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オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter three

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Ⅲ B2事件(殺人)

(平成7年10月13日付け追起訴状記載公訴事実)

[犯行に至る経緯]

 1 B2(昭和31年4月8日生)は,B3(昭和35年2月24日生)と,大学時代に共に身体障害者のためのボランティア活動をしていた際に知り合い,昭和59年3月に婚姻し,同年,司法試験第2次試験に合格した後,司法修習を経て,昭和62年4月,横浜弁護士会に弁護士登録をし,E5法律事務所で弁護士業務に携わるようになった。そして,昭和63年5月から横浜市d1所在のF棟a号室に居住するようになり,同年8月25日には長男B4が出生した。

 2 被告人は,昭和63年ころから,教団を宗教法人とするため,A7やA8らを介して,設立手続について東京都の担当部署と相談し,2回にわたり教団施設について現場調査 を受け,平成元年3月1日,宗教法人設立のために教団の宗教法人規則認証申請書を東京都知事あてに提出した。東京都の担当部署は,子供が教団に入信して家に帰らない,あるいは,子供に会うために教団施設を訪れても会わせてもらえないなどの苦情が多数寄せられていたことから,その受理を保留した。

 これに対し,被告人は,自ら多数の信者を引き連れて東京都の担当部署を訪れて速やかに申請を受理して規則を認証するよう抗議し,あるいは,教団所属の弁護士であるA1 0らを介して同様の上申をするなどし,同年5月25日,前記の認証申請が受理された。さらに,被告人は,同年6月1日には,東京都知事を被告として同認証申請についての不作為の違法確認訴訟を提起した。

 3 B2弁護士は,同年5月ころから,教団に出家した信者の親たちの依頼を受け,その子供の帰宅や子供との面会等について教団と交渉するようになり,また,東京都に対し, 出家信者を巡るトラブルの実情や教団の法令違反の有無等について情報を提供したい旨伝えていた。

 4 被告人は,教団の勢力を伸ばすためには,宗教活動をするだけではなく,政治力を付ける必要があると考え,次期衆議院議員総選挙に教団幹部らと共に立候補することとし,同年8月16日,自らを代表者とし政治団体を真理党として政治資金規正法6条1項の規定による政治団体設立届を提出するなどし,選挙の準備を始めた。教団は,同月25日には,東京都知事から教団の宗教法人規則認証書の交付を受け,同月下旬ころ,宗教法人登記手続をし,法人格を取得した。

 5 E6編集部は,同年9月下旬ころ,子供の家出人捜索願を警察署に提出している者をはじめとする教団信者の家族数名から,座談会形式で,教団では,(1) 出家と称して未成年者を含め子供を親から隔離している,(2) 多額の布施を要求し,払えない者には借金をさせその返済のために事実上過剰な労働を強いている,(3) 信者に教祖である被告人の生き血を飲ませるなどの非現実的な修行をさせているなどの話を取材し,さらに,同家族らが相談を持ち掛けているB2弁護士,教団施設周辺の住民及び教団側等から取材した上,同年10月から,「オウム真理教の狂気」と題して教団に関する特集記事の連載を始めた。その第1回は,教団信者の家族からの前記の取材内容を中心としたもので,同月2日都内発売に係るE6(同月15日号)に掲載された。

 その記事の内容を知った被告人は,同月2日午後,A8ら信者数名を連れてE6編集部に押し掛け,編集長D2に教団側の話も聞いてほしいなどと抗議したが,水掛け論となり 話にならないと言ってその場を立ち去った。  その後も,E6は,同年11月26日号(都内同月13日発売)まで合わせて7週にわたり,血のイニシエーション,布施,被告人の経歴等に言及して教団を批判する記事を連載した。同年10月23日都内発売に係る同誌(同年11月5日号)では,「教団に入信し家出した子供の両親から相談を受けた弁護士が,『E7大医学部で,被告人の血を研究してみ たところ,血液中のDNAに秘密があり,これを体内に取り入れると,クンダリニー(霊的エネルギー)が上昇し,潜在意識が現れるということが明らかになり,計り知れない霊的向上をもたらす。』旨の教団関係の出版物の記載について,E7大医学部に照会していたので,E6において直接同学部に取材したところ,同学部ではそのような研究が行われたこ とはない旨の回答がされたことが判明し,また,同学部助教授が,科学的にもそのような効果はない旨明言した。」という内容の記事が掲載された。

