オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter twelve
ⅩⅡ B22事件(逮捕監禁致死,死体損壊)
(平成7年9月4日付け追起訴状記載公訴事実)
[第1(逮捕監禁致死)の犯行に至る経緯]
1 B22(大正15年10月22日生)は,平成7年2月当時,東京都江東区内の自宅に居住し,東京都品川区w1号所在の目黒公証役場(以下「公証役場」という。)に事務長として勤めていた。
B22の実妹であるD11は,昭和62年,公証役場が1階にある建物及びその敷地(以下「D11方土地建物」という。)等を夫から相続により取得し,同建物の2階に居住していた。
2 D11は,平成5年10月ころ,ヨーガ教室で知り合った教団信者であるヨーガ指導者に誘われ,健康のためにヨーガ修行をすることとし,教団の在家信徒となり,教団東京総本部道場に通うようになった。D11は,東信徒庁長官のA16,教団信者のA48やA49らから教団への布施を勧められ,平成7年1月20日ころまでに教団に合計約6000万円の布施をし,そのうち4000万円は同月20日ころ直接被告人に現金で手渡し,その際,被告人から,早く出家するよう言われた。
A16やA49は,被告人の意を受け,D11を出家させてD11方土地建物を含む資産すべてを布施として教団に拠出させるため,D11に対し執ように出家を勧め,薬物を使用したイニシエーションを施すなどして,出家することを同年2月中旬ころ承諾させ,その後は,D11を出家前の信者として東京総本部道場に寝泊まりさせ,信徒対応の上手なA22にD11と面談させるなどして全財産を教団に拠出するよう働き掛けた。D11は,B22やその家族らに譲るつもりであったD11方土地建物を含めすべての財産を教団に取り上げられてしまうことを危ぐするなどしていたところ,同月24日,友人を入信させるためにx1に行くと言い置いて東京総本部道場を出,教団に連絡することなくその日は知人方に,同月25日及び翌26日は実兄のB22方に,同月27日は別の知人方に泊まり,その間B22や知人らと話合いをするなどして悩んだ末,後記のとおり,同月28日午後5時ころ,東京総本部道場に電話を掛け,A49に対し,教団に出家するのをやめる旨伝えた。
3 A49は,同月26日,D11が2日間も東京総本部道場に戻らず連絡もないことから,A22やA16にそのことを報告した。A22及びA16は,D11から従前D11方土地建物を実兄ら親族に譲渡する約束があると聞いていたことから,D11の親族がD11方土地建物を布施されるのを阻止するためにD11をらちした可能性があると考え,諜報省大臣のA28にD11を捜す手伝いを頼んでA28の配下のA48やA45をよこしてもらい,同日から翌27日にかけての深夜,D11方の様子を見にいくなどしたがD11の所在を突き止めることができず,被告人に電話でその旨を連絡した。
A22,A16及びA49らは,同月27日昼ころ,公証役場付近まで車で行き,A49が一人で公証役場に様子を探りにいった。A49は,公証役場から戻ってきて,A22やA16に「おかしいですよ。『D11さんはいますか。』と聞くと,『D11の兄だけど。』と名乗る人が出てきて『ここにはD11はいません。随分前から帰っていない。何の用ですか。』と言って,とても不審がるような感じで話をしてきました。その人の態度は不自然でした。」などと報告した。A22及びA16は,それを聞いて,B22がD11と接触し,あるいは,その居場所を知っている可能性が高いと考え,B22の動きを見張っていたところ,B22がボディガードらしい男性と共に公証役場から出てきたのを見てこれを尾行したが,JR目黒駅で見失った。
A22及びA16は,B22を見張っている際にA28に応援を求めていたが,B22の尾行に失敗した後,A28と合流し,同人に,D11が行方不明になった経緯やB22を尾行した状況等について説明をした上,B22の様子からしてB22がD11を監禁している可能性が高いなどと訴え,さらに,B22からD11の居場所を聞き出すためにどうしたらいいかなど今後の対応について協議をした。A28は,「もう少し様子をみた方がいい。この時点では決められない。」などと言い,A22らにD11方を案内された後,A22をA28の車で東京総本部道場に送ったが,遅くともそれまでに,A22は,A28との間で,B22をらちしてD11の居場所を聞き出すしかないのではないかという話をした。
