある,②カルテ等の写しが添付されておらず鑑定の客観性が担保されていない,③B30はE29病院に転院直後の平成8年2月4日に心停止の状態が生じ,これが死亡につながる直接の契機となったものであるから,これにより因果関係が中断されている,④所見が軸索末梢神経障害に一致すると言えるのか疑問であるなどとして同鑑定書の内容は信用することができない旨主張する。

  イ しかしながら,関係証拠によれば,①鑑定の中には神経内科の知見に委ねた部分もあるが,鑑定内容の信用性を左右するものではなく,②カルテ等の写しは添付されていないが,その内容は弁護人のカルテに基づく反対尋問により公判供述に詳細に現れている上C50医師のカルテ等の検討結果に誤りがあるとは言えず,③B30の転院後の心停止が死亡に影響を与えた可能性は否定し切れないが,だからといって因果関係の中断があるとは言えず,④所見が軸索末梢神経障害に一致する旨の同医師の判断に疑問があるとは言えないのであって,C50医師らの上記の鑑定手法,判断過程及び判断内容に格別の不合理ないし誤った点があるとは認められない。この点に関する弁護人の上記主張は採用することができない。

 9 B31について

 (1) B31は,普段,z2で仕事をするために自宅の最寄り駅である恵比寿駅から日比谷 線を利用していた。同人は,平成7年3月20日朝も,仕事に行くため日比谷線恵比寿駅 で電車(B711T電車の可能性が高い。)に乗車したが,神谷町駅で降車を余儀なくさ れ,午前8時43分ころ,既に死亡した状態で,救急隊員らにより同駅の地上出入口に運 ばれ,同所から救急車でE25病院に搬送された。

 C48医師らの鑑定によれば,同月21日に採取されたB31の心臓内血液中の血清コリ ンエステラーゼ値は29IU/リットル(同医師らの計測による正常値は245~470IU/リッ トル),赤血球真コリンエステラーゼ値は0.1以下U/ミリリットル(同正常値は1.2~2.0 U/ミリリットル),赤血球偽コリンエステラーゼ値は1.3U/ミリリットル(同正常値は4.1~ 8.5U/ミリリットル)であり,いずれも異常低値とされた。

 同医師らは,遺体の主要臓器全体において強いうっ血が見られたことから,死亡の直 前に急激な呼吸循環障害が生じていたとした上,主要臓器のうっ血は上記のコリンエス テラーゼ阻害による呼吸不全が生じたため低酸素状態又は窒息状態に陥って心機能・ 循環障害を引き起こしたことによるものとし,冠動脈の一部に70%の内腔狭窄を伴う動脈 硬化症が見られるなど加齢に伴う全身動脈硬化症が認められるが,急激な呼吸循環障 害を起こす直接の原因としては冠動脈硬化症などより重症のコリンエステラーゼ障害の ほうが寄与度が大きいこと,アルブミンが低値であるがこれは主として加齢性変化による 肝機能低下によるものと推察され,直ちに死因となり得る所見ではないこと,他に急激な 呼吸循環障害を生じた原因となる異常が認められないことなどから,死因はコリンエステ ラーゼ阻害性毒物中毒による急性呼吸循環不全である旨の鑑定をした。

[A甲72,81,11943,C55,C48]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B31は,恵比 寿駅から日比谷線B711T電車に乗車し,同電車内又は神谷町駅構内においてサリン ガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 10 B32について

 (1) B32は,普段,自宅の最寄り駅から総武線快速を利用し東京駅で丸ノ内線に乗り換 えて新宿三丁目駅まで行き,同駅で都営新宿線に乗り換えるなどして職場のあるa3まで 通っていた。同人は,平成7年3月20日朝も,職場に向かうため東京駅で丸ノ内線A777 電車に乗車したが,新宿三丁目駅で降車することなく,午前8時25分ころ中野坂上駅に 到着後,救助され,同駅から救急車でE22病院に搬送されたが,同月21日午前6時35 分ころ,同病院で死亡した。

 C48医師らの鑑定によれば,同日に採取されたB32の心臓内血液中の血清コリンエス テラーゼ値は142IU/リットル(同医師らの計測による正常値は245~470IU/リット ル),赤血球真コリンエステラーゼ値は0.3U/ミリリットル(同正常値は1.2~2.0U/ミリリ ットル),赤血球偽コリンエステラーゼ値は3.2U/ミリリットル(同正常値は4.1~8.5U /ミリリットル)であり,いずれも異常低値とされた。

 同医師らは,遺体の主要臓器において全体に強いうっ血が見られたことから,死亡の 直前に急激な呼吸循環障害が生じていたとした上,主要臓器のうっ血は上記のコリンエステラーゼ阻害による呼吸不全が生じたため低酸素状態又は窒息状態に陥って心機 能・循環障害を引き起こしたことによるものとし,なお,総蛋白等の低値は過去の胃切除 による消化管からの栄養摂取障害によるものと考えられること,癌胎児抗原の高値につ いては,癌などの悪性腫瘍が増殖している形跡は認められず死因となり得る異常が生じ ていたとは考えられないこと,他に急激な呼吸循環障害を生じた原因となる異常が認めら れないことなどから,死因はコリンエステラーゼ阻害性毒物中毒による急性呼吸循環不 全である旨の鑑定をした。