 これらの記事に対し,被告人は,A4,A8,A11ら幹部に指示し,同年10月中旬から同月下旬にかけて,E6編集部に対し,連載を中止し謝罪文を掲載するよう抗議させ,同編集部のあるE8ビルやD2編集長の自宅付近で抗議のビラをまかせたり,街宣車を使って抗議をさせたりし,あるいは,A6と相談するなどしてE8ビルを爆破するための下見をさせるなどした。また,同月25日には,E8等を被告として名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提起した。

 6 他方,被告人は,同月9日及び同月16日,E9放送のラジオ番組に電話で生出演し,E6の特集記事に対し反論した。同月16日の同番組では,B2弁護士も,電話で生出 演し,未成年者の出家,高額な布施,血のイニシエーションなどについて批判的な意見を述べた。

 そして,同月21日には,教団に入信して家に帰ってこない子供の親たちが,B2弁護士の支援の下で,オウム真理教被害者の会(以下「被害者の会」ともいう。)を結成し,B5がその会長に就いた。

 7 E10テレビは,同月26日,教団の長時間水中に潜る水中クンバカを取材し,これを翌日,被害者の会関係者のインタビューと共にテレビ放映することを予定していた。被告人は,その情報を入手したA8から報告を受け,A8に対し,その番組の放映についてE10テレビと交渉するよう指示した。A8は,同月26日夜,A11及びA10と共にE10テレビに赴き,その放映予定のインタビューが,B2弁護士,D2編集長及びB5会長による教団を批判する内容のものであることを知り,その旨被告人に報告し,その指示を受けてその番組の放映を中止するようE10テレビ担当者に働き掛け,これを中止させた。

 8 被告人は,同月28日から同月30日までの間にサティアンビルで開かれた大師会議において,出席していたA6,A11,A4,A8,A7,A10,A12,A13らに対し,あらかじめ入手していた被害者の会の活動状況に関する情報を基に,被害者の会を組織したのはB2弁護士であり,E6の記事に関する情報が被害者の会から流されていることや,B2弁護士は,被害者の会から弁護士を介して警察に事情を話し教団を捜査させるという考えを持っていることなどを話し,A11やA10らに対し,B2弁護士に抗議をするよう指示した。

 A11及びA10は,同月31日夜,A8と共に,B2弁護士の勤務するE5法律事務所を訪れ,DNAのイニシエーションについて説明し理解を求めたが,B2弁護士にそれでは科学的な証明とはいえないなどと言われて議論は平行線となった。B2弁護士は,A10に対し,被害者の会の目的は,会員である親たちのもとに信者の子供たちが戻ることができるようにすることである旨説明し,未成年の出家信者は必ず家に帰し,他の出家信者には少なくとも家に連絡をさせることなどを申し入れるとともに,会員から教団に対し法的措置をとることも考えている旨伝えた。これに対し,A10は,被害者は子供たちのほうであり,子供たちのほうから親たちに対し,監禁罪等を理由に告訴し,あるいは,訴訟を提起する考えがある旨答えた。

 A11,A10及びA8は,B2弁護士の顔写真入りプロフィールが記載されたパンフレットをE5法律事務所から持ち帰り,同日深夜,被告人に対し,同日におけるB2弁護士との話合いの状況について報告するなどした。

 9 被害者の会は,同年11月1日ころ,教団に公開質問状を送付し,同書面により,被告人に対し,水中で自らの意思で仮死状態になる水中サマディや蓮華座を組んだまま空中に浮かぶ空中浮揚を公開して実演するよう要求した。

 被告人は,同年11月1日か2日にサティアンビルで開かれ,A6,A11,A4,A8,A7,A10,A12,A13らが出席した大師会議において,その公開質問状を読み上げさせると,その場は,被害者の会に対する反発の声や反感の情で包まれた。