4(1) 被告人は,同月27日から翌28日にかけての深夜,第2サティアン3階の第2瞑想室において,A6,A7,A28,A22,A16や各支部の支部長ら数十名を集めて信徒対応責任者会議を開いた。A16及びA22は,その会議が終了した直後,同所において,被告人に対し,D11の居場所は分からなかった旨伝え,B22を尾行した状況やその際のB22の不審な行動,すなわち,A49が公証役場に行った際D11の兄と名乗るB22が出てきてD11はいないと言うなど不自然な態度であったこと,その後B22は銀行や喫茶店に立ち寄ったが喫茶店では何も注文をせず電話をしただけで店から出るなど不自然な行動をとっていたこと,B22は公証役場から帰る際女性とボディガードらしい暴力団員風の男性を連れていたこと,B22がD11を監禁している可能性があることなどについて説明した後,D11の居場所を聞き出すためB22をらちして聞き出す方法もあると思う旨 報告した。被告人は,D11が出家して多額の布施をすることになっていたのに同人がいなくなりそれが難しくなったことから怒り,A16に対し,「おまえがたるんでいるんだからこんなことになるんじゃないか。東信徒庁の活動も落ちているじゃないか。」と言ってしっ責し,さらに「そんなに悪業を積んでいるんだったらポアするしかないんじゃないか。」などと言ってA16らの言うB22のらちだけでは済まされず,同人を殺害しなければならないほどの重大な問題であることを指摘した。被告人は,その際,A6から耳打ちされるなどして,これまで違法行為に関与したことのない信者も周りにいたことに気付き,「ポア」という言葉を撤回する趣旨で「じゃ,おまえたちの言うようにらちするしかないんじゃないか。」と言い,さらに「らち」という言葉も適当でないと直ちに思い直して「ほかしておこうか。」などとぼやくように言って部屋を出ていき,関係者だけでD11の件について話を続けるため,隣の尊師の部屋に移動し,A6,A28,A22及びA16らも被告人に続いて尊師の部屋に入った。
(2) 被告人は,B22をらちし,麻酔薬を投与して半覚せい状態にし潜在意識に働き掛けて会話をする「ナルコ」をB22に実施してD11の居場所を聞き出そうと考え,尊師の部屋において,A28及びA22に対し,B22をらちしてナルコを実施しD11の居場所を聞き出すよう命じた上,更に具体的に,武道の得意なA22及びA50が中心となってB22をらちすること,B22のボディガードにはA6の開発したレーザー銃を使って目をくらませることとし,その役は以前レーザー銃を使ったことのあるA51にさせること,そのほか諜報省の信者にも手伝わせること,医師資格のあるA14がB22に麻酔薬を注射して眠らせe1村まで連れてくることなどを指示し,A28及びA22はこれを承諾した。
5 その後,A22は,電話でA51を呼び,A6やA28を交えて上記らち計画について話をし,レーザー銃のバッテリーの充電に時間がかかることから,A51はそれを終えて東京で合流することとした。また,A22は,A50がA8の部下で自分で運転のできるA52の運転手をしていることを知り,被告人にその旨報告したところ,被告人はA8を呼び,A52に運転手を付けたことをしかり,A50を早く戻してA22に渡すよう指示した。
A28は,第6サティアン2階で被告人の指示に基づき修行に入っていたA14に対し,上記らち計画を説明し,東京でらちを実行する際相手を麻酔で眠らせてくれるよう頼んだ。A14はこれを承諾して,全身麻酔薬である筋肉注射用のケタラールと静脈注射用のチオペンタールナトリウムのほか,注射器,注射針,点滴セット等を工具箱とキャリーバッグに入れて用意し,東京に向かった。
6 A28,A22,A14及びA51のほか,上記らち計画について説明を受けてこれを承諾した諜報省所属のA45,A47及びA48は,同月28日午前11時ころ,ワゴン車(デリカ)及び普通乗用自動車(ギャラン)の2台のレンタカーに分乗して公証役場付近に到着し,しばらくしてA50も合流し,上記らち計画について説明を受けてこれを承諾した。