[A甲72,82,83,11945,B42,C48]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B32は,東京 駅から丸ノ内線A777電車に乗車し,同電車内又は中野坂上駅構内においてサリンガス を吸入し,サリン中毒により死亡したものと認められる。

 11 B33について

 (1) B33は,千代田線霞ヶ関駅の駅務助役を務めていたが,平成7年3月20日午前8 時12分ころ同駅に到着した千代田線A725K電車の第1車両内にあった新聞包み④を ホーム上に出し同車両内に流れ出ていたサリン混合液を新聞紙でふき,これらを片付け るなどして意識を失い,E30病院に搬送された。その時点において,同人には著名な縮 瞳が認められた。同人は,午前9時23分ころ,同病院で死亡した。

 C50医師らの鑑定によれば,同月21日の解剖時に採取されたB33の脳組織(前頭葉 皮質部分)のアセチルコリンエステラーゼ活性値は20.3mU/g(同医師らの計測による正 常値は110.0±8.1mU/g)で,著しく低下していたとされ,また,赤血球由来のアセチ ルコリンエステラーゼに結合しているリン酸化合物としてサリンの第1次分解物質であるメ チルホスホン酸モノイソプロピル及び第2次分解物質であるメチルホスホン酸が検出され た。また,同医師により,脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解 物の検出が試みられ,脳組織からメチルホスホン酸が検出された。

 同医師らは,解剖所見では急死の所見が認められるのみであり,冠動脈硬化症及び心 筋内における軽度の陳旧性心筋梗塞像が認められるがこれらは死因となり得る程度のも のではなく,他に内因死を考えなければならない所見も認められないことや,上記の検査 成績や検出結果等を総合した上で,B33の死因はサリン中毒死である旨の鑑定をした。

 なお,科警研C20技官らの鑑定において,B33の解剖時に採取された心臓血中の血 しょうに係るブチリルコリンエステラーゼの活性値は0.94U/ミリリットルであり,赤血球に 係るアセチルコリンエステラーゼの活性値は0.11U/ミリリットルであり,前記の正常値(ブ チリルコリンエステラーゼの活性値は1.84~4.45U/ミリリットルで平均値は3.0U/ミリリ ットル,アセチルコリンエステラーゼの活性値は2.21~7.56U/ミリリットルで平均値は 4.9U/ミリリットル)と比較して低い値とされた。

[A甲85,11995,12007,C42,B44,D17,C20,C50]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B33は,千代 田線霞ヶ関駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認めら れる。

 12 B34について

 (1) B34は,千代田線霞ヶ関駅の乗務助役を務めていたが,平成7年3月20日午前8 時12分ころ同駅に到着した千代田線A725K電車の第1車両内に流れ出ていたサリン 溶液をふき取った新聞紙や新聞包み④等を片付けるなどして意識を失い,救急車でE2 6病院に搬送された。その時点において,同人の血液中のコリンエステラーゼ活性の低 下と著名な縮瞳が認められた。同人は,同病院でパムの投与などの治療を受け,血液中 のコリンエステラーゼ活性値は正常値に回復したものの,同月21日午前4時46分ころ, 同病院で死亡した。

 C50医師らの鑑定によれば,同日の解剖時に採取されたB34の脳組織(前頭葉皮質部 分)のアセチルコリンエステラーゼ活性値は17.2mU/g(C50医師らの計測による正常値 は110.0±8.1mU/g)で,著しく低下していたとされ,また,赤血球由来のアセチルコリ ンエステラーゼに結合しているリン酸化合物としてサリンの第1次分解物質であるメチル ホスホン酸モノイソプロピル及び第2次分解物質であるメチルホスホン酸が検出された。 また,同医師により,脳組織のアセチルコリンエステラーゼに結合しているサリン分解物 の検出が試みられ,脳組織からメチルホスホン酸が検出された。

 同医師らは,解剖所見では急死の所見が認められるのみであり,極めて軽度の陳旧性 心筋梗塞巣及び脂肪肝が認められるがこれらはいずれも死因となり得る程度のものでは なく,他に内因死を考えなければならない所見も認められないことや,上記の検査成績 や検出結果等を総合した上で,B34の死因はサリン中毒死である旨の鑑定をした。

[A甲72,86,12009,C42,B44,D18,C50]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B34は,千代 田線霞ヶ関駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒により死亡したものと認めら れる。

 13 B35について

 (1) B35は,普段自宅から神谷町駅が最寄り駅である会社に通勤するため,JR総武線 等で秋葉原駅まで行き,同駅で日比谷線に乗り換え神谷町駅で下車していた。同人は, 平成7年3月20日朝も,会社に出勤途中,秋葉原駅で日比谷線の電車(A720S電車に 乗った可能性が高い。)に乗車したが,築地駅で倒れていたところを救護され,午前9時 5分ころ,救急車でE38病院に搬送された。同病院搬入時においては,同人は昏睡状態 で,全身を強直させるようなけいれんをし,瞳孔は1.5㎜と縮瞳し,分泌物が非常に多い 状態であった。午後には同人の血液中のコリンエステラーゼ値が0.06(同病院での計 測による正常値は0.6~1.1)と異常に低い値であることが確認されたが,同人に硫酸 アトロピンやパムが投与された結果,その数値は正常値に近いところまで回復した。

 同人の治療をしたC56医師は,臨床症状等から,B35は,有機リン系の毒物による中 毒症である旨の診断をした。

[A甲94,12023,C56]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B35は,秋葉 原駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内又は築地駅構内においてサリンガス を吸入し,サリン中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 14 B36について