 10 被告人は,B2弁護士が,教団に批判的な特集記事を掲載しているE6編集部に教団や被告人に関する情報を提供し,公開質問状を送ってきた被害者の会の実質的リーダーとして同会を指導している人物であると考え,また,同弁護士自らもラジオ番組等で教団や被告人に批判的な意見を述べ,教団側との話合いの中でも法的措置をとる旨明言していたことから,B2弁護士の活動をこのまま放っておくならば,勢力を伸張させようとしている教団や最終解脱者を自称する被告人自身が打撃を受け,教団からの出馬を決めている次回の総選挙に向けての選挙活動に支障を来し,総選挙の結果にも悪影響を及ぼすものと考え,B2弁護士を殺害することを決意し,同月2日深夜ないし翌3日未明ころ,A6,A8,A4,A7及びA14の5名をサティアンビル4階の瞑想室に呼び寄せた。

 被告人は,A6らに対し,「もう今の世の中は汚れきっておる。もうヴァジラヤーナを取り入れていくしかないんだから,お前たちも覚悟しろよ。」などと教団による救済にとって障害となるものに対しては殺人をはじめ非合法的な手段により対処していく趣旨のことを言い,「今ポアをしなければいけない問題となる人物はだれと思う。」と述べて,教団にとって最も障害となる殺害しなければならない人物はだれかという意味の問い掛けをした後,B2弁護士を名指しし,同弁護士について,被害者の会の実質的リーダーであり,将来教団にとって非常な障害になるから,同弁護士をポアしなければならない旨述べて,同弁護士の殺害を指示した。

 続いて,被告人は,あらかじめA6らから,痕跡を残さずに人を短時間で死に至らせる薬物であると説明を受けていた塩化カリウムの薬効等について説明するなどした後,駅から自宅に帰る途中のB2弁護士を襲い,塩化カリウムを注射して殺害するよう指示し,A6ら5名はこれを承諾した。また,被告人は,A4に対し,B2弁護士の住所を弁護士の在 家信者から聞き出すよう指示した。さらに,被告人は,A7らの意見を聞いた上で,被告人の警護を担当する警備班に所属し教団の武道大会で優勝したA15が歩いている者を一撃で倒せる自信がある場合には,A15に,B2弁護士を一撃で気絶させる役割を担当させることに決めた。A8らは,被告人の指示を受け,瞑想室を出て,A15に対し,同人から 歩いている男を一撃で倒せる自信があることを聞いた上で,教団に敵対する外部の者を被告人の指示により殺害することになったことを説明し,被告人の指名でA15がその者を気絶させることに決まったのでその役割を果たすように告げ,A15の承諾を得た後,被告人にその旨を報告した。このようにして,被告人は,A6,A8,A4,A7,A14及びA15ら6名(以下「実行犯6名」ともいう。)との間で,B2弁護士を殺害する旨の共謀を遂げた。

 11(1) A4は,同月3日午前8時ころ,九州在住の弁護士である在家信者に電話をしてB2弁護士の住所が横浜市d1所在のF棟a号室であることを聞き出した。

 (2) 被告人は,前記瞑想室で,A4からその旨の報告を受け,「そうか,分かったか。ほかの手段を使わなくて済んだな。よしこれで決まりだ。変装していくしかないな。」と言っ た。同席していたA6が「スーツを買うんだったら幾らくらいかかるかな。」と言うと,被告人は,「五,六十万もあれば足りるだろう。」と言って,A3に金員を用意するよう指示した。

 12 実行犯6名は,同日午前9時ころ,いすゞビッグホーンとニッサンブルーバードの2台の車に分乗して富士山総本部を出発し,途中塩化カリウム飽和溶液の入った注射器を用意したり,2台の自動車に無線機を取り付けたり,変装用具を身に着けたり,手袋やスーツ等を購入して着用したりするなどして準備した上,同日夕方ころ,B2弁護士方付近に到着した。