その後,A28は,A51にレーザー銃を操作させ,通行人にレーザーを照射してレーザー銃の効果を実験したが,目くらましの効果がないことが判明したため,らち計画を練り直すこととし,A28及びA22が中心となり実行メンバー全員で話合いをした結果,B22が公証役場から出てJR目黒駅に向かって歩いているところを襲うこととし,B22が二人で出てきた場合は状況によっては中止し,3人で出てきた場合は中止すること,A48がワゴン車を運転して左に入る路地に差し掛かったときに左折してB22の進路を塞ぎ,A22,A50及びA47が後ろからB22を抱き込むようにしてサイドドアからワゴン車内に押し込み,A45がワゴン車内からB22を引っ張り込み,A14がB22に麻酔薬を注射して眠らせること,その後,A48がそのままワゴン車を,A51はギャランを運転して現場から逃走し,A28は現場指揮をとることなどのらちの方法と各自の役割分担が決められ,実行メンバー8名は,B22が公証役場から出てくるのを待った。
7 A22は,同日午後4時30分ころ,B22が公証役場から一人で出てきたのを発見し,A50及びA47と共に,JR目黒駅に歩いて向かうB22に近づいた。
[罪となるべき事実第1(逮捕監禁致死)]
被告人は,教団への出家を案じ身を隠した信徒D11の所在を聞き出すため,同人の実兄B22(当時68歳)をらちすることを企て,A28,A14及びA22らと共謀の上,平成7年2月28日午後4時30分ころ,東京都品川区w2付近路上において,同所を歩行中のB22に対し,A22がその背後からB22の身体に抱きついて転倒させ,大声で助けを求める同人の身体をA50及びA47と共に抱えるなどして,同所付近に停車させていた普通乗用自動車(ワゴン車デリカ)の後部座席にB22を押し込むと同時に,同車内からA45がB22の身体を引っ張り込むなどしてB22を逮捕した上,直ちにA48が同車を発進させて,B22を自らの支配下に置き,同車内において,A14がB22に全身麻酔薬を投与して意識喪失状態に陥らせ,その後A16から電話で,D11から出家を取りやめるとの連絡が入った旨知らされたものの,D11の居場所が分からないままであったし,被告人から新たな指示がない限り自分たちの判断で勝手にB22を解放することもできなかったことから,A28らにおいて,B22をe1村の教団施設に連れていきD11の居場所を聞き出すしかないと考えた上このまま計画を続行することとし,さらに,同日午後8時ころ,東京都世田谷区y1所在の都立芦花公園付近路上において,意識喪失状態のままのB22の身体をA22らが別の普通乗用自動車(マークⅡ)に移し替えた上,A47が同車を運転しA14及びA45がこれに乗車してB22をe1村の教団施設まで運ぶこととし,同車内において,A14がB22に全身麻酔薬を投与して意識喪失状態を継続させながら,同日午後10時ころ,山梨県西八代郡e1村i5所在の第2サティアンに同人を連れ込み,そのころから同年3月1日午前11時ころまでの間,同サティアン1階の瞑想室(以下「1階瞑想室」という。)において,A14及びA33がB22に全身麻酔薬を投与して意識喪失状態を継続させるなどしてB22を同所から脱出不能な状態に置き,もって,同人を不法に逮捕監禁し,同日午前11時ころ,同所において,大量投与した全身麻酔薬の副作用である呼吸抑制,循環抑制等による心不全により同人を死亡させたものである。
[第2(死体損壊)の犯行に至る経緯]
1 A14は,上記監禁中である同年2月28日午後10時ころ,第2サティアンに着いた後,第6サティアン3階に行き,A33に対し,「尊師が『X12に手伝ってもらえ。』と言われたので,一緒にやってください。」と言ってナルコへの協力を依頼した。A33は,これを承諾して第2サティアンに行き,A14及びA45からB22が同所に連れてこられた事情や状況,それまでの全身麻酔薬の投与状況等について説明を受けた後,医療器具等を用意し,同サティアン1階瞑想室で,B22を診察した上,点滴を始めるなどしてその呼吸,循環等の管理に当たった。
2 A33は,同年3月1日午前3時ころ,第2サティアンに現れたA28から,「D11から出家しない旨の電話がA16にあったが,それでもD11の居場所を聞き出してくれ。」と言われたことから,A14と共に,1階瞑想室で,B22に対しナルコを実施したが,D11の居場所は聞き出せなかった。その間,A28は,A22と共に,B22の所持品を調べるなどし,D11の居場所の手掛かりをつかむことができなかったが,B22の手帳の住所録欄に記載されている知人らしき人物がD11をかくまっているのではないかと考え,自らも加わり,再度B22に対しナルコを実施したが,結局,D11の居場所を聞き出すことができなかった。そこで,A28及びA22は,今後のB22の処置について被告人の指示を仰ぐために,被告 人のいる東京に向かったが,e1村に戻る被告人と行き違いになり,会うことができなかった。