 (1) 関係証拠(A甲12034,12059,12060,12075,C30,D19等)によれば,次の 事実が認められる。

  ア B36は,平成7年3月20日当時,東京都足立区b3に居住し,同所から川崎市c3に ある会社まで通勤していた。そのような通勤の場合,東武伊勢崎線の自宅最寄り駅から 電車に乗り,北千住駅から日比谷線を利用して中目黒駅まで行き,同駅で東急東横線 に乗り換えて勤務先会社の最寄り駅である武蔵小杉駅まで行くという経路ないし方法を 選択するのが最も合理的であり,同人は,同日もその経路ないし方法により会社に出勤 しようとした可能性が高い。

  イ D19は,乗車していた日比谷線電車が午前8時12分ころ小伝馬町駅に到着して運 転中止となり,大勢の客が座り込んだり倒れ込んだりしていた同駅ホームで15分くらい待 っていたが,運転再開の見込みがない旨の構内放送を聞いて地上に出ると,駅ホームと 同様に座り込んだり倒れ込んだりしている人が多数いたが,自分も目が痛く,また,暗く 感じ,のども痛み,せき込む状態で体の具合が悪かったので,近くの喫茶店で休むことと し,同駅から歩いて5分くらいのところにある喫茶店に入った。

  ウ B36は,同日朝通勤途中,体の具合が悪くなったため,D19よりも前に,同喫茶店 に入り休んでいたが,同店内で,腕がしびれて動かない,目が見えないなどと訴え,救急 車を呼んでくれるよう助けを求めた。

 D19は,これを聞いて,周囲の状況から救急車を呼んでもこないだろうからタクシーでB 36を病院に連れて行こうと考え,B36の席に行き,B36が自力で立ち上がれない状態だ ったので肩を貸して店を出,タクシーを拾ってE39病院までB36を乗せていき,同病院 で車いすを借りてB36を乗せ診察室まで連れていった。なお,D19は,タクシーに乗り込 む際に,他の者からも具合が悪いので病院に連れていってくれと頼まれその者も乗せ た。

  エ D19は,同病院で,B36から,同人の勤務先の電話番号等の記載された名刺を渡 され,会社に連絡してほしい旨頼まれたことから,同人の勤務先に電話を掛け,B36が小 伝馬町駅の近くで具合が悪くなったのでE39病院に連れていった旨を連絡した。

 その後,D19は,同病院の医師に,B36と同じ症状が出ているので診察を受けるよう言 われて診察を受け,1日入院した。 

  オ B36は,同病院で診察を受け,点状の縮瞳が認められたため,精査加療を目的と して午後1時ころ緊急入院した。B36は,入院時,縮瞳(径1㎜)しており,労作時の息切 れ,軽度の頭痛,上肢のしびれや暗黒感などがあった。また,同人の血液中のコリンエス テラーゼ値は47U/リットル(同病院での計測による正常値は181~440U/リットル)と 低値であったが,パムの投与などにより,翌日には151U/リットル,同年4月5日には19 7U/リットルまで回復した。

 B36の病状については,医師により,サリン中毒と診断された。

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B36は,小伝 馬町駅構内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒症の傷害を負ったものと認められ る。

 15 B37について

 (1) B37は,平成7年3月20日,通勤途中,北千住駅から日比谷線A720S電車の第3 車両に乗車した。同人は,同車両内では,新聞包み①から流れ出た液体の近くに立って いたが,秋葉原駅に着いたときにその刺激臭を感じて息苦しくなり,人形町駅で下車して からは周囲が薄暗く見えるようになった。

 同人は,会社に出勤した後,E39病院で診察を受け,ピンポイントの著名な縮瞳が見ら れ,血液中のコリンエステラーゼ値が108U/リットル(同病院での計測による正常値は1 81~440U/リットル)と低下していたことから,サリン中毒と診断され,緊急入院した。同 人は,入院後,硫酸アトロピンとパムの投与を受け,同月23日には,コリンエステラーゼ 値が236U/リットルとなり,瞳孔も両眼共径2㎜と散瞳傾向が見られたため,退院した。

[A甲12036,12060,C30,B37]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B37は,北千 住駅から日比谷線A720S電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン 中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 16 B38について

 (1) B38は,平成7年3月20日,仕事の現場に向かう途中,中目黒駅から日比谷線B7 11T電車の第1車両に乗車した。同人は,同車両内では,新聞包み②の付近に立って おり,そのにおいをかいだりしたが,神谷町の駅のホームに出たころ,目の前が暗くなる などし,さらにその後頭がふらつくなどしたので,仕事の現場に到着した後,E40病院に 行き診察を受け,ピンポイントの著名な縮瞳が見られたので入院した。血清中のコリンエ ステラーゼ値は880U/L(同病院での計測による正常値は1800~4000U/L)と低下 していたが,硫酸アトロピンの投与を受けるなどして,退院した同月22日には同値は116 0U/Lであった。同人は,医師からはサリン中毒である旨の診断を受けた。

[A甲12038,12061,C30,B38]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B38は,中目 黒駅から日比谷線B711T電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン 中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 17 B39について