 13 実行犯6名は,B2弁護士方付近を下見した後,二手に分かれ,A8及びA7はブルーバードに乗車して同弁護士方の最寄りの駅であるJR洋光台駅前でB2弁護士が現れるのを待ち,他の実行犯4名はビッグホーンに乗り,B2弁護士方付近の路上でA8らからの連絡を待った。B2弁護士がなかなか現れないことから,A8及びA15がB2弁護士方 に電話をしたが,だれも電話に出ることはなかった。その旨の連絡を受けたA4は,同日午後10時半過ぎころ,B2弁護士方の様子を探り,戻ってきて,A6に対し,B2弁護士方居室内に明かりがついていること及びその玄関ドアの錠が掛けられていないことを伝えるとともに,B2弁護士が帰宅しているかもしれない旨話し,さらに,A6と共に,無線を通じて,そのことを駅前で待機しているA8に連絡した。

 14(1) A8は,同日午後11時ころ,被告人に対し,電話で,A4らから聞いたB2弁護士方の状況を説明し,どうすればいいか指示を仰いだ。

 被告人は「じゃ,入ればいいじゃないか。家族も一緒にやるしかないだろう。」と言い,さらに,「人数的にもそんなに多くはいないだろうし,大きな大人はそんなにいないだろうから,おまえたちの今の人数でいけるだろう。今でなくても,遅いほうがいいだろう。」などと言って,夜遅くまで待ってもB2弁護士が現れない場合には,帰宅途中のB2弁護士を襲う従前の計画を変更し,B2弁護士方に侵入し家族以外の者がいなければB2弁護士をその家族もろとも殺害するよう命じた。

 A8は,その電話を終え,被告人からB2弁護士方に入れと言われた旨をA7に伝えた後,ブルーバードでA7と共にビッグホーンのところに戻り,車外でA6及びA4に対し,被告人からの指示であることを明示してその指示内容を言われたとおり説明した。

 (2) そして,A8,A6,A4及びA7の4名は,相談の上,最終電車までB2弁護士を待ちそれでも同弁護士が現れない場合には,午前3時ころにB2弁護士方に入り同弁護士及びその家族を殺害することを決めた。A14及びA15もそのことを伝えられ,これを承諾した。

 (3) このようにして,被告人は,実行犯6名との間で,夜遅くまで待ってもB2弁護士が現れない場合には,従前の計画を変更し,B2弁護士方に侵入し家族以外の者がいなけれ ばB2弁護士をその家族もろとも殺害する旨の共謀を遂げた。

 15 実行犯6名は,再び二手に分かれ,A8及びA7はブルーバードでJR洋光台駅前に行き,A6ら他の実行犯4名はそのままB2弁護士方付近路上に駐車したビッグホーンに乗車し,それぞれ待機した。

 実行犯6名は,最終電車まで待ったが,B2弁護士が現れなかったため,B2弁護士方に侵入して家族以外の者がいなければB2弁護士を家族もろとも殺害するようにとの被告人の指示を実行することとし,A14において塩化カリウム飽和溶液の入った注射器3本を携帯し,A4,A7,A15及びA14において手袋を着用するなどして,実行犯6名は,B2弁護士方に向かい,同月4日午前3時過ぎころ,B2弁護士方に侵入した。

 A8は,B2弁護士方寝室でB2弁護士及びその家族が就寝していること及びB2弁護士方には他に人がいないことを確認した後,他の実行犯5名に合図し,実行犯6名は,B2 弁護士,B3及びB4の3人が就寝している寝室に入った。

[罪となるべき事実]

 被告人は,A6,A4,A8,A7,A14及びA15と共謀の上,B2(当時33歳),B3(当時29歳)及びB4(当時1歳2か月)を殺害しようと企て,平成元年11月4日午前3時過ぎころ,横浜市d1所在のF棟a号室のB2方において,

第1 B2の身体に馬乗りになり,その顔面を数回手けんで殴打し,同人の背後からその頸部に腕を巻き付けて頸部を絞め付けるなどし,その場の状況から塩化カリウム飽和溶液の静脈注射をするには至らなかったものの,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した

第2 B3の身体を押さえ付け,同人の腹部に数回両膝を落として打ち付け,同人の頸部を絞め付け,その場の状況から塩化カリウム飽和溶液の静脈注射をするには至らなかったものの,同人の右後方から右手を同人の前頸部に回してその着衣の左奥襟辺りをつかみ自己の左腰部との間にB3の頸部を挟んだ上右手を強く引いて同人の頸部を絞め付けるなどし,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した

第3 B4の鼻口部を押さえて閉塞するなどし,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した

ものである。

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