3 A6は,同日午前4時ころ,第2サティアンにきて,A14らから,B22にナルコを実施した結果D11の居場所を聞き出すことができなかったことや,頭部に電気刺激を与えて記憶を消すニューナルコでは,教団にらちされたというB22の記憶を消すことができないことなどを聞いた上,「そうか,帰せないかな。塩化カリウムでも打つか。」などとB22を殺害する趣旨のことをほのめかし,A14に,らちを実行した際に着用していた衣服を早く焼却するよう指示し,さらに被告人は昼近くまで帰ってこないなどと言って帰っていった。
4 その後,A6は,被告人に対し,A14らから聞いた話の内容を報告し,今後のB22の処置について指示を仰いだところ,被告人から,口封じのためにB22を殺害して従前と同様に証拠隠滅のためにその死体をマイクロ波焼却装置で焼却し,B22の殺害に当たってはA50にB22の首を絞めさせるという旨の指示を受けた。
5 A14は,同日午前6時30分ころから,らちを実行した際に着用していた衣服を焼却するなどした後,同日午前9時30分ころ,それまでB22を意識喪失状態で管理していたA33からその引き継ぎを受け,以後,第2サティアンの1階瞑想室で,B22の意識喪失状態を保持したままその管理を続けた。
その後,A6は,同日午前10時ころ,第2サティアンを訪れ,A14に対し,「やっぱりポア。A50に首を絞めさせろ。A50にポアさせることによって徳を積ませる。A50を今後ヴァジラヤーナで使うから。」などと言い,自分の言ったとおりB22を殺害することになったという趣旨の発言をした上,塩化カリウムの注射ではなく,首を絞めることによってB22を殺害し,しかも,A50を今後教団の違法行為に関与させるために,実行役をA50にさせる旨の指示をした。そこで,A14は,まだ都内にいたA28に電話をし,A50を連れてくるように頼んだ。
A14は,その後も,B22の様子をみていたが,部屋の外にいたA45に上記の被告人からA6を介して指示された内容を伝えるために1階瞑想室から出てB22から目を離した同日午前11時ころ,前記のとおり,B22は死亡した。
A28及びA22は,A14からの上記依頼を受けて,そのころ,都内のファミリーレストランの駐車場でA50を乗せてe1村の教団施設に向かい,同日昼過ぎころ,第2サティアンに到着し,その際,A14から,B22が死亡したことや上記の被告人からA6を介して指示された内容について聞いた。
A14らは,被告人の指示に従い,A50にB22の死亡を知らせないまま,既に死亡していたB22の首を絞めさせた。その後,A14やA22らは,B22の死体を焼却するためにこれをマイクロ波焼却装置のある第2サティアン地下室に移動した。
6 その後,後記のとおり,B22の死体がマイクロ波焼却装置のドラム缶の中に入れられ,その焼却が開始された後,A28,A14及びA22は,二,三日間を要する死体焼却の監視にだれが立ち会うかについて被告人に指示を仰ぐため,同日夕方ころ,第6サティアン1階の被告人の部屋に行った。すると,被告人は,それまでにA16から「B22さんが車で連れ去られたことで,大崎警察署からあなたがたは知らないかという電話が入りました。」などと報告を受け,レーザー銃をうまく使わなかったために通行人に現場を目撃され警察に通報されてしまったと思い込んでいたことから,A28ら3人に対し,「なぜ,無理してやったんだ。警察が動いてるじゃないか。レーザーを使わなかったんだろう。」としっ責し,これに対し,A28が,「レーザーは実験しましたが,使えませんでした。」などと弁明した。その後,A14が,被告人に,B22の死体の焼却にはだれが立ち会えばいいか尋ねると,被告人は,「おまえたちでやるしかないんじゃないか。」と言って,B22のらちを実行した者で責任を持って遺体を処理するよう指示した。
7 そこで,A28やA14らは,A22,A14,A50及びA47の4人が交替でB22の死体の焼却作業の監視に当たることにした。
[罪となるべき事実第2(死体損壊)]
被告人は,A28,A14及びA22らと共謀の上,同年3月1日ころから同月4日ころまでの間,第2サティアン地下室において,B22の死体をマイクロ波加熱装置とドラム缶等を組み合わせた焼却装置(マイクロ波焼却装置)の中に入れ,これにマイクロ波を照射して加熱焼却し,もって,同人の死体を損壊したものである。
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