 (1) B39は,平成7年3月20日,通勤途中,中目黒駅から日比谷線B711T電車の第1 車両に乗車した。同人は,同車両内では,新聞包み②を左斜め前方に見る,同包みの 向かい側の座席に座り,そのにおいを感じるなどしたが,神谷町の駅のホームに出たこ ろ,視野が狭窄したようになり,頭痛がするなどし,さらに全身が震えてくるようになり,救 急車でE41病院に搬送され,入院した。同人は,病院搬送時には,ピンポイントの著名 な縮瞳,呼吸困難,徐脈が見られ,また,コリンエステラーゼ値は120と同病院での計測 による正常値に比し著しく低下していた。同人は,硫酸アトロピンやパムの投与を受け,コ リンエステラーゼ値は同月21日には401,同月24日には429と著しく改善し,同月28日 退院した。なお,同人は,医師により,急性揮発性ガス中毒と診断された。

[A甲72,12040,12062,C30,B39]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B39は,中目 黒駅から日比谷線B711T電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン 中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 18 B40について

 (1) B40は,平成7年3月20日,最寄り駅が丸ノ内線新高円寺駅である会議の開かれる 場所に行くため午前7時20分ころJR金町駅に到着し同駅から千代田線に入る電車に乗 り,同線霞ヶ関駅で丸ノ内線電車(A777電車に乗った可能性が高い。)に乗り換えた が,途中の中野坂上駅で降車を余儀なくされ,意識がなく,呼吸や脈もないなどの状態 で救護され,午前9時15分ころ,同駅から救急車で心肺蘇生法を施されながら昏睡状態 でE35病院に搬送された。同人は,病院搬入時において,縮瞳(径1㎜)し,呼吸は弱 く,脈拍もかろうじてふれる程度であった。また,血清中のコリンエステラーゼ値は0.14 (同病院での計測による正常値は0.56~1.31),赤血球内のコリンエステラーゼ値は 0.1未満(同病院での正常値は1.2~2.0)と異常に低い値であり,パムや硫酸アトロピ ンが投与され,循環動態は安定してきたが,意識状態の回復はなかった。血清中のコリ ンエステラーゼ値は同月24日には1.12に,赤血球内のコリンエステラーゼ値はその後 同年5月23日になって1.2になりそれぞれ回復したものの,意識障害を伴った脳障害等 が残っている。B40の病状については,C57医師により,サリン中毒及び意識障害を伴 った脳障害と診断された。

[A甲72,2998,2999,12021,12024,C57]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B40は,霞ヶ関駅から丸ノ内線A777電車に乗車し,同電車内又は中野坂上駅構内においてサリン ガスを吸入し,サリン中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 19 B41について

 (1) B41は,平成7年3月20日,最寄り駅が新宿御苑駅である会社に出勤する途中,東 京駅から丸ノ内線A777電車の第3車両に乗車したが,急に目の前が暗くなって新聞が 読めなくなり,頭痛,めまい,吐き気,鼻水が出てきたため新宿御苑駅で降りて何とか会 社にたどり着いた後,E22病院の救命科により同病院に搬送され,診察を受けたが,そ の際,ピンポイントの著名な縮瞳,歩行障害,運動障害が見られ,血液中のコリンエステ ラーゼ値は0.56(同病院での計測による正常値は0.6~1.2)と低く,硫酸アトロピンや パムの投与を受けるなどし,一時意識レベルが低下したが,縮瞳が改善するなどし,同 月23日にはコリンエステラーゼ値は0.81に回復した。同人の病状については,医師に より,サリン中毒と診断された。

[A甲12042,12063,C30,B41]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B41は,東京 駅から丸ノ内線A777電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 20 B42について

 (1) B42は,平成7年3月20日,同人の妻及びB32と共に,東京駅から丸ノ内線A777 電車の第3車両に乗車し,妻と一緒に銀座駅で降車したが,周囲が異常に暗く見え,くし ゃみや鼻水が出てきた。B42は,会社に到着したが,その後,目の痛みや頭痛も重なり, 同日,眼科を受診した際,医師から縮瞳していると言われた。同人は,同月22日の時点 でも,目の痛み,くしゃみ,鼻水,頭痛があり,体に力が入らない状態であったため,E42 医院で診察を受け,医師に,サリン中毒と診断された。

[A甲12044,12046,12064,12065,B42]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B42は,東京 駅から丸ノ内線A777電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 21 B43について

 (1) B43は,平成7年3月20日,千代田線A725K電車の第1車両に乗車したが,国会 議事堂前駅に到着した際,座席に倒れ込んでいるところを救助され,パトカーに乗せら れ,B44と共にE43病院に搬送された。

 B43は,同病院搬送時には,縮瞳(径1㎜)が見られ,血液中のコリンエステラーゼ値も 163(同病院での計測による正常値は300~700)と低値であったが,硫酸アトロピンや パムの投与を受けるなどし,午後3時には367と正常値に回復した。

 同人の病状は,医師により,急性薬物中毒(サリン)と診断された。

[A甲12048,12066,12076,B44]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B43は,千代 田線A725K電車に乗車し,国会議事堂前駅に至る間の同電車内においてサリンガスを 吸入し,サリン中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 22 B44について

 (1) B44は,平成7年3月20日,大手町駅から千代田線A725K電車の第1車両に乗車 したが,せきが出て止まらず視界がセピア色になり,流れ出たサリン混合液でぬれた床を 踏んで座席のところに行き座り込んだ。同人は国会議事堂前駅に到着した後,ホームに 出たが,せきや鼻水が激しくなっていたのでホームに座り込むなどした後,駅員に地上ま で連れていってもらい,パトカーに乗り,B43と共にE43病院に搬送された。

