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オウム真理教事件・麻原彰晃に対する判決文/chapter ten

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Ⅹ B19事件(殺人,死体損壊)

(平成8年3月5日付け追起訴状記載公訴事実第2の事実)

[犯行に至る経緯]

 1 被告人は,前記のとおり,平成5年10月以降,説法等において,教団施設が,敵対 する組織から,イペリットなどのびらん性ガスや,サリン,VXなどの神経ガスによる毒ガス 攻撃を受け,そのために家族や弟子に頭痛,吐き気など種々の症状が出ているなどと述 べ,そのころ,自らサリン等の化学兵器や炭疽菌等の生物兵器の研究,製造等について 弟子たちに指示しておきながら,教団施設内で生じた信者らの症状について敵対組織 から毒ガス攻撃を受けた結果であるなどとうその説明をし,教団の武装化に向けて教団 信者らの危機感や国家権力等に対する敵がい心をあおるとともに,教団による化学兵器 や生物兵器の研究,製造等を隠ぺいすることに努めていた。

 2 被告人は,サリンのほか,皮膚,粘膜をただれさせ呼吸器を冒し死に至らしめるびら ん性の毒ガスであるイペリットの生成についてもA24に指示していたところ,平成6年7月 8日,治療省所属の女性信者が第6サティアン内の浴室で,熱傷を負い意識を失うという 事件(以下「女性信者熱傷事件」という。)が発生するや,A6を介してA24に浴室内の水 を分析させ,イペリット関連物質が検出された旨の報告を受けると,この機会に,教団信 者らに対し,公安警察等の教団施設に対する毒ガス攻撃の一環としてそのスパイが教団 信者の生活用の水にイペリットを混入させたということにし,教団におけるイペリットの生成 を隠ぺいするとともに,教団信者の国家権力等への敵がい心をより一層あおろうと考え,教団防衛庁を通じて,同月9日,「富士・上九近辺の井戸水は大変危険です!! 勝手 に汲んで飲んだりしないように!! 曖昧な情報には気を付けましょう!! 許可が出る 迄井戸水は絶対に飲まないように!!」あるいは「水道水は絶対に指示があるまで使用 しないで下さい!! 例え水が出ていても危険ですので絶対に使用しないで下さい!!  手や鍋が溶けてしまいます!! 尚,トイレの水も流さないで下さい。」などと記載され た「防衛庁からのお知らせ」と題する書面により,教団信者に対し,井戸水や水道水の使 用を禁じ,教団幹部にそのスパイ捜しを指示した。

 3 その後,被告人は,当時タンクローリーで第6サティアンのある第2上九に教団の生 活用の水を運搬していた教団車両省所属のB19(昭和42年3月23日生)の名前がスパ イとして挙がってきたことから,A33に対し,タンクローリーで生活用の水を運ぶ仕事をし ている車両省のB19が第6サティアンの生活用の水に毒を混入したスパイである,B19 がタンクローリーから第6サティアンの貯水槽に水を入れるときに毒を混入したと思われる などと伝えて,B19に対するスパイチェックを実施するよう指示した。

 A33は,B19に対し,スパイチェックとしてポリグラフ検査とイソミタールインタビューを実 施し,ポリグラフ検査では毒を混入したスパイであることについて陽性反応を示したが,イ ソミタールインタビューでは,スパイであるかどうか,水に毒を入れた事実があるのかどう か,そのようなスパイを働くような背景事情があるのかどうかを聞いても,被告人が疑うよう な事実をB19が答えることはなかった。

 4 被告人は,A33から上記のスパイチェックの結果について報告を受け,ポリグラフ検 査における陽性反応の結果が出たことを奇貨として,無理強いをしてでもB19にイペリッ トを混入したスパイであると自白させ,スパイに仕立て上げれば,教団が毒ガス攻撃を受 けているといううその話をもっともらしくすることができるなどと考え,平成6年7月10日こ ろ,スパイの摘発を所管する自治省の大臣であるA7を第6サティアン1階の被告人の部 屋に呼び,A7に対し,第6サティアンの浴室内の水からイペリットが検出されたこと,その 水を運んでいたB19にスパイチェックをしたところ陽性の結果が出たこと,したがってB19 がイペリットを混入させたスパイであることなどを説明した上,同省次官のA22及びA20 並びに同省所属のA42を使い,第2サティアンにおいて,強制的にでも教団の生活用の 水に毒ガスを混入したことやその背後関係についてB19を自白させるよう指示し,A7は これを承諾した。その際,被告人は,「X10(A20)の状態が悪い。」と言い,A20の被告 人に対する帰依心が揺らいでいる趣旨の話をした。

 5 A7は,被告人の部屋から出た後,A22及びA42に対し,第2サティアンに来るよう に伝え,A20と共に,B19を連れてくるため同人のいる富士山総本部道場に車で向かっ た。A7は,その車中で,被告人がA20の状態が悪いと言っている旨告げた上で,B19 がタンクローリーの水の中に毒を入れて多くの出家信者を殺そうとしたので,これからB1 9を連れにいき,毒を入れたことを自白させる旨を話した。A20は被告人からその旨の指 示があったと思い,これを承諾した。

 A7は,富士山総本部道場で車両省大臣のA44の了解を得,A20と共に,車でB19を 第2サティアン付近まで連れていき,B19に対し,被告人の警備をしてもらうかもしれない からそのためのテストを行うなどとうそを言い,A22及びA42と合流した後B19を連れて, 一般の出家信者が出入りをしない同サティアンの地下室に入った。A7は,B19に対し, まず体力をみると言って,足の屈伸運動であるヒンズースクワットをするよう指示した。