 B44は,同病院搬送時には,縮瞳(径1㎜)が見られ,血液中のコリンエステラーゼ値も 190(同病院での計測による正常値は300~700)と低値であったが,硫酸アトロピンや パムの投与を受けるなどし,同月22日には308と正常値に回復した。

 同人の病状は,医師により,急性薬物中毒(サリン)と診断された。

[A甲12050,12067,B44]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B44は,大手 町駅から千代田線A725K電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン 中毒症の傷害を負ったものと認められる。

 23 B45について

 (1) B45は,平成7年3月20日,池袋駅から丸ノ内線のB701電車の折り返し電車であ るA801電車の第2車両に乗車したが,本郷三丁目駅で駅員が新聞包み⑤を取り出す などした際に,その異臭をかぎ,その後目の前が暗くなり,頭痛や吐き気がしてきたが, 職場まで行った。

 B45は,その後,E44病院で診察を受け,その際,縮瞳(径1.5㎜)が見られ,血しょう 中のコリンエステラーゼ値も159(同病院での計測による正常値は230~470)と低値で あったが,硫酸アトロピンやパムの投与を受けるなどし,翌日には196まで回復した。

 同人の病状は,医師により,急性薬物中毒(サリン)と診断された。

[A甲12052,12068,C30,B45]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B45は,池袋 駅から丸ノ内線A801電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 24 B46について

 (1) B46は,平成7年3月20日,池袋駅から丸ノ内線のB701電車の折り返し電車であ るA801電車の第2車両に乗車したが,目がしょぼしょぼしたり,鼻水が出たりするように なり,本郷三丁目駅で駅員が新聞包み⑤を取り出すなどしたり,御茶ノ水駅で駅員が新 聞包み⑤のあった辺りの液体でぬれた床をモップでふいたりするのを見ていたところ,次 第にその症状が悪化し,さらに目の周りが暗く感じるようになるなどしたが,何とか職場ま でたどり着いた。

 B46は,その後,E45病院で受診したが,その際,ピンホールの著名な縮瞳や低酸素 血症が認められ,硫酸アトロピンの投与を受けるなどした。また,同人は,入院後翌日くら いまで,目の裏辺りから頭全般に強い痛みを感じた。同人の病状は,医師により,サリン 中毒と診断された。

[A甲12054,12070,C30,B46]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B46は,池袋 駅から丸ノ内線A801電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 25 B47について

 (1) B47は,平成7年3月20日,池袋駅から丸ノ内線のB701電車の折り返し電車であ るA801電車の第2車両に乗車し,新聞包み⑤の近くに立っていたが,異臭を感じた後, 新聞の字が見づらくなり,その後目の前が暗くなった。同人は,会社に着き,同僚の見送 りなどした後,会社の診療所で診察を受けたところ,縮瞳が認められ,酸素吸入を受け, その後E25病院に搬送され,硫酸アトロピンの投与等の治療を受けた。血清中のコリン エステラーゼ値は,同月20日に84(同病院での計測による正常値は220~470),同月 21日に99など低値を示した。

 B47の病状は,医師により,サリン中毒と診断された。

[A甲12056,12071,C30,B47]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B47は,池袋 駅から丸ノ内線A801電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 26 B48について

 (1) B48は,平成7年3月20日,東京駅から丸ノ内線のB701電車の第5車両に乗車 し,新聞包み⑤の近くの座席に座っていたが,鼻水が止まらずせき込むようになり,新大 塚駅で下車した後は視界が暗くなり,頭が痛くなった。

 同人は,会社に着いた後,E46病院に行って診察を受け,その際,縮瞳(径1㎜くらい) が見られ,血液中のコリンエステラーゼ値も35ないし41(同病院での計測による正常値 は100~240)と低値であったが,硫酸アトロピンやパムの投与を受けるなどし,徐々に 回復していった。

 同人の病状は,C58医師により,急性サリン中毒と診断された。

[A甲12058,12072,C30,B48,C58]

 (2) 上記の事実関係に加え,前記第1の1の認定事実をも併せ考えると,B48は,東京 駅から丸ノ内線B701電車に乗車し,同電車内においてサリンガスを吸入し,サリン中毒 症の傷害を負ったものと認められる。

 27 以上のとおり,上記の死亡被害者12人及び負傷被害者14人が実際にサリンに被 ばくし,その結果サリン中毒(B30についてはサリン中毒に起因する敗血症)により死傷し たことは明らかであるから,弁護人の主張2は採用することができない。

 なお,弁護人は,地下鉄サリン事件の実行行為が殺人の実行行為であるといえるため には,大気中のサリンの量が人を殺すに足りる一定濃度以上存在し,あるいは,人が一 定時間以上その場に留まっていることが必要であるが,その点の証明がなく,地下鉄サリ ン事件の実行行為が殺人の実行行為であることには疑問があるという趣旨の主張をして いる。