 B19がヒンズースクワットを始めると,A7は,A22と共に地下室から出て,第6サティア ンに行き,警備の部屋等において,拷問などに使う道具として待ち針,手錠,竹刀等を調 達して第2サティアンの地下室に戻った。

 A7は,厳しく責め立てるヤマ役と優しく語り掛けるダルマパーラ役が組んで相手方をざ んげさせるという「バルドーの導き」を装い拷問によりB19を自白させようと考え,既にヒン ズースクワットを300回くらいするなどして息があがっていたB19に対し,「体力があるの は分かった。これから精神面をみる。」などと言って,B19を折り畳み式のパイプいすに座 らせ,A22,A20及びA42と共に,手錠やベルトを使用してB19の両手,腰及び両足を それぞれいすに固定し,ガムテープでB19に目隠しをした上,A7とA20がヤマ役,A22 とA42がダルマパーラ役となり,B19への尋問を始めた。

 6 被告人は,そのころ,同サティアン3階の尊師の部屋に移動していたが,同所にA7 を呼んで,B19の件について「今,どういう状況だ。」と尋ねた。A7が「まだ尋問を始めて いません。これからする予定です。」と答えると,被告人は,被告人に対する信の揺らいで いるA20が被告人の指示に従えるかどうかを試すとともに,その指示の実行を通じてA2 0の信仰心を高めさせようと考え,「X10にやらせればいい。」と言って,強制的にB19を 自白させるのをA20に担当させるように指示し,A7は「分かりました。」と言って部屋を出 た。

 7 同サティアンの地下室に戻ったA7は,A20に対し,竹刀を手渡し,「尊師からX10 にやらせろと言われています。」などと言って拷問を行うように指示した。そこで,A20は, B19に対し,なぜ毒を入れたなどと尋問しながら竹刀で背中等を殴り付け,B19がこれを 否定すると,ではなぜスパイチェックで反応が出たんだと尋問しながら竹刀でB19を殴り 付け,A7も,尋問しながら竹刀で,B19の背中,肩,腕,足等をめった打ちし,他方で, A22やA42は,ダルマパーラ役として,B19に対し,「何かざんげするようなことがあるん じゃないですか。」などと聞いた。A20やA7は,B19が毒を入れたスパイであることを認 めようとしないことから,さらに,待ち針をB19の足の爪の間に何本も刺したり,バーナー で熱した鉄製の火かき棒をB19の腕や背中に押し当てたりするなどの拷問を加え続けた が,B19は,それでも,自己の潔白を訴え続け,A7に対し,「X6正悟師は人の心が読め るはずですから,私の心を読んでください。そしたら私が毒なんか入れていないことを理 解してもらえると思います。」と哀願するように何度も言ったが,やがて,力尽き意識を失 った。

 8 A7は,このような拷問を加えてもB19が毒を混入したスパイであることを自白しようと しないことから,今後の対処について被告人の指示を仰ぐため,既に被告人が移動して いた第6サティアン1階の被告人の部屋に行き,A6が同席する下で,被告人に対し,「B 19は自白しませんが,どうしましょうか。」と尋ねた。

 被告人は,無理にでもB19を自白させてイペリットを教団の生活用の水に混入したスパ イに仕立て上げようとしたがそれがかなわず,さりとて,自白させるためにB19に拷問を加 えてしまった以上このままB19を生かしておくと後々教団の発展にとって障害となるおそ れがあることから,口封じのためB19を殺害することを決意し,A6とも相談した上,A7に 対し,マイクロ波焼却装置(マイクロ波加熱装置とドラム缶等を組み合わせた焼却装置)を 使いB19を焼却するように言って,同人を殺害した上その死体を損壊するよう指示すると ともに,「X10にやらせればいい。」と言ってA20にその焼却をさせるよう指示し,A7はこ れを承諾した。

 9 A7は,第2サティアンの地下室に戻り,A20,A22及びA42に対し,「自白をしようが しまいが,どちらにしろ,ポアだ。」と言って被告人の指示内容を伝えるとともに,B19をマ イクロ波焼却装置により焼却する方法で殺害するのにはちゅうちょを覚えたことから,B18 事件と同様にロープで絞殺した後マイクロ波焼却装置で焼却しようと考え,A20に対し, ロープを渡しながら,「尊師がX10にやらせろと言っていました。」と言ってこれでB19を 絞殺するよう指示し,A20はこれを承諾した。また,A22及びA42もB19を殺害すること について格別異議を唱えることはなかった。

[罪となるべき事実]

 被告人は,A7,A20,A22及びA42と共謀の上,

第1 B19(当時27歳)を殺害しようと企て,平成6年7月10日ころ,山梨県西八代郡e1 村i5所在の第2サティアン地下室において,A7及びA20が,B19に対し,その頸部をロ ープで巻いて絞め付け,その間,A22及びA42が,B19の脈が止まるまでその脈を確認 し,B19の身体やいすを押さえるなどし,よって,そのころ,同所において,B19を窒息死 させて殺害した

第2 その後直ちに,同所において,B19の死体をマイクロ波加熱装置とドラム缶等を組 み合わせた焼却装置(マイクロ波焼却装置)の中に入れ,これにマイクロ波を照射して加 熱焼却し,もって,同人の死体を損壊した ものである。

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