 しかしながら,前記認定のとおり,サリン中毒により死亡した被害者12人はサリンが流出し気化した電車内又は地下鉄駅構内においてサリンガスを吸入してサリン中毒により又 はサリン中毒に起因する敗血症により死亡し,サリン中毒症の傷害を負った被害者14人 も同様にサリンが流出し気化した電車内又は地下鉄駅構内においてサリンガスを吸入し て縮瞳,コリンエステラーゼ値の低下をはじめ重いサリン中毒症の傷害を負ったものであ り,本件サリン散布の各実行行為が,死亡被害者12人に対する関係はもとより負傷被害 者14人に対する関係においても,人の死という結果発生の危険性のある行為として殺人 の実行行為性を有することは明らかである。この点に関する弁護人の上記主張は採用す ることができない。

第3 弁護人の主張3(被告人の指示ないし共謀の有無)に対する判断

 1 関係証拠によれば,判示犯行に至る経緯(ただし,2(1)のうち被告人が強制捜査を 避けるためA28らに指示してアタッシュケース事件を起こしたこと,3(1)のうち被告人が食 事会で教団施設に対する強制捜査を話題としたこと,3(2),3(3)のうち被告人の自作自 演事件の実行指示が地下鉄サリン事件の実行計画を前提としていること,3(4),6(2),8, 9,13(2),13(3)のうち被告人が地下鉄サリン事件で実行されたサリン散布方法を採用し, A6のA14に対する指示がその意を受けたものであること,14(2)のうち被告人が実行役に サリン散布の練習をさせることが必要と考え,A6にその旨指示したこと,14(3)(4)を除く。) 及び判示罪となるべき事実(ただし,被告人の共謀を除く。)のほか,次の事実を認めるこ とができる。

 (1) A6は,地下鉄サリン事件の犯行後,A23,A25及びA26の3人がe1村の教団施 設に帰ってきたので,平成7年3月20日午後5時ころ,その3名と共に第6サティアン1階 の被告人の部屋に報告に行くと,被告人は,「科学技術省の者にやらせると結果が出る な。」「ポアは成功した。シヴァ大神,すべての真理勝者方も喜んでいる。」と言った。

 A25が,「姿を見られてしまいました。」と言うと,被告人は,「変装していたんだろう。大 丈夫だよ。見た人はいってるよ。」と答えた。A25は,「見た人はいってるよ。」という言葉 について,A25のことを見た人がサリンにより死んでいるので心配することはないという意 味だと思った。続いて,A23が「女子中学生に気付かれそうになって車両を換えました。 サリンの袋はむき出しのまま置きました。」と報告すると,被告人は,「わしは,みんなのア ストラル(潜在意識)をずっと見ていたんだよ。X2(A23)のアストラルが暗かったのでどう したんだろうと思ったが,そういうことだったのか。」と言った。また,A23は,被告人から「X 2が一番修行が進んだな。」と言われ,被告人がA23のことを悪いカルマを積むのを恐れ ていてマハーヤーナの救済にこだわっているようなことを以前言っていたので,そのよう な者がヴァジラヤーナの実践をしたのでほめてくれたのだと思った。

 そして,被告人は,3名に対し,「偉大なるグル,シヴァ大神,すべての真理勝者方にポ アしてもらってよかったね。」というマントラを1万回唱えるように言った。

 (2) A7,A53及びA20は,地下鉄サリン事件の犯行後,e1村の教団施設に帰り,第6 サティアン1階の被告人の部屋に報告に行き,各自ホーリーネームを名乗ると,被告人 は,「今回はご苦労だったな。」と答えた。A7が,「ニュースで,死者が出ています。」と言 うと,被告人は,「そうか。」と言って,大きく深くうなずいた。被告人は,「帰りがずいぶん 遅かったじゃないか。」と言うので,A20が「今回使った衣類などを焼却していて遅くなり ました。A28も焼却に加わっていたんですけれども,八王子で別れて,A28は東京に戻 りました。」と報告した。

 被告人は,「これはポアだからな,分かるな。」と言い,続いて「これから君たちは瞑想し なければいけない。『グルとシヴァ大神とすべての真理勝者方の祝福によって,ポアされ てよかったね。』のマントラを1万回唱えなさい。これによって君たちの功徳になるから。」と 言った。

 (3) A33は,同日午後9時ころ,e1村の教団施設に戻り,同日午後10時ころないし午 後11時ころ,第6サティアン1階の被告人の部屋に行き,被告人に対し,名前を名乗って 「今戻りました。やってきました。」と報告すると,被告人は,「そうか。」と言ってうなずき, 続いて,A6の指示に従って治療棟の地下にフッ化ナトリウム等を隠すよう指示し,さら に,「シヴァ大神とすべての真理勝者方にポアされてよかったね。」とのマントラを1000回 唱えるように言った。

 2(1) ところで,判示犯行に至る経緯に係る事実のうち,①犯行に至る経緯2(1)のうち被 告人の指示によりA28が地下鉄霞ヶ関駅構内にボツリヌストキシン様の液体を噴霧したこ と,②犯行に至る経緯3(1)のうち被告人が食事会の際教団施設に対する強制捜査につい て話していた内容,③犯行に至る経緯3(2)のリムジン内における地下鉄サリン事件に関す る被告人らの会話の内容,④犯行に至る経緯9のA6及びA28が運転手役の人選や実 行役との組合せについて被告人に指示を仰ぎにいった際の被告人とA6及びA28の話 の内容,⑤犯行に至る経緯14(3)(4)のA28が平成7年3月20日午前2時ころe1村の教団施設に戻った際の被告人とA6及びA28の話の内容や,被告人がサリンを修法した際の 状況について,A28が,公判において,判示認定に沿う供述(以下「本件A28証言」とい う。)をしているほか,⑥犯行に至る経緯3(2)のうちリムジン内での被告人とA19の会話の 内容,⑦犯行に至る経緯6(2)の同月18日午後11時ころ被告人がA19に話した内容,⑧ 犯行に至る経緯8の同月19日正午前ころ被告人やA6がA19に話した内容,⑨犯行に 至る経緯13(2)の同日午後10時30分ころの被告人とA19との会話の内容について,A19 が,公判において,判示認定に沿う供述(以下「本件A19証言」という。)をしているが, 本件A28証言及び本件A19証言の信用性は優にこれを認めることができる。その理由 は次のとおりである。

 (2) これまでみてきたとおり,被告人は,国家権力を倒しオウム国家を建設して自らその 王となり日本を支配するという野望を抱き,多数の自動小銃の製造や首都を壊滅するた めに散布するサリンを大量に生成するサリンプラントの早期完成を企てるなど教団の武装 化を推進してきたものであるが,このような被告人が最も恐れるのは,教団の武装化が完 成する前に,教団施設に対する強制捜査が行われることであり,平成7年に入り,e1村の 土壌からサリンの残留物が検出された旨の新聞報道がされ,さらに,被告人がA28らに 実行させたB22事件がその事件直後から教団の犯行と疑われ,同事件に使用された車 両から事件関係者のものとみられる指紋も検出された旨の新聞報道がされるに至って は,現実味を増した教団施設に対する大規模な強制捜査を阻止することが教団を存続 発展させ,被告人の野望を果たす上で最重要かつ緊急の課題であったことは容易に推 認されるのであって,阪神大震災が発生したため間近と思われた教団施設に対する強制 捜査が立ち消えになった旨認識し,かつ,東京にサリン70tを散布することまでも考えこ れまでも松本サリン事件等の実行を指示してきた被告人が,阪神大震災に匹敵する大惨 事を人為的に引き起こすことをもくろむことなく,教団に対する世間の同情を引くためだ けの自作自演事件だけをA28らに指示するということは考え難い。また,教団施設でサリ ンの生成に取り掛かった後に強制捜査があった場合,あるいは,地下鉄サリン事件が失 敗しそれが教団による犯行であることが発覚した場合には教団は多大な打撃を受けるに 至るのであり,そのような教団の存続にかかわる重大な事柄について,被告人の弟子で あるA6やA28らが,グルである被告人に無断で事を進めることもまた考えられない。

 その意味で,本件A28証言及び本件A19証言は,このような当時の被告人を取り巻く 教団における内部事情をよく説明し得ている上,前記1の認定に係る犯行に至る経緯に 係る事実ともよく整合し,のみならず,相互に符合し,互いにその信用性を補強し合って いる。

 (3) また,本件A28証言及び本件A19証言は,前記1(1)ないし(3)で認定した,地下鉄 サリン事件の犯行後,実行役5名及び運転手役2名が被告人に同犯行について報告し た際の,被告人と実行役及び運転手役との会話の内容ともよく整合している。

 弁護人は,この点について,弟子たちが勝手に行ったとはいえ,生じた被害に驚いて いる弟子たちもいたことから,教祖として慰めの言葉を掛けたにすぎず,そのこと自体が 被告人の共謀及び殺意を認定する根拠とはならない旨主張する。

 しかしながら,「科学技術省の者にやらせると結果が出るな。」「これはポアだからな,分 かるな。」などをはじめ,前記認定に係る,被告人が実行役らにした話の内容は,到底弟 子たちが被告人に無断で地下鉄サリン事件の犯行に及んだ際のものとはいえないという べきであり,弁護人の上記主張は採用することができない。

 (4)ア A28は,平成7年5月から同年6月にかけての捜査段階では,被告人とはグルと 弟子の関係にあり9年間くらい被告人を信仰していたことから,被告人が出てくる場面に ついては一切供述せず,それ以外の差し障りのないことについては供述していたが,同 年10月ころ,被告人のB18事件に関する供述調書で弟子が勝手にやった趣旨の供述 がされている旨の新聞報道に接し,被告人への信仰が揺らぎ始め,検察官に対し,リム ジン車内での話の概要だけ供述し,その後,気持ちの整理をした上で,被告人の面前で 本件A28証言をし,しかも,被告人の不規則発言にもその供述内容は動揺しなかったも のであり,このような事情等に照らすと,A28が,地下鉄サリン事件について被告人の指 示がないのに被告人から種々の指示が出された旨のうその供述をあえてしたものとは認 め難い。

  イ ところで,関係証拠に照らすと,A28は,地下鉄サリン事件の犯行において東京に おける現場指揮者というA6に次ぐ重要な立場にあったにもかかわらず,公判では,地下 鉄サリン事件の実行については,A6が総指揮を執り,A28は自動車を手配したり,実行 役と運転手役の組合せをQに伝えたりするなどの手伝いをしたにすぎず,むしろ,自分は 自作自演事件を主に担当していたという趣旨の供述をするなど,自己の刑事責任を軽減 させるために既に死亡しているA6や逃亡中であったA53に一部責任を転嫁し,自己の役割をわい小化する不自然不合理な供述をしている。しかしながら,自己の刑責を軽減 させるために死亡した者や逃亡中の者に一部責任を転嫁する供述がみられることから直 ちに,長い間グルとして信仰してきた被告人の面前で供述した,地下鉄サリン事件に被 告人が関与している旨の本件A28証言の信用性が左右されるものではなく,その信用性 が高いことはこれまで説示してきた理由から明らかというべきである。

  ウ なお,弁護人は,A28の公判供述の信用性が認められない理由として,地下鉄サリ ン事件で使用されたサリンの生成原料となったジフロについて,A28は,公判で,平成7 年1月初めころ,A14から隠しておいてくれと言われてVXを預かり,その際A14からサリ ンの材料を一部どこかに隠したことを聞いたが,そのとき,ジフロは預かっていない旨供 述するところ,その供述は,A6が発見したジフロをA6の提案でA28に預けたというA14 のジフロに関する公判供述に照らし,信用することができないことを挙げる。

 しかしながら,A14は,捜査段階で検察官に対し,A28の上記公判供述に符合し,判 示犯行に至る経緯1(2)のA14がジフロを隠匿保管した事実に沿う供述をしており,その 検察官調書における信用性が高いことはB6サリン事件等における当裁判所の判断の中 で説示したとおりであること,A14は,公判で,地下鉄サリン事件について,捜査段階の 供述と異なり,A6から地下鉄内でサリンを使うという話は聞いていない,サリンを生成す るのはすぐに使うためではなく保存しておくためであると思ったなどと自己の刑事責任を 軽減させるための不自然不合理な供述をしていること,A19が,公判で,「A14から今回 のサリン生成の原料となったジフロの由来について,A14がX1棟にあったジフロを1本 持ち出して取っておいた旨を聞いた。その話の内容からして,ジフロを隠したことにはA6 がかかわっていない。」旨供述していること,A28がジフロを保管していたならば,A6が ジフロをA28から預かりA14に渡してA19のもとに届けさせるのは迂遠であり,むしろ,A 6がA14をしてA19のもとにジフロを届けさせたのは,A14がジフロを隠匿保管していた 証左であるといえることなどに照らすと,A14のジフロに関する公判供述は信用すること はできず,A28のジフロに関する公判供述の信用性は高いというべきであるから,弁護 人の上記主張は採用することができない。

 (5) 次に,関係証拠に照らすと,A19も,A28と同様に,公判で,自己の刑事責任を軽 減させるために,サリンの生成に関しその責任の一部をA14やA24に転嫁することにな るうその供述をし,あるいは,サリン生成について被告人の指示した内容の理解等につ いて不自然不合理な供述をしている。

 しかしながら,本件A19証言の信用性が高いことはこれまで説示してきたとおりである 上,A19は,公判で,A14がジフロを隠匿保管していたことについて被告人はある時期 までは知らなかったはずであるなどと被告人に有利な事情についても供述しており,グル であった被告人の面前で,被告人がサリン生成にかかわる指示をしていないにもかかわ らず,そのような指示があったといううその供述をしたことをうかがわせる事情は見出すこと ができない。したがって,A19が上記のとおりサリン生成に関し自己の刑責を軽減させる ために一部うその供述をしているからといって,直ちに,サリン生成に関する被告人の指 示等に関して供述した本件A19証言の信用性が左右されるわけではないというべきであ る。

 3(1) 上記のとおり信用性の高い本件A28証言及び本件A19証言その他関係証拠を 総合すると,判示犯行に至る経緯3(2)ないし(4)のとおり,被告人は,e1村の教団施設に 向かうリムジン車内において,A6,A19及びA28との間で,地下鉄電車内にサリンを散 布する無差別殺りくについてその共謀を遂げ,その後,A6又はA19を介して,地下鉄電 車内に散布するサリンの生成に関する被告人の指示がA14及びA24に伝えられ,また, A6又はA28を介して地下鉄電車内にサリンを散布する旨の被告人の指示が実行役5名 及び運転手役5名に伝えられ,これら12名との間でも地下鉄電車内にサリンを散布する 無差別殺りくについて共謀が成立したことは明らかである。

 (2) なお,弁護人は,リムジン車内では地下鉄電車内にサリンを散布することはまだ決 定していなかった旨のA28の公判供述を根拠として,被告人が同席していたリムジン車 内においては,地下鉄サリン事件の実行については何ら決定されていないから,同車内 において地下鉄サリン事件の共謀は成立していない旨主張する。

 しかしながら,リムジン車内においては,教団施設に対する強制捜査を阻止するという 犯行の目的,地下鉄電車内にサリンを散布するという犯行の方法,犯行の指揮はA6及 びA28が,サリンの生成はA19が,サリン散布の実行はA53,A25,A23,A33及びA 26がそれぞれ務めるという犯行の役割分担など犯行の重要部分が決定されているほ か,このリムジン謀議の後地下鉄サリン事件の実行に至るまでの被告人のA6,A28及び A19に対する種々の指示内容や,実際にリムジン車内で決められたとおりに犯行の準備 がされ実行されたことなどに照らすと,リムジン車内において,被告人とA6,A28及びA19の間で,地下鉄電車内にサリンを散布する無差別殺りくについて共謀が成立していたことは明らかである。

 したがって,A28の上記供述は信用することができず,弁護人の上記主張は採用する ことができない。

 1 以上のとおりであるから,被告人には地下鉄サリン事件に係る殺人の共謀が存しな い旨の弁護人の主張3は採用することができない。

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